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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第三章 砂漠狐国 ザフラ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 10 砂漠船の攻防

一行はとうとうザフラ国へ!今回はその道中の物語。今回も相変わらずコメディ色が強く、緑珠がわざとらしく演技したり、イブキが緑珠に馬鹿みたいに気を使ったり、真理が相変わらずコミュ力を発揮したり、そんなこんなの第10話!中々面白い内容になっておりますので、是非是非ご覧下さいませ!

「よぉーっし!行っくわよー!」


「行きましょう。……とその前に。」


イブキは麗羅から貰った美しい地図を広げる。


「ちょっとお勉強してから行きましょうか。」


「はぁい!って、珍しいわね。御稜威に行く時はそんな事しなかったのに。」


「普通はちょっと下調べしてから行くんだけどね……。」


真理がつぶやく中、イブキは西の砂漠の大国を指さす。


「ええっと、此処が巨大砂漠アルゴダ。歩いて抜けきろうと思えば数ヶ月かかります。だから砂漠船に乗るんです。それで、その先が、」


「『カウィー・ザフラ国王』が治める『アフマル・ザフラ国』よね!」


イブキは緑珠を見て少し驚きながら言った。


「おやおや、ご存知だったのですか。」


「麗羅様が教えてくださったんだもの。」


「じゃあね、名産は知ってる?」


真理の問いに、緑珠は自信満々に答えた。


「名産?そんなの石油でしょ?」


「凄いねぇ。あの人、結構人に教えるのが好きだからね。長生きだし。あ、でも僕が言いたいのは……。」


これは絶対に知らないだろうと言う、知識の優越感に塗れながら真理は言った。


「この国を治めているのは、カウィー・ザフラ王って言ったでしょう?」


「えぇ、そうね。そうだって麗羅様が言ってたわ。」


「実はね、今はザフラ王の娘が治めているんだ。」


イブキは腕を組みながら不思議に呟く 。


「どうして娘の姫様に任せているのでしょうか。」


真理は緑珠に手をやってイブキに言う。


「それは皇女様に聞いてみたら?」


緑珠はそんな問いにじっくりと考えながら答えた。


「大体、息子等に任せるってことは……代理も居らず、両親が国外に出ているってことよね。まぁ、両親が出ている間は出来る限り執務をするのだけれど……私もした事あるわ。数日間だったけれど、とても大変だったわ。その子、幾つなの?あの業務を卒なくこなすなんて……。」


真理は即答した。


「十五だよ。」


「へ?」


緑珠が素っ頓狂な声を上げる。


「いやだから、十五歳なんだって。」


「「……は?」」


緑珠とイブキが同じタイミングで、間合いで声を上げた。


「凄く息がぴったりだったね。本当だよ、十五歳だ。名は『ナスリーン・ザフラ』王女。綺麗な赤髪の持ち主でね。真っ赤なんだ。炎の様な、綺麗な髪の人。戦姫とも呼ばれてる。了見もしっかりしている。十五とは思えないくらいね。」


