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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 181 山奥の悲報

五大貴族のうちの一人を探しに三人+αで探しに行ったりとか玉鏡竜にたくさんお話を聞いたりとか色々する話。

「ノルテの山奥ぅ?」


「籠りきっちゃってて……出て来てくれないんです。元々引きこもりのケがあってですね……。」


「名前は何だったっけ?」


「リェフ・ルキーチ・ドルゴルーコフ。ノルテの旧貴族です。」


中庭にジャジィーを招いて、リリーは茶を注いでいた。そっと彼女の前に中国茶が置かれる。


「彼は重度の引きこもりなんです。家族に絶縁されて……。それで紅鏡の兄の離宮に転がり込んで、『五大貴族に入れなければ殺す』とか言い出してねぇ。あんまり突飛なことを言い出すものですから、兄が無理矢理仲間に引き入れたという訳なんですよ。」


「随分とヤンチャなのねぇ。」


「はい。でも人と話すのがあんまり得意じゃないんです。その代わり文字に起こさせると良い文章を書くんですよ。」


ずず、と中国茶を口に濡らすと。


「……本当に良い友達でした。私達には居場所がありませんでしたから。……だから最後に、私に居場所を教えてくれた。」


「のだけれど、ねぇ。」


「見つからないんですよね……。」


中国茶の入っていたカップを優しく触ると、そばに居たリリーに言葉をかける。


「この茶器、凄く綺麗ですね。このお茶も美味しい。有難う。」


「お誉めに預かり光栄です、ヤースミーン皇女。」


話が盛り上がっている二人を前に、ノルテ一帯の山が載っている地図を緑珠はしかめっ面して見詰める。


「……はぁ。リリー、イブキを呼んで。」


「はい。畏まりました。」


「伊吹殿に頼まれるのですか?」


リリーの後ろ姿を少し残念そうに見詰めながら、ジャジィーは緑珠へと問い掛ける。


「そうしたいのは山々なんだけど……。どうしても皆忙しいからねぇ。」


「お呼びでしょうか、緑珠様。」


直ぐにリリーと一緒に緑珠の傍に控えると次の命を待った。


「早くて助かるわ。イブキ、匕首を。」


「ちょっと狭いと思いますよ?」


「大丈夫だと思うわ。」


緑珠はイブキから匕首を受け取ると、何の戸惑いも無く腕に刺し込んだ。


「えっ……!?ちょ、陛下……!?」


「直ぐに治るから心配しないで。」


てらてらと血で光る匕首を返すと。


「……それちゃんと拭いて使うのよ。余計な事に使っちゃダメだからね?」


「まさかぁ。僕がそんな事する訳ないじゃないですか。」


「その言葉が一番信用出来ないの。……さて、降りて来てくれるかしら。」


緑珠は椅子から立ち上がって空を見上げて暫くすると、米粒くらいの大きさの黒い点が空を旋回し始める。


「なにをしたんですか……?」


「ノルテの周辺に詳しい竜を呼んだの。無事来てくれたみたいで何よりだわ。」


直ぐにその点は大きくなって、一気に降下して来る。そして爆風と共に中庭に降り立った。


「久し振りね、玉鏡竜。」


『いきなり呼ぶから何かと思ったぞ。怪我の調子はどうだ?』


「うん。治ったわ。有難う。」


すりすりと頭を寄せてくるのを撫でながら、緑珠は嬉しそうに答えた。


「聞きたい事があるの。教えて欲しいのだけれど……。」


『何でも構わぬぞ。知りうる限りでな。』


「人を探してるの。リェフっていう子なんだけどね。ジャジィー、説明してくれる?」


自分より何倍も大きな竜を呆然と見詰めながら、ジャジィーは慌てて立ち上がる。


「あっ、えと、あのっ、そのっ、えーっと、銀髪に、赤と青のメッシュが入った子なんです、黒のラバースーツを来て、四角い光る板に囲まれてて……。」


『知っているぞ。あの珍妙な格好をした男のことだな?いっつもブツブツ言っている……。』


「そうです!ど、何処に居ましたか!?ノルテの山奥に住んでるみたいなんです!ご存知ないですか!?」


『……詳しくは知らぬ。居る山は知っているが……。その山の何処に居るかは知らぬ。』


玉鏡竜の曖昧な返答に、ジャジィーは食ってかかる。


「山だけでも!居る場所だけ分かれば……!お願いします教えてください!」


玉鏡竜は緑珠の顔をじっ、と見ると。


『……緑珠、グランツヒメルは覚えているか?』


「覚えてるわ。ミルゼンクリアの神殿があった場所よね?」


『その隣の山だ。こんな辺境には誰も来ないだろう、と啖呵を切っていた。』


「有難う。また借りを一つ作ってしまったわね。」


『構わぬ。そうして元気な顔を見せてくれれば良い。』


「あ、妙に騒がしいと思ったら玉鏡竜が来てたんだね。」


緑珠と玉鏡竜が話しているのを見ているイブキに、真理は声をかける。


「そうです。五大貴族の居場所を教えてくれるはずだとお呼びになられましてね。」


「ふぅん……。」


何かを言いかけた真理の代わりに、イブキが一人と一匹の様子を見ながら呟く。


「……偶に、考えてしまうんです。あの御方は龍神と話していらっしゃる時、凄く楽しそうで……居場所を見出している様に感じる。だから……。」


「別に今のままで良いんだよ。」


言いかけたイブキの言葉を遮って、真理は続ける。


「あの子は龍にも人にもなり切れない。それは僕達人外だってそうさ。いつだって思考は半分半分で、どうすれば良いか分からない中で毎日を過ごす。」


少し間を開けて、


「……少なくとも緑珠は、今凄く幸せを感じている。この生活に、この時間に。……もうそれでいいんだよ。人が満ち足りる空間なんて、欲望なんて物がある限り無い。」


