ラプラスの魔物 千年怪奇譚 12 少女王が治める砂漠の国
前回のあらすじ!巨大砂漠を荒らしまくった竜のお悩み事を解決したりと、なんやかんやで忙しかった緑珠たち。そんなこんなで国を作るための調印を貰うべく、第二の帝国に足を踏み入れる!
「凄い!見えてきたー!本当に砂漠の真ん中に国なんてあるのね!」
「暑くないんですか……。」
「あつーい!あついけど、たのしーい!」
「砂漠なんて常日頃見ないからねぇ。」
緑珠は砂が入らないように厚着にすると、砂漠の上に大々的にある帝国を見詰める。
「呉藍料理か……辛いのでしょうね。食べたいわ。」
「辛い物、お好きなんですか?」
「……お腹が空いたら何でも美味しいでしょう?」
「お腹が空いてるんですね。要するに。」
ザフラ国の周辺にはまだ砂漠船の残骸が数多く残っていた。あれでは港に船を付けることが出来ない。
「玉鏡竜も盛大にやったね。あれじゃあ一歩手前で降りることになるかな。」
「別に構わないわ。だって、真理の魔法があるもの。ね?」
「勿論、使うさ。」
真理は緑珠にウインクをすると、砂漠船が港よりも少し東について、荷物を纏めて降りる。
「よーし、じゃあやるよー!」
真理は周りから枯れ木の枝を引っ張り出すと、落ちやすいさらさらとした砂漠の砂の上に魔法陣を書く。
「書きにく……ま、こんなもんで良いか。僕神様だし、何とかなるでしょ。」
「不安しかないです。」
「まぁまぁ。ほら!入って入って〜」
「ノリが軽いわね。」
「魔法なんてね、フィーリングで良いんだよ。」
「いま必死に勉強している魔法使いを全員敵に回しましたね。」
「それじゃあもうぱぱっと言っちゃうよ!ザフラ国の市街地へ!」
「そんなので良いの!?」
緑珠が叫んだと同時に、市街地へ飛ぶ。そして、
「ぁっ……。」
「何やっちまったみたいな声出して……うわぁ……。」
真理が小さく悲鳴をあげて、イブキが鋭くツッコミを入れて、緑珠が今の状況がイマイチ理解していない中、三人は王の行進の前で突っ立っていた。
辺りはもちろん沈黙。象が何頭も華やかに装飾されて、薄いベール越しに誰かが居た。イブキがいたたまれなくなって呟く。
「うわぁ……これ、斬首刑ですかね。……いや、生存フラグ立てましょう、生存フラグ。」
緑珠がそれに便乗した。
「そうね。えっと……『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……』とか?」
「それは由緒正しき死亡フラグですよ!」
「んっと……じゃあ、『殺人犯とは一緒に居れない!私は自分の部屋に帰らせてもらう!』とか?」
「『オレはこんなゾンビとは居られねぇ!先に逃げるぜ!』もありだよね。」
「何で貴方達は揃いも揃って死亡フラグを立てまくるんだ!」
「えぇ……そんな事言ったって、あとは……そうね、『や、やったか……?』とかかしら。」
「もうちょっと生存フラグを立てる努力をして下さい!」
「そういう君はどうなんだよ。立てられるの?」
「そりゃあ勿論出来ますよ。例えば、『殺すのが惜しい奴だ……』とか。」
「……ふーん。そうなのね。」
「何でそんなに不服そうなんですか!」
「いや、だって……其処はイブキも死亡フラグを立てて、私と真理からツッコミを入れられる場面でしょ?」
「お前達!」
役人達が緑珠達に向けて槍を向ける。
「あ、これ手を上げてた方が良い感じね。」
「そうですね。」
「本当に淡白だな君達は……。死ぬとか思わないの?」
「……亡命中の元皇女の身よ。元より覚悟は出来てるわ。それに、」
と緑珠は続けて、
「私はまだ死なないもの。それに、二人が居るから。」
緑珠の何も言わない背を見て、真理は自分も手を上げる。
「王の行進中だぞ!自分達が何をしたのか分かってるのか!」
「わぁ、ご乱心ですね。」
