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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第三章 砂漠狐国 ザフラ
27/256

ラプラスの魔物 千年怪奇譚 番外編 正月慶典譚

単純に言うと、千年怪奇譚のお正月スペシャルです!沢山の国で、各々のお正月を過ごします!ギャグ要素多めです!面白いですよ!

『ラプラスの魔物 千年怪奇譚』番外編

正月慶典譚



「三!二!一!はっぴぃにゅーいやぁー!」


「寝ません?」


「えっ……。」


「……寝ません?」


「えっ……年明けたばっかりよ。何かしましょうよ。私はこれの為に最高のコンディションで挑んだのに……。」


「緑珠様がしたのって炬燵こたつに入って蜜柑みかん十個食べただけですよね?」


「うぐっ……否定はしないけど……。」


「寝ましょう?」


緑珠がハイテンションで年明けを迎えたのにも関わらず、イブキは冷静に就寝を促す。


「寝ましょう、緑珠様。」


「私達、何かしないの?ほら、お正月らしいこと……。」


緑珠はかなり焦りながらお正月らしいものを思い浮かべる。イブキも思い浮かべようとする。が、


「……僕達、去年何してましたっけ?」


「新年の式典。」


緑珠が答えて、静まり返ると、


「……寝ましょう。」


イブキはにっこりと笑った。しかし緑珠もこれで引かない。


「寝ない!寝ないわ!ほら、『笑ってはいけない二十○時』見ましょう!」


「あれ大体途中で寝落ちするじゃないですか……緑珠様、去年も寝てたでしょ。」


訝しげに緑珠はイブキを見つめる。


「……何で私が去年寝落ちしてたこと、知ってるの……?」


「……ふふ。」


まるで愛玩する様な笑みを浮かべたイブキを見ながら、緑珠は叫んだ。


「大変よ!変態!変態が居るわ!」


「結局緑珠様って二十歳までで起きてたの、通算五回ぐらいしかないですよね。それに見始めたの四歳くらいの事ですし。」


「いやなんで知ってるの!?何時から見たかなんて覚えてないのに!」


「さぁ寝ましょう。寝なければ(自主規制)して(自主規制)するのみですよ。」


「く、これで屈する訳にはいかない……!私の(自主規制)は高いのよ!」


もう狂っている。要するに深夜テンションである。


「『蓬泉院来仙倶利伽羅藤城鳳駕』流!戦闘術!くらえ!」


「はっはっは、可愛らしいですね。それでは次は僕の番。これで緑珠様が倒れたら……。」


にっこり。


彼是あれこれ好きなことをさせてもらいますから。色々、とね?」


「くっ……スペル○ード!『くっ殺せ!』」


「効かないですし貴女は別に紅白巫女でも何でもないです。それでは参ります、『手刀』!」


「ぐっ……ふ……。」


イブキの鮮やかな見惚れる手刀に緑珠は惨敗を帰す。


「嗚呼、これでやっと静かになった。……ふふ、約束ですからね。」


イブキが緑珠に手をかけた瞬間だった。刹那、緑珠は目を覚まして、


「『蓬泉院来仙倶(ry』流!バク転っ!」


「何っ……!?確かに手刀は……!」


「甘い、甘いわよイブキ!私の純潔は高いのよ!そう容易くあげないわ!受け流してやったのよ!ふふふ!」


「チッ……ぬかったか……。……良いですよ、心ゆくまで(自主規制)して(自主規制)して抱き潰してやります。」


「ふはははは!仮にも一国の皇女に敵うと思うてか、この愚か者よ!返り討ちにしてくれよう!貴様の(自主規制)を使い物にしないようにしてくれるわ!覚悟するが良い!その角へし折ってくれる!」


「ふふふ、生意気なのはいい事ですよ。でなければ楽しくないじゃありませんか。……今度こそ、仕留めて見せます。その時にはちゃんと、(自主規制)するのみですよ。光遷院家次期当主!光遷院 伊吹の名にかけて!」




