表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
210/256

ラプラスの魔物 千年怪奇譚 195 女帝の休息

自分で書いててなんですけど、次の話めっっっっっちゃ初々しいのでなんかちょっとアレです。要するにデートです。やったね。

「お仕事終わりましたよ、緑珠様。」


「お疲れ様。えぇっと、じゃあこれを……。」


差し出された書類を、イブキは遠慮がちに返した。


「それはハニンシャが手回ししたので御用になったお仕事です。」


「あら、有能。」


「という訳で今日の緑珠様のお仕事はありません。」


「そうなの。」


「……ええっとその、ですから……。」


まだ手を止めない緑珠に、イブキはとんでもなく気まづそうに言うと。


「手を止めて休んで頂けると、有難いのですが……。」


「……そうは言っても、ねぇ。」


渋々手を止めると、緑珠は難しそうな顔を作る。


「僕達の仕事は先にやっても無意味な事が多いですし、あんまり休めませんし……。ですから今休んで頂けると……。」


そう言っても納得しないらしく。


「うーん……。」


「緑珠様。ここで僕を拒んだらカッターキャーしますよ。」


「イブキ、それ違うやつだから。」


「……匕首キャーってことですか?」


「それも違う。……でもまぁ、そこまで言うのなら……。」


一体何処からそんな知識が出てくるのかしら、とのんびりそんな事を思いながら、緑珠は伸びる。


「何日かお休みにしておきますね。有給消化しなきゃだし。」


「えぇ。有難う。」


何かまだ言いたげな従者は、緑珠の執務室を離れようとしない。


「どうしたの?まだ何か……。」


「いえいえ!何でもありません!失礼しますね!」


慌てて部屋を飛び出したイブキを、緑珠は真ん丸の瞳で見詰める。


「何だったのかしら……。」


なんて冗談、変な子より面倒臭い子だから、きっと追っかけて行った方が良いのだろう。


残った冷たい紅茶を飲んで、思いっ切り扉を開けて。駆け出したら。


「ひうっ!?」


「うわっ!?」


何故か扉を開けるギリギリの所で丸まっていたイブキに引っかかって、緑珠は思いっ切り転ける。


「……何をしてらっしゃるんですか?」


「こけたわ……。」


びったーん、思いっ切り転げた緑珠は、リリシアンの痛い視線を受けながら身体を起こす。


「うぅ……いたい……。」


「ご、ごめんなさい、僕が廊下で蹲ってるばっかりに……。」


「どうしてうずくまってるのよ、ばか……。」


イブキもよろよろと立ち上がる。そしてまた目を逸らして言うと、


「そ、それじゃあ、僕はこれで……。」


「待ちなさい。言いたいことがあるんでしょ。」


「最近宰相様、そわそわしてましたもんね。」


リリーの一言に、緑珠はくるっと振り返る。


「そうなの?」


「えぇ。『どうして緑珠様はお休みが取れないんでしょう』、とか『お休みがあれば一緒にいれるのに』、とか、『でも殿下と一緒に居たいでしょうし、やっぱりデー」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!何も聞こえない!聞かない!うるさい!言わないで下さいぃぃぃ……。」


