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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 159 夢の× ×

何だか思いっ切り話が動く話!!!というかこれ真理メイン回では!!!?『ラプラスの魔物』から読んでる人には「おっ あの子じゃん」って思う話だぞ!!!

身体が、軋む。ずきずきと痛む。動けば痛むし、動かなくても痛む。息をするのも苦しい。冷たい土は無情だ。


「ぱぱ……まま……。」


行き着く先では気味悪がられた。石を投げられた。『半妖』だから忌み嫌われた。


「なん、で……。」


霊山の入口で、清い世界に入ったのに。己の身体を蝕む呪いは消えない。


「……だれ、か……。」


どうして。清い世界じゃないと生きていけないから、霊山まで命からがら逃げて来たのに。


「……たす、けて……。」


ゆるゆると、伸ばした手は空をかいた。







「じゃ、行ってくるよ。お昼には帰るから。あとお昼食べたら夕飯までには帰ってくるから。」


「そんなにあの霊脈が気になるの?」


「……いや、ちょっと気がかりな事があってさ……。あぁいう霊脈には、そういう『モノ』が取り残されてる事が多いんだよね。」


城門の前で、緑珠は考え込む。


「霊山には天女が住むものね。」


「そんな霊山も最近は少なくなってるみたいだけどね……。世知辛いねぇ。」


「行き着く先が無くなった天女は、何処へ行くのかしら。」


ほんの素朴な、残酷極まりない質問に答える。


「……さぁ。その時こそ神代が終わるんじゃない?神を呼ぶ魔術師が本当に珍しくなる時代が来ると思うよ。」


「そんな時代に産まれなくて良かった。」


「おや、どうして?」


分かってる癖に、と緑珠は悲しそうに微笑んで付け加える。


「貴方やイザナミちゃんに会えなかったなんて考えるだけで苦しいわよ。」


「僕は君の父親だから神代が終わってても会いに行くよ。」


ぽんぽん、と優しく緑珠の頭を撫でる。それじゃあね、と真理は軽く手を振った。


「ちまちま帰って来るし。あんま心配しないで。」


「怪我したら怒るから。」


「怒られないよう善処するよ。……それじゃあ。」


元より用意していた魔法陣に飛び乗ると、視界が大きく変わる。


「よし……着いた、かな。」


霊脈の麓に辿り着くと、山々の合間の街に到着する。


「……それじゃあ、探さなきゃね。呼んでくれたあの子を。」


真理が歩き始めた頃、緑珠は紅茶を中庭で呑みながらイブキへと問うていた。


「真理へ日頃のお礼を伝えたいの。」


「……はぁ。」


「有難うって言葉と共に何かを送りたいのだけれど、何が良いかしらね。」


「何でも良いんじゃないですかね?」


真理の事になると一気にぶん投げるイブキに、緑珠は苦言を呈した。


「そんな適当に言わないでよ。貴方には色々したでしょ?」


「そうですね。此処ではちょっと言えないことも。」


「……えぇ。そう、ね。」


「認めちゃっていいんですか。」


「…………まぁ、言い方はあれだけど間違ってはいないから……。」


やった、と小さくガッツポーズをするイブキを見ながら、ぶんぶんと頭を振る。振りすぎて首が痛い。


「いえ、そういう事じゃなくて。何がいいのかしら。お酒は弱いでしょ?美味しいご飯とかだったら喜ぶかしら……。」


「……真理って一応、貴女のお父上にあたりますよね?」


「まぁそれは、そうだけど……。」


産まれる前の話だから厳密に言うと違う気もしなくは無いが、まぁそうであることも無い。なら、とイブキは耳打ちした。その提案に緑珠は嬉しそうな声を上げる。


「そ、それにする……!イブキ、貴方ってば天才ね!作る!今からそれ作るわ!」


「お褒めに預かり光栄です。でもその前にお仕事しましょうね。」


何時もの笑顔に対して、緑珠は少し寂しそうに。


