表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第三章 砂漠狐国 ザフラ
20/256

ラプラスの魔物 千年怪奇譚 11 竜のお困り事

物音の正体は、竜のものだった!竜とコンタクトを取るために作戦を講じるも、案の定ぐだぐだったりイブキがガチギレしたり真理の額に下駄が当たったり緑珠が心底呆れたりとんでもなく美しい情景に出会ったりと、そんなこんなの第11話!巨大砂漠『アルゴダ』章、絢爛の幕引き!

ガギンッゴンッ!


「きゃああっ!」


「緑珠様、大丈夫ですか!」


転げた緑珠をイブキは抱きしめる。


「おー、これはラッキースケベとか言うやつかな?」


「あ?」


般若の形相でイブキは真理を見る。と言うか睨む。


「スミマセン。」


真理の顔面真っ青に対して、本当に、本当にイブキは小声で呟いた。これが本当の蚊の鳴く声、という訳だ。


「……余計な事言わないで下さい。」


「え?」


「何でもありません。そんな事よりも、何が起こったのでしょうか。」


緑珠は窓から外を覗くと、ぴかぴかと銀色に光る、一面鏡に覆われた竜がぴったりと砂漠船に寄り添っている。


「え……ちょ、ちょっと、これは……。」


「退いて。」


真理は短く切ると、緑珠を窓から剥がす。荒っぽく窓をこじ開けた。


「おーい!聞こえるかー?」


その声に一瞬、 竜は反応した。しかし、


「……何で?聞こえないのかい?」


緑珠は真理へと話しかける。


「玉鏡竜は長命なのよね?なら、人の言葉も解し」


「あれは……まずい!」


イブキは瞬時に方向転換をして、


「ど、どうしたの!?」


「前を見てくだされば分かります!」


緑珠は目を見張る。砂が、融けていた。どろどろに。『砂が、融けていた』のだ。


「へ……砂が融けて……まさか!」


緑珠はごくりと唾を飲む。


「あの、鏡で光を反射して……砂を『焼却』したと言うの!?どろどろにしたの!?……分かったわ、早急に離れましょう。座標を控えて!」


イブキは言われるがままに硝子筆で座標を控える。


「動きます!掴まっていて下さい!」


そうやって逃げている最中にも、びゅんびゅんと砂をも融解させる融解線が砂漠船の側を掠っていく。


「ありえないのだけれど……。」


「本当、想定外中の想定外ですよね。」


少し考えながら緑珠は答えた。


「鏡の力で砂を焼いたというのなら、その温度はとんでもない事になるわ。となると……体温は物凄く低くなるわよね。……益々砂漠に来た意味が分からないわ。」


イブキは訝しげに眉を潜めた。


「全くもってそうですよね。元々北の方に住む生物ですから、砂漠の温度にも耐えられるかどうか……。」


融けた砂の位置からかなり離れて、砂漠船は停泊している。緑珠は思案に耽溺しながら言った。


「もう良いわ。無茶しましょう。」


「またですか?と言うか毎回無茶してるの気付いてますか?」


「イブキの言ってることが良くわかんないわ。私が何時無茶したと言うの?」


「大体貴女の無茶加減は宮廷料理と偽って肉に塩かけた程度なんですよ!」


「何ですって!?ちょっと、今のは聞き捨てならないわ!」


喧嘩をおっぱじめた二人を真理は仲裁した。


「はいはい落ち着いて。肉がなんだか知らないけど、お腹空かない?」


緑珠は目をきらきらさせてイブキに抱き着く。


「お腹空いた!ご飯作って!イブキ!」


「仕方ないですねぇ。分かりましたよ。」


そんな緑珠とイブキを見ながら真理は楽しそうに呟いた。


「割と二人とも満更でもないなさそうなんだよなぁ……。」


緑珠がイブキの作っている唐揚げをひょいとつまみ食いする。


「あっ、こらつまみ食いしない!お行儀悪いですよ!」


「してませぇん!そんな事誰がやったの?何時何分何秒世界が何周回った時?」


「貴女は小学生男子ですか……!じゃ、緑珠様の分は一つ無しですね。」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私が食べました!だから減らさないでー!」


