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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 173 灰燼の城

すげぇなこの戦争の話って思った貴方は正解です。私もびっくりしてる。とうとう次の話で戦争の話に決着が着きます。そんな話。

「此処がね、地下牢に続く扉なんです。あぁほら、足元に気を付けて。」


足音が響いて、地下牢に到着する。イブキは緑珠の目を塞いで、


「ほらほら、歩いて下さい。御楽しみはギリギリまで分からない方が良いでしょう?」


今でも相当機嫌が悪いのだから、それを損ねるのは得策ではない。緑珠は渋々歩くと、来るべき場所へ来たのか空いている左手で引き寄せられた。


「ほら、此処で止まって下さい?良いですか、手を離しますよ……。」


じゃーんっ!と子供の様な歓声を上げると、ぱっ、と緑珠の視界が明るく広がる。


「……これほんとに生きてるの?」


鎖に繋がれ、服は泥だらけ、髪は真紅に染まって元の色が分からないし、顔も良く見えない。身体は血だらけ鞭打ちの跡。指は有り得ない方向に曲がっているし、腕もそんな感じだ。


「生きてますよ。起こしましょうか?」


「……いや、良い。もう良いわ。鍵は?」


「僕が持ってます。お開けしますよ。」


「私がやるわ。……貴方、拳銃は。」


「此処に。」


イブキから拳銃と鍵を受け取ると、緑珠は牢屋の中に入る。


「一発で終わらせちゃうんですか?勿体ない……。」


「……あんたこの姫、どうするつもりだったの。」


残念そうに肩を竦めるイブキに、緑珠は表情も変えずに問うた。


「いざと言う時の為の保険に。でも心配は無用だったみたいですね。」


「……仮にもこの子は、私と同じ立場だった訳よね。何にも心が痛まなかったの……罪悪感とか、何も無かったわけ!?」


「ど、どうしてそんなに怒るんです、これは貴女じゃないから何したって許されるじゃない、です、か?ぼく、僕何か変なこといってま、す……?」


緑珠の怒鳴り声で目を覚ましたのか、どろどろになった顔を『姫だった』……いや、『人間だったもの』が向けた。


「えと、喜ぶ、とおもって、薬品で目の色もかえちゃったし、顔も硫酸でとかしたんです、よ?きれいなままが、よろしかったですか……?」


「うるさいっ!黙れェッ!」


びりびり、腕に感触が走る。人を殺した感覚。歯軋りと心苦しさだけが残る。


「あ、貴女が手を汚す事なんてしなくても良かったのに……!僕がやったのに……。」


地下牢に入ったイブキは、緑珠の持っていた拳銃を取り上げると、何にも躊躇すること無く。


「僕が、僕がやったのに、僕が全部、生きてることも、死んだ事も後悔するくらいやったのに……!僕が!僕が!僕が全部やったのに!あんな奴に緑珠様の『幸せ』を盗られて堪るか!」


バンッ、バンッ、という発砲音と共に、ぼこっ、ぼこっ、と姫の身体に音を立てて穴が空く。


「イブキもう止めて!もうこんな事しないでよっ!いやっ!見たくない!止めて!やめてよぉっ!」


ぼろぼろになった姫の身体に、緑珠は覆い被さる。引き金を引いた後の音に、カチン、と弾切れの音が響いた。


「……何でそれを庇うんです。貴女を傷付けた、根も葉もない噂で傷付け侮辱した男の『大事なモノ』なんですよ。」


「私達は……!いま、此処にっ、ひぐっ、生きてるっ、私達にはなんのっ、権利も無いのよ……!」


嗚咽を出しながら、緑珠はぎゅうっと見るも無惨な姫の身体に抱き着く。


「死後の人生まで、うばうけんりなんっ、て、どこ、にもないのよ……!だからもうやめてよぉっ……!」


ゆっくり、銃口が下げられて行くのが分かる。


「……緑珠様。行きましょう。それならもう此処に居る理由は何にもない。」


「ね、待って、この子を埋めるだけでも……。」


「俺は反対ですね。……それにどうせ此処は灰に消える。なら此処にあっても何も変わらないじゃないですか。」


「……冷たい床で寝るのとふかふかのお布団で眠るのは違うのよ、伊吹。」


緑珠はもうぐちゃぐちゃになった身体を必死に集めて、地下牢から外に出る。外の風はもう冷たい夜の物だった。


外には丁度地面が抉れて穴になっている所がある。黙々と緑珠は其処に肉片を詰め込むと、イブキは上から土をかけた。


「なん、で、こんな、こと、したの……。殺せばよかったじゃない、ふつうに、ころせば……。」


姫の墓に手を合わせながら緑珠はイブキに問うた。


「……許せなかっただけです。何回も説明したでしょう?」


恐る恐る、不安そうな声でイブキは問い返す。


「ぼく……俺の事、嫌いになりましたか?……もう、愛してって、言わない……?」


「……わたし、は……。」


何処かで考えていた。……泣けるのは、強者だから?悲しいのは勝ったから?今こうやって誰にもわからないように


笑っているのは。


嬉しいから?


