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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 193 月影の皇子

柊李様と共に遊ぼうとする緑珠様だったり色々緑珠様から教えてもらったりとか新しい三人で遊ぶ話!

「緑珠様。おはまです。」


「……いぶき。あの、あ、の、昨日のこと、は……。」


綺麗に整頓された布団の上、綺麗に着替えた緑珠は正座をしてイブキを見遣る。


「へー起きてたんですか緑珠様にしたらすうぅぅぅぅっごい事じゃないですか〜!」


「あ、あの、きの、きのうの、こと……。」


「さぁ?昨日って何のことでしょう。」


酔った自分が悪いのだが、この屈託の無い、『自分は何も知りません』という笑顔が緑珠の恥ずかしさと苛立ちを煽る。


「う、あ、あ、あの、よっ、酔った、こと……。」


「あー!緑珠様がちゅーしてほしいってせがんだ事ですね〜!それがどうしたんですかー?」


「わす、わすれて……。」


イブキはちょっと考える仕草をして。


「嫌です。」


「そんなぁ……。」


「絶対に嫌です。忘れないです。またちゅーしてあげましょうか?」


「……それは、いやじゃない……。」


「はぁ?はぁ……。」


ニコニコ笑顔でベッドの上に座っている緑珠に、イブキは何だか要領の得ない返事をすると。


「さっさと行きますよ。僕が貴女を好き好きする前に。」


「えっ、好き好きしてくれないの?」


「何ですかいきなり食い付きが良いですね……。」


「あっ、でもそれじゃあダメだわ。約束があるもの。」


「約束?」


綺麗に座っていたべの上から立ち上がると、一目散に扉に駆け寄って緑珠は言った。


「柊李と遊ぶ約束よ。」










「母上!お早う御座います!」


「お早う、可愛い柊李。」


「……可愛いは嫌です。」


「あらそう?親からしてみれば子供は何時までも可愛らしいものよ。」


「頼りなさそうじゃないですか……。」


そんな訳ないでしょう、と緑珠と柊李が話しているのをイブキと真理は影から見守る。


「まさか殿下と遊ばれる約束をなさっているなんて……。」


「まぁ分からなくも無いけどね。会えてなかったし、殿下は今日に帰るし。」


「やっぱり子供は母が恋しくなるものなのでしょうか。」


「あんまり小さい頃に会えてなかったから尚更じゃないのかなぁ。」


「そういうものなのかな……。」


腑に落ちない表情を作りながら、二人の様子を眺める。


その眺められている二人はというと。


「遊びたい、って言ってたけど、何で遊びたい?外で遊ぶ?お部屋で遊ぶ?」


「外で遊びたいです!前母上が言っていらした泥だんごを作ってみたくて……。」


「あら、ハニンシャとは作らなかったの?」


「アイツ下手なんですもん……。」


砂漠で育ったからかな、と一人言の様に柊李は呟いた。


「先生とユエリャンと俺で作ったんですが、先生が一番上手くて……。」


でも、と柊李は付け加える。


「でもぴかぴかの泥だんごじゃなかったんです。一度本で見た、あのぴけぴかの泥だんごを作ってみたくて。」


「なるほどねぇ。それじゃあまずは泥だんごの形を丸くするところからね。」


こうやってするのよ〜、と緑珠はお手本を作る。それを見様見真似で柊李が続けて作る。


「ねぇ柊李。どう、生活は。」


「どうって……何がです?」


「色々あるじゃない。こういう事があったーとか、こういう話をしたー、とか……。」


「特にいつも通りですよ。何にもないです。」


そうねぇ、と緑珠は付け加えると。


「それならハニンシャとはどう?先生とは?リリーとも仲良く出来てる?」


「それは滞りなく。全く心配されるような事はなにも……。」


「皆とお話したりは?勉強したりするんでしょう?」


「うーん……そう、ですね……。」


ついには泥だんごを丸める手を止めてしまって、柊李は考え込む。


「お母様はね、柊李がどんな生活をしてるのか聞いてみたくって……。ほら、ずっと遊んであげられなかったから……。」


