ラプラスの魔物 千年怪奇譚 214 深まる雪のその奥に
流石に続きが気になると思いますので今度はちゃんと続きがあります。此処まで来た理由を説明したファイルーズは二人に協力を申し出るも……?
「っていう、わけなの。」
今までの事を、ファイルーズはぽつりぽつりと告げた。三人は今暖かい飛行船の中に居る。そうしてあの冒頭の下りをして、今二人の前に居るのだ。
「吃驚するくらいの監視体制だな。」
「殿下の御命令だもの。背く訳にはいかないわ。」
ジャジィーから借りた裁縫道具で、空いた大きな穴をファイルーズはちくちくと縫っていた。
「それって直るの?」
「直る。この神器は生き物だから、暫く糸で繋いでれば戻るわ。」
「あの……。」
「やる事は知ってる。鉱石を集めなきゃいけないんでしょ。縫い方きたな……やっちゃったな……。」
ぱっと神器を広げると、布が一集中していてとても綺麗な状態とは言えない。ま、いっか。と彼女の言葉が続く。良いらしい。
「私も一緒に行く。監視役だけど。」
「に、兄様に報告は……。」
「するわ。」
ファイルーズの間髪入れずの返答に、ジャジィーとリェフは顔を見合わせる。
「……ジャジィー、コイツもう此処で終わらせといた方が良いんじゃないか?」
「早まらないでリェフ!」
二人でわたわたやっているのを、ファイルーズはぼーっと見ていた。こういうのも監視して報告しなくちゃいけないのかしら。
「はー……。さっさと終わらせるしかないな。ジャジィー、やるぞ。」
「うん。『エイボンの書』を使っても良い?」
「一応めぼしい所は印をつけておいた。」
「さっすがリェフ!優秀過ぎてケツァルコアトルが口から卵産むくらいだね!」
「何だそれ……。」
立体的な地図の印を目指して飛行船が動く。少し集めれば良いのだ。任務は簡単に終わるだろう。
「ね、ねぇ……ファイルーズがいやに静かじゃない?」
「アイツ一人だとあんな感じだ。」
「そうなの?あの子から直々に近寄るなって言われてるから詳しく知らないんだけど……。」
「別に詳しく無くて良いんじゃないのか?」
「そうかなぁ。」
とんでもなく気まずい雰囲気の中、リェフは何食わぬ顔で船を進める。こういう時こいつはいいなぁ、なんてジャジィーは思った。
確かリェフは周りに誰がいようと気にしないんだっけ。何を言われようとも、何をされようともあんまりというか、全く気にしない。
だから最初は認知してもらうのが大変だった。今では無理矢理引っ張ってに旅に出る仲だ。
「ほらヤースミーン。見えたぞ。そこの窓から身を出して取りに行け。」
太陽に当たって、崖に埋め込まれた緑の結晶がキラキラしている。ジャジィーは言われるがままに窓から身を乗り出して、崩れそうな崖に乗っかった。
「よいしょ。よっと……。」
「大きさはどうだ?」
「全然問題ないよ。これならあと少しで足りそっ!?」
がくん、ジャジィーの乗っている崖が崩れる。脆そうだったもんなぁ。仕方ない。
崩れていく様がゆっくりと再生されて、ジャジィーの頭が真っ白になる前に崖を蹴って飛行船に飛び移った。一件落着だ。
「あ、あんた、いつもこんな事やってるの……?」
ふぅ、と飛行船の屋根の上で安堵の息を漏らしたジャジィーに、窓から身を乗り出したファイルーズはそんな事を言った。
「当たり前だろ。お偉いさん方が動かないんだからな。」
「リェフ。思っててもそんな事は言わないの。」
「お前だってこの間言ってただろ。」
「それは私とリェフとの間だけにしとかなきゃダメでしょ。」
あぁ、厚着してこれば良かったなぁ。凄く寒い。そんな事を思いながらジャジィーは船室に入り、椅子に置いてある毛布を羽織る。
「リェフは暖かそうで良いね。」
「どうだろう。慣れてるのかもな。暫くはずっとノルテの雪山で過ごしてたし。」
ファイルーズはどうなんだろう、と思ってジャジィーは視線を向けた。良いなぁ、海豹の赤ちゃんになってる。