何でもそう。いじめられている子が全員死ねばいいと思うのと同じ。なってみたら凄く怖くて、現実に戻れと思う。


「……あなたは、私のかみさまね。」


誰にも聞こえないようにそう言うと、緑珠は立ち上がる。


「城の中にまだ何か使えるものがあるかもしれないわ。それだけ回収したら……燃やしましょうか。」


後ろを振り向かずにイブキの手を引くと、緑珠は城の中を目指した。







「此処が宝物庫ね。」


「そうですよ、でも中は……。」


はぁ、とため息をつくと。


「あんまり良さげなのは無いんですよね……。」


その言葉の通りだった。中を見ても大きい壺やら誰が被るか分からない大きさの王冠、とにかく綺麗なものを大きくした、みたいな物が沢山詰まっていた。


「何よこれ……壺とかは観賞用でしょうけれど、王冠ってどうやって使うのよ……。」


「あっ、これ。ねぇ緑珠様。これは良い物ですよ。」


ぱたぱたとイブキは緑珠に駆け寄る。手には白の磨り硝子に金のメダイ。


それと、拳銃の様な形をしている、青い金剛石ダイヤモンドが何重かぐるりと金の台に嵌め込まれた何かがあった。剣が折りたたまれて居るように見える。


「これは……ロザリオと……拳銃?それにしては銃口が無いわね。何だか剣が折りたたみ式になってるみたいだわ。」


「ご明察です、緑珠様。これはですね……。」


イブキがハンマーの部分を押すと、ガチャガチャと音を立てて拳銃がレイピアの形に変わる。


「折り畳み式の魔剣であり、拳銃なら魔弾を打つのに役立ちます。レイピアとして扱うのでしたら実用性に欠けますが……」


空いていた手で持っていたロザリオを取り出す。


「この魔力を溜めるロザリオを使えば、神器として扱えばかなりの高威力を見込めるかと。」


持っていた二つの物を、緑珠は受け取る。


「どうします、持って帰ります?」


「私達の周りで水の魔法を使えるのは……ハニンシャだけだった、よね?」


「そうですねぇ。相違ありません。」


「……これ、受け取るかしら。」


神妙な、何処か気持ちを切り替えた緑珠に、イブキは呑気に受け取るんじゃないですかー、と返した。


「だって。あの子は僕の『二代目』なのでしょう?『二代目』なら、きっと。」


「……そう、ね。『二代目』なら。貴方と同じ歳くらいに、『これ』を渡したって……。」


この二つを手に入れる、という事は。此処にあった全ての惨事を知るということ。恨み辛みを全て飲み干すということ。


そして、それを笑顔で喰い尽くすということ。 きっとあの子にはそれが出来る。


「使えそうなのはそれくらいですね。あとは宝石とかばっかりです。」


「そう。」


緑珠は簡単に言い切ると、宝物庫から出る。


「何処に行かれるのです?」


「……もう燃やしてしまいましょう。この国自体を。王の間に行くわよ。」


宝物庫から王の間は近かった。すたすたと歩いて玉座へと向かうと、国全体が一望出来た。真っ赤に、城下が、そうなっていた。


「ほら、見て下さい緑珠様。此処まで僕はやったんですよ。貴女の為に。別に見返りは求めちゃ居ませんが、ちょっとくらい褒めてくれたって良いでしょう?」


その赤い仕事着にどれだけの返り血が染まっているのだろう。この抱き寄せる黒の手袋には?


「結局緑珠様も僕と『同じ』なんですねぇ……すっごく嬉しいですよ、俺は。」


その言葉に緑珠はばっ、とその手を強く押しのける。


「確かに命じたのは私だけれど……!やり過ぎだし、私はお前と『同じ』では……!」


「『同じ』ですよ。緑珠様と僕は。全く。ぜんぶぜんぶ、同じですから。」


カツン、コツン、と靴音をなびかせて、イブキはもう主の居ない玉座に我が物顔で座る。


「は、ぁ……!?」


「貴女だって同じじゃないですか。盗られるのが怖かった。また一人になっちゃうって、そう思ったんでしょう?」


ダメだ。認めてはいけない。その筈なのに、その玉座の前にへなへなと座り込んでしまった。


「『愛されたい』んですよね?僕知ってますよ。貴女のして欲しいこと、されたいこと。気持ち、身体の状態も。なぁんでも。」


「おま、え……!」


「僕に逢いに来る為に人をたくさん殺したじゃないですか。」


「……ぁ、ぅ……。」


顔を上げる事が出来ない。そんな苦しい醜い顔を、目の前の従者は覗き込んで来る。つらい。くるしい。


「認めちゃうのが怖いんですよね?かわいい。認めなくて良いんですよ。ずっと貴女は『人間』でいてください。僕の代わりに。僕の全部を。」


「『伊吹』。止めて。言わないで。私もう分かったから!分かったから……!」


へたりこんだその先で、立ち上がるのが見えた。そうして柔らかく顔を包み込まれて、目と目があって。


「……それなら最後に、貴女に言って置くべきことが一つあります。」


それだけは拒否出来なかった。これは呪縛だ。『可愛い束縛』なんて物じゃなくて、結局自分もそれを望んでいて……!


「『僕は、緑珠様の事なら何でも知っていますから』。」


この、ことば。けっきょく、わたしは……支配するのではなく……森羅万象に支配される事によって、この従者を守る事しか出来ない。


「……帰りましょう。この国を焼いて、この戦争自体、無かったことにしましょう。……私達きっと夢を見てるのよ。また朝、目を覚まして……。」


「……そうですね。これが夢ならとっても幻想的です。……僕は、そう思います。」


ふぅっ、と伊吹は小さな種火を作って、下に見える城下に炎を落とした。直ぐにそれは大きな火柱となって、当たりを包み込む。


「……燃やしても、灰は残るんですよ。全ては無かったことになんてならない。……緑珠様が気付いてしまった事も。貴女が僕を……。」


その言葉の先は聞きたくなかった。言葉では形容し切れないことば。


「……灰は残っても、小さくなるわ。……帰りましょ、寒いわ……。」


鉛のように重い身体に鞭打って、緑珠は立ち上がった。







じかいよこく……。

こんな陰鬱な雰囲気とは打って変わって、また新しく物語が始まるよ〜!やったね!(空元気)

ハニンシャくんを巡る様々な物語。みんな読んでね!

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