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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 226 不滅の挑戦者達

四大貴族が続けて現れたりとか続々と新たな敵が現れたりとか色んなバディでバトったりするお話です!

「あの四人も来たようですし。」


階段を駆け上がる音の後、五人の姿が見える。


「ちょっと待ってミル!何で僕数えてないの!?」


「貴方は戦闘に加わらないからですよ。」


「そ、そうだけどさぁ……。」


膝に手を当て屈みながら、緑珠はふらつきながら顔を上げてナムルへと駆け寄る。


「な、何で……。皆で一緒に行くって約束してたのに……。」


「ちょっとくらいは格好付けさせてくれ。それにお前達だけに苦労ばっかりさせてられないからな。」


「……有難う。」


ナムルと緑珠の二人の様子を見ているメアリーは爪を噛みながら、傍に居るミルゼンクリアへと問うた。


「四大貴族は戦わなくて良いのですか?」


「あの者達は元より入る資格があるのです。」


「ふぅん……。」


さて、とミルは辺りを黙らせる声を響かせると、


「皆が揃ったのですから、この先に進むと良い。『大整理のプログラム』は『世界の大図書館』の一番奥の部屋に居ます。」


ミルゼンクリアが指し示した先には、途中で空間転移ポータルに突き刺さっている硝子の階段があった。


「魔導式が飛んで来てるわ……。」


「あぁいうのって飛ぶんですねぇ。」


魔導式が飛んで来る、という現実味の無い異様な事態に何処か冷泉帝は他人事だ。


「さぁ、行こう緑珠。準備は出来たか?」


「えぇ。行きましょう。」


緑珠とナムルを先頭にして、貴族達は『世界の大図書館』に入った。一瞬だけふわりとした感覚の後、硬いものに立つ感覚がある。


視界が一気に拡がって、それはさながら大きく天井が高い温室に、これまた大きい本棚を突っ込んだ様な世界だった。


どうやら二階もある様だ。所々草木が生い茂っているのが非対称アンバランス的で、無理矢理生の存在を突っ込んでいて気味が悪い。生きているか死んでいるか分からない世界だ。