「……お兄ちゃん達、何やってるんだろう……。」


縁側の側、隠れながら、華幻は深夜テンションで壊れきった自身の兄とその主を見る。


「……何で戦ってるの?」


声をかけようにもかけれない。イブキの容赦無い攻撃に一国の元皇女が応戦している。


「お兄ちゃん、手加減してるのかな……?いやでも違うな。ガチだな。目が。」


先程の会話を軽く耳にした華幻は、緑珠の方を眺める。矢張り一国の皇女だった訳はあって、護衛術は人一倍上手い。何せ己の兄に余裕で応戦している訳だから。華幻は必死に頭を巡らす。


(これは止めるべきなのか……仮に止めると仮定してみよう。……止められる人が居ない!と言うか……私の周りに禄な大人が居ない!一人は元皇女だし応戦中だしお兄ちゃんはもうイロイロとヤバいし真理さんは呑んでるし!)


そう言えば、と華幻は頭をもっと巡らす。


(去年は家族パーティしたな……懐かしい。)


あれ、と華幻はふと気付く。今一番気付くと悲しいアレだ。


(あれ……私の周りに禄な大人が居ない……琉煌お兄ちゃんは莫迦みたいに子供っぽかったし、夕羅お姉ちゃんは鳥マニアだったし……。)


そして、華幻が出した結論は。


(駄目だこの人達私が何とかしないと……!)


「あっあの!」


ぴたん、とイブキと緑珠の乱闘が止まる。そして、心の底からの軽蔑を向けた。因みに無意識である。


「……何してんですか?」


イブキはその声に反応して、緑珠へと問うた。


「そうですよ緑珠様。なんで僕こんな事してたんでしょう。」


「アンタ自分だけ逃げようたってそうはいかないわよ。」


「何ですかそんなに(自主規制)して欲しいんですか。」


「妹の前で(自主規制)使うんじゃないわよ。」


「……寝ません?」


華幻の冷たい一言。


「……伊吹、私やっぱり寝るわ。いたたまれなくなってきた……。」


イブキはそれに便乗した。


「ご懸命な判断です。僕も寝たくなってきました。」


「よぉっし!炬燵に入って寝るー!」


「……緑珠様、余程僕と一緒に寝たいみたいですね。」


「それも良いかもしれないわ!華幻ちゃんも一緒に寝ましょー!」


「ちょ、ちょっと待って下さい!僕は冗談で……!」


「はいはいうるさいうるさーい!」


緑珠はイブキと華幻と手を繋ぎながら、寝室へ向かう。


「人と一緒に寝るのって、すっごく久しぶりです!」


「私もよ!華幻ちゃん、ずっと妹みたいで可愛いと思ってたから嬉しいわ!」


「緑珠様の妹だなんて……光栄です!」


キャッキャウフフの嵐の中で、イブキは。


「刑法百九十九条人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する…刑法百条……。」


心頭滅却していた。しかし緑珠は、


「ほらほら!イブキ!貴方も早く来なさいよ!」


「年頃の男女を一部屋に入れるって正気ですか……?」


「正気よ。……あ、華幻ちゃん寝ちゃった。私も寝なくちゃ。」


緑珠と華幻は身体をくっつけあって寝ている。爆睡だ。即ちこれは、


「逃げてもいいっと……それじゃあ」


「待ちなさい。」


寝たと思っていた緑珠が起き上がり、イブキを見る。


「貴方も一緒に寝るのよ。約束したでしょ?」


やれやれと言った調子でイブキはぽりぽりと頭を掻いた。


「……はぁ……緑珠様、それやってると何時か痛い目見ますよ。」


少女の様な笑みを浮かべて緑珠は言い放った。


「ふふふ、そうかもしれないわね。でも私は襲われても良いと思う人しか一緒に寝たりなんてしないわよ!」


「はぁー……本当にあったまおかしい……。」


「何とでも言うがいいわ!さ、寝ましょ?」


そして、蛇のように目を細めて笑う。元来このつもりだったと言わんばかりに。


「『寝よう』って言ったの、イブキでしょ?」


「……元よりそのつもりだったんですか。」


「私を越えようって言うのは百年早いわよ。」


ニタッと緑珠は笑うと、イブキは観念して布団の中に入った。


「もー……本当に知りませんよ。どうなっても。」


「そうやって悶絶してるイブキを見るのが私の一番の楽しみだわ。 」


さも愉しそうに緑珠はくすくすと笑った。










「さて、と!今年も締め直していきますか!」


華幻に『呑んでいる』と言われた真理は、現在別の空間に居た。色とりどりのサテンのリボンが宙に浮かぶ空間だ。此処は『無の空間』。この大量のリボンのうち、どれか一つを触ると別の世界に飛ぶ事が出来る。


