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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 156 女帝の瞳

緑珠様が思いっ切り恐れ多くしようと思って頑張るけど人柄の良さからそれが無理だったりリリシアンに夫婦漫才じゃんって言われる話。

「ふふふ……良い働きをしたわね……。」


「……えーっと。」


「褒めて遣わすわ。褒美を与えましょう。」


「……あのう……。」


「あら、何かしら。」


「……そんな格好付けなくても良いですよ。」


自慢げに王座に座っていた緑珠に、イブキは淡々と言う。


「……な、何を言ってるのかしら。」


「貴女足組んだりしないでしょう。骨盤歪むの嫌だから。」


「うっ……。」


「あと装飾が変な所に当たって痛いとか。」


「ぎくっ……。」


「……私はさっきから何の夫婦漫才を見せられているのでしょう……?」


リリシアンは緑珠の前でそんな事を呟く。何時も通りの姿に戻すと、


「……ごめんなさい。ちょっと大きく出たかったの。」


「いや別に、私は気にしませんよ。」


「そう?有難う。早速だけど玉座は窮屈なのよね。庭の噴水言ってお喋りしない?」


「意外とフランクなんですね。」


リリシアンの目を受けて、イブキはのんびりと言った。


「この人は何時もこんな感じの人ですよ。」


「ね、ほら行きましょう。やっぱり同じ目線で話せるのが良いわ。」


ぴょんっ、と緑珠は玉座から立ち上がると、困惑するリリシアンの手を引っ張り玉座の間を飛び出す。そんな一部始終を見て、一つ笑みを零して。


「……さて、僕も仕事をしましょうか。」








「さてと。先ずはお名前を聞かせてくれる?聞いては居るけれど、貴女の口から聞きたいわ。」


噴水の水音が背後にある。青空の元で緑珠はリリシアンの顔を覗き込んだ。


「リリシアン・フォン=エクゼラダート。エクゼラダート家の末娘です。」


「確かエクゼラダート家の領地って金属加工品が有名なのよね?」


「お陰で銃が好きになってしまいました。」


苦笑しながらリリシアンはそう言うと、緑珠は意を決したように言った。


「あ、あのね。お願いがあるの。」


「お願い?」


「……聞いたんだけど、貴女って魔道式が組み込まれた銃を持っているそうね……?」


「えっ、あ、それはそうですが……。」


「み、見せて貰える、ことは……?」


「構いませんよ。」


どうぞ、と差し出された拳銃を、目を輝かせて見ている。胴には『魔道式拳銃Ⅰ型ペルラン』と書いてある。


「素晴らしい出来だわ……銃の綺麗な装飾もさる事ながら、魔道式の組み込みも馴染んでいて使いやすい。」


ぶつぶつと呟いている緑珠を見ながら、リリシアンは笑う。


「……ふふっ。」


「あら。どうしたの?」


「もっとお堅い冷たい人だと思っていました。」


「堅い方だと、思うけれど……。冷たいは分かんないわね……。」


『?』が頭の周りにぽんぽん出る緑珠を見ながらリリシアンは続ける。


「人間らしくない方だと思っていたんです。」


「そんな怖い感じだったのかしら……。」


有難う、と緑珠はその拳銃を返す。


「そうだ。そろそろお仕事の話をしなくちゃね。メイド長をするって言われてるのは知ってる?」


「いえ、初耳です。」


「……嫌じゃ、無い?」


不安そうな顔で、緑珠はじっ、とリリシアンを見詰める。……嗚呼、この瞳に人は誑かされるのか。心の何処か、腑に落ちる。


「嫌、とは?」


「私はまだお姫様根性が抜けないからメイド長なんて嫌って思っちゃうんだけど。……職に貴賎はないのにね、ダメだわ……。」


「……お姫様?」


引っかかる言葉がある。


「お姫様、って……?」


聞き直したリリシアンに、緑珠は妖しい笑みを浮かべた。


「あら。私の話は知っていたのに、私の出自は知らないの?」


「そうは言われても……。陛下のお話は……。」


「どうやって伝わってるか気になるわ。教えてよ。」


何時も話していたあの言葉を思い出す。


「ええと……『蓬莱緑珠は風に乗ってやって来ては、次見た時にはもう居ない。』ってよく言われてました。」


「何それー!良いわね、それっぽくて!冒険譚って感じがして良いわ!」


「……そうですか。」


きらきらとした目をしている緑珠を見ながら、リリシアンは淡々と返した。


「そうだ。貴女のこと、リリーって呼んでもいい?あとお洋服も見て欲しいし、そうだ、お化粧も……!」


「陛下、ちょっと落ち着いて下さい。」


「あぁごめんなさい、でも……私、同い歳の友達が少なくて。歳が近そうだから、ついつい舞い上がっちゃって……。」


項垂れた女帝にリリシアンは一つずつ答えていく。


「リリーでも何でもお呼び下さい。お洋服とお化粧の件は致しかねます。私は使用人ですから。」


「使用人が綺麗でいれば居るほど頂点に立つものはもっと美しくなると思うのだけれど。……ちがう?」


「否定はしません。ですが、かける所を間違れば一発で終わりですよ。」


「辛辣ね……。でもそれくらいが良いのかもしれないわ……。」


一人で緑珠は呟きながら、リリシアンを引っ張って彼女の一応の部屋まで案内する。


王宮から少し離れた別棟の一階だ。湖が良く見える場所にある部屋である。


「住み込みで働くなら家賃が居るけど、まぁ今月分は負けとくわ。城下に住みたかったら引越ししても良いし。」


一人で住むには充分な部屋だ。シックな木製の家具が沢山ある。


「……こういうの、好きです。」


「紅茶を淹れたりとか?」


「得意ではありませんが、好きですよ。」


練習しなくちゃね、とリリシアンは続ける。そして問いを投げた。


「此処の棟に住み込みで皆住んでるんですか?」


ちょっと困った様子で緑珠は言った。


「元々この国に住んでた子は住んでないんだけど、地上から来た子は住んでるのよ。でも安くて美味しいご飯が食べられるから地元でも住み込むくらい人気なのよね。新しく棟を建てなくちゃダメになって……。ほんとどうしようかしら。」


