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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 183 雪山の邂逅

新しい紅鏡の五大貴族の一人が現れたり、神様の世界をちょこっと覗く事が出来たりお家に上がり込んだりする話〜!

「……お転婆が過ぎるぞ、ヤースミーン。ちょっとは家で大人しく出来ないのか?」


いつも以上に静かになった雪山でその声を聞いた。呆れ果てた声と優しさを織りまぜた声。


「ジャジィー!だいじょ……う、ぶ……?」


青いバリアの内側にジャジィーは座り込んでいる。周りはその倍くらいの雪が流れて来ていた。


「……りぇ、ふ……?」


「この山は雪崩が多いんだ。あんまり斜面を歩くもんじゃない。」


すっかり腰を抜かして立ち上がれないヤースミーンに、リェフは手を伸ばした。


「そんな所に座ってると風邪ひくぞ。ほら、て……を……?」


岩の上に乗っかっている三人とばっちり視線が合うと。


「ぎゃーーーーーーーーーーー!人っ!ヒトジャナイカッ!」


珍妙な悲鳴をあげてあれほど言っていた斜面を思いっ切り走って直ぐに姿は見えなくなる。足跡だけが残り、ぽつーん、と取り残された四人は。


「ま、待ってリェフ!」


「逃げたね。」


「イブキ!追いつける!?」


「貴女が仰るのなら!」


イブキは一際高く跳躍すると、一切の容赦なく雪で詰まっているリェフの首に手刀を入れた。そして何処からともかく取り出した鎖でしっかり縛る。


「捕まえましたよー!」


「相変わらず仕事が早いわね、あのこ……。ありがとー!」


遠くから聞こえてきた声に緑珠は返すと、ゆっくりゆっくり岩から下りる。


「ジャジィー、大丈夫?歩けそう?」


「もう大丈夫です!行きましょう!」


三人は一箇所だけぽっかりと穴が空いている場所へと急ぐと、鎖で縛られた漆服ラバースーツの男がじたばたしていた。


銀髪に赤と青の一部色メッシュ。瞳はその色の虹彩異色オッドアイだ。電子眼鏡サイバーグラスが美しい。


ただ気になるのは女よりも細いその身体だ。触った瞬間折れそうな身体である。


「ふぅ……。久しぶりにヤンデレ七ツ道具が役に立ちましたね。」


「匕首は何時も使ってんじゃん。」


「……まぁ、あれは八個目なので。」


「リェフ、リェフ。私よ。分かる?」


じたばたと暴れているリェフに、ジャジィーは優しく声をかける。しかし、それは冷たくつっけんどんに返された。


「なんでこんなに人を連れてきたんだ!帰れ!ボクがヒトが苦手だって話はずっとしてるだろ!手紙で呼べよ!」


「アンタは手紙で呼んでも来ないでしょ!ちゃんと手紙見てよ!」


「うぐっ……。」


「イブキ、縄を解いて。」


はい、と短く言うと、骨がひきちぎれるくらいにキツく結んであった鎖が解ける。鎖が当たっていたところが痛かったらしくさする。そしてぱんぱん、と雪を払ってよろよろと立ち上がると。


