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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 174 月光の物語

こんな陰鬱な雰囲気とは打って変わって、また新しく物語が始まるよ〜!やったね!(空元気)

ハニンシャくんを巡る様々な物語。みんな読んでね!

何の変哲もない、ある日。


「あぁもう、こんなに濡らして……ぐしょぐしょですよ……?」


「うぅ……そんないじわるなこと、言わないでぇ……。」


何だか妙な声が陛下の部屋の中から聞こえてきたので覗いて見たら。


「……仕方ないですね。ちゃんと僕が処理しますから。」


部屋の中で泣く陛下と、床をふきふきしている宰相様が居ました。


「……なに、してるんですか?」


僕は耐え切れなくなって声を上げた。


「おや、ハーシャじゃないですか。御早う御座います。いやね、緑珠様が花瓶の水を零してしまいまして……。」


僕ことハニンシャは、扉の隙間から宰相様が頭を下げるのを見る。


手伝いましょうかと言おうとしたが、止めておくことにした。


宰相様の許可無しに陛下の御部屋に入るなど万死に値する。


「にしても緑珠様ァ……昨日は随分とお楽しみでしたねぇ……。」


「な、何のこと……?」


おっと。いきなりの不穏な展開だ。これは目が離せないぞ。


「僕知ってるんですよ……昨日の夜中の二時まで、貴女が……。」


「くっ……。」


「スナック菓子を食べて、ごろごろ寝転がっていた事をね……!」


「やめてぇぇぇ!」


あ、そんなに不穏じゃなかった。この際、宰相様が陛下の事をご存知なのは放っておくことにして。


僕の上司に当たるあのお二人方は、何時もあんな夫婦漫才を繰り広げている。


僕が個人的な趣味で主催した、『アンケート百人に聞きました!陛下と宰相が結婚していない件について』というアンケートでは、八十六人が『結婚してるだろお前ら』と答え、十二人が『結婚しろ』と答え、二人が『そういう漫画的展開を望んでんだろ薄い本だ』と答えた。