「凄いですね、十五歳で……。」


真理が立ち上がって言った。


「ま、そういう訳で……そろそろ行きますか!」


「はーい!」


その途端、けたたましくがらがらと扉が開く。


「ちょっと!待ちなさいよね!緑珠!」


「こ、この声はっ……。」


態とらしく緑珠が振り返ると、其処にはアリーシャが居た。


「アリーシャっ!」


「態とらしい寸劇は要らない!そんな事より、私を旅に連れて行ってよ!」


緑珠は目を見開くと、アリーシャの頭を撫でる。


「駄目よ、危ないわ……何て言い訳は無しよ!」


「いいえ、そんな事言わないわよ。ありきたりじゃない。」


アリーシャの目線に合わせて緑珠は屈む。


「勿論、旅は危ないわ。それで止める理由もあるけれど……まずは、お勉強なさい。」


「沢山した!華幻お姉ちゃんに教えて貰ったんだよ!」


イブキは肩を竦めて言った。


「何で華幻はお姉ちゃん呼びで緑珠様はそのままなんですか……。」


くすくすと緑珠は笑う。


「ふふ。もっと、もっとお勉強なさい。知識があるのは良いことよ。一つの物を見るだけで、背後にある世界が見える。今度、私と知恵比べしましょう。絶対負けないわよ?」


むすっ、と顔を膨らませながらアリーシャは呟く。


「……はぁい。」


「それじゃ、そろそろ行ってくるわね。直ぐに戻るわ。アリーシャと華幻ちゃんも体調には気をつけてね。」


アリーシャは緑珠の服を引っ掴んで問うた。


「じゃあ、私は弟と一緒にお留守番してる。最後に、何処の国に行くか教えて欲しいんだけど……。」


緑珠は朗らかに笑って答えた。


「ええ。分かったわ。ナスリーン王女が今現在治めている、ザフラ国よ。砂漠船に乗っていくの。」


アリーシャは訝しげに顔を顰める。


「砂漠船……?砂漠船って、あの砂漠船?ザフラ国へ行く為の?」


「そうだけど……どうしたの?」


「今、砂漠船ね……。」









「おじいちゃん!お願い!ほんっとーに、お願い!」


「そうは言っても無理なモンは無理なんじゃよ。」


「むー……。」


砂漠船乗り場の管理人の老人に、手をすり合わせて緑珠は懇願している。


「ワシじゃって動かしたいモンは動かしたい。ザフラの国から商品を輸入したいしな。全く、商売上がったりじゃわい。」


「まさか砂漠船が動かせないとは……想定外でしたね。」


イブキが顎を触りながら言った。緑珠はがっくしと肩を落とす。


「うう……。他で行く方法、無いの?」


「陸路じゃな。数ヶ月かかるが。」


「むー……!」


真理が老人に前提を問う。


「そもそも、何で砂漠船が動かせないの?」


「簡単じゃよ。玉鏡竜たまかがみりゅうが出たからじゃ。襲うんじゃよ。船をな。」


「たまかがみりゅう……ですか。」


イブキのきょとんとした問いに、真理は答えた。


「長命な銀色の竜だよ。身体中が鏡の様な反射鏡に覆われているら、そんな名前が付いてるんだ。気難しくてねぇ……大体は北の大国の山奥に引っ込んでるんだけど、何でまたこんな砂漠に……。」


うんうんと老人は頷く。


「全くそうじゃな。気候が真反対の砂漠に来るなぞありえん。」


老人は肩を落として言った。


「流通は……一応は通っているが……本当に必要なものだけじゃしなぁ。これでは呉藍くれあい料理を作っている料理人も商売上がったりじゃろうなぁ。」


「呉藍料理?」


緑珠のきょとんとした問いに、老人は答える。


「ザフラの国はな、別名が紅花の国とも呼ばれていてな。紅花の別称が呉藍だから、呉藍料理と呼ばれておる。スパイスが効いていて、辛い料理ばかりじゃ。料理に人気もあって、呉藍料理人も多い。」


「へー……そうなのね。そんなの聞いたら俄然ザフラに行きたくなって来たわ!はい、此処でイブキに質問!」


「……へっ、あっ、はい!何でしょうか。」


突然のことに度肝を抜かれたイブキは抜けた声を出して言った。


「今から私は何をするでしょーうか?」


イブキが態とらしく肩を竦めて笑う。


「玉鏡竜を今から追っ払うんでしょう?」


「お、とうとうイブキも私の無茶振りに慣れてきたわね。」


「一番慣れたく無いものですよ。無茶振りって。」


真理は化け物を見る様な目で緑珠を見る。


「君……正気かい?竜と言っても、一応は神様なんだよ?」


「あら真理。酷いわね。」


緑珠は胸を張って言った。


「私はいつだって正気だわ。ねぇ、おじいちゃん……。」


緑珠が話して行ったのを見て、真理は肩を竦めて呟く。


「君はきっと、他人が狂気かと疑う行動を、正気に変えてしまうから、大業を成せるんだろうね。」


「小型の砂漠船?あるにはあるが、お嬢ちゃんは運転出来るのか?」


緑珠の話を一通り聞いて、小型の砂漠船を所望した緑珠に老人は問うた。


「何のために取り扱い説明書があると思ってるの?」


緑珠はきょとんとした表情で話す。イブキが緑珠を試す様に、


「緑珠様……流石に、自動車の運転に近いものは……。」


「出来ないって言いたいの?」


不満げな顔をイブキへと漏らす。


「いえいえ、いえ、いえ。別に、出来ないとは……。」


恐ろしく否定の意味を込めてイブキは訂正した。そんな会話の間にも、老人は緑珠に分厚い取り扱い説明書を渡す。


「もう好きにせぇ。無理じゃったら……まぁ、せいぜい死ぬな。」


「有難う!」


緑珠は老人にぶんぶんと手を振ると、小型の砂漠船の中に入り、預かった鍵を差し込んでエンジンをかける。


「あの……説明書、読んでませんよね。」


イブキが中へ入って運転席に乗っているやる気満々の緑珠を見ながら言った。砂漠船の見た目は完全な木製だが、仲は紺色と金色のコントラストが綺麗な内装だった。どうやら砂漠の上や軽く飛べるようで、プロペラがついている。


「良い?説明書なんてね、読まないものなのよ。」


「それ後で使えないって嘆くお決まりじゃないですか!」


「良いじゃない!死ななければOKよ!」


「死ぬ前に怪我しますよ!」


「嘘よ、嘘々。だって私自動車の運転知ってるわ。」


「そうですか。なら良いですけど。」


「……ま、嘘なんだけどね。」


「……今、なんて?」


「だから、嘘なんだって。」


イブキは堪えきれなくなってただ叫んだ。


「あー……もー……緑珠様の、莫迦!一回世界一周して洗いざらいその莫迦さ加減を何とか薄めて下さい!」


緑珠が悪戯っ子の様に笑っていたのは、恐らく言うまでもない。









フィーリングで運転を始めた緑珠は、拗ねまくったイブキを放っておいて、砂海さかいの航路図を眺めながら、かなり速い速度で砂海を飛んでいる。イブキがそんな様子の緑珠を眺めながら口を開いた。


