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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 186 念願の再開

ナスリーンからとんでもないような事を言われたりそれに対して緑珠様が返したりとか詳しい話を聞ける話!

「あの王の息の根を、止める覚悟はあるか?」


それは予想外の発言だった。それも随分としっかりした瞳でもたらされた言葉であったから。余計に、強く思える言葉で。


「あの王は我が国に対して大罪を冒した。許されぬ事をした。約束を破いたのだ。」


話の状況が全く読めていない二人に、強い口調でナスリーンは続ける。


「我が国には砂漠に住む獅子がいる。その獅子は年々数を減らしていてな、厳重に保護をしておるのだ。」


ゆっくりとナスリーンは目を細めた。天真爛漫な少女とは打って変わって賢者の顔付きになる。


「……生き物というのは人の手によって消されるべき存在でも無くば、生かされ続けるべき存在でもない。ただただ、静かに滅するのを保護しているのだ。」


悔しそうに、そして怒りを露にした彼女は顔を歪める。絶対に許さないと、言わんばかりに。


「だが、奴等はあの獅子を不当に捕らえ、競売に出しおった。」


「競売だって?」


随分と王様らしい趣味だなぁ、と一人真理はごちる。


「そうだ。奴等は昔から法に抵触しない範囲で幻獣を捕らえ、競売を開いておった。我が国も獅子に手を出さぬのならという事で容認しておったのだ。」


その顔は年齢にそぐわず、ただただ恨み辛みだけがあった。


「だが、奴等は獅子を捕らえた。そしてそれを競売に出した。であれば我が国も許してはおれん。国内でもその風潮が高まっておる。」


「なるほど……。その後始末を私に?」


「後始末とは言わん。『掃除』程度じゃ。我が国であの国を疲弊させるにはさせておる。もう民草はまともに食事は出来ておらんだろう。」


あくまでも推測の域を出ないが、とナスリーンは付け加えて、


「あの王は今度の競売で財政を元に戻すつもりだ。其方が探している五大貴族の一人もそこに居る。」


「競売に参加しているのですか?」


「いいや、捕まっているのだ。」


「……捕まっている?」


「捕まっておるのじゃ。逃げられずにな。」


そもそもの発端はなんなんだろうと考えていると、それを読み取ったナスリーンは苦笑しながら言った。


「我が国から保護している獅子の情報を知りたくてな、依頼したのだ。生態情報を記録してくれと。だが……。近づく為にその獅子に変じたところ、それを見たあの国の奴等が捕らえたのじゃよ。」


「なるほど……状況は掴めましたわ。要するにぶっ潰せばいいのですね?」


「前から思ってたけど其方ってちょっと脳筋なとこあるよな?」


「でもまぁ、そういう事でしょう?」


「確かにそういう事じゃけど……。」


苦い笑みだったが、直ぐに喜色満面の笑みに戻ると、凝乳クリーム色の封筒から金色の字で書かれた招待状らしき物を見せる。


「これがあの国が主催している幻獣競売会の招待状じゃ。これを御前にやる。妾の紹介状付きでな。」


「ええと、それじゃあ有難く──」


「何もタダでやるとは言っとらん。ルージャン!」


彼女が従者の名を呼ぶと、何故か扉が思いっ切り壊れる。ルージャンが奮った大斧が扉を貫いたのだ。イブキは愉しそうに笑って、その刃の先にポケットに手を突っ込みながら立っていた。


「お帰りなさい、イブキ。少しは身体を動かせた?」


「何のこれしき。クソザコですよ。」


「言わせておけば……!」


もう一度振り上げられた大斧を、イブキは余裕綽々といった調子で避けようとすると。


「止まれ、ルージャン。続きは中庭でやれ。部屋が壊れる。」


その言葉でルージャンはぴたりと静止すると、大斧を部屋の外に出した。


「イブキも煽っちゃダメよ。」


「はぁい。」


「さて、演者が揃ったな。何せ、この招待状は……。」


ひらひらとそれはそれは悪戯っぽく、年齢に合う笑みを浮かべると。


「ルージャンと再戦したらくれてやることにしている代物だからな。」


「陛下の仰る通りだ。伊吹殿。どうか再戦して頂きたい。この通りだ。頼む。」


綺麗にお辞儀をすると、イブキはあからさまに怪訝そうな顔をする。緑珠は椅子から立ち上がってルージャンの前に立った。


「顔をお上げなさい。」


「な、ならば……!」


「再戦は認めませんわ。貴方も薄々分かっているのでしょう?どうしても人間と人外わたしたちには年数を経れば経るほど力量差が出る。貴方は死ぬ為に技術を磨いているのではない。」