それでも返答が無い柊李に、緑珠は少しだけ悲しそうな笑みを作って。


「ご、ごめんね、困らせてしまったみたいで……。貴方が幸せに生きていたらお母様はそれで良いのよ。」


「……そんな、日常の話でも無ければありますけど……。」


「あら、そうなの?お母様に教えてくれる?」


作りかけの泥だんごをそっと置いて、柊李は立ち上がった。ぬるつく手をそれなりに綺麗にして、腰に差さっている剣を抜く。


「この剣が抜けにくいんですよね。母上にお願いした剣だから、母上が一番詳しいんだろうと思って一度聞いてみたかったんです。」


「抜けにくい、ねぇ。……あっ。たぶん、それ……。」


「何か心当たりが?」


「心当たりも何も、それは抜けにくいのよ。『普通の体勢』ではね。」


「どういうことです……?」


緑珠も手を綺麗にして立ち上がると、柊李から剣を受け取る。そうして同じ様に腰に差して、


「良い?良く見ててね。」


何も体勢を考えずに剣を抜こうとすると、何かにつっかえてかちゃかちゃと音がする。


「これが綺麗な体勢になると。」


すっ、と姿勢を正して、緑珠は思いっ切り剣を抜いた。先程まで支えていたのが嘘のように、白刃が二人の目の前に躍り出る。


「ね?綺麗に抜けるでしょ。」


「どうりで抜けない時と抜ける時があったのか……。」


「そういう作りなの。この剣はね。」


まだ何一つ守っていない、何一つ傷つけてない剣を、緑珠は嬉しそうに見詰める。


「剣を渡すべきか、まだ早いと見るべきか。……色々考えて、これにした。」


緑珠はその剣を直して、ベルトを外す。


「……ははうえ。俺は守れるのでしょうか。いざと言う時に……俺は……。」


消え入りそうな声ながらも、柊李は必死に言葉を続けて。


「剣を抜く事が出来るのでしょうか……。」


かちん、と装置が作動する音がして、柊李の剣は完全に鞘に納まる。それを緑珠は、輝かんばかりの笑みと共に突き出した。


「その時がきっと初めて、この剣が貴方のモノとなるのでしょう。」


あんまり心配しないで、と続ける目の前の母親から、柊李は剣を受け取る。


「剣が使えなかったら周りの人が死ぬだけだし、貴方も死ぬだけだわ。」


その言葉に柊李はぐっ、と目を見開いた。手に乗る剣が、ずっしりと重くなる。


「武器を持つということはそういうこと。命を預かるということよ。」


「りょくしゅさまーっ!」


「あら……?」


ぱたぱたとイブキが肩を上下にさせながら緑珠へと近付いてくる。


「ほんごく、から、おしごとが、まわって、来ました……どうやら納期が直ぐらしく……。」


「な、何でよ、どうして、私ちゃんと確認したわよ、今日は何にもないって……!納期の近い仕事も無かったわ!」


「いえ、今しがた連絡が入った訳でして……。」


「……疑いたくないけど、アンタの不手際じゃあ無いわよね?」


「それは誓って無いと言い切れます……。とにかく今は先にお仕事を成されるのが先決かと……。」


先程まであんなに優しかった声が、ぴりぴりと辺りを緊張させるくらいに強いものに変わる。


背中には何も見せていなかった。きっと表情を見ればどれだけ悔しい表情をしているのが分かるんだろう。


そのぎゅっ、と握られた、血が出そうな勢いで握り締めている拳が全てを物語っていたから。


けれどきっとしていたであろうそんな表情を母は消して、柊李にぎゅっ、と抱き着いた。


「ごめんなさいね、柊李。また今度必ず、時間を作るから……。」


「大丈夫です、母上。少しだけでも話せて良かった。」


随分と物分りが良くなってしまった息子を申し訳なさそうに見詰めながら、緑珠はそっと頬に接吻を落として。


「愛しているわ、私の柊李。イブキ、行きましょう。」


「はい。」


二人のやり取りを遠い世界で見詰めながら、足元の泥水と崩れていく泥だんごを眺める。すっかり手はかぴかぴになってしまった。


「……洗おう。」


そう言えば今王宮には誰が居るんだろう。魔術師と……ユエリャンは確かお泊まりだったか。先生は国に帰ったかな。