和やかな会話を見ながら、真理は頬杖を付く。


「……これだから戦いは嫌だなぁ。」









「御馳走様でした。美味しかったわ!」


「喜んで頂けて何よりです。……さて。」


イブキは緑珠に不思議そうに問う。


「玉鏡竜はどうしますか。」


唸りつつも緑珠は眉間に皺を寄せて言った。


「言葉が通じないのは想定外ね。何とか話をしたいのだけれど。真理、話しかけた時はどんな感じだった?」


話しかけたあの時の感触を思い出す。


「どうもこうも……声には反応したけど、全く意思疎通は出来そうに無いね。パンダースナッチにでも食べられたのかな。僕が一番最初に創った生き物なんだけどね。」


「ぱんだー……すなっち?」


緑珠はきょとんとその言葉を紡ぐ。


「あぁ、そうだね。齧られてしまうと記憶や言語が飲まれるんだよ。そんな竜。かなりの変わりもんだから今何処に居るかもイマイチ知らない。そんな竜だよ。」


緑珠は心の底から呟いた。


「怖いわ、そんな竜。」


「本当に怖いよねぇ。」


「怖いじゃなくて、対策考えましょう。」


「そうだったわ。忘れてた。」


「いや、忘れてちゃ駄目です。」


作戦立案を緑珠は真剣に告げた。


「一応決めてるのは……私の固有霊魔法、『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ』で何とかなるかも。」


真理が不思議そうに緑珠に問う。


「ね、前から聞きたかったんだけど……その『固有霊力魔法』って、なんなの?」


うんっとね、と緑珠は空を見つめながら話す。


「あのね、私は体質的に……半分魔力、半分霊力なの。だから魔法も使えるし、霊術も使える。でも何か大きい術を解放するには、魔力的にも霊力的に足りない。だから両方使うの。だから、『固有霊力魔法』なのよ。でね、私の『固有霊力魔法』は『戦意で満ち溢れている相手を、戦意喪失させて話をさせる』魔法なのよ。」


