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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 169 執着との

次は!!!楽しい伊吹君の!!!ヤンデレ回です!!!凄いよね!!!まるっとヤンデレ回なんだ!!!ちょっとびっくりしてるけど!!!良いよね!ヤンデレ好きだもん!!!

そうして国に戻って来て、後は離宮を目指して。


自分の寝室に足を踏み入れるその前に、緑珠はにしし、と笑った。


「あーあ、ほんとに首跳ねられちゃうかと思ったわ。跳んだりなんてしないのにねぇ。」


「黙れ。」


ぴしゃり、と身体の機能が全て止まってしまうような声が、薄暗い寝室に響く。


「……い、イブキ?」


距離を詰められて、すとん、と緑珠は寝台の上に座る。


「黙れ。姦しい。煩い。話すな。俺の、言う事を、大人しく、聞け。」


伸ばされた手を避けるように、緑珠は後ろに這う。


「…………は……い……。」


「……ん。良い子ですよ、緑珠様。従者の忠告をきちんと聞けない悪い主じゃ無いですものね、緑珠様。」


打って変わって優しくなった表情に、緑珠は戦くようにして言った。


「……ないで……ころ、さないで……。」


「やぁですねぇ。僕が貴女に謀反なんて起こす訳無いじゃないですかぁ♡全くもう、緑珠様ったらぁ!」


狂乱に足を突っ込みかけているイブキに、緑珠は機嫌を損なわないように言葉を紡ぐ。


「…………ちゃんと、命は、大切に、しま、す……だ、から、ころさ、殺さないで、死にたくない、やだ…………。」


「大丈夫ですよ。殺しませんって。何もしません。えぇ、本当に何も。でも、あんまり言う事を聞かないと…………。」


ぐいと顔を近づけて、一言。


「肉片にするからな?」


「……分かっ、た……。」


「返事は?『分かった』、じゃないでしょう?お父様とお母様に教えて頂きましたよね?」


まるで試す様に、落ちている緑珠の手にイブキは触れる。


「……はい。」


「よしよし。良い子ですよ、緑珠様。それでは、指切りげんまんしましょうか。」


突き出された小指を、緑珠は嫌悪感満載の目で睨みつけた。


「……分かった、わよ。あや、謝れば、良いん、でしょ、?」


「あははァ、やだなぁ緑珠様。違いますよ。僕は貴女の『約束』が欲しいんです。それに、あんまりそんな意地悪言ってると……。」


突き出されていた小指が、真っ直ぐに緑珠の白磁の首を突いた。


「名前、縛っちゃいますよ?僕ね、名前を縛る術だけは得意なんです。」


まるで化け物見るような緑珠の顔に、伊吹は手を這わせる。


「嫌でしょう?魂に枷をかけられて、首輪を着けられ生活する毎日は。僕はとっても幸せですよ。貴女はもう無茶をしないし、貴女の心の隅々まで僕のモノだ。」


でもねぇーぇ?と子供にあやす様に愉しそうに伊吹は続ける。


「でもね、緑珠様。貴女はきっとお嫌だと思うんです。自分の思考すらも相手に読まれて、それで感情さえも操られて、傀儡の生活なんて嫌でしょう?ねぇ?ねぇ?何とか言って下さいよ。言わないと本当にしちゃいますよ?」


「や、で、す……。」


まるで反抗することを忘れるが如く、首に這わされた手がかかる重力そのままに、ふかふかの寝台へと緑珠は転がった。


「ですよねぇ?じゃあきちんと僕の言う事を聞いて下さい。別に一つしか、しかも難しい事なんて一言も言ってないじゃないですか。『命を粗末にするな』って。それだけなのに。どうして言う事を聞いて下さらないんだろう……困っちゃいますね。」


怖い、怖い。こんな怖いことを言っているのに、まだ自分は正気だと信じて疑わないその瞳が怖い。


「そんな怯えた瞳で僕を見ないで下さいよ。こうさせているのは貴女なんですから。それで貴女が怯えるなんて、お門違いじゃないですか?」


イブキの言っていることは正論だ。正論、というか果てしなく歪んではいるが、正論なのである。


頬に這う手が恐ろしい。此処まで怒る気持ちも分かる。彼が止めた上で自分は動いたのだ。ある程度の考えは回る。


だが。


彼の夢は自分、すなわち『緑珠に仕え、そして殺すこと』。両に重きを置くが、どうしても後者は一度きりだ。だからこれ程までに固執しているんだろう。


「こんな時にまで思考するんですね、貴女は……。」


やれやれ、と目の前の鬼は態とらしく肩を竦めている。


ああ、少し頭が落ち着いて来た。一時でも自分の頭の中を『恐怖』で渦巻かせた彼の手腕には驚くべきものがある。


首元に這う手がキツくなった。思考回路が読まれている感覚がある。さて、次は何を言おうか。どう誤魔化せ


「……むう。僕の話聞いてませんね。貴女。嫌だなぁ、それは困るなぁ。うん!そうだ!良い事を考えました。」


思考が切れる。どうせイブキの良いことなど、地の掃き溜めを煮詰めて飲ませるようなえげつない考え方なのだろう。緑珠は口の唾を、ゴクリと飲んだ。


「今の貴女は、『蓬莱 緑珠』なんですよね?」


「そっ、ひっ、くる。くる。し、……。」


頭に酸素が回らない。手元に刀は無い。手は上がらない。首が締まっている!


