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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 162 影

真理がさくーーーーーっと帰って来れたり世の中のお父さんが一度は欲しいアレを手に入れたりイブキのお友達降臨したり平和回が続く〜〜!

「それじゃあ僕は先に帰りますね。」


「お疲れ様。有難うねぇ。」


ひらひら、と緑珠はイブキに手を振る。わしゃわしゃとハニンシャの頭を撫でながらイブキは言った。


「ちゃんといい子にしてるんですよ。」


「分かってます、分かってますってばぁっ!わしゃわしゃしないで下さいよぅ!」


やり取りはさながら親子だ。十五歳の年相応さで凄く可愛いらしい。ただこれを放っておいたらきっとまた喧嘩になるから、


「ほらほらハニンシャ、行くわよ!」


あっかんべー、をやっている顔が何となく分かる。これはまた宮廷に帰ったら喧嘩だなぁ、なんて。


「はいハニンシャ。復習よ。女皇陛下の名前と宰相の名前を答えなさい。」


「御手洗麗羅神巫女女皇陛下と、葉月様ですね?」


「正解。即答出来て何よりだわ。」


「勿論、それくらいは……!」


胸を張ったハニンシャに、緑珠は容赦なく追い打ちをかける。王宮はもう目の前だ。


「それじゃあ難問。御稜威帝国の特産物一位は、」


「鉄!」


「だけれど、八位はなんでしょう。」


何とか必死に頭をひねって、ハニンシャは恐る恐る答えた。


「……えと……魔法の杖の、原木でしたっけ……?」


「種類は?」


「き、桐……。」


「正解だけど一位から十位くらいは何処の国でも空で直ぐに言えるようになりなさい。良いわね?」


「は、はい。頑張ります……。」


がんばらなきゃぁ、とのんびりとハニンシャは言った所で、目の前で扉が開く。


「あのぅ、陛下。陛下は輿にお乗りにならないんですか……?」


「乗んない。輿嫌い。詳しくはイブキに聞いて。」


一気に言葉遣いを変えた緑珠に、ハニンシャはおずおずと言った。


「……な、何となく分かったような気がします……。」


目の前で門が開く。巫女達に誘われて、足を王宮に入れた瞬間だった。


「あぁ緑珠!元気にしていましたか!?」


「ず、随分と熱烈ですわね、陛下……。」


思いっ切り抱き締められて、緑珠はよろける。少し離れると、彼女を改めて見やって、


「少し見ない間に立派になって……。色んな人から貴方の話を聞くのが楽しみで楽しみで……。ずっと会いたいと思っていたんです、あぁ、元気で良かった……。」


嬉しそうに緑珠の姿を見ると、


「こんな場所で立ち話もなんですし、中に入りましょうか。そこに居るのが『二代目』さんね?」


「はっ、はい!ハニンシャ、」


「名前は知ってるわ、副宰相さん。何でもまだ若いのに大学を卒業したとか。優秀ねぇ。」


「御存知頂けて光栄です、陛下。」


麗羅の視線を一身に浴びながら、ハニンシャは恭しく頭を下げる。


「緑珠が見初めた子なんですもの。きっと将来大器になるわ。」


「自慢の子なんです。物覚えも早くて……。こういうのを親バカって言うのかしら。」


「私は何だか孫を持った気分です。ほら、上がって。『二代目』さんの好きなお菓子は……。」


すぅ、っと、一瞬だけ目を開けてハニンシャを見ると、麗羅はクスクス笑う。


「ふふ。それは御用意出来なさそうですね。でも許して頂戴な。御稜威の最高の職人に作らせたお菓子も美味しいですよ。」


「や、やはり、千里眼を持たれている方は違いますね……。」


肩身が狭そうに副宰相は呟いた。しかし、王城に入ると目を見開いた。


「ぇ、あ……こ、こんな感じ、なんですか……。」


「ハニンシャは本でしか読んだ事が無いものね。」


天井は高く、空高くそびえる気が城内まで侵食している。働いている者も、人や妖、小さな神まで様々だ。


どの者も皆同じ木の札を首から下げている。やはり本に書いてあった通り、全て此処に居る者達を使役しているのか。


「そうですよ。此処に居る者達は皆、私が使役しています。……まぁ何処に居るかとか、謀反を起こすなとか、そういう物ですが。」


思考を見透かされたハニンシャは手をロボットの様にする。


「心を読まれるのが苦手なのでしたら、これからそうしないようにしますね。ごめんなさい。」


振り返らずに続ける巫女に、ハニンシャは慌てて訂正した。


「あっ、いや、そうじゃなくて。その、そういう事に、慣れてなくて……。」


「素直に苦手って言ったら良いのよ。誰しも苦手な事はあるわ。」


「それに隠しても分かりますからね。」