「んーっと……えーっと……お、見つけた!」


真理は一つのリボンを手繰り寄せて、科戸の呪文を唱える。


「新年早々一発魔法といっておきますか!行くよ……!」


風もないはずの空間に、風が流れる。


「我は世を統べる者。玉座に座る者。森羅万象ありとあらゆるものを創造し、司る者。この世の全ての者は、我の物である。即ち之は、科戸の風。『水の波紋、風の音、木々の揺らめき。この世を創り上げる森羅万象よ。その全ての物に永劫の祝福を。固有魔法『境界の歪曲』』。」


緩んでいたリボンは全てきつくぴん、と伸びる。そして真理も伸びた。


「魔法は相変わらず通常運転っと!よし!呑んでたけど呑みに行きますか……!」










「あ、あの……麗羅様。どうして葉月様のお部屋の前で立っていらっしゃるんですか……?」


女房の一人が、何かの木の看板を持って葉月の部屋の前で突っ立っている麗羅に声をかける。


「見てわからないのですか?……今から新年早々のドッキリをするんです!」


(もしかしてこの女帝様アホなのかな……。)


そんな女房の気持ちなどを無視して女帝は続けていく。


「これまで……そう!葉月が十五歳からずっと失敗し続けて来たのです!ならば節目の二十歳こそ成功するはず!私の千里眼でこの未来のことは見ました。そして、成功したのです!ならば、ならば!」


きらきらとしたまるで子供のような瞳を麗羅は女房に向ける。


「成功しない訳が無いでしょう!?」


「は、はぁ……。」


(やっぱりこの人アホだ……。)


「しかし、麗羅様には明日式典があるのでは?寝不足で」


「三、二、一!はっぴぃーにゅういやー!」


(話を聞かねぇな……。)


女房は半ば呆れ返って補佐官の部屋へと飛んで入っていく女皇を見る。パンパン、とクラッカーが飛び出る音がした。


「はい、葉月!明けましておめでとう御座います!」


むくりと葉月は起き上がる。そして麗羅はあの木の看板を出した。


「あー!やっとこの看板を使える様になりました!葉月!『ドッキリ☆大成功』です!」


葉月は起き上がったが、直ぐに即寝する。しかし麗羅は満足顔だ。


「ふふふ、やった、やった、葉月を驚かした!ふふふ!」


その様子を傍観していた女房が、麗羅へと声をかける。


「寝ましょうね、麗羅様。寝坊すれば葉月様に怒られてしまいますよ。」


「はい!」


麗羅は元気よく返事をした。










「うむぅ……新年か。まぁ別に楽しみでも無いがな。」


(尻尾は口程に物を言う……。)


ナスリーンの一言に、ルージャンは心の中でそう思った。何故なら理由は単純明快、彼女の言葉に対して狐の尻尾はふわふわと揺れている。


「ナスリーン。お前はそう言うが、尻尾は」


「な!戯け!煩いぞ!尻尾なぞ揺れていない!正月なぞ楽しみでは無いのじゃ!」


「別にそんな無理しなくても良いだろう。」


しゅん、とナスリーンはしょげる。尻尾も下に下がる。


「新年如きで……王が喜ぶなど、浮き足立っていると思わぬか!?」


「別に新年くらい構わないと思うがな。何時も頑張っているからな。」


ルージャンの一言にナスリーンは益々しょげる。


「うう……そういう事を言われると、余計しょげるのじゃ……。」


そんな暗い雰囲気を、開けていた窓がかき消した。


「ナスリーン陛下ー!明けましておめでとう御座います!」


子供の溌剌な声が窓の下から聞こえて、ナスリーンは窓から身を乗り出して答える。


「うむ!明けましておめでとう、だな!朝から元気が良くて何よりじゃ!童はそうでなければ!」


「それで、なんですけど……。」


子供の一人が俯いて、そして決心した様な声を上げた。


「こんな事は無礼を承知で申し上げるのですが、僕達と一緒にドッチボールして遊びませんか!恐れながら申し上げるに、陛下はまだ子供と見受けられます!お正月位ははっちゃけましょう!」