「それだったら、『蓬泉院 緑珠李雅』の名前を縛ればよかったんだぁ……うわぁ、気付くの遅れちゃいましたね。ゆぅっ、くり、言っていきますから……。」


にィ、と口を歪めて、そして瞳の奥に恐ろしいものを隠して。


「その間に、僕と約束して下さい……!」


『抗えるものなら抗ってみろ』と言わんばかりの表情に、緑珠は首を絞めている手を外そうとする。


「ほら、そんな力じゃ無理ですよ。順番にいきますね。『ほ』。」


「やっ、めろ、ぐ。あ、あっ、……!」


「『う』。流石に女性は非力ですね。」


ふふ、と頭に残る甘ったるい声が緑珠の耳にこだまする。反響する。


「『ぜんいん』。苗字が終わっちゃいました。あとは下の名前だけですね。」


幻視か現実か。心做しかイブキの手に鎖のような物が見える。昔、世界を壊そうとしたあの世界で、同じものを、私は、


「『りょ』。好きなんですよね、緑珠様の前のお名前。あ、今の名前も好きですよ!そりゃ勿論ですよね!」


「は、なせ、はなせはなせはなせ!」


手が緩んだ。叫ぶなら今だ。唾液が口の端から零れる。


「やっぱり首絞める手を緩めると声が出ちゃいますよね。きつくしますね。」


「ぎぃっ……。」


また声が出なくなった。目の前が霞むが、イブキの目だけがはっきり見える。愉しそうに、歪められる瞳。


「さぁ、早く『約束』しないと。『く』。あと、三文字しかないんですから。」


「はあっ……ぐっ……。」


泣いてはいけないのに涙が零れる。そうだ。足で蹴って逃げることは出来るか。一生懸命足を動かしてみるが、動く気配は一つもない。


「そんな抵抗も可愛いですね。全体重かけてるので容易には動きませんよ。」


「くっそ……くる、し、や、めろ、やめろ、くそっ……!」


どれだけ暴れてもぴくりともしない。これほど苦しい思いをしているのに、目の前の従者は何時も通りだ。


「もうちょっと苦しい貴女が見たいですから、過去の名を縛られるとはどういう事か、お教えしますね。」


巫山戯るな!と叫ぼうとした瞬間、きゅうっと声帯が掴まれる。目の前は拷問のプロだ。それの場所くらい把握しているのだろう。


「名を縛られるということはその人全てを知ると同義。では過去の名はどうなのか。……これがまた強い力を持つんですよ。」


何故こんな力が使えるのか。と問おうとしたが、イザナミちゃんの『地獄とは卑劣な手を使って好きな者を手に入れられなかった者が逝く処』と言っていた。それで、何となく分かる。


「過去を全て変えられるんです。どうです?名前を縛られるのも、悪いことでは無いでしょう?貴女の過去を全て幸せに塗り替えることが出来る。」


手が少し緩んだ。さぁ叫べ。これは罠だ。


「うっ……はーっ、はーっ、黙れ悪魔。過去は無限に増え続ける物だ。お前はそれで私の全てを縛るつもりだろう……!?」


まだ気道が狭くなる。盛大な舌打ちが聞こえ、上機嫌だったイブキの顔が忽ち不機嫌になった。


「……聡明な貴女は嫌いです。さあ続けましょう。『し』、『り』、」


言われる。全てを持っていかれる。だめだめ。こんな無理やりな方法で好きになっちゃダメ、なのに。すき、あぁ、こんなのだめ、だめ、すきなの、ふわりとした浮遊感の中、緑珠は叫んだ。


「する!あ、はぁっ、する!『約束』する!」


ぱっ、と手を離されて、緑珠は寝台に転がった。何もする気が起こらない。


「……誰に?何を?誓ってくれるんですか?」


まるで労る様に頭を撫でられるが不快感この上ない。緑珠はその腕を引っ掴んだ。そして噛み付くように言う。


「お前に誓う。月に愛されし光遷院 伊吹よ。私の喉元を掴んだ奴め。殺されそうになるのが何よりも嫌いな私を知らぬお前では無いだろう。……いやに怖い物知らずな奴だ……。」


