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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 236 沈みゆく月と

緑珠がちゃんと戻って来たりとか皆と再会してちゃんと御挨拶したりとかジャスミンのその後が書かれてたりする話!

緑珠は目を覚ました。最初に感じたのは薄暗い、装飾の為された天井だ。次はふかふかの寝台ベッド


そして暖かく太い腕が乗っかっているのを見て、首元に寝息が当たっているのを感じた。


「……此処、は……。」


ぐわんと揺れる頭を抱えで起き上がった。直ぐに痛みは引いて、身体に浮遊感だけが残る。


「…………わたし、の。へや。」


「お目覚めですか。」


掠れながらもいやにはっきりとした声で、従者は髪の間から緑珠を見詰める。起き上がってさっと自分の髪を纏めた。


「お加減は如何です?お水は?」


「……その前に、私どれくらい眠ってたの?」


この身体のだるいのかだるくないのか分からない感じは、数日間眠っていた感覚だ。


「三日ほど。心配しましたよ。貴女はよくお眠りになられますが、それでも……。」


イブキは並々注いだ水を緑珠に渡した。少し震える手を介して、こくん、こくん、と冷たい水が喉を下りていく。


「今何時なの?」


イブキは枕元にある懐中時計に目を遣ると、


「朝の四時です。」


「どうして貴方は此処に居るの?」


「休みでしたので。貴女の様子を見ていたら眠くなって、つい……。お嫌でしたか?」


「いいえ。」


緑珠はまたごろん、と横になる。少し話したらどっと疲れが出て来てしまった。


「目が覚めて皆に挨拶したら、紅鏡に行きたいの。お休みだけど駆り立ててごめんなさいね。」


「御意のままに。眠りましょうか。」


「えぇ。」


くっつく暖かい熱を感じながら、薄明かりの中透けた天蓋を見遣る。もう夜が明ける。星が別れを告げて、朝焼けがほんの少し、見える。


あぁ。なんと美しく愛おしいことか。


人が目を閉じた様な三日月を見て、緑珠も同じように再び目を閉じた。








「緑珠様。起きて下さい。皆に挨拶して紅鏡に向かうんでしょう?」


イブキの声の後、全身に寒さが覆って目が覚めた。そんないきなり布団をひっぺがさなくても……。


「いく……いくわ……。」


一度四時に起きたこともあって、すんなりと身体を怠いながらも起こす事が出来た。目を擦りつつ立ち上がった緑珠を見て、満足気にイブキは笑うと。


「リリー。来て下さい。陛下のお召し換えの時間です。」


『お召かえって……。お目覚めになられたんですね!』


直ぐに扉の向こうからくぐもった声が聞こえる。一礼をして扉を開けた彼女は、心の底から安心した様に笑った。


「それではリリー。特別綺麗にお願いしますよ。僕は僕で用意をしなくちゃなりませんから……。」


「畏まりました、宰相様。……その。」


緑珠に聞こえないように声を潜めながら、


「御医者様に御報告は……。」


「しなくて構いません。……先生曰く、もう診察は必要無いと。あぁ、そうだ。装飾は右の棚にあるものを使って下さい。」


その言葉はもう、悪い意味でしてもしなくても状況は変わらないという事を示していた。


緑珠の容態は悪い。少しずつだった身体の衰弱が、更に速度を増して身体を蝕んでいっている。


さっきだってそうだ。もう満足に器も持てない。もって一ヶ月だと、昨日女医は言った。


不思議と恐れを感じないものだ、とイブキは部屋に戻りながらそう思った。彪川に言っても『創られたモノが辿る道はそれしか遺されていませんからね。』と言われてしまった。


きっと自分が知らないだけで、今までにもそんな事があったのだろうか。


考えている内に支度が出来た。支度と言っても自分は着替えるだけなのだが。


自分の部屋を出て緑珠の部屋に戻ると、主は丁度支度が終わった所だった。


「イブキ。準備が終わったのね。」


「えぇ。参りましょうか。」


「そうね。リリーが皆を呼んだらしいわ。行かないとね。」


自分の先を歩いた主は、ふと振り返った。


「手を繋いで欲しいの。良いでしょ?」


「断る理由なんてありませんよ。」


笑う緑珠の手を掴んだ。ぎゅっと。強く。


「イブキ。私達はもう隠居の身でしょ?紅鏡に行ったら、あの私達の家に行きましょう。夕飯の準備をしておいてね。」


「無茶ばっかり……。簡単なものしか出来ませんよ?」


「それでも作ってくれるのね。」


他愛の無い話をしていると、いつの間にか広間に来ていた。そっと手を離して、


「あぁ柊李!リリーから聞いたわ。天使が襲撃して来たんですって?」


「えぇ。無事撃退出来ました。」


「怪我は?何処も痛いところはない?ちゃんと元気にしてた?」


「やめて下さい。もう俺だって大人なんだから……。」


照れ臭そうに緑珠から視線を外す。


「ふふ。殿下はきちんとお務めを成されていました。心配なさることはありません。」


華幻が優しそうに微笑むと、柊李は益々居心地が悪そうにする。


「柊李様の事なら御心配無く。僕もいますから!」


ハニンシャが胸を張った。どうやら皆大事無さそうだ。


「……三人でやっていけそう?これからも。」


「任せて下さい。最後まで殿下をお支え致しますよ。」


「えぇ。僕も頑張ります。友として、臣下として。」


ふふ。と緑珠は微笑むと、


「柊李。お前は良い臣下を持ちましたね。」


「……そうですね。」


ハニンシャと華幻を見遣って柊李は、


