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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 17 最終決戦月面戦争 開幕

今回は最終決戦月面戦争、開幕のお知らせです!倶利伽羅に誘拐された緑珠。それを取り巻く人々のお話!イブキのヤンデレっぷりにもご注目!イブキがヤンデレになったり倶利伽羅が刺されかけたり緑珠がキレたり真理が宥めたりと、相変わらず見応えしかないお話です!

緑珠は惜別の言葉を宵闇と交わしたあと、路地深くへと入って行く。


「さて、と。次は貴方ね。」


ゆっくりと振り向いて、緑珠は相手に告げた。


「……冷泉帝!私は絶対、貴方の国なんかには行かないわよ。」


黒髪の男がくつくつと笑う。


「その割は随分と段取りが宜しい様ですがねぇ。」


「……。」


そっ、と冷泉帝が緑珠の手を取ろうとした瞬間だった。


「触 れ る な !」


燃え盛るような瞳を、緑珠は剣を正眼に構えながらしている。


「私に触れるな。貴方が如きが私に触れていいはず無いでしょう。」


「女帝様は随分と身の程を弁えていない御莫迦さんの様だ。威勢は良いですが、手が震えているじゃありませんかねぇ。」


「貴方の為に手加減してあげてるの。感謝なさいな。」


緑珠は飾り刀を腰の柄へと戻すと、冷泉帝を真っ直ぐに見据える。


「……逃げられないのね。私を幸せな生活に戻す気は?」


「皆無ですねぇ。」


「……聞くだけ無駄、だったかしらね。」


緑珠は冷泉帝に向かって言い放った。


「一寸法師と言う話はご存知?私はこれから一寸法師になるのよ。」


「……?それでは、お姫様は貴女の大事な人達ですか?」


緑珠は答える際に、冷泉帝の首根っこを掴んでぐいと引っ張ると、首に剣を打ち立てた。


「いいえ。お姫様も、一寸法師も私。覚悟なさいな。これから貴方の腹のうち、八つ裂きにしてご覧に入れるわ。」


「……はは、また随分と威勢が良いようで。」


「貴方の悪趣味に比べれば数千倍ましだと思うのだけれど。」


緑珠の目は、真っ直ぐと冷泉帝を見据えていた。















「……?」


イブキはふと、酒を呑む手を止めて不思議そうに外を眺めた。


「どうしたのぉ……?」


呑んでぶっ倒れている真理を横目に、イブキは立ち上がった。


「緑珠様の帰り、遅くないですか。」


「探されたくないんでしょ~?ほっといてあげたらぁ?」


真理の提言をガン無視して、イブキは残っていた酒を最後まで呷る。


「ちょっと探して来ます。流石に心配になってきました。」


部屋から出た瞬間、ナスリーンと鉢合わせになる。


「どうしたのじゃ?」


流石に心配をさせまいと、イブキは微笑んだ。


「いえ、お気になさらず。直ぐに戻って参ります。」


「そうか。なら良い。楽しんでくれれば幸いじゃ。」


少女王が歩いて行くのを見て、イブキは緑珠の部屋へと向かう。


「緑珠様、居ますか?」


がちゃん、とドアノブに手をかけると、扉が開いている。イブキは意を決して部屋の中に入ると、砂漠の匂いと伽藍堂しか広がっていなかった。


「緑珠様……?」


後ろに居た侍女に守り人は訝しげに問うた。


「すいません。緑珠様見ませんでしたか。」


「そう言えば……見ておりません。少なからずこの部屋にはお戻りになられて居られませんよ。」


イブキがふと門を眺めると、誰かと番兵が争っている様子が見える。手短に侍女へと礼を済ませると、宮殿の門へと走る。


「嫌な予感しかしない……!」


少したどだどしい女の声が、番兵と話していた。