イブキは神器を出して必死にリリーの言葉に抵抗する。さながら駄々を捏ねている子供の様だ。


「……まぁこれ以上は宰相様本人の口から言った方が良いですから言いませんが。言えると良いですね、宰相様。」


「ぅ、うぅ……。」


項垂れて顔が真っ赤になっているイブキは、きょとんとしている緑珠様を見詰める。


「……いまの、ききました……?」


「聞いてないわ。」


「……なら、良かったです。それでは僕は」


「だからこそ貴方の口から聞きたいところね。」


「……そんなの、いじわるです。」


顔を真っ赤にしながらぽろぽろとイブキは涙を零す。


「あっ、緑珠が伊吹君泣かしたー。」


「ち、ちがっ、いきなり泣いたんだもの、私のせいじゃないわ……。」


たまたま通りかかった真理が、茶化すように緑珠へと告げる。


「とにかく此処じゃ場所も場所だし、ね、部屋でお話出来る?」


「……りょくしゅさまの、お部屋がいいです。」


「分かったわ。それじゃあ行きましょうか。」


半ば引き摺るような形で、緑珠は自室を目指した。……びえびえ泣いている従者を連れて。









「はい。お座り。」


「……はい……。」


「さぁ、聞かせてくれる?何時までもほっぺを赤くしてちゃあダメよ?」


緑珠はイブキを座らせると、その隣に座る。嗚咽が一通り済んだところで、


「ずっと、言いたいことがあって。」


「言いたいこと?なんでも聞くわ。言ってくれる?」


「……緑珠様はその、凄くお忙しいじゃないですか。」


「そうね。」


「だから、休んでもらいたくて。」


「うふふ。そう言って貰えるのは嬉しいわねぇ。」


お茶もなくてごめんね、と緑珠は言うと、イブキはいいえ、と短く言うと、ゆるゆると首を横に振った。


「でもその、お休みは凄く短いじゃないですか。あんまりお休みがないから。」


だから、とまた小さく続く。


「お休みがあっても、やっぱり殿下と遊ばれるじゃないですか。それは仕方が無いし、僕達と居る時間は少なくなっちゃうのも、全然分かる、分かるんです……。」


「要するに貴方は、私と一緒に居たいのね?」


「……はい。」


逢引デートしたいの?」


「…………はい。」


それなら、と胸を張って緑珠は笑うと。


「折角企画してくれた貴方から言ってくれなきゃあ、私、逢引したりなんてしないわよ。」


「……そういうところが意地悪なんですってば……。」


「そんな事ないわ。私、とびきり優しいもの。」


「仕方がないですねぇ。」


やけになったのが、無駄にはっきりした声でそう言い切ると、椅子を降りて膝をついて。


「月の美しい真珠姫。どうかこの僕と逢引なんていかがでしょう。」


改まって言うものだから。あぁもう、そういうところがバカみたいに初心なのよね。


「……な、な、なんですか、恥ずかしかったんですよ、これでも……。」


「ふふっ……。いつも歯が浮くような台詞を言うのに?」


「もう良いですから。行くんですか、来ないんですか。」


「視察混じりのデートになっちゃってもいい?」


「何でもいいですよ。だから、その。」


何時もよりずっと強く、緑珠様を見詰めて。


「早く答えて下さいませんかね……。」


その瞳に答える様に、緑珠は差し出されていた手を優しく包んだ。


「良いでしょう。折角の素敵なお誘いだわ。断らない訳ないわね。」


「……よかったぁ……断られたら、どうしようと……。」


「断っても埋め合わせはするわよ。最高に素晴しいお誘いだものね。」


「あ、ぅ、その。それじゃあ、日は……。」


イブキが何時も手帳を突っ込んでいる場所に手を突っ込んで。


「見ても?」


「えぇ、どうぞ。それは表紙が皮のやつですから……。」


気まずそうに目を逸らしたイブキに、緑珠は疑心に満ちた表情を向ける。


「どういうこと?……まぁ良いわ。えぇっと、お休みが此処よね……。」


うーん、と短く緑珠は呟いた。そしておずおずと日取りを指さす。


「この日とか、どうかしら。明後日だけど……。」


「えぇ。貴女の為なら空けておきますよ。」


「あら素敵。それじゃあこの日にしましょうか。」


「畏まりました。それでは楽しみにしておきますね。今日はお疲れ様でした。」


綺麗に恭しくお辞儀をして、イブキはそのまま部屋から出る。足音が遠のいて行くのを聞きながら、緑珠は一つの名を呼んだ。


「真理。」


「お呼びかな?」


「ふふ。まるで自分が呼ばれるのが分かっていたような言い方ね?」