「相手には、ならないと?」


「……私だって貴方を殺せるもの。たった一捻りで。」


がっくりとルージャンは項垂れると、緑珠は少し明るい口調で告げた。


「……変わりに。貴方には是非とも戦ってもらいたい相手がいますの。」


「もしかして……。」


こくり、とルージャンが続けそうになった言葉に緑珠は頷いた。その名、告げることは無く。月光を冠したその名前。


「『二代目』と。戦って頂きたいのです。」











「うぇぇぇぇぇぇん!陛下と宰相様と大臣様のばかっ!どうしてそんな事言っちゃうんですかぁ〜!」


「緑珠様がお決めになった事ですからどうにもこうにも出来ませんよ。僕はそれに従うのみです。」


イブキはザフラの王宮の椅子に座りながら、神器が壊れていないかを調整していたのに対して、ハニンシャは暴れまくっていた。


「ルージャン様、強そうじゃないですか……。うぅ、勝てないですよ……。」


「僕は勝てると思いますよ。」


「宰相様の嘘つき!絶対そんな事思ってないですよね!?」


「……。」


冷たい視線をじっとりとハニンシャに送ると、その肩が震える。そしてまた神器に視線を戻すと。


「……僕は嘘を言いませんから。」


あまりの視線の鋭さに、ハニンシャはすっかり肝が冷える。あれは何度も見てきた敵に向ける、人を黙らせる視線だ。


「……は、い。でも……。」


「そんなに心配だったら稽古をつけましょうか?」


「逆にモチベが下がるのでいいです……。」


「言うと思った。分かります。僕も勝負の前に負けると嫌になりますからね。」


立ちすくみながら何か言いたげにもじもじしているハニンシャに、イブキは煩わしそうに言った。


「何時まで其処でそんな事してるんです。鍛錬するなりお姉様に会いに行くなり何なりなさい。」


「……えっ、姉さんが?」


「知らないんですか?」


不思議そうに此方に目線を向けて来たイブキに、ハニンシャは鬼の形相で彼の首根っこを掴んだ。


「知りませんよ!何ですかそれ!早く教えて下さいよ!」


「い、いや、そんなに言われても……。定期的に送る様に言っている手紙にも、貴方に伝えていると書いてありましたし……。」


ゆるゆるとハニンシャはその手を下げる。珍しく困惑したイブキの顔が、目の前のハニンシャへと向けられた。


「ほ、本当に知らなかったんですか?」


「……ほんとう、に、知りませんでした……。さ、先程の無礼、謹んでお詫び申し上げます……。」


イマイチ状況を読み込めていない彼は、何とか姉が居るという事実を脳内で整理して。


という事は、姉は此処に居て、この国に居るということは、自分に会うことが出来て……?


「あっ、ねぇそれじゃあ!姉が居る場所を宰相様は御存知なんですよね!?」


「それは……まぁ……。お姉様の留学先を探したの、僕と真理ですし。」


「教えて下さい!会いに行きたいんです!」


イブキは地面に優しく神器を置く。そして眉間に眉を寄せてハニンシャに告げた。


「良いですけど……。怒られても知りませんよ。」


「良いです!良いですから!姉さんが居る場所を教えて下さい!」


紙とペンはありますか、と小さくイブキは言うと、ハニンシャは近くにあったそれを引っ掴んで慌てながら差し出した。


さらさらと所在地が記されていくのを、わくわくした心持ちで見詰める。そして紙切れが目の前に差し出された。


「この住所に行きなさい。丁度今の時間は……。買い物から帰って来ているとこの間書いてありましたから。」


胸元から出した懐中時計を仕舞うのをハニンシャは見詰めながら思いっ切り頭を下げる。


「有難う御座います!本当に有難う御座います!直ぐに会いに行ってきます!」


「夕飯前には帰って来るんですよ。緑珠様がお呼びでした。」


「はい!もちろん!絶対!帰って来ます!任せて下さい!」


紙切れを片手に走って行くハニンシャの後ろ姿を見ながら、イブキは軽くため息をついた。


「ハニンシャ君はどうやら行ったみたいだね。」


ふわり、と小さな風を従えて真理はイブキの隣に現れる。どうやら砂漠に行っていたらしい。ぱらぱらと服から砂が落ちた。


「お迎え宜しく御願いします。多分今の話を聞いてないので。あの子。」


「りょーかいりょーかい。それはともかく緑珠は?」


「夕飯まで部屋に誰も呼ぶなと御部屋にお戻りなさいました。色々お考えになる事があるのでしょうね。」


「……なーるほど、ねぇ。」


イブキは置いていた神器を拾い上げると、最終調整を終える。


「ねぇ、君今暇してる?」


「だいぶと。」


「手合わせしない?やること無くて暇なんだよね。」


ニヤリ、とイブキは嫌味ったらしい笑みを浮かべると、すくっと椅子から立ち上がった。


「良いですね。それ。」


あともう数刻すれば、中庭から轟音が響く。


そんな轟音が響くであろう中庭を随分と前に超えたハニンシャは、慌てて城を出た。心臓が走って高鳴っているのか緊張で高鳴っているのか分からない。


「はぁっ、はあっ、はぁっ……!」


紙切れをぐしゃぐしゃにしながら、ハニンシャは城下を走る。このまま真っ直ぐだ。そうだ、その突き当たりを曲がれば姉に会える。


「姉さん……!」


震える手でぐしゃぐしゃになった紙切れを見詰める。どうしよう、嫌がられないかな。帰れとか言われたらどうしよう。今日絶対泣いて寝れない。


「えーっと……?」


階段が見えた。この上を上がって姉に会うのだ。何時もなら絶対に諦めてしまいそうな階段の量なのに、数段くらいにしか思わなかった。


「えと、此処で間違えないのかな……。」


ドキドキして来た。もし間違えたりとかしてたらどうしよう。あぁもう家の前のベル押しちゃった!どうしよう!足音が聞こえる!心の準備!心の準備!が!出来て!ない!


「はい、ユエリャンですが……?」


玄関に出てきたのは紛れもない姉だった。アリーシャが彼を認識する前に、思いっ切り足に力を込めて、そう、そして助走をつけて……!








次回予告

ハニンシャが不審者ばりに大声を上げてアリーシャに抱き着いたりすっかり落ち着いてすやすや眠ったり緑珠様からプレゼントを賜ったりする話!

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