「んー!だから、これを頼まれてて……あ、へびくん!」


「……へびくん?」


イブキが不思議そうに顔を歪めると、女はそんな様子も知らずに反芻する。


「ん……?わかくさの衣を着た、男の人……あ、へびくんの事だ!」


「へびくんって何ですか、お嬢さん。こんな夜分に危ないですよ。」


「もう私お嬢さんなんてとしじゃないよ。ほら、たのまれてたの。えっと、りょくしゅちゃんに。」


「……お、お嬢さん。もしかして緑珠様に会ったんですか!それ、何処で!?」


女は嬉しそうにこくこくと頷く。


「うん。会ったよ。ほら、へびくんが来た……まーじゃんするとこ、有ったでしょ?あそこに来て、あったかいこうちゃとお菓子をたべて行ったのよ。でね、直ぐにすがたがみえなくなって……これ、託されたの。」


イブキは震える手でその黄色い紙を受け取ると、そっ、と紙を開いた。


「あ、あぁ……!」


そこには、たった一言。





『貴方の故郷へと帰ります』






美しい字で、したためてあった。


「そ、んな……僕が……置いていかれた、と……?」


これは怠惰だ。怠慢だ。堕落だ。堕落極まりない。


(僕は、僕は……驕っていたのか。あの人は、僕だけしか守れないと。冷泉帝が来るという可能性に見たくもないから見向きもしなかった、その驕りが……。)


「こんな、こんな、こんな事が……。」


「伊吹くーん!」


真理がイブキに手を振る。


「陛下が、警察を動かして緑珠を探そうかって……あれ?」


「……探す必要などありません。地上には居ないのですから。」


「それって、まさか!」


「……これは、僕の怠慢です。僕は、誰よりも緑珠様の事を知っている。それだけを自負して。ああ、ああ、疎ましい、疎ましい。あんな下賎で外道が、緑珠様と一緒に息をしてるなんて。『俺』には耐えられない。綺麗な緑珠様が汚れてしまう。」


ぐしゃりと紙を握り潰して、イブキは闇のオーラを放ちながら真理に言い捨てた。


「探しに行きますよ。僕はあの人が地獄に居ようが天国に居ようが引き摺り出します。それに、僕の愛おしい緑珠様に触った奴を、絶対に、」


辺りへ殺気を撒き散らしながら、イブキは答えた。


「ヤツを殺す。」


「……。」


(冷泉帝君、莫迦な事したなぁ……。)


等と真理は雑念を漂わせながら、少しだけ寂しそうな顔をしたイブキを見る。


「……伊吹君?」


「緑珠様、僕は、そんな事じゃなくて、僕は、緑珠様に……。」


歩き始めていた真理が、イブキの一言を拾いかけた。


「何か言った?」


「いえ、何も、何も……。とにかく、マグノーリエへ一度帰りましょう。」


「帰ってどうするの?」


「寝ます。」


「は?」


「眠いんですよ。飲み過ぎました。」


それに、とイブキは酷く不機嫌に言った。


「どーせあの糞野郎も僕達が追ってくるというのは百も承知で緑珠様を連れていった訳ですから、当然警備は厳しいものになっているでしょう。それに、緑珠様が居る場所も分からない。あの国で僕等はお尋ね者だ。下手に動くと捕まる。」


「糞野郎って、君ね……。」


「あんなの生きている人に失礼なゴミ屑ですよ。あ、ゴミ屑に失礼でしたね。」


「ほんっとに、君は冷泉帝君の事が嫌いだね……。」


「さァ?この嫌悪感も最早僕の気持ちでは無いかもしれませんが。 」


「それ、緑珠も一緒の事言ってたよ。環境に流されたって。」


「……あの人は、僕より辛かった筈ですよ。可哀想な緑珠様。宮廷なんて、人が住む場所なんかじゃない。怨嗟と怨念と嫉妬が渦巻く、ただの戦場です。其処に住んでいれば、ああやって心が冷える事もあるでしょうね。皮肉を言い合って、隙あらば殺す。まだ戦場の方がわかり易い……。」