後半二人は友達の変態に聞いたので無視として、何故『女帝様は俺のものだ!』みたいな答えが出なかったかと言うと。


……まぁ、察して欲しい。


それはさておき。


この月影帝国『月宮殿』において、守らねばならない約束が三つある。



ひとつ。


宰相様以外の許可で女帝陛下の部屋に入らないこと。


ふたつ。


宰相様を怒らせないこと。


みっつ。


大臣様にはお菓子をあげること。



前者二つは置いておいて、三つ目は別に強制では無い。が、大臣様は色々教えてくれるし、自分の師匠でもあるので可愛めなお菓子を見繕っては送ったりしている。


「ふう……。」


運んでいた書類を机に置くと、時間が余った事に気付く。少し休もうか。


何せこの王宮、暇になる時がない。此処に務めてから『退屈だ』と思った試しが無いのだ。勿論仕事が忙しいのもあるが、トップ二人がド変人なのである。


僕が中々肝を冷やしたエピソードを紹介しよう。


それはもう、ちょっと前のこと。


陛下が庭の片隅で、何かに餌をやっていらっしゃので声をかけたのだ。


「何をしていらっしゃるんですか?」


「んー?虫に餌をやってるの!」


虫。女の人が虫とは珍しい。蝶とか何かか?と思い、覗いて見たら、黒くてかさこそ動く件の虫だった。


勿論殺した。ささっとフリーズドライして。というか今でも思い出したくないから脳内にモザイク処理をしている。


案の定、宰相様に呼び出されて、部屋に行ったら、


「まぁその状態だったら僕も殺しますよ。」


電子手紙メールとかだったら、『(かっこわらい)』が付きそうな薄っぺらい笑みであの人が言っていたのを、僕は覚えている。


「……これからも害虫駆除、宜しくお願いしますね。」


多分、貴方の言う『害虫』と僕が思っている『害虫』は種族を超えてる感じで違うと思ったが、まぁ、頭を下げておいた。


ぐだーっ、と伸びていると、時計の針は正午を指していた。そろそろお昼の時間だ。お腹が空いたな……。


こんこん、という戸を叩いた後に続く良いかしら、という陛下の声で一気に空腹は無くなったが。


「ねぇハニンシャ。イブキがまた居ないの。また博打しに行ってるのかしら……少し呼んできてくれない?」


何でまたギャンブル狂の夫を持った妻みたいな事をこの人は言ってるんだろう。……あ、そっか。もう夫婦みたいなもんだからか。


「構いませんよ。また探しに行くだけですもんね……。」


博打場は王城から近い。近いと言っても、王城の裏側にあるのだが。さくっと王城の裏口から抜けて、城下へ下りた。


「なぁんであの人は休みの日に行かないんだよ……。」


少しだけ愚痴ると、博打場に足を進める。何回も連れ戻しているからか、博打場にも顔見知りが出来た。……全然嬉しくない。


「おいおい、このままだと……。」


「あ!またなの?楽しみだなぁ……!」


人混みの奥に歓声がある。あぁ、多分彼処にin 宰相してるんだな、と思考を巡らせて。


「……宰相様。」


ぽつり、と若干の嘲りを混ぜて呟くと、人混みの薄い所から手招きが見える。


ぶっちゃけ言うと、博打場に居る宰相は宰相ではない。嫌いである。理由は、そう。


「あぁ、ハーシャじゃないですか。ちょっと今良い所なんです。待ってて下さいね。」


手招きに近づくと、空いていた手首を引っ掴んで人混みの奥に引っ張られる。力強すぎだろ。


「い、痛いです、宰相様……。」


「痛いと思うから痛いんですよ。」


じんじんと痛む手首をさすりながら、視線の先の宰相を見る。


嫌いな理由?……別人だからだ。単純に。


服ははだけてるし酒仰ってるし、何より煙草の量がえげつない。


薄ら笑いを浮かべて、足を乗せて。


その目の奥にある妙な炎が、どうにもこうにも嫌いだ。嫌い、というか……。


その目と合うと、泣き叫ぶベクトルで怖い。


これはアンケートの際にも同じ質問をした事があるが、百人中百人が『普通に泣きそうになるしあれと遣り合える緑珠様はおかしい』という結論に至った。


「緑珠様がお呼びでしたよ。早く帰った方が──」


「今直ぐに帰ります。水下さい。」


「え、ちょ、お前、勝負は……。」


ぐっ、と宰相様は水を呷った。そして服を簡単に整えて、何時も通りの『好青年』の顔になったら、そう、僕の顔を見て──


「ハニンシャさんがやってくれます。……それでは。」


高い跳躍を駆使して、そのまま宰相は帰ってしまった。要するに僕一人である。


……そんな目で僕を見ないで欲しい。元はと言えばあのクソ博徒……もとい宰相のせいである。


さ〜い〜しょ〜!この視線どうするんだよあのクソ博徒!何で変に強いんだ困るぞそういうのは!