ごーろごーろと椅子の上で転がっている。ふわふわしてるし暖かそうだ。恐る恐る手を伸ばすと、ぴたっと動きが止まってしまった。
「ふわふわ……。」
白くてふわふわの毛に手を埋める。触られているファイルーズは微妙な顔をしていた。
「着いたぞ。」
「えっ、もう?」
ジャジィーは立ち上がるとリェフの元へと駆け寄った。
「何してたんだ?」
「ファイルーズ触ってた。」
「お前って度胸あるよな。」
今度は断崖じゃなさそうだ。場所にも余裕がある。飛行船を止めると、今まで緊張していたリェフの張り詰めた雰囲気が消えた。
「この奥だ。ボクはこの飛行船を検査しておくから、ジャジィーが行ってくるといい。」
「ファイルーズは?来る?」
「えぇ。監視役だもの。」
二人で行くことが決まったからと、リェフはあるものを手渡した。両端に黒い石みたいなのに青い硝子が嵌った板だ。
「それは『エイボンの書』の子機だ。何か知りたいものがあったら被写体に向けるといい。解説してくれる。」
「『エイボンの書』に子機なんてあったんだ……。」
「ちっちゃい方が便利な時もあるんだ。」
「ふーん……。有難く貸してもらうね。」
「分かった分かった。ほら行ってこい。」
手元にある子機を見詰めると、周辺の地理と方向が示される。飛行船から降りると、びゅうっと冷たい風が吹く。
「うぅ、寒い……。」
「……そんな格好で来るから……。」
道はどっちなの、という表情でファイルーズはジャジィーを見詰める。
「この先だね。」
……正直言って、かなり気まずい。自分の事嫌ってる人だし。砂を蹴る音や雪が軋む音、石が飛ぶ音しか無い。というかファイルーズが社会的な付き合いか出来る人で良かった。
これがもし公私混同する様な人だったら真っ先に消されてるだろうなぁ、とちらっとファイルーズを見詰める。いいな、ふわふわの狼になってる。
見るとなんか微妙な表情でこっちを見返された。どういう感情なんだろう、それ……。
千里眼を使ってちょっとファイルーズの心の中を覗いてみよう、ちょっと、ちょっとだ……け……いや、『気まずい』って感情しか無いじゃん……。
……いやいや!逆に考えよう!このままの状態だと凄く気まずいけど可もなく不可もなく丁度いい状態になれ、
「ファイルーズ?」
ジャジィーの気持ちなど露知らず、すたすたとファイルーズは先を歩いて、鉱石がある場所へと向かった。一体どうしたんだろう。
「……はい。」
元の人間の姿に戻ると、崖に嵌っている鉱石を抜き取ってジャジィーに渡した。
「あ、ありがとう。」
「ほらこれも。」
何個も大きな結晶を渡すものだから、手から零れ落ちそうになる。何とか掴んで体制を整えた。
「戻ろっか。」
「……えぇ。」
すたすたとまたファイルーズが先を歩いていく。その後も終始無言だった。飛行船に乗る前に、前を歩く人間はぴたりと足を止めた。
「……私は、乗って帰らない。少しこの辺りを……調査、するから……。」
「そうなの?それじゃあ、」
「ねぇジャジィー。」
片足を飛行船に乗っけているジャジィーに、ファイルーズは慌てて言った。
「……あのね。ジャジィーが頑張ってるの、よく分かった。から……。」
それじゃあ、とそれだけ言って山奥に去ってしまった。さよならも言わずに。飛行船に乗り込んで、ぽつりと呟く。
「一体何が言いたかったんだろう。」
「『今は協力出来ないけどナムルが協力するって言ったらする』って事だよ。」
「リェフは分かったの……?」
その言葉にリェフはつんつん、と『エイボンの書』を示した。画面には確率が表示されている。確率論だ。所詮は確率論だけど……。
「そう、なるといいなぁ。」
空を見上げながら、ジャジィーはそう言った。
話は巻き戻って柊李様たちが竜と戦ってる話になりま〜〜す!!!此処まで来るのめっちゃ長くなっちゃったけど、また緑珠様達も本邸で何やかんやします!