何処か遠い方向を見ながら、宮殿の中へと入る。すると丁度ナスリーンと鉢合わせになった。


「イブキ!緑珠は!」


「残念ながら……この地上にはもう居ません。誘拐された、と言うべきか……僕の怠慢です。」


イブキの一言に、ナスリーンは俯く。


「そう心配なさらないで下さい。大丈夫です。僕達がきっと、連れ戻してみせますから。」


ナスリーンは無言で頷くと、アラベールの紙を渡した。夜は明けていき、地平線の果てから日が昇る。


「持って行け。調印書じゃ。……緑珠を頼む。妾は動けぬ。また、其方等に会える事を楽しみにしておる。遊びに来い。」


イブキはナスリーンの思いを受け取って、恭しく礼をした。


「はい。必ずや、我が主を連れ戻して参ります。」


「ほら、行くよ。早く帰らなくちゃ。」


「分かってますから黙れ。」


「当たりきっつ……。真理ちゃん死にそう……。」


「どうぞご勝手に。……それでは、陛下。」


どす黒い瞳で、イブキはナスリーンへと告げた。


「誠に『色々』有難う御座いました。」


びくん、と恐怖で肩を揺らしたナスリーンを、イブキは満足そうに見つめていた。


「見境ないねぇ。もしかして女誑し?」


「ルージャンさんと約束しましたから。貴方の主の足をきちんと折らせて見せると。」


「全くもう……。」


イブキ達が移動魔法で去った宮殿の前で、ナスリーンは少しだけ微笑んだ。ふと、頬に水がかかる。


「ん……?」


ゴロゴロと雷が鳴る音が聞こえて、朝日は消え去りズザァァー、と豪雨が始まった。


「雨、じゃ……。砂漠の雨は、吉兆の証……そうか、そうだな。」


そっと手を合わせてナスリーンは告げた。


「大丈夫だ、緑珠、イブキ、真理。雨は其方等を祝福しておる。きっと、無事じゃ。」


最後に、ナスリーンは付け加えた。


「だからまた、妾の所へ遊びに来ておくれ。寂しい寂しい王の元へ。」














「お兄ちゃん!」


「ただいま、華幻。」


「どうして……緑珠様は?お姿が見えないんだけど……。」


「ごめんね。それ、今の君のお兄ちゃんには地雷だから。」


移動魔法の青い魔法陣が消えて、華幻が二人に駆け寄る。


「何かあったんだよね。私が力になれることは」


「何も無いから。」


「お兄ちゃ、」


「黙って。僕は今、一人になりたい。」


酷く疲れた形相でイブキは自分の部屋へと入って行くのを、華幻と真理は見ていた。


「また何かあったんですよね。緑珠様が、連れ去られたとか……?」


「そうだよ。図星。ごめんね。僕が彼の言う事を止められなくて。実の兄からあんな事を言われるのはキツいでしょう。」


華幻は真理に申し訳なさそうに言った。


「いいえ。兄は不器用な人なので。……敬語の時はあんなに饒舌なのに、慣れない対等語を使う時は、本当に何も言えないんです。私が、無理に言わせてるからかな。」


華幻は虚しさのある言葉を切り換えて、真理に真剣に問うた。


「と、とにかく!緑珠様に何があったんですか!?それだけでも、聞かせて貰ったら、私だって何か……。」


真理は華幻の頭を撫でながら説明を始める。


「簡潔に言うと……冷泉帝君が、緑珠を連れ去った、って感じかな。君のお兄ちゃんはそれを防げなかったことに自責の念を感じてるんだよ。」


「冷泉帝さんは一体何を考えて居るんでしょうね。だって、緑珠様を連れて行っても、何も変わらないはず……。」


ううん、と唸りながら真理は考え込む。


「新生『日栄帝国』の女帝するやらなんやら言ってたけど……でもちょくちょく僕達にちょっかいをかけに来たんだから、代わりとなる王は居たはず……。」


華幻は伏せ目がちにして、そして笑った。


「まだまだ情報が足りませんね。とにかく今は休みましょう。色々あってお疲れの筈ですし……何時ご出発されるんですか?」


「決めてないんだ。何せ伊吹君の采配次第だからね。」