緑珠はイブキの肩を掴んで言った。


「ね、お願いできるかしら。」


「何が、ですか。」


「運転。貴方の脅威的な五感で玉鏡竜の攻撃を避けてほしいの。」


「……は?」


すっとぼけているイブキを他所に、緑珠は真理にも言う。


「真理には結界を貼って欲しいわ。もし攻撃が当たったとしても。私は玉鏡竜が真骨頂に『固有霊力魔法』を使うわ。」


イブキは完璧に抜かれた顔をして、緑珠に問うた。


「あの……『固有霊力魔法』は、どうやって使うんですか。窓を開けて使うには、少々無理がある様な……。」


「イブキはちゃんと目がついてるのかしら?」


緑珠がとんでもなく失礼な事を言いながら、彼女の真上にある窓を指さす。イブキは耐えきれなくなって、真顔で緑珠に言った。


「失礼を承知で申し上げますが……頭おかしいんじゃないですか?」


緑珠は歯を見せて笑った。









「はい、じゃあちゃんと掴まってて下さいね。」


「伊吹君が言うと掴まってるのか捕まってるのか分かんないよね。」


「分かるわ、それ。」


「二人共々振り落としますよ。」


「わーコワイ。これだから最近の子供は……。」


「全くだわ。乱暴ったらありゃしない。」


「前半は兎も角、後半の貴女は普通に子供から脱却したてでしょうが。」


「やっぱり三人の会話はこうじゃないとね。」


「どういう会話ですか。」


緑珠は破顔一笑して言った。


「こうやって、三人でする会話よ。」


イブキはその笑顔に一瞬たじろぐ。


「……そうですね。」


「お、ちょっと今『真理が居ても悪くないかな』とか思った?」


「とっとと玉鏡竜に喰われて下さい。」


「気のせいかな?気のせいだったのかな?」


「ほら、イブキはツンデレだから。仕方ないわ。」


「ツンデレとヤンデレ兼ね備えてるってさ、凄くない?凄いよね?」


「需要供給曲線ばっちしいってるわよね。」


「……本当に掴まってないと落ちますよ?」


「はぁい!さぁ、やるわよ!」


「それじゃあさっさと結界貼っちゃいますか!」


水が染みるように波動が広がっていくと、砂漠船を完璧に覆う。


「それでは、間もなくです。攻撃が当ったら自己責任で避けて下さい。」


「結界が貼ってあるけど、持つかどうか……。」


「後半の二人の枕詞は聞かなかったことにするわね。」


イブキは眼球に全神経を尖らせると、力の抜けた手で船を操縦する。


「……来た。」


真理が音を聞き分ける。


「分かりました。」


イブキが神経をより集中させる。


「本気を見せて差し上げるわ。」


緑珠が抜刀した。イブキが緑珠を呼び寄せる。


「緑珠様、ちょっとこっちに来てもらっても宜しいでしょうか。」


「構わないわ。……と言うか、良くそんな神経を集中させながら話せるわね。」


緑珠はイブキの傍によると、話を始める。


「良いですか。砂漠は砂嵐が凄いです。ですから普通はゴーグルなんかを付けます。然れどもこの場所には無いので……ご自分で目隠しなんかをどうにかして下さい。」


「え……じゃ、じゃあ私が目を瞑って魔法を使えって?っ、きゃあっ!」


ぐらん、とまた揺れてイブキは続ける。


「そうです。それ以外方法がありません……と言うか。」


真理が冷や汗をかきながら外を見て、


「こりゃまずいかもねぇ。まだまだ戦意が低い。僕らなんて芥子けしみたいなものだって舐められてるよ。」


緑珠は真理に切羽詰まりながら問う。


「どうすれば……攻撃をすればいいのよね。……真理、お願い出来る?」


緑珠の真摯な瞳に、真理は肩を竦めた。


「全く、僕は言ったろ?」


砂漠船の周囲に、高濃度のエネルギー体がいくつも起こる。


「僕は君の願いに弱いんだってさ!」


薄い薄い水色のエネルギー体が、コアとなっている周囲の『それ』から、玉鏡竜へと飛ぶ。


「ぶっちゃけ逆鱗に当たればいいんだよ!」


「確かに、逆鱗に当たれば良いんだけど……。」


阿修羅の如くに集中しているイブキを見ながら、緑珠は言った。


「イブキは、大丈夫なのかしら?」


イブキは振り返らずに答える。


「言ったではありませんか。『この体も魂も、全ては貴女の物ですよ。幾らでもお遣い下さい。摩耗する事はありません』と。」


緑珠は何処か寂しそうに、そして嬉しそうに笑う。


「私の守り人は矢張り強いわね。」


「あ、当たったね。伊吹君、せいぜい歯食いしばって避けてね。」


「……あ?」


イブキはその一言に過敏に反応する。


「ん?だーかーらー、『せいぜい歯食いしばって避けてね』って事だよ。」


真理は歯を見せてにやりと嗤う。


「要するに、日々の仕返しってとこかな。」


と、真理が言い終わらない内に、泡を吹いて倒れた。緑珠が恐る恐る運転席の前に立っている『鬼』を見る。足が綺麗に直角を描いていた。


「……貴様が『俺』に仕返しだと?」


緑珠はまたもや恐る恐る真理を見ると、下駄が素晴らしく美しく額に当たっている。『鬼』は飢えた獣の瞳で嗤った。


「『俺』に仕返しなど、万年早いわ。」


超高速で計器盤を動かすと、神器を引っ張り出す。


「うわぁ……伊吹がキレた……。」


呟きつつも緑珠は肩を起こすと、目隠しをして剣を構える。


「私の魔法は範囲が広いから効果がある筈だわ。……我が剣は、戦刀いくさがたなに有らず。飾り刀にあり。故に、血に穢すもの無し。故に、剣は我が叡智にあり。統べるもの、永遠とわの知恵よ。固有霊魔法、『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ』!」


赤く光っていた竜の瞳が、思慮深い青色の瞳に戻る。


『……ほう、うぬは人であるのに竜の言葉を解すか。』


「腐ってもとある王家の娘ですもの。少しくらいは出来なくては、ね?」


竜は緑珠に言った。


『成程。その話はあとにしよう。それよりも……中の人間共は良いのか。』


「えー……。」


緑珠は嫌々ながらも中を覗く。


「『俺』に、次またこんな事をしたら……。」


イブキは神器『神鳳冷艶鋸』の柄の部分を、真理の喉元に突きつける。


「分 か っ て ま す よ ね ?『俺』、 舐められるの 嫌い なんです。瞬殺したいくらいに。」


「もう本当にしませんごめんなさいまじですいませんでしたァァァァ!」


「……宜しい。分かってるなら最初からししないで下さい。」


「はい、本当にすいませんでした。」


緑珠が上からゆっくりと降りてくると、イブキは緑珠に振り返って笑う。


「おや、和解されたんですか?」


今度こそ度肝を抜かれて緑珠は言った。


「……いや、それは此方の台詞よ。」

お楽しみ頂けましたでしょうか?それでは次回予告。砂漠船が竜に襲われた時の残骸があるため、緑珠達は国の近くで降ろされる。其処から繰り広げられるどたばたコメディは?斬首刑にされそうになったり死亡フラグを回避しようと思ったら生存フラグが一つも出てこなかったり少女王『ナスリーン・ザフラ』が語る 御稜威の女帝 御手洗 麗羅の苦悩とは?そしてナスリーンが課す難題は?来週 水曜日16時公開!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