ふふ、と振り向きざまに深緑の目を覗かせて麗羅は微笑む。


段々と人が少なくなり、厳粛な雰囲気が辺りを飲み込む。麗羅がそっと襖を開くともうその先には誰も居なかった。


輝く木の廊下向こう側に色の違う襖があるだけだ。


「『二代目』さん、其処の襖を開けてご覧なさい。」


「は、はい。」


襖に手をかけてそれを広げると、髪を大きく動かす風が吹く。高層階だ。いや、でもこれはおかしい。だって、


「階段なんか、登ってませんよね……?」


「登ってませんね。」


目を白黒させているハニンシャを見ながら笑う麗羅は更に続けた。


「我が王城、『御稜威城 白光』は呪術が仕込まれているのです。私が招き入れた者のみが王の間に辿り着くことが出来るのですよ。」


嬉しそうに外を眺めているハニンシャの頭を撫でると、緑珠は言った。


「それじゃあ私はお話をして来るわね。此処で大人しく待っているのよ。」


「はい!仰せのままに!」


二人が奥の襖に消えて行くのを見ると、開けていた襖を閉めて何処か安心した様に隠し持っている短剣に触る。


大丈夫、何かあっても何時でも引き抜ける。これは宰相様からの試験だ。無事に陛下を帰しなさい、という試験。


「でも、僕に出来るのは時間稼ぎくらいだ……。」


下手すりゃ今の自分は陛下より弱いかもしれない。それじゃあ本末転倒だ。もっと強くならないと。


「おやおや、これは……。」


上から声が降ってくる。ハニンシャは顔を上げた。長い長い銀髪が、風にたなびく。あぁ、この人は……。


「初めまして、葉月様。僕の名前はハニンシャ・月亮ユエリャン=メーヌリスと申します。我が国の宰相に変わり参上した次第です。」


「あぁ、君が噂の『二代目』か……。」


葉月が顔に似合わない笑顔を浮かべる。


「君の上司が言っていたよ。可愛い息子が出来たって。」


これは伊吹殿には秘密だよ、と葉月は付け加えた。


「……あの人そんな事言うんですか……ふぅん……へぇ……そー……。」


ぽそり、ハニンシャは呟く。


「……今度ユする時のダシにでもしてやろ。」


その呟きを風に押しやって、ハニンシャは笑顔で答えた。


「葉月様のお話も伺っていますよ。何でも将棋がお強いのだとか。」


「強いという訳では無いんだがね。趣味の一貫さ。どうだい、やり方を教えて上げるから──」


「駄目です。」


ハニンシャはぴしゃりと言い放つ。紫の目に、妖しい光が宿る。


「僕の仕事は陛下の護衛。此処を離れる訳にはいきません。」


にこり、建前だけの笑顔を作ると、


「また今度、誘って下さいませ。今度は宰相と共に参りますから。」


殺気。それに近しい忠誠心。……なるほど、噂の『二代目』は本当に『二代目』らしい。


「……そうするよ。ハニンシャ君。それでは。我が主は護衛する必要も無い。強過ぎるからね……。話し相手くらいしかやる事が無いから暇なんだ。またおいで。」


そう言って去って行く葉月を見ながら、ハニンシャは目を瞑った。


そんな会話が起こっているとは露も知らない部屋の中で、麗羅は口を開いた。


「単刀直入に言います。先住民には気をつけなさい。」


「その話は存じておりますわ。何でも匈奴という国が恐ろしいのだとか。」


えぇ、と麗羅は短く小さく頷く。


「匈奴も帝国化したいのです。ですから何度も我が国に侵略して来ました。あの国の強みは騎馬隊。機動力と軍計は類稀なるものがあります。付け加えて……。」


言葉を飲むと、


「魔法使いの質も高い。原初魔法と呼ばれる、魔法の祖を使いこなせる強い魔法使いが多いのです。現在、国土を開拓しているのが見られます。」


前のめりになっていた体制を正して、麗羅は話を変えた。


「……それと。あと一つ。貴女を狙っている者が居るそうです。」


「元よりそういう身ですわ。ですが、態々仰られるとなると、一筋縄では行かぬ者なのですね?」


静かに麗羅は頷く。


「えぇ。ノルテの軍隊出身の暗殺部隊なのだそうです。目的はまだ分かりません……とっ捕まえでも出来たら良いんですが……。」


それは要するに捕まえろという事だ。仕方ない。近いうちに行こうとしていたし構わないか、と思いながら緑珠は立ち上がると、


「分かりましたわ。それならノルテに参ります。軍隊の方で確認を取り、対策を練りましょう。」


失礼します、と一言だけ言って、緑珠はその場を去った。







次回予告どぅあーーーーーーーーー!!!

ハニンシャくんがあら可愛いだったりかっこよかったり緑珠様と伊吹君がえっち、えっちなことしてる……!?みたいな話です。

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