「あんた……あの宰相の部下か何かか?」


まぁそうである。日々の鬱憤を此処で晴らされるのか。恨み辛みをこの身に受けるのか……と諦めがちに目を伏せた、その瞬間。


「大丈夫か……お菓子食べるか……?」


「甘いものとかも沢山あるけど、何が良い?」


がさがさとお菓子やらご飯やら出される。何だか皆心配そうな顔をしている。


「あの、いや、こんな……えーっと……。」


「いっつもアイツの下で大変だろ?甘いもんとかほら、昼時だし腹減ってんなら飯食って行きな。」


「城のモンって程じゃないが、中々癖になる味だぞ。」


餡掛けがかかった熱々の食べ物とか、白い饅頭に包まれた肉まんとか、そういうのがぽんぽん僕の前に置かれる。


「い、いや、変なお気遣いはなさらなくても……。」


取り敢えず社交辞令だ。にこにこ、という言葉が相応しいくらいには周りの人は皆笑っている。……ぐるる。お腹が鳴ったのを感じて──


「……そ、それじゃあ、頂きます。」


その言葉を聞いて、僕の頭を撫でて周りの何人か去って行く。


取り敢えず目の前の食べ物をむしゃむしゃ食べる。きっと『家庭料理』というのはこんな味なのだろうか。


ふと、留学中の姉の事を思い出す。


姉さんは元気にしているのだろうか。暖かいお布団の中でぬくぬく出来たりとか、シャワーで疲れを癒したりとか、勉強の難しさに頭を痛めたり、そんな事が。


きっと陛下が送っている先だから、何かある訳ないと胸を張って言えるのだが、それでもやっぱり心配なのは心配だ。


心配じゃないのかもしれない。お互い離れるのが嫌なのかもしれない。


父は龍になり、母は踊り子として遠くに行ってしまった。……今はもう生きているかも分からない。


僕が副宰相になった理由の一つは、母が僕達を見つけてくれるかもしれないからだ。


あぁ、でもどうなんだろう。あの人は移り気な所があったから、今はもう別の家庭を築いて幸せなのかもしれない。


どちらにせよその人の人生だ。幸せだったらそれでいい。


顔もあまり覚えていない他人に会いたいとは思わないが、姉はきっと喜ぶだろう。


「ご馳走様でした。」


柄にも無く感慨に耽ったところでどうにでもなる様な問題では無いのだ。


机の上に並べられた食事を食べ尽くすと、僕は椅子から下りた。


早く王城に帰らないと陛下が心配なさる。それを見た宰相様がまたややこしくなるので、色んな意味で早く帰らなければ。


「姉さん、元気かな……。」


「なぁそこの。赤い上着着てるやつ。」


「は、」


い?は出せなかった。










「ん……。」


冷たい床に、手錠と足枷をかけて転がされている。すすり泣きが聞こえて、雰囲気は最高潮だ。


ぐわんぐわんと痛む頭を抑えて、僕は身体を起こす。プロペラの音からして此処は飛行船だし、首元の悪趣味なタグからして人身売買の船なんだろう。


まさか捕まるとは。油断し過ぎていたか。


「上物が一匹捕まったからな。しかも女よりヌける顔なんだぜ。黒に近い紫の髪をした男でな……。」


遠くから声が聞こえる。会話が只管にゲスい。それに自分の事を言われている。悪寒がすごいなぁ。


あぁでも、女顔に近いのはイケメンになるって宰相様が言ってたっけ……?


そういやそのときイブキは十歳まで毎日女装で遊ばれてたものねぇ、と陛下が言ってた気がする。それをあんまり笑わないリリーさんが笑って。ふふ……あったかいなぁ。


ダメだ、頭が動かない。冷たい現実に対して記憶が暖かくて。……こんな終わり方をするだなんて。夢にも思っていなかった。


このままいくと奴隷にでもなるんだろう。昔姉さんが僕を連れて行かせない為に、人を殺そうとした事があった。


目の前でその惨劇の寸前を、じっ、と見ていた。ただただ、見ていた。


全てが終わった時、姉は喜び勇んで僕を抱きしめたことを覚えている。


……何で今更そんな事を思い出したのだろう。


さて、迷惑をかけない為にも、さっさと自害する事にしよう。理由は勿論、僕は拷問に屈する予感しかしないからだ。


それに僕は欲に塗れた品行方正な思春期男子の一人、男よりも女の人がいい。


……いやまぁ男の人が良いって人も居るかもしれないけど。


僕は道端に落ちているエッチな女の人が写ってる本とかを見つけたら凄く嬉しくなるタイプだし、拾ったその日には宰相様に怒られてもどうでもいいって思えるタイプだから。


いい匂いがするものとか胸とかの方がテンションが上がる。柔らかい身体を支配する方が好きだし。


凄い、いざ死ぬとなると吹っ切れた。そういや昨日拾った本見るの忘れてた……。


友達とテンション上がって読んでたら宰相様に煩いって怒られたっけ。あの時の「僕は緑珠様一筋ですから」の顔が今思い出しても忘れられない。


よし、走馬灯も自己上映したところで、死のう。袖裏にある小瓶を取り出すと、白い錠剤が一つ、劇薬が踊っている。いざと言う時に持っておいたものだ。


だけど……何だこの紙切れ。こんなもの、入れた覚えは……。


「……遺言書か?忘れてたけど、そんな事書いてたのかな……?」


覚えの無い紙を取り出すと、其処には。


『もうちょっと頑張ってみて。そして死なないで。信じて。絶対に助けに行くから。 緑珠』


「……へいか。」


裏面には……もしかして……。


『緑珠様を泣かすのなら許しません。 伊吹』


「おい。立て。奥へ行くぞ。」


「……。」


下卑た視線の中、僕の脳内には声が響いた。







じかいよ〜〜こく!

ハニンシャくんがかっこつけて敵を相手どったりとか皆を助けようと奮闘したりとかそこに三人が駆けつけてきたりする話!

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