「……はぁい。」


呑気に、返事した。








《おやおや、こんなところに。》


《半妖の子供が。》


《父や母は居ないのでしょうか。》


《一人で居るのかしら。》


《清い半妖じゃ。哀れな事よ。》


《羽衣を掛けなさい。さすれば呪いも少しは良くなるでしょう。》


そんな声で、半妖の子は目を覚ました。自分の事をひらひらした服を着ている人が取り囲んでいる。


《おぉ、目を覚ましたぞ。》


《霊山に逃げて来たのですね。》


こくん、とその言葉に頷く。


《親はどうなされたのですか?》


ううん、と首を横に振る。


《呪いを軽減する為に霊山に来たのよね?》


うん、と首を縦に振った。


《この霊山ももう直ぐ霊力が尽きるのじゃ。奥に逃げるつもりをしておってな。主も来るかえ?》


こくん、と首を縦に振った。言葉を喋る勇気と元気は無かった。


《少し食べなさい。半妖の子。》


果物が差し出される。ばくばくと周りを気にせずに頬張る。手が汚れるのも無視して、周りをはばかることなく貪る。


《清い半妖……何との娘じゃ、主。》


銀髪の半妖は何も答えない。分からないからだ。


《……そう言えば。北の武帝の国で、銀髪の男と御稜威の座敷童子の女が結婚したという話を聞きました。》


《何時の話なの、それ。》


《もう数百年も前の話だったと思いますけど……。》


《見た目にそぐわないのは半妖の証よね。》


天女達は髪が方々(ほうぼう)に伸び切り、ぼろぼろの服を着た四つほどにしか見えない、黒い瞳の幼女を見る。


《座敷童子の力を多く引いた様ですね。きっと今までは山で穢れが来ない場所に居たのでしょうねぇ。》


《……にしても、霊脈が少なくなっているこんな時代に生きていくのは辛かろうなぁ……。》


《私達天女でも天からの派遣が無くなるくらいだもんね。》


幼女は天女の事は何も気にしていなかった。言っている事が分からないというのもあったし、気にしても仕方ないというのもあった。


《後でこの娘を綺麗にするぞ。》


《えぇ。勿論よ。綺麗な服を着せましょうね。》


そんな暖かい会話も、半妖の幼女は何も分かっていなかったし、理解していなかった。








「さむ……。」


がやがらとした人混みを抜けて、登山道まで赴く。此処から頂上までが遠いんだよなぁと思いながら足元の石ころを蹴った。


「……おや、こんな所に居るもんなのかい?天女ってのは。」


《これはこれは。天に御座します我が神よ。》


入口付近の岩を超えると、ひらひらした服が煌めく。


「そんな大仰に言わなくても良いよ。探しに来たんだ。」


《捜し物ですか?何なりと。》


「清い所じゃないと生きていけない子だよ。苦しみに喘いでいるのが聞こえてね。」


《……それなら、あの子が言ってた子かしら……。》


「心当たりでも?」


こくん、と天女は頷き答える。


《頂上付近の天女達から聞きました。半妖の子が命からがら逃げて来たと。保護して、頂上まで逃げるそうです。》


「そうか。もうそんなに天女達の居れる場所が少なくなってきたのか……。」


《派遣も次で止めるとの話も聞きました。……私達は良いのですが、半妖の娘が……。》


悲しそうに顔を歪める天女を見遣る。天女は慈悲深い存在だ。消え行くモノを許せないのだろう。それが自然の摂理だと言うのに。


「それをどうにかする為に来たんだ。案内しておくれ。」


《仰せのままに。此方の洞窟を通れば直ぐに頂上へ到着出来ます。》


さぁさぁ、と誘われた洞窟に足を踏み入れる。川が流れているらしく、水の音が聞こえた。


暗い洞窟内でも不思議と光る天女の後を追う。きっと心細い旅路で会う天女は旅人には神に見えたのだろう。


きらきらと輝くその様は太陽以外に他ならない。これは安心する心地を手に入れられる。


《そこはお足元にお気をつけて。》


「有難う。って、あれっ、ちょっ、まっ、滑っ!」


《宜しければお手を。》