「こんなに要人を呼んでボクに一体何の用だ。今ので筋肉痛は確約されたぞ。」


「本当に運動してないんですね……。」


「うっさい、黙ってろ。」


「リェフ。そういう物言いは止めて。私に協力して下さってるの。」


リェフはジャジィーの言葉を聞いて、深く呆れ果てたため息をついた。


「……来い。話くらいは聞いてやる。」










『世界大図書館』の奥にある神々の離宮、そのさらに奥にある、本来は『ラプラスの魔物』が座るべき玉座に触れる神が一柱。


「ミルゼンクリア様。」


一柱は自分の名を呼んだ天使に振り返る。ふわふわと緑の髪が揺れる。


「この破棄予定の『本』は……。」


「あぁ、アドラヌスに任せて下さい。」


「畏まりました。」


玉座の奥には空の上の景色が広がっている。光り輝く晴れた世界。此処で何度二人揃って世界を見たことか。


今よりはずっと笑っていた吾と、今以上につっけんどんだった貴方。一緒に仕事をするのがとても楽しくて……。


「……やはり、『ラプラスの魔物』様のお帰りが待ち遠しいですか?」


「待ち遠しい、待ち遠しい、ねぇ……。」


そうですねぇ、と白い玉座を愛おしく撫でる。懐かしい思い出と共に。


「……分かりません。そうだ、話は変わりますが、『大整理のプログラム』の部屋は相変わらずですか。」


「はい。あのまま、アレが逃げ出した時からあのままです。」


「そうですか。……なら良かった。もしプログラムが帰ってきた時に、思い出せなかったら困りますから。」


「か、帰ってくるのですか!?『大整理のプログラム』が!?」


彼女の一言に、天使は過剰に反応する。


「例えの話ですよ。」


名残惜しそうに玉座から手を離すと、ミルゼンクリアは報告に来た天使を横切る。


「大掃除はいつも通りにお願いします。大きな変化はあるかもしれませんが、あまり気にせず業務に勤しんで下さい。」


「畏まりました。」


そして最後に玉座を見遣ると、中に入っている天使の為に僅かな隙間を残して、その間を離れた。










「凄い、ちゃんと家なんだね、リェフ……。」


「そうじゃないと住めないからな。」


ジャジィーが言っていた木の扉は岩に取り付けてあった。奥に入るとログハウス調の家具が立ち並ぶ小さな部屋がある。


「この奥が作業場……なんて話しても意味無いか。尋ねてきた理由はなんだ?」


パックのお茶を人数分出すと、小さなテーブルに置いた。どのコップも山で使うもので、どれもよく年季が入っている。


「私達に協力して欲しいの、リェフ。」


「……先ずはどうして月影の陛下とヤースミーンが一緒に居るかを聞きたいんだがね、ヤースミーン。」


余っていた椅子に足を乗せると、リェフはジャジィーを疎ましそうに見詰める。


「……その、私の占いに、付き合ってもらってるの……。」


「ほう。」


「世界が滅びるっていう……。」


「そうか。」


淡白な反応に、ジャジィーは物言いたげに立ち上がる。手には拳が出来ていた。


「ね、ねぇリェフ、世界が滅びそうなんだよ?力を貸してほしいの。皆死んじゃうんだよ?」


「だからなんだと言うんだ。ボクは世界が滅んだって知らない。興味が無い。帰れ。」


「ちょっと待ってよリェフ!私の話を」


「世界が滅びるって言うんなら、余生を静かに過ごさせてくれ。貴方達も此奴の言うことなんか聞かないでさっさと帰るんだな。」


奥の部屋に入ろうとしたリェフに、緑珠はぽつりと呟いた。その声音は咎めるような物ではなく、強く、心を震わせる声。


「……貴方が行動を起こすことによって、ヤースミーンが救われるのよ。」


「どういう事だ?」


「それは貴方がこちら側についたら教えてあげる。」


緑珠の悪戯っぽい甘美な声に、リェフはドアノブにかけていた手を恐る恐る下ろす。そして誰に言うことなく目の前のドアに向かって呟いた。


「そうか。なら帰れ。」


「あんまり強がるのは止めた方がいいですよ。助ける気満々じゃないですか。」


「じゃないと机の上にジャジィー皇女への書きかけのお手紙が山のように積んたりしないもんねぇ。」


くるり、リェフは四人に悔しそうな表情と共に振り返った。


「外堀埋めるの上手いって言われたりしないか?」


緑珠は先程の笑みをもっともっと強くさせると、お茶をすすって一つ。


「上手いじゃないわ。専門職よ。」










「ほんっ、とーに有難う御座いました!」


「いえいえ。感謝するのはこちらの方だわ。マグマも雪崩も助けてもらったし。」


それじゃあね、と緑珠はひらひらと手を振った。


「また五大貴族の事を調べなくちゃね。今日は有難う。」


熱を出したリェフを抱えながら、ジャジィーは紅鏡帝国行きの飛行船の前で頭を下げた。


「また後日伺います!それじゃ!」


ジャジィーは飛行船に乗り込むと、ソファにリェフを座らせる。外に出ないが故の真っ白な肌がもう真っ赤っかだ。


「クソッ……どうしてこんな事に……。そうだ、電脳は積んだか……?」


「当たり前でしょー!貴方の神器だもん!」


「うるさい……いちいち、騒ぐな……。」


ジャジィーの声に耳を塞ぐと浮かんでいる飛行船の景色を見ながら、リェフはほんの少しだけ微笑んだ。


「やーす、みーん。ほら、飛行船だ。子供の時いっしょにのろうっていってたよな……。いっしょに、家から出て……。」


「そうだねぇ。夢叶ったじゃん。」


「……王宮をでて旅にでるってのも?」


「冒険はしてるけどね。王籍から離れて旅をしてみたいなぁ……。」


どうやらギリギリまで持っていたリェフの体力は限界な様で、ぐったりと彼はソファに倒れる。


そっとジャジィーはリェフの手を掴んだ。それはまるで子供の時のように、酷く懐かしく。


「ね、リェフ。約束。この厄介事が終わったらさ、一緒に旅に出ない?」


「……一人で出てろ。」


「帰って来ないかもよ?」


「じゃあ……仕方ないな……。」


呆れ果てた、それでもうんと優しい笑みをリェフは作る。約束。叶うか叶わないか分からないけれど、するだけでも。あぁ、約束を守るって言うんなら……。


「とにかく今は、熱を下げなくちゃな……。」


その頃、同じ型の飛行船で、違う飛行船の中で。


「何とか上手く仲間にできたわねぇ。」


「五大貴族は四大貴族よりも厄介かもしれませんね。」


「どうかしら。彼等から見たら四大貴族わたしたちも随分と厄介に見えるかもしれないわよ?」


「どっちもどっちだと思うよ?」


「あはは、絶対そうよね。」


あーん、と緑珠はソファの近くに置いてあった干し果物を食べる。甘露水も飲み干した。


「帰ったらおしごと、おしごと。あー……もうやだ、イブキと真理がやってくれない?」


「無茶苦茶言うなぁ。王は君だけなんだぜ?」


「身に染みる言葉だわ……。」


うーん、とソファの上で伸びると、身体のあちこちから鈍い音が響いた。


「帰ったらお仕事ね……。あぁ、あとそれと柊李の面倒も見なきゃ。」


「殿下の御養育は乳母に任せればよろしいのに……。」


「そんな事してたら何時か柊李が見えなくなっちゃうわ。……それに、良い親で居たいのよ。尊敬なんてされなくてもいいし、軽蔑されたっていい。ただあの子の人生を幸せに出来るのなら……。」


「すっかりお母さんだねぇ。」


くすくす、と少女の様な笑みを称えて。


「あら。世のお母様方に比べれば私なんて随分と楽してる方よ。母親って言えないかもしれないわ。」


それにちょっと付け加える形で緑珠は続けた。


「それでも、ね?我が子の事を思う気持ちは絶対に負けないわ。……競うものじゃ無いけれど。」


近づく自分の国を見詰めて、にっこりと緑珠は微笑んだ。


「あぁ、早く柊李に会いたいわ……。」







じかーーーよこく。

また平和な話がちょっと続いたりするけどやっぱり不穏な影がどこまでも付きまとうお話。

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