「所々天使が飛んでますね。凄い、天国みたい……。」


「……そんなに綺麗なモノじゃ無いと思いますよ、花ノ宮公女。たぶん。」


「まぁそうですよね。天国だったらもっともっと居心地が良さそうですもの。」


のんびりした会話をしていたイブキが、ふと顔を上げた。気配が飛んで来る。


「何か来ます。」


「何か来るって……一体何が飛んで来るって言うの?」


「まぁ此処で来る者と言ったら……。」


冷泉帝は目の前の光景を見て、


「天使くらいですかねぇ。」


現れたのは勿論天使だった。ただ、他の天使とは違う、図体の大きい天使だった。その天使から見れば他の天使など羽虫に近く、その羽虫の様な天使が真理を連れて行く。


「えっ、えっ!?」


「お、とうとうお迎えが来たんですね。僕が迎えに行かなくて良かったです。」


「いやいや!ちょっと待って!助けて!見てないでーっ!」


「ミルゼンクリアが言ってた事よね。『戦闘に加わらない』って話。」


「多分そうですね。」


じたばたと暴れる真理のそのまま図書館の天井まで連れて行くと、そのままするん、と飲み込まれてしまう。一通りの流れが終わった後に、目の前に居る天使に視線は戻った。


『私の名前は智天使 ケルビム。この先は通せません。』


「わぁすごい、ねぇナムル。あの天使 事務的な自己紹介しか出来ないみたいだわ。」


「緑珠、止めてやれ。あれでも一生懸命自己紹介してるつもりなんだって。」


「へぇ。天使様、好きなものとか無いの?」


緑珠のその問いに、ケルビムは首を傾げた。質問の意味が分からないらしい。


「あら、ダメねぇ。」


「此処は皆に任せて先に行こう。」


「えぇ。そうしましょう。」


するとぴん、と真っ直ぐ伸びる手がある。ついでに姿勢も綺麗になる。


「それでは私が目の物を見せてやりますわ!」


「め、メアリーが行くなら、私も……。」


「後方支援は任せて下さい!」


メアリーの意気揚々とした発言の後に、小さなファイルーズの声と花ノ宮の声が続く。これだけ居れば充分だろう。


「有難う。此処は任せるわ。先に行ってるわね。」



その頃。


「あい、たたたた……。」


無理矢理己の玉座の間に連れてこられた真理は、頭を抑えながら顔を上げた。馴染みのある姿と、怒りの表情が見える。


「げっ……。」


「お帰りなさいませ、『ラプラスの魔物』。」


ミルゼンクリアからの叱責が飛んで来ると思ったら飛んで来なかった。それだけでも救われた気持ちだ。


ふと自分の髪に視線を戻すと銀髪が見える。どうやら今は『ラプラスの魔物』が身体を操る権利を譲ってくれているらしい。


よろよろと立ち上がると玉座の隣に立っているミルゼンクリアに座る事を示される。これは座るしか無さそうだ。座ると、今起こっている彼が創った全世界の様子が映し出された。


「久し振りの情報量だね。」


「……吾が言うのもなんですか、彼等に味方せずとも宜しいのですか?」


「本当に『君が言うのもなんだが』って話だねぇ。」


そうだねぇ、と頬杖をつきながら、


「私が加担すれば必ず勝つから、かなぁ。勿論私が入らなくても彼等は勝つがね。」


「随分な意気込みでいらっしゃる。」


「本当の事さ。……まぁ、見てると良い。」


そしてぽつり、とびきり優しい顔をして。


「……神代最後の幻想達。」



場面はまた元に戻る。元に戻ると言っても静けさは無く、天使の猛攻から逃げていたが。


「西から来ます!気をつけて!」


「いやいや!これ気をつけるとかじゃ無いだろジャジィー!」


「他に言い様がないんだもんお兄ちゃん!」


一通りの猛攻を逃げ切った後で、冷泉帝は足を止めて芭蕉扇の扇をぱちんと直した。音に合わせて爆発が起こる。それでも地面に落ちたのは二体だけだった。


「ふむ。」


冷泉帝の言葉が終わる前に空中に炎の刃が飛んだ。どうやらこれはイブキの攻撃の様だ。


「おや、考えていた事は同じの事の様で。それでも……。」


あまり攻撃は効いていない様だ。落ちてくるのは右手で足りる数の天使だった。


『そんなに天使は柔らかくありませんよ。』


ケルビムと同じ様な姿をした大きな天使が緑珠達の前に立ちはだかった。手には白銀に光る剣がある。


『私の名前はセラフィム。熾天使の位を司る者。此処から先へは行かせません。』


「皆言うことってそんな変わらないのねぇ。どうして天使ってあんなに無機的なのかしら。悪魔はもっと優しいのに。」


「優しくなければ誑せないからだろ?」


「それにしたってもうちょっと微笑むなりなんなりすれば良いのに……。」


目の前に雷が起こる。待ってはくれない様だ。


「緑珠様、此処は僕達に任せて先にお進み下さい。心配なさらずとも強いですから。」


「おやおや……随分と自信満々ですねぇ。」


「頼むから喧嘩はしてくれるなよ。ボクが後処理をするのが面倒になる。」


そっと手を伸ばした緑珠の手に軽くイブキは触れると、


「……御武運を。」


「えぇ。貴方もね。」


指先が離れて熱が愛おしくなるその瞬間に、冷泉帝が膝カックンをかましているのを緑珠はくすくすと笑って見届ける。そして天使を超えて、霞みつつも遠くに儚げに見える水晶の扉を見遣った。


