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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 167 月光と王

ハニンシャくんにお友達が出来たりアニメかな?みたいな描写の美しさがあるしとにかく只管に美しい話なので皆読むべきよ。

少女は振り返る事なく、ひたすらに足を進めていた。


警備もやたら手薄だった。裏口の兵士なんかちょっと捻ったら皆叫び出したのだ。


他愛ないものである。空の上にあるからって警備が手薄過ぎるだろう。


「……でも、これ……。」


何一つ、物音がしない。ひんやりと湿った空気が肌に触れてほんの少しだけ肌寒い。


玉座の間は五階の一番奥にあるそうだ。其処を目指せばいい、と一旦は廊下に出た少女だったが、屋根を伝って屋外に出る。


「きれー……。」


国が浮かんでいて高さもそこそこあるのに、更に高さがある城の上なんて景色が良いに決まっている。


ほんの数カ月で発展した城下町と、地上に見える暖かい光。


あぁ、自分達もあんな風に生活出来るのだろうか。短い人生だけれど、学校に行って、恋をして、結婚したりして、子供が居て、友達と喧嘩したりとか、両親と泣きあって喜んだりとか。


そんな、生活が。


「──でな──と──」


「マジかよ!──っちゃ──だな!」


遠くから聞こえて来た兵士を見ると、少女は屋根から屋根へと飛び移った。あそこだ。あのステンドグラスが映える玉座。


暴風がはためく中でステンドグラスに近付くと、中をこっそりと覗く。


「い、いない……!?」


誰も玉座の間には居ない。魔力探査機で探査してみても、魔術を使って隠れた形跡は見当たらなかった。


「って事なら、本当に此処には……。……あれ、は……?」


こんな情報聞いていない。王城の後ろに美しい離宮があるなんて。


「……もしかして、あそこ……?」


フックをかけて五階からの高さから一気に下りると、中庭の柱を伝って離宮を目指す。


もう任務や暗殺など全て忘れて、ただその光景に見蕩れた。


地上よりも随分と近くなった月が、造られた池にとけていく。蓮の花が浮かんでは、柔らかい匂いを漂わせ、蛍がその光景を彩っていた。


白い東屋で眺める月はさぞ美しいものだろう。毎日この様な生活をしているのか。あの女帝は。


一本道を奥へと進むと、小さな花畑があった。雑草が抜かれているだけらしく、特に深い手入れはされていない。


花畑の奥には白磁の壁があった。今にも崩れそうだが、その不完全さが愛おしい。柳と桜の林を抜けて、古ぼけたドアノブに手をかけた。


きっと、対象はこの奥に居る。気を引き締めなければならない。これで最後。全部最後なのだ。


意を決して扉を開けると、目の前の薄絹のカーテンがはためいて、部屋の主を露わにする。……あぁ、遠くに見える青い山のなんと調和している事か。


「……あら、遅かったわね。」


かちん、かちん、と装飾同士が触れ合って音を奏で、それが黒髪を彩る。


「今晩は、暗殺者のお嬢さん。今夜はとても良い夜だわ。……酔ってしまいそうね。」


引っかかってはいけない。この女帝は人を誑かすのが得意だと聞いた。何か言葉を話す前に、さっさとトドメをさしてしまわねば。そう構えた時だった。


「だめよ。貴方は動いちゃだめ。」


いつの間にかレーザーポインターが身体にまとわりついている。少しだけ触れると肉が裂けて、血がぽたりと染み落ちた。


「動いちゃ危ないわ。身体がばらばらになっちゃうわよ。前も後ろも上も下も。全部あるから安心してね。」


逆光で良く見えないが、にっこりと微笑えまれるのが軽く見える。


「お名前を聞かせて下さる?」


「……相手から名乗んのが基本でしょ。」


とにかくそれしか言う事が無かった。不服そうな声が自身の声帯の奥から響く。


「あら。ごめんなさいね。知ってると思って。それじゃあ……。」


と、まるで舞台が始まったかのように、其処に元から光があったように。すぅっ、と、その姿が現れる。


「今晩は。私の名前は蓬莱緑珠。この月影帝国の王をしています。……貴女のお名前は?」


「……ミュゼッタ・フォンシリア。あんたを殺さなければならないの。」


「その理由は何故かしら。」


間髪入れずに緑珠は聞き返す。


「我が民のため。匈奴から解放される為、よ。」


ミュゼッタはそのまま続ける。


「匈奴は今、我が民を保護してくれている。扱いは雑だと言ってもやっと明日の心配をせずに生活する事が出来る様になったの。……でも、いつかあの国は私達を殺す。だから、貴女を殺して好きなところに行くの。良い平地を見つけたの。だから、田舎で、平和な、誰にも見つからない場所に行くの。……それだけよ。」