「はいはい。破ったら今度こそ名前を頂きますからね?」


「好きにしろ。鬼。悪魔。下衆。外道。屑博徒。」


「予想外に元気があって驚きです。……全く。これぐらいしないと貴女は言うことを聞かないんですね……。というか鬼と悪魔って一緒ですよ?『頭痛が痛い状態』です。」


「黙れ煩わしい。それに……嘘をつくな。お前途中からノリノリだっただろう……げぼっ、げほ、ぐふっ……。」


「あ、バレちゃいました?」


「死んでしまえ……。」


「ほら、昔約束したでしょう?今度約束を破ったら、『殺してでも生きたいと思わせる』、って。」


「けほっ……貴方と約束なんて、するもんじゃないわね……げほっ……お前首絞めすぎ……気道が狭くなっちゃったじゃない……。」


「あはは!でも貴女が心の底から『約束』出来る相手なんて、僕しか居ないでしょう?」


「……どうだか。」


「ほらほら、言ってくださいよぉ。」


「……お前と真理くらいしか居ないわよ。」


「御機嫌ナナメですねぇ。」


「あったりまえでしょ……。」


「それでも貴女は僕を許す。さて、理由は?」


「……誘導尋問は無しよ。❛鬼門の多聞天❜。」


「ふふふ。何の事だか。さぁ、理由は?」


「『お前は私の最愛の従者』だから。……本心よ。」


ぎゅうっと掴んで来るイブキに、緑珠は息も絶え絶えに素っ気なく返す。


「……手、離せ。」


「えぇ?ツれないこと言わないで下さいよ。緑珠様ぁ。」


そっ、と撫でていた手を首元に回すと、緑珠はびくりと肩を震わせる。


「おやおや……もしかして癖、付いちゃいましたか?」


「…………私、寝るのだけれど。」


「もうちょっと構って下さいよぉ。貴女の約束を、きちんと果たした可愛い従者を。」


撫でられていた手を緑珠は掴むと、そのままの体制でイブキへと問う。


「じゃあ………………………質問、させて。まともに答えてくれたら機嫌悪いのは今日だけにしてあげる。」


「それは魅力的なお誘いですね。それで、質問とは?」


背を向けていた緑珠が、ごろんと仰向けになる。


「………名前って、縛られたらどうなるの。」


「気になります?ま、普通そうですよねぇ。」


うん、とイブキは緑珠の質問を反芻すると、彼女から視線を外して言った。


「『冬になる』。これが僕の回答です。」


「……。」


緑珠はイブキを睨むと、布団を投げてイブキを投げる体制にかかった。


だが、上手く腕を掴まれてすっぽりと抱き締められてしまう。


「……んふふ……りょくしりあさま、いい匂いがします……。」


「っ……。」


彼の匂いが落ち着く。喰べられる一歩手前に等しいのに、自分も堕ちてしまったのか。


「あ、もしかして……こうやって名前呼ばられるのも、癖になっちゃいました?」


「ん……。」


腕の中でびくびくと震えている主が面白い。敵に向かって首を差し出す等という意味の分からない作戦を展開するのに、だ。イブキは緑珠の黒髪を触りながら言った。


「じゃあ、答えますね。『冬になる』という言葉の続きを。僕、昔自分の名前を縛ったことがあるんですよ。結局失敗しましたけど。その時、一瞬だけ『その世界』を見ました。」


「……またとんでもない事をするわね。」


ぴったりとくっついて離れない主に、イブキはくすくすと笑った。


「自分の狂気を出さないようにする為、ですよ。出来るなら貴女もしたいでしょう?」


「出来る、ならね。」


すりすりと緑珠はイブキに擦り寄る。どうやら眠いらしい。半分瞼が閉じられている。


「『冬になる』っていうのは……全ての物を冷たく感じるんです。人の雑踏が悪口に聞こえ、風は冷たく感じ、幻覚幻聴なんてなんのその、世を呪う事しか出来なくなる。」


「……それ……はこわい、わね……。」


うつらうつらしている緑珠は、ぎゅっ、とイブキの服の端を掴んでいる。


「でも、そんな中で……術者だけしか信用出来なくなる。要するに名前を縛るというのは、『依存』させるという事なんですよ。……って、寝ましたか。」


すうすう、と寝息を立てた緑珠のさらさらの髪を、イブキは触り続ける。


「…………貴女はきっと、歩き続けるのでしょう。僕がどれ程、強請っても、壊しても、殺しても。貴女はきっと歩き続けるのでしょうね。」


でもねぇ、とイブキは緑珠を横たわらせた。掴んでいた手を離させて。


「でもねぇ、少し止まって欲しいんです。貴女の傍には数え切れない人が居る。ちょっとくらい頼っても良いじゃありませんか。弱い貴女を誰も責めたりしない。」


薄暗い中で緑珠のうなじを触る。傷は無いようだ。幾ら間に合ったと言えど、もしこの玉体に傷が付くようなものなら許しはしない。


「……ねぇ。貴女はもう少し、肩の力を抜いても良いんですよ。……お休みなさい。せめて夢の中では幸せに。……僕はやっぱり、貴女の辛い体験を夢になんて出来ませんでした。きっと、僕だけじゃ無理なんでしょうね。僕だけの、力じゃ。」


イブキは寝台から立ち上がって緑珠の身体に布団をかけた。


「……でも。僕は貴女を救えた。その事実が、何よりも嬉しいのですから。」






じ回よ告。そろそろ次回予告のネタが尽きてきた。

ハニンシャくんが水の魔法めっちゃ頑張って勉強したり伊吹君と手合わせして新たな自分を知ったりとそういうお話。


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