「掴ませて頂きます!」


慌てて掴んだ手を軽く手前に天女は振ると、ふわりと真理の身体が浮かぶ。


《うふふ。此方ですよ。》


「ほんと不甲斐無い……。」


《いえいえ、お気になさらずに。さぁ、もう直ぐですよ。》


天女の言った通り、後を追っていくと直ぐに光が見えた。


《到着しました。頂上、なのですが……。》


人っ子一人いない。天女達が一時的に住まう頂上には豪華絢爛な建物があるが、窓から覗いても誰も見えない。


「……何でこんなに居ないんだ……?」


《頂上まで来て居ないとなると、霊山の大結晶の洞窟くらいしか思い浮かびません。気配も無いし、一体なに、が……!》


ああっ!と天女は口を抑えて空を指さす。紫色の波が高速でこちらに向かっていた。


「あれは……。濃い瘴気だね。ちょっと待ってな。今すぐ結界を張るから。」


ぱん、という乾いた音と共にあの杖が現れる。


「『境界結界』。」


紫色の結界が二人を包む。その直ぐ後に、天女の街は瘴気に覆われた。鈍い音を立てて皆崩れていく。


「もうダメみたいだね。この街も。人が入り込んでしまっているみたいだ。」


《っ……。》


真理の言葉にも返さずに、ただ呆然と天女はふわふわと浮いている。顔から生気は抜けてしまっていた。


「取り敢えず今日は天に帰りなさい。天女は精神的な面でも持ってるんだ。消えかねないよ。」


《……。》


惨状を目の前に、天女はただ立っていた。真理は彼女の足元に手を翳すと、そのまま天へと送る。


「……よし。……僕は瘴気は大丈夫なんだけど、これはちょっと苦しいな……。」


清い天女が作り出した、清い街は皆崩れ果ててしまった。瓦礫を超えて、先の天女が話していた洞窟を目指す。


「確かこの先だよね……。」


薄汚れた臭い湖を横切って、中が黒い洞窟に足を踏み入れる。


「……この調子じゃ、中の子は無理そうだな……。」


ジグザグになった洞窟内を通り、通り、通り。長い時間通り、ひんやりと冷たい空気が頬を撫でたとき、


「まぁ、こうなってるだろうって思ってたよ。世の中は辛いもんだねぇ。」


大結晶はただの石ころになりかけており、天女は全て皆消えかかっていた。これはもう助からないだろう。


あの天女を連れて来なくて正解だ。確実にあの子も消え失せてしまう。


「ん?天女達が集まってる……。」


一箇所に、天女達が山になって倒れ込んでいた。その透けた身体の先に、半妖の娘は居た。しかし苦しそうに喘いでいる。


あの瘴気の波を受けて尚生きている理由は、此処の消えていく天女が示していた。


「やぁ。今日は。半妖のお嬢さん。君は生きたいかい?」


ゆるゆる、と半妖は手を伸ばす。そしてしっかりと真理の手を掴んだ。


「……そうか。それなら生かしてあげよう。ちょうど夢の神の枠が空いてたんだ。」


ぱんっ、と真理は手を叩くと、辺りは真っ暗に染まる。


「君には現世も幽世も関係ないと思うんだがね。どうだい、夢の世界は。」


こくん、と幼女は頷く。そして真理の髪留めを指さした。


「ん?これ?欲しいんだったらあげるよ。その代わりちゃんと夢の神になってくれるよね?」


真理の問いに、また幼女は頷いた。


「では。君に名を与えよう。夢の世界を取り仕切る神、『莫奇ばくき』よ。」


そっ、と銀の髪を触る。嬉しそうに幼女は微笑んだ。何かを感じ取ったらしく真理は言った。


「……たどたどしい言葉で喋るんだね。良いよ。可愛いじゃん。」


莫奇がふわりと飛ぶと、りんりん、鈴の音が鳴る。


「それじゃあ、ね。また来るから。」


真理の後ろ姿を、莫奇は少し寂しそうにみていた。








次回予告じゃーーーーーーーーーーん!!!

真理がさくーーーーーっと帰って来れたり世の中のお父さんが一度は欲しいアレを手に入れたりイブキのお友達降臨したり平和回が続く〜〜!

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