緑珠はそっと己の隣を促す。有難う、と彼は短く言うとそのまま座った。


「紅茶はいかが?上手く淹れれる様になったのよ。是非飲んで貰いたいわ。」


「それじゃあ頂こうか。凄く良い香りだしね。」


巧みな手さばきで紅茶を準備しながら、彼女は真理の問いを聞いた。


「どうして僕を呼んだんだい?」


「今度は三人で遊びに行こうって話をしようと思って。」


「いいねぇ。それは素敵な話だ。」


「それと……。」


緑珠は優しく真理の前に淹れたての紅茶を置いた。


「……夢を見たから。」


「ゆめ?」


「私のウツシの夢よ。」


「写し。……なるほど。」


この先の言葉を上手く紡ぐ為に、真理は甘い液体を喉に通す。


「レンカっていうのね。あの子。……私が生まれた歪みを埋める為に生まれてしまった可哀想な子。……次のこの剣の担い手は、あの子なのね。」


「……写しが生まれたということは……。僕の計画は破綻したって事だね。」


「計画?」


窓の外を眺めていた緑珠は、くるりと真理に不思議そうな顔をして振り返る。


「未来に皺寄せになった歪みを無くすには、もう僕ら自身で解決するしかない。もう一度転生してやり直すってのがあったんだけど……。」


肩を竦めて真理は続けた。


「その計画が失敗したんだろう。じゃなきゃ歪みを抱えた人間なんて産まない。……なるほど、麗羅の言葉は、そういう……。」


いやはや、すっかり分かった気になっていたよ、と真理は小さく呟く。


「だけど、私が見た夢は別の世界線の夢かもしれないわ。その可能性は……。」


「無いと思うよ。君の夢の残り香がこの世界に引っ付いているからね。」


「……であれば、手を打たなきゃね。」


「そうだね。だけどその前に……。」


残った紅茶を全て飲み干して、真理は立ち上がった。


「来客みたいだ。紅茶、とっても美味しかったよ。」


「ら、来客って……。」


見たら分かるさ、それだけ残して姿は綺麗に消える。扉がちょっと控えめに叩かれて、慌てて応答を返した。


「どうぞ!」


その音が示すままに、おずおずと顔を出す者が一人。


「……りょくしゅさま。」


「あらなぁに。どうしたの?」


来客とはイブキの事だったのか、と半ば緑珠は納得すると、扉へ近づく。それに呼応するかの如く、扉から出て来た。


「あのう、明日、緑珠様はお休みじゃないですか……。」


「そうね?」


「僕も半休、取ったんです。だから明日はちょっと遅くって。お泊まりなんか、どうかなぁって……。」


「……お泊まり。」


「最近はしてなかったし……。どうでしょう、お邪魔じゃ無ければ……。」


綺麗に枕まで持って来ている。それを見て、優しく緑珠は微笑むと。


「良いわよ。この間行ったのってイブキの部屋だったわよね?」


「朝起きたら隣に居たからとうとう過ちを犯したのかと本気で心配したんですから止めてくださいねホント……。」


イブキの持っていた枕をぶん捕ると、緑珠はそれを自分のベッドに投げる。そしてベッドの下から何か箱を取り出す。


「私と夜を過ごすってことは……。それ相応の覚悟があるって事よね?」


「ま、まってくだ、さい、心のじゅんび、が……!」


えっえっ、それって期待しちゃっても良いんですか。僕は全然大丈夫なんですけど。


「夜は長いわ。だいじょうぶ。全部教えてあげるからね?」


綺麗に緑珠は照明遊テレビゲーム機を組み立てると。


「格闘ゲーでいい?」


「あっ……。」


「格闘ゲーじゃだめ?他者遊戯(RPG)にする?」


そうだぁ、この人そういう人だぁ。知ってるもん。盗聴してて夜遅くまでやってるの知ってるもん。……泣いてないですよ。


「……格闘ゲーが良いです。ハメ技キメてあげますよ。」


「そんなに上手くいくものかしら?」


「上手くいかせます。ハメてハメてハメまくりますよ。」


指をバキバキ動かしながら、楽しそうにゲームをしている主の背後を見つめる。


「あらそう?じゃあ俊敏に動く練習でもしておくわ。」


「それでは僕は行きますね。まだお仕事が残ってますから。」


「えぇ。頑張ってねぇ!応援してるわ!」


そんな事を聞いて、イブキは部屋をあとにした。







初々しくて推敲してる時に目がやられた話が続きます。やばい。やばすぎる。この後の落差もなかなか心にくるので楽しみにしててね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