冷たく綺麗な水に手を突っ込んで、どろりと水が汚れていくのを眺める。最後に母と一日一緒に遊んだのは何時だったか。


……そうだ、子供の時だ。人間で言う四、五歳程の時、一日中絵本を読んでもらった記憶がある。あれは本当に楽しかった。


「絵本でも読むかな。」


こういう時にエクゼラダートでも居れば、メイド生活のアレコレを教えてくれるのに。そんな事を思いながら柊李は図書室へと足を踏み入れた。


どんちゃん騒ぎをした次の日というものは静かなもので、何時も静かな図書室はもっと静かだ。数少ない絵本のコーナーにある本を何冊か適当に取る。


胡座をかいて適当に座って、何となく読みたくなるあのフレーズを読んで。


「むかし……むかし……あるところに……。」


「それはそれは格好良い王子様が居ました。」


「ある日お姫様を誘拐して……。」


「それは私のお兄ちゃんのこと?」


「えっ、そうなんですか?」


「誘拐じゃないけど……。どうなんだろう、誘拐なのかなぁ……。」


ばっ、と慌てて柊李は後ろを振り向く。


「どうしたんですか、柊李様。そんなにむくれて。らしくないですよ。」


「……うるさい、ほっとけユエリャン。大体お前はシスコンじゃなかったのか?」


「これだから一人っ子ってのは……。兄弟が居るのが羨ましいって言えばいいのに。」


「冷やかしなら帰れ。俺は本を読んでるんだ。……子供っぽいって言うなよ。」


「言いませんし、一緒に見ましょうよ。そんな泣きそうな顔してる人放っておけないでしょ。」


ふいっ、と柊李はハニンシャの言葉にそっぽを向く。


「ハニンシャ君はお姉ちゃんがもう留学が終わるんだよね?」


「えぇ。あと半月程で月影で生活出来るそうです。」


「そっかぁ。じゃあ私も頑張って勉強しなくちゃね。二人に会えないし。」


胡座をかいてすっかり背が低くなった柊李に、華幻はよしよし、と頭を撫でる。


「殿下、殿下。一緒に御本を読みましょう?」


「……殿下って呼ぶな。『柊李君』って呼べ。」


くるり、今までそっぽを向いていた柊李が華幻へと向きを変える。


「何処までもわがままですね、柊李『君』は。」


「ユエリャン貴様は許してないぞ。未来永劫『柊李様』とこうべを垂れて恭しくそれはもう神の名を称えるが如く呼べ。」


「はー……高々三ヶ月で成人したバブちゃん王子ちゃまがまぁ御大層なこと仰ってまぁ……。」


「……ふふっ、バブちゃん王子ちゃま……。」


ハニンシャの一言でツボに入ってしまった華幻を怪訝そうに見詰めて、というかめちゃくちゃ不服そうに見詰めて、ぐっ、とハニンシャも華幻も脇に抱えると。


「こうなったら一連卓上だ。お前等全員赤ちゃんにしてやる。」


「はーーー!?そんな巻き添えありなんですか!?」


「観念しろユエリャン。お前がクソみたいな罵倒を考えなければこんな事にはならなかったんだからな。」


自信満々に、図書室らしからぬ声が響く。


「可哀想なハニンシャくん……。」


赤ちゃんになっちゃうんだね、と可哀想な眼差しをハニンシャに向けるも。


「いや、先生も赤ちゃんになるので……。」


「えっ!?先生もばぶちゃんになるの!?」


「せんせい、声が大きいです……。」


「あっ、ごめんね、ついついね……。」


「それじゃあ本を読むぞ。むかし、むかし、あるところに……。」


彼らの中で一番身体が大きく、そして一番若い王子の声が、静かに図書室に響く。


そんな様子を見詰める者が一人。


「……大丈夫、みたいね。」


「親心というものですか?」


「えぇ。心配になるものなのよ、やっぱり。お話もあんまり聞けなかったし……。」


三人の背中を見詰めながら、緑珠はまた手元にあるお仕事に視線を戻した。


「この調子で捌けば、夜ご飯はきっと一緒に食べれるよ。皆と。」


「……そうね!それじゃあ頑張りましょうか。」


そうしてまた、図書室に声が響く。







次回予告!!!

騒然さからは打って変わって華幻ちゃんが新しい力を手に入れようとしたりそのために真理に頼ったりする話。

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