その言葉を聞いたルージャンが有り得ないものを見る様な眼差しで窓から身を乗り出す。


「お、王に遊ぼうなどと……無礼にも程が……いやしかし、」


ルージャンは顔を上げてナスリーンを見る。


「良いだろう。行ってこい。何かあれば俺を呼べ。お前も子供なんだからな。」


ナスリーンは刹那目を見開いて、そしてゆっくりと笑った。


「あぁ、そうしよう……おおい!童達!」


城門の前で半ば取り押さえかけられている子供達にナスリーンは答えた。


「妾も遊ぶ!待っておれ、直ぐに向かう!」


「な、ナスリーン!ちょっと待て!」


ナスリーンは高さ二十メートルも有りそうな窓から身を投げると、矢張り狐である、上手く着地をした。


「ドッチボールをするまでの会場は鬼ごっこをしよう、童達!妾が鬼じゃ!」


楽しく声を上げながら鬼ごっこをしているナスリーンを、ルージャンは優しく見守って言った。


「……俺は、お前が『完璧な王』では無くて本当に良かったと思っている。楽しんで来い、ナスリーン。」












「冷泉帝殿。お正月ですね。」


「そうですねぇ。」


冷たい風が吹き抜ける月面上、花ノ宮は呟いた。そして倶利伽羅は少し眉をひそめて笑う。


「陛下、別に私の事は敬称付けで呼ばなくても構わないんですよ?」


窓にへばりついていた花ノ宮は振り返って倶利伽羅へと答えた。


「『陛下』も止めてください。私は王とは言え、貴方よりも年は下です。それに、私は好きにやっているんですから。気にしないで下さい。それにしても……。」


新年早々の雪が、しっとりと城門に積もっている。


「懐かしいですね、去年も雪が降ったんでしたっけ。それで、確か蓬泉院邸の庭が血塗れになったのでしたよね。結局役人同士の喧嘩だとかで終わったそうですが……。」


先程から固まって動かない冷泉帝を、花ノ宮は長い袖で口元を隠して問う。


「とんだ『役人』が居たものですね。」


「ふふふ、何の事か分かりませんねぇ。」


「それに、その日の会合は伊吹殿も冷泉帝殿も服装が変わっていました。一時間毎に。しかも何人毒味係が死んだと思っているのですか?仲良く出来ないのですか。」


「無茶苦茶言いますねぇ。」


冷泉帝は苦く笑いながら花ノ宮の方へと向く。


「無理ですねぇ。アレとは死んでも仲良くなれませんよ。」


「私は頑張れば緑珠李雅様と仲良くなれるのに……。」


「あの人は元から性格が良いじゃありませんかねぇ。アレは……論外です。」


はぁ、と益々ため息をついた花ノ宮は、またもや外の雪を眺める。


「もう……ぶっちゃけ私は国が滅びても良かったと思っていますよ。何人毒味係が居ても何人城兵が居ようとも足りません。」


「……ははは、そうかもしれませんねぇ。」


冷泉帝の曖昧な返事を聞くと、花ノ宮は立ち上がった。


「さて、参りましょう。式典の時間です。」










「たっだいまー!って……あれ。静まり返っちゃってる……。」


真理はしぃん、と己の声が響く居間を上がって、華幻の部屋へと入った。イブキと華幻と緑珠が仲良く布団にくるまっている。


「ありゃ。此処で寝てたか。」


真理の声にイブキは身体を起こした。酷く疲れきっている。


「お早う。お目覚めの程は?」


「……レム睡眠を永遠と繰り返していたと言えば分かりますか。」


「そりゃキツかったね。夜が明けるのが遅く感じたでしょう。」


「当たり前です……ふわぁ、眠い……。」


兄が起きたのにつられて、華幻も目を覚ます。


「あれ……お兄ちゃん起きて……あ、真理さん。お帰りなさい。お酒は良く呑めましたか?」


「うん。沢山呑んだよ。まだ呑めそうなくらい。」