「そう……そうですか。なら、また出発されるまでは、ごゆっくりしていって下さい。」


真理は申し訳なさそうに華幻を見詰めると、謝罪の意を呟く。


「ごめんね。寂しいでしょう。こんなだだっ広い部屋で。夜とか怖いんじゃない?」


「いえ!お気になさらず!」


少しの間のあと、華幻は心情を吐露する。


「……確かに、寂しいです。大好きな兄や、他の皆さんが居ないって言うのは。でも、きっと兄も私なんて居なくても良いから……傍で見てるだけで、私は、」


「それは違うよ。……全く、この兄にしてこの妹あり、だね。」


「え?」


「君のお兄ちゃんはちゃんと君のことを考えているからね。それだけは覚えておいて欲しいな。」


花の様な微笑みを真理は浮かべて、華幻も釣られて笑った。


「そう、だったら嬉しいな……。」











「起きてるんでしょ。入るよ。」


しゃー、しゃー、と何かが擦れる音がして、真理は障子を開けてイブキの部屋の中へと入る。


「何用ですか。」


「何用って、君ね。自分のやるせなさを妹に八つ当たりってどうかと思うよ。」


イブキは研石を置いて、朝日に光る刃を見詰めていた。


「何か言ったらどう?それとも図星過ぎて何も言えない?」


「黙って下さい。」


ぴしゃりとイブキは言い放つと、研石と神器を綺麗に片付ける。


「黙って下さい。僕を一人にして欲しいと言ったではありませんか。……後悔してるんです。」


「それはどっち?君の失態?それとも妹について?」


「僕の失態について決まってるでしょう。」


ちゅんちゅん、と小鳥が庭に降りて、イブキは少し朗らかにそれを見詰める。


「あ、鳥だ……。可愛いですね。」


ただ、その瞬間にブラウン管の砂嵐が巻き起こる。


「……気が滅入る。どうして、こんな時に……一つ、僕の話を聞いてくれませんか。」


「どうぞ。それで君が妹に謝るなら幾らでも。」


「分かりました。」


真理に背を向けてイブキはぽつりぽつりと話し始める。


「……光遷院邸は、小動物の死体が見つかる家でした。自分でも、どうしてかと思ったものですよ。それが僕のせいだと気付かずに、幾年も過ぎて……ある日、ある人に言われました。『自分の衝動も操れない、ただのケダモノ』だって。酷い言い草だと思いましたよ。だって、僕は僕の蛮行を知りませんでしたから。」


「……。」


「それから何年も過ぎて、『僕』が認知する限りではきっと何も壊していないはず。変な衝動にも駆られない。……でも、ふと怖くなるんです。僕が次に目を開けた時、緑珠様は笑っているのか。はらわたを撒き散らして死んでいるかもしれない、そんな不安が、僕を、どんどん何かへと連れて行く。」


イブキは独りでに自嘲しながら言った。


「そんな心配はもうしなくても良い。何たって緑珠様がすぐそばに居るんですから。あの人は、僕が壊れても繋ぎ止められる人……今回の失態は、僕自身に目を向けなかった僕自身にあります。」


「そんなこと、無いと思うけどねぇ。」


耐えきれなくなった真理が部屋の壁にもたれながら呟く。


「……本当はそうかもしれない。僕だけのせいじゃ無いかもしれない。でも、僕自身はその思いに納得しています。それに、何より……やっと僕は、自分自身に目を向けることが出来た。」


イブキは真理へと振り向いて言った。


「華幻には僕から謝っておきます。」


「そ?ならいいけど。それじゃあまぁ、せいぜい寝とくことだね。」


はい、と短くイブキは返事をして、障子が閉まる音を聞いてから、イブキは呟いた。


「……ちょろいですね。全くちょろい。」


あぁでも、と煙草をふかしてイブキは言った。


「真理に腹を割って話したのは、これが初めてかも知れませんね。……あぁ、緑珠様。無事だと良いのですが……。」


紫煙が、空高く立ち上って行った。


「でも……僕は嘘を言ってませんから。」

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