「まさか向けるがわだったに向けられるとは……夢にも思っていなかったわ。」
「断頭台にまた登りたくはないなぁ。」
緑珠はその『また』という言葉に反応して振り返った。
「……『また』?」
「そう、『また』。」
真理は昔の事を思い出しながら懐かしむ。
「あれねぇ、ギロチン自体はあんまり痛くないんだけど……民衆からの石の方が痛いんだよね。礫だから。」
「お前達は何を話している!国家反逆罪で死刑にするぞ!」
「それは困りますね。まだまだやらねばならぬ事がありますので。」
イブキは呑気に返すと、ベール越しからか細い少女の声が聞こえる。乾いた声だ。
「……其方等の名は?……すまぬ。おい、武器を下ろせ。客人が話せぬだろう。」
「しかし、」
「下ろせ。」
「……仰せのままに。」
ベール越しの少女が肘をついて、前のめりになって緑珠の顔を覗く。緑珠は跪いて答えた。
「私の名前は蓬莱 緑珠。……以前は蓬泉院 緑珠李雅と名乗っておりました。」
「……ほぉ。蓬泉院 李烏山の娘子か。亡命中とは聞いたが。」
緑珠は顔を上げる。
「私の父をご存知なのですね。」
「勿論じゃ。知るが道理よ。ともすれば、その傍に居るのは光遷院の当主か。」
「左様に御座います。……『次期』、ですが。」
少女の答えにイブキは少し訂正を入れる。それをあまり気に止めず少女は真理に言った。
「当主が死ねば次期当主は当主となる。変わらぬものよ。そして、その紫髪は……数多の諸国を騒がせている吟遊詩人と見える。相違ないな?」
「存じ上げていらっしゃったのかぁ。」
「知らぬ訳が無いだろう。御稜威帝国の御手洗殿下を困らせる人間だぞ?人間かどうかも怪しいが。」
「ははは……耳が痛いなぁ。」
少しの間のあと、少女は言った。
「……うむ。良いだろう。この者達を城にあげよ。」
一人の豪傑が少女に耳打ちする。
「分かっておる。良い暇つぶしじゃ。妾を守れずして何が守り人じゃ?」
薄いベールを上げると、褐色の肌が美しい赤髪の赤い瞳の、曼珠沙華の様な色合いをした少女が現れた。
九尾の狐らしく、赤い毛並みでふさふさとした尻尾とピンとたった耳がある。赤と金と白のドレスが愛らしい。ただ、少し目は冷たく、溌剌とした表情があった。
「象に乗れ。城へ向かうぞ。」
緑珠達は城へと着くと、すらりと象から降ろされる。初めて見る生き物に、緑珠はまじまじとそれを見つめた。
「……変わった生き物ね。」
「象、って言うんだよ。鼻が長い生き物さ。」
「こんな鼻が長い生き物がいるのね……絵本でしか見た事が無い様な……。」
「日栄では居なかった?」
緑珠は真理に首を横に振る。
「居なかったわ。なんたって不毛の地だもの。草木は育つけれど、大きい動物なんて飼える様な飼料が無い、と言うか……。」
「動物園も水族館もありませんからね。」
「地上は本当に変わってるわ。」
「なるほど……君達にはそう見えるのか。所変われば、だね。」
他愛も無い会話をしながら、侍女に連れられて王の部屋へ通される。
「うむ、座れ。下がって良いぞ。ご苦労であった。」
椅子に座らされて、少女王は笑った。そして、
「……つかれた。つかれた、つかれた!堅苦しいのは嫌じゃ!」
三人の前でじたばたと足をばたつかせる。緑珠はくすりと笑った。
「ふふ。やっぱり十五歳ね。ご政務、お疲れ様です。」
「全くじゃ!あぁ、そうじゃ。」
少女王は形式的な礼儀作法を行うと、軽く挨拶をする。
「紹介が遅れてしまった。妾の名はナスリーン・ザフラ。多忙な父に変わってこの国を治めておる。不束者だが、宜しく頼む。」
ナスリーンは間の前にある暑い紅茶を軽く飲んで言った。
「辺境の地故、冷たい物を出す事は難しいが美味しい茶を出させた。甘いぞ?」
「あっつ……。」
「真理って猫舌なの?」
「悪い?」
緑珠はくすくすと笑って苦い顔をしている真理を見る。