「このままザフラまで行けるんじゃないですか?」


「無理。流石の無茶振り専門の私でも無理だわ。」


「無茶振り専門って、君ねぇ。」


真理が笑う。側にあった硝子筆と紙を取り出して緑珠はイブキに説明した。


「良いかしら。この砂漠を抜けるのには、数ヶ月かかると言ったわね?」


イブキは武器をしたに置きながらこくりと頷く。


「相違ありません。」


緑珠は早口言葉の様に一気に、


「なら、よ。もし一ヶ月でこの砂漠を超えられると仮定しましょう。人間は大体時速四kmで歩くから、二十四時間ぶっ通しであるくとして1日九十六km。それが三十日続くから、二千八百八十km。この場合大型砂漠船の速さが時速六十kmで、小型砂漠船の速さは時速十kmとなる。この状態でも大型砂漠船は三日で行けるのに対して、小型砂漠船は十二日かかる。此処まではお分かり?」


「……はぁ。」


イブキが間の抜けた返事をする中で、緑珠はどんどん説明を加える。


「だけれどこれは一ヶ月で国に行けるかどうかの計算だし、燃料の問題も入れてないのだから、多分この船で行くのは無理だわ。それに、エンジンの動力部分が恐ろしく熱を持っちゃう。発火するから危険だわ。……って、イブキ、大丈夫?」


「……う……。」


「わぁぁぁぁ!真理、真理ー!!」


緑珠はぶっ倒れているイブキの周りでピョンピョン跳ねている。


「どどど!どうしよう!イブキが、死んじゃったよぉ!」


真理は目を潤ませている緑珠を見ながら言った。


「死んでないと思うよ、多分。」


「……うぅ……。」


「ほら、呻き声あげてるし。」


「うわぁぁん!どうしよう、どうしましょう!」


緑珠はがんがんとイブキを揺する。


「死んじゃ駄目よ、生きてればOKなんだから!」


「……死んでませんって……。」


真理が少し考えながら呟いた。


「今の緑珠の話は、僕でもそれなりに理解出来たんだけど……君、もしかして。」


凶相で目付きの悪いイブキに、真理は言った。


「根っからの文系かい?数学聞くと失神しちゃうくらい、根っからの文系かい?」


別に、と真理に青筋を立てながらイブキは笑う。


「一気に聞くと脳味噌がショートするだけです。数学の問題は解けます。」


「そんな顔で笑われても怖い……。」


「何か言いました?」


「イイエナニモ。」


緑珠はわちゃわちゃしながらイブキに言った。


「あぁ!良かった。ごめんなさいね、私、そういう理論詰めで話しちゃうから……。」


「いえいえ、お気になさらず。でも、緑珠様は凄いですね。学者になれそうです。」


きょとんとして彼女は答えた。


「へ?……私、博士号持ってるわよ。土地浮遊の。」


「「……は?」」


今度は真理とイブキが声を合わせる。


「りょ、りょ、りょ、緑珠様は理系だったんですね……。」


ふふん、と緑珠は笑う。


「凄いでしょう?懐かしいわねぇ、変装して国家試験受けに行ったあの日……。」


「変装して行ったんですか。それにしても、全く国内ではそんな話を聞きませんでしたが……。」


イブキが昔の事を思い出しながらも呟く。


「当たり前じゃない。裏合格したって思われたら嫌だもの。母にも黙って受けに行ったわ。」


「よくバレませんでしたね……。」


「根気よ、根気!グルグルメガネをかけて言ったあの試験……懐かしいわ。」


真理はにっかりと笑う。


「そのぐるぐるメガネのくだりもとんでもなく気になるけど、ええっと……何だっけか、土地浮遊って、何なの?」


緑珠は笑顔で硝子筆やらをしまうと、小型砂漠船の付属品を使って説明する。


「簡単よ。土地って浮いたりしないでしょ。魔力を使えば暫く浮いたり出来るけど、魔力の分散は尋常じゃない。から、魔力、霊力などのその他の力で土地を浮かそう、って考え方。」


「凄いね……そんな学問あるんだ……。」


「私もびっくりしたわ。だからお勉強したのよ。」


と、緑珠が一通りの説明を終えた時だった。

次回予告!緑珠達を襲ったのはとあるモノ。其処繰り広げられるまたまたコメディ色あらわな怪奇譚。緑珠が呆れまくったり、イブキがヤンデレと一番嫌いな事を言ったり、真理が泡を吹いて倒れたり。そんなこんなの第11話。来週金曜日更新!

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