「……何ですそれ、僕の当てつけですか?」


「そうとも言うねぇ。」


今まさに喧嘩が、という時に玉鏡竜は爆音を立てて上空へと舞い上がっていく。それを見上げて、イブキはまだ直し切っていない匕首を見詰めて。


「……綺麗にしなきゃなぁ……。」


「……良かったら手伝おうか?」


「お願いします……助かります……。」











「えーっ!母上、今度はノルテに行っちゃうのか?」


「そうなのよ、柊李。でも直ぐに帰って来るからね。あんまり悲しそうな顔をしないで?」


「そんな事言って、前も……。」


その言葉の続きが嫌でもわかる。執務室の上で一応の旅支度をしていた緑珠は、その手を止めて柊李を抱き締めた。


「大丈夫よ、ハニンシャも居るじゃない。リリーも居るわ。それに華幻ちゃんも。寂しくないわよ。」


「光遷院も朧月夜も行くんだろ。」


「……そうね?」


「それじゃあユエリャンとエグゼラダートが呼ばれたりするかもしれないじゃないか。」


それもそうだなぁ、と緑珠は心の何処かで納得しそうになりながらも、柊李を抱き抱えて椅子に座る。


「そんな事は無いわ。お母様も宰相様も大臣様も強いもの。心配しなくても皆を呼んだりしないわ。」


「……かあさま、やだ。行っちゃやだよう……。」


ぽそり、柊李は呟く。


「俺にもとうさまがいればいいのに……。」


僅かに空いた扉の隙間からイブキと目が合う。しー、と口を作れば、少しだけ微笑んで視界が抜けた。


「あら。お母様がお父様なのよ?それじゃあ不満?」


「不満じゃない。……けど、父様が居ればまだ寂しく無かったかもって。」


「じゃあ」


「もう一人お母様創るのはナシだぞ。」


なんで言ったこともないのに予想が出来たんだろう、と緑珠は困り果てる。


「ごめんね、柊李。お母様は行かなくちゃ。分かって……これだけは分かって欲しいの。世界で一番大事なのは貴方なのよ。愛しているわ。大好きよ。貴方の為なら何だってするもの。お願いだから泣かないで、私の可愛い柊李。」


それでもまだ納得の行かなそうな柊李に、緑珠は付け加える。


「そうだ、柊李。貴方が欲しがってたぬいぐるみを買ってあげるわ。……代わりにはならないけれど、それで母様の事を許してくれる?」


今にも泣き出しそうな柊李は、仕方なさそうに頷く。


「それじゃあ今からお勉強の時間ね?大丈夫?行けそう?」


「……いく。」


「そう!偉いわねぇ、柊李。いい子ね。行ってらっしゃいね。」


バタバタと走り去っていく柊李を、緑珠は執務室を出て寂しそうに見詰めていた。


「仕方がない事ですよ、緑珠様。」


「 ……貴方のその気配を完全に消す力には恐れ入るわ。」


「仕事でしたから。お誉めに預かり光栄です。」


緑珠はイブキに振り返ってそっと呟く。


「……いっその事貴方が父親だったら、どれだけ辛くなかったでしょうね。」


「今からでも遅くないですよ?次は女の子が良いですねぇ。」


「……ほんと。次は女の子、貴方に良く似た女の子……うふふ、素敵ね。これで私達本当の家族に……。」


そう言い終わって悲しそうな笑みを作ると、イブキはそっと緑珠の両手を掴んだ。


「指輪もお揃いなのに結婚してないなんてねぇ。おかしい話ですよね。」


「あはは、ほんと、おかしい話ねぇ。」


「やっぱり結婚しません?」


「倫理的にダメ。……それに、私には『それ』がよく分からないから。」


「そんな意地悪言わないで下さいよ。」


「意地悪なんて言ってないわ。私だってこんな厨二病盛りの事みたいなこと言ってばっかなのは嫌なのよ?」


「例えが面白いですねぇ。」


「そうかしら。本当の事を言った迄よ?」


「それはそれで可哀想なので止めてあげてください……。」


ころころと表情が変わった末に、伊吹は仄暗い瞳を落とす。


「……愛してますよ。そうやって自分の子供を一番って言ってくれる貴女の事が。閉じ込めたいくらいに。」


そっとその手を離して、緑珠はくすくす笑って。


「……そういう愛情表現は、いい。」


「えー?でもそれくらい言わなきゃ伝わらないじゃないですか。」


「……ばーか。」


何を言えば良いか分からなかった。


本当に、もし、もし愛というものが分かるのならば。


相手に好意を抱くという物が、どういうものなのか。


見様見真似で始めたこの人生も子育ても、その先に『愛』というものが分かるためにあるのならば──


「さ、行きましょう。早く帰らなくちゃ柊李が泣くわ。」


「殿下には悪いんですけど、なるべく長引かせたいんですよね。最近全然構って下さらなかったし。」


「……それ心の声?」


「……あっ。」


「漏れちゃってるわよ?」


「……いやぁ、気のせいじゃ無いんですか?」


「そうかしら。……でもま、貴方って結構昔に比べたら落ち着いたわね。」


「……そう言う演技が上手くなったって言ったら?」


ぴたり、緑珠はその言葉を聞いて足を止める。そしてまた踏み出すと。


「……肝に銘じておく。」


「そうして頂けると光栄です。何せ……。」


ぴしり、空気が固まって。


「どうなろうとも、僕は貴女を愛していますから。」


何時も腰にさしている苗刀をきつく掴んで、宮廷の廊下を歩いていた。







じかいよ(ry

必死に探してもなかなか見つからなくて大変なものに追われたりとか山登りをしたりするお話!

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