「でも、その保障は無いわけよね?」


「……それ、は……。」


「ねぇ、なら一つ賭けてみない?」


「……どういうこと?」


緑珠はミュゼッタに背中を向ける形で、高く聳える月を眺める。


「貴女が私達の仲間になるの。」


彼女の返答を顧みることなく、そのまま女帝は続けた。


「私は保証するわ。貴女の一族を全て守る事を。全て暖かい暮らしを提供する事を。……その代わり、一つ条件がある。」


「……何よ。」


「貴女達の身体を調べたいの。貴女も長く生きたいと思わない?」


そうね、とミュゼッタは言葉を紡ぐ前に一つ置くと、


「……私はあんまり、思わないけれど。……もし、『歳を取る』という経験が出来るのなら……。」


持っていた武器を捨てて、ミュゼッタは跪いた。


「貴女様に従うのも吝かじゃないわ。」


「だって、イブキ。」


緑珠はそう言うと、背後から呑気な声が聞こえる。


「う、うぅ……あともうちょっとで腕がつるところでしたよ……。」


「あら、ごめんなさいね。間という物は大事だから。」


「確かにそうですけどぉ……。」


ミュゼッタの足元に落ちていた拳銃や武器をさも自分の物の様にイブキは回収する。


「これ重くないですか、お嬢さん?」


「あ、あなた、昇降機の中で会った……。」


「光遷院伊吹と申します。以後御見知りおきを。」


呆気に取られているミュゼッタを放っておいて、緑珠は窓から身を乗り出した。


「ハニンシャも御挨拶したら?」


「えぇ……怖がられちゃいません?」


「それは挨拶しないと分かんないわよ?」


「絶対怖がられちゃいますって……。」


恐る恐るハニンシャは外からミュゼッタを見遣る。


「こ、こんばんは……。ええっとその、お腹の傷は大丈夫ですか?」


「わ、私を刺した人じゃない……。」


「それを言われると困っちゃうな……。」


するするとまた戻って行きそうなハニンシャは、ギリギリの所で、


「ま、まぁ、これから宜しくね。怖がっちゃってても良いけど、その、慣れてくれると嬉しいな……。」


「割と歳の近いお友達なんじゃないんですか?」


イブキがさらっと口を挟むと、ハニンシャは嬉しそうに頬を染める。


「お、おともだち……。こっちの方での友達は少ないから、その、なってくれるなら……。」


「お友達にはならない。」


「えっ。」


「その代わりに。」


胸を張って、笑顔でミュゼッタは言った。


「ライバルになる。私、貴方のライバルになるわ。……だから、いっぱいお話してよね。」


ぱあっ、とハニンシャの顔が明るくなる。そして続けると、


「勿論だよ!君はそうやって笑ってる方が絶対可愛い!顔当てなんか要らないと思うよ!……えーっとじゃあ、それじゃあね!」


びゅんっ、と走り去って行ったハニンシャを見ながら、イブキはボソリと呟いた。


「……天然タラシ。」


「あの子ってそういうトコあるのよねぇ……。そう思わない、真理?」


「同意見かな。」


びたん、という壮大な音ともに天井から落ちて来たのは紫髪の魔道士であった。


「いやぁ、ごめんねぇ。突然だし吃驚した?」


「びっくりするも何も、て、てんじょう、から……?」


「屋根裏から降りてこれたでしょう?」


「埃まみれになるからやだもん。」


「痛い方が嫌だと思うのだけれどねぇ……。」


起き上がった真理の頬を優しく撫でながら緑珠は言った。それを見ながら、ミュゼッタは恐れ戦く。


「あ、貴方達、最初から私を嵌めるつもりでこういう事してたの?」


「嵌めるなんて人聞きの悪い事言わないで下さいよ。計画です。」


「君は『嵌める』が専門でしょ?計画じゃなくて。」


「地上に落としてやりましょうか?」


「全力で遠慮したいかな。」


喧嘩を始めた二人を放っておいて、緑珠はミュゼッタに手を伸ばした。


「ほら、立ちなさい。そんな床で座っていたら冷たいでしょう?」


『跪け。蛮族なぞ冷たい床で充分だ。』


……あの時に言われた言葉を思い出す。一族の為なら何だってやって来た。……けれどあの王にはもう従わなくて良いのだ。


この人は冷たい事を良しとしない。その人にとって暖かく居て欲しいだけなのだ。



まっしろな、触れるのも憚られる様な手を掴むと、ミュゼッタは立ち上がった。










「陛下と宰相様の馬鹿っ……仲間って言ったのに……。」


食事を持って来たハニンシャは、手枷足枷をされて整頓された部屋で幽閉されているミュゼッタに泣き言を言った。


「こ、こんな幽閉だなんて……。」


「仕方ないって。冷たい牢屋じゃないし、お風呂にも入れるし、美味しいご飯も食べれるし……全然幽閉って感じじゃないよ。」


「だ、だけど……。だってもう君は武器も何にも持ってないんだよ?解放しても良いって!」


「そういう訳にはいかないから、ね?」


これなってしまうとどっちが副宰相なのか分からない。ハニンシャから渡された食事を美味しそうにミュゼッタは食べる。


「しょーだ、なまえきいてなかった、おしえてくれる?」


もぐもぐと口を動かしながら、ミュゼッタは淡々と問うた。


「ハニンシャ・月亮ユエリャン=メーヌリス。陛下に貰った名前なんだ。」


「月光って苗字なのね。素敵だわ。」


「……そうなの?」


「知らなかったのね……。」


全てご飯を平らげると、ミュゼッタは器をハニンシャに返す。


「美味しかったわ。ご馳走様。」


「それは良かった。それじゃあ、僕は仕事に戻るから。」


じゃあね、とハニンシャはそのまま部屋を出ると、ミュゼッタは横になった。


にがいあじ。


大方軽めの睡眠薬でも入っているのだろう。つくづく用心な国である事だ。


それにあの少年は気付いているのだろうか。……あぁ、分からない。心の奥底まで見えない。


それでも料理は美味しかったなぁ、と思いながら、ミュゼッタはベッドに寝転んで目を閉じた。







じっかい予告。

うわーーーん沢山人が死ぬよ〜〜ふえええええーーーん悲しいよ〜〜〜緑珠様も伊吹君も真理たそも怖いよ〜〜!!!みたいな話です。

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