「そんなに財政が逼迫ひっぱくしてるんですか?」


「逼迫してた、のよ。ある程度まではこの間の特許申請した物でどうにかなってるし、小型飛行船の開発も順調。観光業も視野に入れてるし、事実ガイドの子が上手くやってるわ。」


問題は、と緑珠は続ける。


「これが平和に続くかどうなのかなのよね……。」


「どういう事です?」


「ほら、運用を開始したばかりでしょう?最初は上手くいってても、同じタイミングで不具合が発生したら直すのが大変だし。税金もそんなに多く取っちゃ不利益になっちゃう。負の連鎖に入っちゃお終いだし……。」


ちょっと苦しそうに笑顔を作って、


「大変なものね。」


ずっと手に持っていた旅行鞄を置いて、リリシアンはそっと緑珠へと言った。


「あまり気負い過ぎると毒ですよ。案ずるよりも産むが易しです。」


思ってもいなかった彼女の言葉に、緑珠は目を見開く。そして微笑んだ。


「……あはは、ありがと。此処最近寝てなかったからかな。疲れちゃったみたいだね。」


「え。寝てなかったんですか。」


「開発が大変だったからだよ。さっき言ってた飛行船があるでしょ?あれのせい。」


「寝た方が良いですよ。宰相様が五月蝿そうです。」


「……否定はしないかな。あっ、そうだ。」


箪笥クローゼットを開けて、中にある濃紺のワンピースがある。フリルのワンポイントが濃紺をより強調していた。


「これよ。貴女に渡したかったもの。可愛いでしょ。エプロンはこれね。帽子はこれよ。」


一通り見たあと、緑珠はうん、と頷くと、


「……うん。可愛いわ。」


「着たいくらいって言いませんよね?」


「あら、どうして分かったの?」


「僕が来るからでしょう?」


リリシアンの背後から馴染み深い声が聞こえる。彼女を壁にして緑珠は言った。


「あら。イブキじゃない。どうしたの?」


「特許申請のゴタゴタについてです。少し確認したい事が。」


「あらそう。なら直ぐ行くわ。」


緑珠は綺麗に濃紺のワンピースを箪笥に仕舞うと、軽くメイド長に断る。


「ごめんね。沢山話そうと思ったのだけれど。やって欲しいことは机の上に纏めて置いてあるからそれ見てね。明後日からは業務開始をお願いしたいの。」


「仰せのままに。」


ばたん、と閉じられた扉を見ながら、銃が詰まりに詰まった鞄を引っ張る。そして仕舞われていた箪笥に手をかけた。


「……これが、制服。」


エプロンと帽子が無ければ外出着にも使えそうな仕上がりだ。


そんなワンピースが三着もある。エプロンも同じ数ずつあった。


前がクロスしていて、ワンピースのフリルが見えるデザインになっている。


「人間って、思ってた人生を歩まないのね……。」


後でこの鞄も返さなければ。紫髪の魔導師が返さないでいい、きっと役に立つ物だからと与えてくれた物だが、どうにもそういうのは性に合わない。


「……そうだ、下着!」


あの混乱で色々忘れていた。着替えの服も……まぁ最悪制服で良いが。下着を忘れてしまったら終わりである。


「ま、まぁ、お金は、あるし……。」


苦々しい金額を見つめたその奥に、白いものが見える。何だか知っている手触りだ。


「……これ……。」


セットで出すと、日用品がバッチリ詰まっていた。歯磨きやブラシは勿論、下着や替えの洋服まである。


「……役に立つ物って、そういう……。」


身体に張っていた糸が緩むように、何時の間にか彼女の身体はベッドに転がっていた。


「明日、身の回りの、じゅんび、して……。」


声が途切れる。その後に、穏やかな寝息が続いた。








「特許申請の書類がどうかしたの?」


「厳密に言うと返ってきた書類の記入をお願いしたいのと……。」


執務室に急ぐ緑珠の前に、イブキは嬉しそうに笑いながら言った。


「緑珠様から、美味しそうな匂いがします。」


「……な、何の事かしら。」


ちょっと惚けながら、


「コロッケとか。」


「うぐっ……。」


「サンドイッチとか。」


「うぅ……。」


「カレーライスとかの、それも最近食べたばかりの匂いがします。美味しそうですねぇ。」


「むむ……。」


子供の様に拗ねて俯いた緑珠の頭を、イブキは優しく撫でる。


「別に僕は食べるなって言ってませんよ。間食がダメなんです。どうせ貴女の事ですから、僕が居ないと寝てないんでしょう?」


「な、何でもお見通しって訳ね……。」


緑珠は捻り出した声を使う。


「お腹空いてるなら食べに行きましょう。誰も怒りませんから。」


「……ほんと?怒らないの?」


てっきり怒られるものだと思っていた。なぁんだ、杞憂だったか。


「うん!行くわ!何を食べようかしら……!」


「その後に書類をしましょうね。」


「んふふ!分かってるもーん!」


嬉々としながら進む緑珠の後ろに立つ宰相の手に軽い睡眠薬がある事を、彼女はもう少し先で知る事になるのだが……。


それはまた、別の話。

宰相様に追いつこうと必死な副宰相が可愛かったりリリシアンが早速最高の働きをしたり地元の国について知ったりする話。

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