「いいえ。……ふふっ。意外だな、と思ったのよ。でもこれは美味しいわ。有難う御座います。」
にしても、とナスリーンは肘をついて三人を見詰める。
「全く、恐ろしい者達じゃ。冷血女帝と名高い御稜威の御手洗殿下を丸く収めるとは。」
「冷血女帝、ですか。しかし、私達が殿下にお会いした時はそんな雰囲気は一つも……。」
イブキがナスリーンに冷血女帝と言われた御手洗 麗羅を思い出しながら提言する。
「いかにも。伊吹殿が言う気持ちは分かる。然れども、あの様な広大な国土、治めるには中々の器量が必要じゃ。……残虐非道な略奪を繰り返したとよく聞く。」
然れども、とナスリーンは続ける。
「可哀想なお方なのだ。御手洗の家に生まれ、望んでもおらず女帝にされ、それでも優しきお方だから国を治める。明日が来るかも分からぬ恐怖に怯え、感情を殺す。北の大帝国の王に聞いた。初めの側近が死んだ時、彼女は声が枯れるほど泣いたそうだ。あの方が笑えば笑うほど、その顛末は哀しきものとなる。」
少し微笑んでから、ナスリーンは言った。
「いや、済まないな。客人の前でする話しではないだろう。ただ、そういう人なのだ。さてさて、あの方より話は聞いた。国を造りたいのだろう?調印が欲しいのか?」
緑珠はぬるくなった紅茶を置いて、即答する。
「はい、そうです。相違ありません。どうしても頂きたいのです。」
ぐひぐびとナスリーンは紅茶を飲み干して、ニカリと笑う。
「うむうむ、そうか!直ぐにでも調印をしてやりたいが、何か無ければ面白く無いな。……そうじゃ、妾が何故戦姫と呼ばれているか知っておるか?」
ナスリーンはすっくりと立ち上がる。
「ええっと……真理が言ってた事よね?ナスリーン王女が何故戦姫と呼ばれていたのか……私が予想するに、戦闘が物凄く強いとか、でしょうか?」
緑珠のありきたりな発想を、ナスリーンは一発で却下する。
「勿論、妾は王女だ。身を守るある程度の武道は心得ておるのじゃが……。違う。違うぞ、緑珠。まぁ良い。其方等に我が国の名物をお見せしようでは無いか。」
「……。」
緑珠は目の前のその建物に、呆気に取られている。口をただひたすらに開けて。
「これは……闘技場?」
「うむ。良くわかったな、吟遊詩人よ。」
「腐っても諸国を旅しておりますので……。」
「それを御手洗殿下に言うと早く腐れと言われたそうだな。さぁ、行くぞ。」
ナスリーンが歩き出した時に、真理は極に小さく呟いた。
「何で僕が言った事を知ってるんだ……いやでもまぁ、まだ良い。あれ言ったあとたじで土かけられるとは思ってなかった……『腐るんでしょう?ほら早く腐れ』って。えぇ……。」
ナスリーンが闘技場へと入っていくのに、緑珠達はついて行く。
「お、見えるぞ!いま勝負の真っ最中じゃ!」
きぃん、きぃん、と剣がぶつかる音がして、緑珠はその光景に目を見張る。
「本でしか見た事がないのよ。地上には本に書いてある事がいっぱいあるのね。」
「地上は月面よりも広いですからね。気候も、風土も、全く違います。」
赤髪の少女王は三人に向き直る。
「其方等には此処で戦ってもらう!大丈夫じゃ、一人腕が立つ者がいれば良い。でなければこんな所までは来れないからのう。」
しかし、とイブキはナスリーンへと問う。
「通常、闘技場の敗北者はその……死ぬ、ということになっていますが。」
くすくすとナスリーンは笑う。
「三百年前は我が国もそうしておったのじゃ。然れども、残虐性が高いという訳で別のモノへと切り替わったのじゃ。負けた者には……社会的死が待っておる。」
唾を飲み込んで、ナスリーンは続ける。
「①イタイ頃だった自作ノートを晒す。②ポエム公開。③負けた気持ちを百枚感想文。因みにこれも晒す。」
「ある意味一番の社会的死ですね。」
緑珠がそのラインナップを聞いて返答した。
「そうであろうそうであろう!しかも其方等は③しか無いのじゃ。」