「先に戻っていてくれ。俺は母上と話したい事がある。」


御意に、と二人は頭を下げてその場を去った。


「あら柊李。話したい事ってなぁに?」


「……もうこの王宮には帰って来ないのですよね?」


「あら。……それを、何処で?」


「イヴン先生から聞きました。あまり体調が優れないそうで。隠居をなさると思ったものですから。」


淡々と柊李は話す。


「……えぇ。そうね。もう帰って来ないわ。だから、だから。貴方に声をかけておきたかったの。」


「母上……。」


一拍置いて、


「……母上。どうかお元気で。」


「有難う、柊李。」


最後に彼は付け加えて、


「いつかまた何処かで……。……お会いしましょう、母上。」









「えぇ……緑珠様、こんな所から入っていいんですか?」


「良いの。ナムルとこの奥で会う約束をしてるの。此処で待ってる?それとも城下で……。」


「いえ。成る可く近くに居ます。」


緑珠は城の裏側に忍び込んで、壁に埋め込まれている扉に手をかけた。うん。確かに鍵は空いている。開けると裏庭が広がっていた。


「それじゃあ行くわね。此処に居ればバレないわ。……まぁ、貴方の事だから気取られる事は無いでしょうけど。」


「いいから早く行って早く帰ってきて下さい。」


「ふふふ。分かったわよ。」


緑珠が柵を踏み越えた先には、池があった。向こうから歩いてくる人影があって、慌てて身を隠したが、その人は……。


「ナムル!」


「静かに、緑珠。一応人祓いしてもらってるけど、誰が居るか分からないだろ?」


緑珠は被っていた外套フードを下ろしてナムルに近付いた。


「良かった。無事に会えたな。それじゃあちょっと歩きながら話そう。」


彼女はナムルの後を追いながら、


「話をしたいって言ってたけど、その前に聞きたいことがあるわ。五大貴族がの皆はどうしてるの?」


「メアリーはまたこの国で人形師をやってる。ファイルーズは竜を保全する活動会に入って、リェフは……。」


くすくすと笑いながら、ナムルは続けて。


「アイツは一旦国へ帰って、実家に頭を下げてまた一からやり直すらしい。ジャスミンとやり直す為に。」


「ジャスミンって……。見つかったの!?」


「あぁ。貧民街で住んでる。砂漠で踊り子をやっていた女の娘らしい。」


リェフはな、とナムルは付け加えて。


「またもう一度ジャスミンと話したいんだってよ。『一緒に旅に行くって言ってたのに勝手に忘れるなんて許さない』って笑ってた。」


緑珠はナムルの手を借りながら裏庭を出る。崩れかけた城壁を抜けた先には、貧民街が広がっていた。ナムルも外套を深く被り、緑珠もその真似をする。


貧民街には地べたに寝転がっている人々が居た。それだけでも緑珠は充分吃驚したのだが (彼女が『貧しさ』に疎いのと、月影でも同じ貧民街があるがまさか地べたで寝るものだとは知らなかったらしい)、中には笑って走っている子供達も居る。


『貧しさ』は負だと思って、そうして教えられて来たから、こうやって笑う人々が居るのが信じられない。


「あんまり離れちゃダメだぞ、緑珠。」


その言葉でふと我に返ってぴったりとナムルにくっついた。何個か角を右に曲がった所で、ナムルの歩みが遅くなる。


「あれだ。」


彼が指をさした先には、あばら家がある。ギリギリ崩れていない様な家の中から、丁度三人出て来た。少し老けてはいるがそれでもまだハリがある女と年若い娘、頬は痩けているが優しそうな中年の男だ。


「恐らく母とジャスミンは水を汲みに行くんだろうな。父親は今から労働に行くみたいだ。丁度昼休みが終わったくらいだな。」


「……なんだか……皆笑ってるわね。羨ましいわ。意図的に作られた貧民街でも、こんな幸せに生きれるのね。」


意図的に作られた貧民街。国には基本、意図的に貧民街が作られる。それこそが人外達が生み出した、生きている人間達の為の『特別感』を醸し出す方法だった。


だから人外が治める国 (少なくとも今は)は、貧民街が必ずある。それに対して今まで誰も声を上げたりしなかった。


「……なぁ緑珠。俺、貧民街を無くしたい。やっぱり良くないよ、こんなこと。」


だから目の前の元婚約者がこんな事を言い出したのは緑珠にとって凄く吃驚した。だけど直ぐに納得出来た。もう神代は終わるのだ。


いつか国は滅び、人外では無く人が治める様になるのだろう。


今の言葉はジャスミンの事があるのもあるだろうが、きっと神代の終焉、新しいさきがけとなるのだろう。


私が神代最後の切り札だの、神代最後の幻想と呼ばれるのなら、彼は願いを叶える光となる。


願う。どうか末永く幸せに。


祈る。どうか願いを叶えてと。


叶う瞬間、彼の隣に居れたらどれだけ幸せだったのだろうかなんてもう誰にも分からないけれど。


私は何から何まで祝福された人外で、彼もそうなんだろうなぁなんて思う。


ふと思考を断ち切ってナムルを見上げた。


「声はかけないの?」


「……やっぱりかけた方が良いのか?」


「貴方的には声をかけた方がいいわね。話したいんでしょう?笑顔を見たいんでしょう?」


ナムルは意を決した様に、ジャスミンの背中を追いかけた。丁度良い。一人で水を汲んでいる最中だ。慌てて声をかけようとするナムルを制して、緑珠は従者のフリをしながら、












次回予告!!!

引き続きかの皇子の妹がだっものと出会うお話だったり緑珠様が本邸にに帰ろうとしたりと最終回まであと五話!

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