「あの奥に『大整理のプログラム』がいるのね。」


「早く行きましょう。悪を根元から絶つのです!」


話していると扉までは直ぐだった。水晶の扉に手をかけると、ばち、と緑珠の手に痺れが走る。


「な、なにこれ……!?」


「緑珠、上だ!」


ナムルは緑珠を抱えて後ろに下がると、先程彼女が居た場所には雷が落ちていた。


『こんにちは。私の名前はソロネ。神の玉座を守る座天使の位を司る者。』


「くっ……!此処まで来て……!しつこいわね!」


「仕方無い、迎え撃つぞ!」



そして話は智天使 ケルビムの場所へと戻る。


「動きが素早いですわね……。」


「貴方の人形って燃えるのね。」


「当たり前ですわ。天使の炎ですもの。……本当は燃えませんですわ。」


ケルビムが放つ炎、所謂 『聖炎せいえん』と呼ばれるモノは、熱く素早い。メアリーの『極天人形』の洋装ドレスの先がちりちりと燃えていた。


「全然鏡に映らないものなんですわね。」


「天使は生きてはいませんから映らないんでしょう。でも……。」


ニタリと花ノ宮は笑って鏡に無理矢理天使を写した。ぱし、と亀裂が入る。


「鏡は神の具現です。調子の乗った天使に裁きを下す事は出来ます。」


写されたケルビムの身体に、幾重にも光の刃が刺さった。それでも真っ直ぐ此方に向かって来る。


「こんなのって無いですわ!『鉄礬柘榴』!」


『極天人形』は三人を抱えて本棚の上に登った。下から静かに怒気の籠ったケルビムの声が聞こえた。


『其処から退きなさい。』


「攻撃が効いてないの!?」


「効いていない訳じゃ無いと思います!多分だけど、天使には痛覚が無いから……!」


「はぁ!?そんなんねぇだろですわ!『灰鉄柘榴』!」


片っぽの『極天人形』が飛んで行くのを囮にして、三人は慌ててその場を離れた。何とか地面に降り立ったものの、空から降ってくる炎は冷徹だ。


ファイルーズはアラライラオを身にまとい水竜に姿を変える。竜の鱗は魔法攻撃を通しにくく、また天使にも攻撃が有効だ。水竜の周りに出来た水の魔弾が、着々と天使達の攻撃を受け流して行く。


『第二段階へ移行……。』


ケルビムの恐ろしい宣言に三人は身を震わせた。あれだけ跳ね返すのが大変だったのにこれ以上攻撃が増しては耐えられない。


「花ノ宮公女!あんたってその鏡を異世界に繋げたり出来るですわ?」


「え、えぇ、それは勿論。何処へ飛ぶかは分かりませんが……。」


「それで良いですわ!ファイルーズ!二人で注意を引きましょう!」


「気を引くってどうやって……?」


「アンタは水竜のままで何体か天使を倒して下さいまし!」


水竜はそれに応えるかの様に、何発も天使に向けて魔弾を放った。二、三、程の天使が床に落ちて来る。


「神器『カンタレラ』。生き物を操る力を持つ神器。力をとくとご覧あれ!」


床に落ちて来た天使に真っ直ぐ糸が伸びる。その糸は確実に天使を絡め取った。すると、天使がメアリーの思った通りに動き始める。


『な、なんて恐ろしい事を……!』


「うるさいですわ!しばらく黙っているのですわ!」


花弁の様に揺蕩っていた天使の動きはメアリーによって無機的でとんでもない速度スピードを出してケルビムを攻撃する。


「行きますよ!『八咫之鏡やたのががみ水鏡之人すいきょうのひと』!」


鏡に捕らえられたケルビムは姿を止めた。それをメアリーが攻撃している間に、ファイルーズは何か思いついた声色で、


「もしかしたら……!」


竜の姿から変わると、『アラライラオ』の先にはケルビムもどきのファイルーズの姿があった。


「ファイルーズ!やるのですわ!」


「分かったわ!」


ファイルーズはケルビムを攻撃すると、件の天使の身体から光が血液の様に零れ落ちた。それを見届けた花ノ宮は大きく結界を広げて、


「『八咫之鏡やたのかがみ・天地天変』!」


結界は完全に動けないケルビムと周りに居る天使を捕らえた。大きな光の後にはもう、何も残って居ない。


「や、やった……!」


「えぇ、本当ですわね!跡形も無く消え去ってしまいましたわ!」


花ノ宮とメアリーがぱちん、と手を合わせて喜んでいるのをファイルーズは見届けると、


「行きましょう。また天使が来るかもしれないわ。」


三人は顔を見合わせてその場を慌てて離れた。









次回予告!!!

伊吹と冷泉帝が協力してバトったりとか緑珠様とナムルで協力したり新しい力が発揮されたりと、やっぱり目を離す事が出来ないお話!

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