「取捨選択も出来ないんですか。」
イブキが肩を竦めると、緑珠は思案に耽った。
「光遷院邸はまだかなり綺麗だったじゃない。イブキのイタイ頃のノート、残ってるかもしれないわよ。取りに行く?」
「い!や!で!す!と言うか僕のイタイ頃はノートなんて作ってませんでしたから!」
「絶対あったでしょ!イブキは内に溜めてそうだもの。絶対ノート作ってるわよ!」
「作ったノートと言っても帝国憲法と法律のノートくらいしか無かったですよ!暗記用の!」
「はい出た〜司法権司ってる光遷院家の言い訳〜!」
「言い訳じゃないです!」
「そう言えば光遷院の家は司法権じゃったな。」
ナスリーンがそんな二人の会話を聞きながらくすくすと笑っている。
「確か……司法権、立法権、行政権を司る三家があるのじゃそうじゃな。」
「え、じゃあ一つの家余るじゃん。」
真理の超絶空気の読めない一言に、ナスリーンは手をひらひらさせる。
「吟遊詩人……お前、腐っても『吟遊詩人』なのだろう?日栄帝国には行ったことが無いのか?」
真理は乾いた笑いを見せて言った。
「ははは……行こうと思ってビザを取ろうと思ったら、御手洗殿下に手を回されていて……魔法で行こうと思ったら、特別に強固な結界が貼られてて……ははは……。」
ナスリーンは完全に動きを停止した。
「……殿下をあまり困らせない様にするんじゃぞ。」
「善処します……あ、それで話は元に戻るんだけど。一家余るじゃん?あれはどうするの?」
「それはですね、」
「待って。待ちなさいイブキ。」
「どうしたんですか?」
心の底から焦る表情を見せながら緑珠はイブキへと言った。
「何か今さっきからイブキばっかり説明してる気がするのだけれど。」
「いや、僕は何も説明してませんけど?」
「良いの。私が満足すれば良いのよ。要するに私に説明させて。何かもういたたまれなくなってきたの。だって、ほら、私皇女じゃない?」
「そーいうりゆーですか。別にいいですが。さ、説明して差し上げて下さい。」
とんでもなく棒読みでイブキは前半の語句たちを読み上げると、緑珠に説明を促す。
「三権分立の話はしたでしょう?来仙家は行政、倶利伽羅家は立法、光遷院家は司法を司っているの。何かを決める時は各々の家の代表が出て……えっと、即ち当主ね。お話し合いをするのよ。発表したり、家で決めた事を蓬泉院の家は見たり、するのよ。ね、イブキ。ちゃんと合ってる?」
「合ってらっしゃいますよ。そういう訳でお分かりになられました?真理。」
「わかったわかった。うん、すごく分かったよ。」
待ち切れなくなったナスリーンが、三人へと問う。
「うむうむ。仲が良くて何よりだ。そういう訳で、誰がこの闘技場に出るのじゃ?」
「へ……?……ぁっ……。」
「絶対今、忘れてたでしょ。それで思い出したでしょ。」
「いやいやいやいやいやいや、そんな訳無いじゃない?」
「で?出場者は?」
少女王の有無を言わさない威圧に、緑珠は答えた。多分一日も待ってくれないだろう。
「え、あ、い、伊吹が出ます。」
「ちょっと待って下さい?」
「僕もそれに賛成かな。」
「ちょっと待って下さい?あのですね、」
「うむうむ、仲が良くて何よりだ。」
「……あのですね、一つ言っても宜しいでしょうか。」
「うんうん、どうぞ。」
「構わないよ。」
「不服も言ってこそじゃ。」
すう、と息を吸って、吐いた。
「……なんで僕なんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
イブキらしからぬ、絶叫であった。
次回予告。イブキが絶叫したり、盛大に緑珠がリア充したり、賭け事をしたり、イブキ好きには堪らない(訳:敬語ヤンデレが大好きな人)には堪らないお話!これからイブキが大活躍します!第十三話 来週水曜日 16時更新!