くすくすと真理は笑うと、華幻が軽く注意する。


「もう……呑み過ぎには気をつけて下さいね。」


「うん、善処するよ。それにしても……緑珠は……。」


麗しい黒髪を散らかして、くぅー、くぅー、と可愛らしい寝息を立てながら爆睡中だ。


「……起こさない方が良いですね。」


イブキは立ち上がって伸びをする。ぽき、ぽき、と骨が軋む音がした。イブキは振り返って華幻へと言う。


「御節を出します。華幻、手伝ってくれる?」


「勿論!……と言うかお兄ちゃん、御節とか何時の間に準備してたの?」


猫の様に丸まりながら眠る主を見ながら、イブキは答える。


「其処で爆睡してる人が昨日『御節料理が食べたい!』なんて叫び出すもんですから。『出来合いの物で良いですね?』って聞いたら愚図るのなんの……。『貴方の御節じゃないと食べない!』って言い出すんですよ……。」


「伊吹君の心情としては?」


「可愛さと面倒臭さが相まってフクザツな心境です。」


イブキはサッシュベルトを締めると少し微笑みながら言った。


「さて、御節を準備しましょうか!」










その後。


「イブキっ!イブキっ!何で私を起こしてくれなかったのよぉ……寂しくて泣いちゃいそうだったわっ!」


お雑煮を作っているイブキに緑珠は抱き着く。しかしイブキは淡々と答えた。


「どうせ貴女あそこで起こしたら小一時間は愚図るでしょう?……寝起き悪いったらなんの……直ぐに起きる割には暫く機嫌が悪いんです。」


「もおーっ!イブキの意地悪!どうしてそんなむぐっ!」


「卵焼きでも食べてて下さい。」


「お、美味しい……!大好き!大好き!」


「はいはいそりゃどーも。」


卵焼きを頬張りながら走り回る緑珠を眺めながら、華幻と真理は同じ事を思った。


(お兄ちゃん、緑珠様の扱い慣れてるな……。)


(伊吹君、緑珠の扱い慣れてきてるな……。)















小話 お☆ま☆け



父親が仕事で王宮へ来た。


暇をしてしまった僕は、王宮を闊歩していたのを覚えている。何せ自分の家には無い珍しい物ばかり。退屈はしなかった。


庭の向こう、吸い込まれそうな空と池の間、その間に女の子は居た。存在、服装、何もかもが異色、だった。


「貴方も泣きに来たの?」


そういう訳じゃない。暇だから歩いているだけだ。そう答えると、少しだけ顔を上げて、


「話を聞いてくれる?」


良いよと答えて聞いて……日が暮れた。王宮は疲れると。それでも母親と父親は優しくて大好きだと、辛い事ばかりでは無いと、そんな話だった事を覚えている。



空も水も紅くして、宮廷仕立ての紅服を着た女の子は何処か行ってしまった。最後には「話を聞いてくれて有難う」と、笑って。



それから何回も夜が過ぎた。泣いた日もあった、笑った日もあった。悲喜交々の毎日を過ごした。またある時は全てを捨てて、仕えるべき狂うほど愛おしい主に使えた。そして、



「ねぇイブキ。どうしたの?」



「いえ、何でもありません」



物思いに耽っていた僕に、愛しい主は問うた。……そう言えば。あの少女は主に似ている。あれは若しかしたら自分の主だったのかもしれない。在りし日の、彼女だったかもしれない。しれないが……


「緑珠様、王宮の庭先で泣いた事がありますか?子供の頃とか。」


「……覚えてないわ。」


それで良い。貴女ならそうでも、きっとそう答えると。あの子は僕の幻想。光遷院 伊吹の、淡い淡い、サイダーの様に消えていく幻想で良い。

次話もお楽しみに……!


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