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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第ニ章 霊力大国 御稜威
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 9 月下の幕間

これより始まるは、幕間の物語ーーー!

自分達の国を作る為に第一の大国の調印を手に入れた緑珠一行は、自分達の拠点へと戻る。其処で緑珠が語る、『日栄帝国』では誰も語りたがらない物語を真理へと語った。何故、皆が此処まで歪んでしまったのか。そして、緑珠の皇女だった時の義務感と、その逸話とは?是非是非ご覧あれ!

「やぁっと、帰ってこれたー!」


緑珠が扉を開けてそう叫ぶと同時に、家の中から帰りを待った声が聞こえる。


「お帰りなさいませ、皆さん!」


「本当にただいまだわ、華幻ちゃん。」


夕暮れが暮れに暮れた琥珀色の光が、草色の居間に転がっていて、緑珠が其処に飛び込もうとする。


「うおっっしゃぁ!」


「はいはい、駄目ですよー。着替えて下さいね。」


飛び込もうとした緑珠が、イブキに担がれる。


「うぉぉぉ!離すがよろしー!」


「語調変わってますが大丈夫ですか。」


びちびちと魚のように荒ぶっている緑珠を、縁側の先にある、月が零れた庭の部屋へと運ぶ。


「おーなーかーすーいーたー!」


「作るのでじっとして貰えませんか。とにかく部屋に入って着替えて下さい。」


「はぁぁい……。」


半ば投げる様に緑珠を部屋へ押し込めると、自身は台所に立ちすくむ。


「……どうしたの?」


イブキの抜けた表情に、真理は不思議に思って問う。


「いや、あるでしょう?今まで旅料理を食べて来て、簡易な物だったから普通の料理を作りたいと言う気持ちと、でも疲れているので作りたくないと言う気持ちがせめぎ合うことって。」


「ごめん、僕料理作んないからわかんないや……。」


腕を組んで、イブキが出した結論は、


「作ろう。焼き魚で良いです。」


真理は辺りを見回して言った。


「緑珠は……部屋か。お着替え中?」


「そうです。華幻、着替えを手伝って差し上げなさい。」


「もう、お兄ちゃんったら!どうしてそんなに敬語を使うのよ!家族でしょ!私と約束したじゃない!」


華幻の駄々に、イブキは絶対に人間に見せてはいけない仄暗い物を目に込めながら言った。


「……あーあー、ごめんって。」


「もー……!手伝って来るからね、ご飯いっぱい作ってよね!」


「はいはい、分かった分かった。」


たんたんたん、と冷たい木の床を走って行く華幻の音が途絶えて、暫くした瞬間だった。直ぐに華幻が走って来る音が聞こえる。


「お、お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!」


「どうした?」


わたわたしている華幻を、イブキは冷ややかな瞳で見た。


「りょ、りょ、リョクシリア様が、緑珠様が居ないの!」


「……どういう事だい?きっと家に居るでしょう?」


真理が訝しげに華幻を見つめる。


「違うんです!服も、何も無くて……居た痕跡自体が消え失せていた感じで……。」


イブキは少し考えると、真理に指示する。


「良いでしょう。きっとこの家の何処かに居ます。真理、早急に探し出して下さい。安全な場所なら……まぁ、気の済むまでその場に居させてあげて下さい。話したそうにしているのなら、そのままさせて上げて下さい。」


むすっとした顔で華幻は兄に言った。


「お兄ちゃんはどうしてそんなに落ち着いてるの?だって、だっ」


「僕は。」


イブキは華幻の一言を遮って下準備を続ける。


「あの人の事を何でも知っています。好きな物、嫌いな物、趣味、それはもう、果てから果てまで、何でも。……ですから、僕が心配無いと言えば、心配無いんですよ。」


イブキは妹の身長に屈んで、頭を撫でて言った。先ほどの仄暗い瞳はしまって、明朗快活な笑顔で。


「心配してくれて有難う、華幻。真理と一緒に探して来てね。」


華幻は少し憂いを帯びた笑顔で、真理と共に行く。


「それじゃあ、行こうか。」


「はい!」


長い廊下を歩きながら、真理は陽気に華幻へと問う。


「華幻ちゃんはお兄ちゃんのこと、好き?」


華幻は即座に返答する。


「大好きです!お土産話も面白いし、格好良いし、強いし、賢いし。自慢の兄なんですよ!」


にこにこと笑っている華幻を見ながら、真理は内心ため息をついていた。


(こんな慕ってくれる妹を持っていながら……。)


けれど華幻は少し考えながら言った。


「でも……昔、ちょっと怖い事があったんです。本当に、一回だけだったんですけど。」


「怖い、こと?」


「えぇ。そうなんです。びっくりさせようと思って兄に抱き着いたら、振りほどかれて。」


華幻の声の調子がどんどん暗くなって行き、最後には地を這う様な声を出す。


「ごめんって、謝ったんです。けど、顔をあげた時の、あの時の兄の表情は……人を殺す様な目をしていました。私だと分かると、そのままの目で、転けている私に笑ってしゃがんで手を差し伸べて来ました。…………家族相手にそんなこと、兄は絶対にしないのに。」


華幻の一言に、真理は過剰に反応した。


「家族相手に、そんなことしないだって?」


木の床が異常に冷えて居るように感じる。


「そうです。兄はそんなこと絶対にしません。家族には何時も一線を引いている様な人でした。けれど、他人に対しては……赤の他人に対して、異常な程優しかったんです。気持ち悪いくらい。……一度母親が言ったんです。冗談めかして『家族にも優しくしなさい』って。」


「そうしたら?」


ゴクリと、唾を飲み込むと、華幻は続ける。


「……『留意致します』。そう言ったんですけど……私だけだったみたいで。」


「何が?」


真理が続きを催促する。


「……『家族全員殺してやる』って感じたのは、どうやら私だったみたいで。しかも私が生きているのですから、絶対に大丈夫ですよね!だって、兄は優しいんですもの!私を見つけた時にも、ちゃんと優しくしてくれたし……!」


真理が呆気に取られている間に、華幻は思い出した様に続ける。


「そう思うと、リョクシリア様……緑珠様も、随分と顔に表情が出られるようになりました。昔はもっと、機械人形みたいな人でしたから。……こう言っちゃあれですが、もっと冷徹な人でした。」


真理が関心を寄せているのを見ながら、華幻は続ける。


「一度だけ、謁見をした事があったんです。社交辞令の塊の様な人で、すらすらすらすら言葉が出てくるんですよ。目の前に台本があるように。今みたいに活力に溢れていませんでした。ただひたすらに、己の死を待ち望んでいるような人でしたから。」


「そんな……人だったのかい?」


今とのギャップに驚きつつも、華幻は何とか思い出しながら言う。


「帝国では、余りにも緑珠様が冷徹だと言うことで、こんな逸話があったんです。今から無実の罪で殺される男が居て、その人が緑珠様に助けを求めたんです。『助けたくれ、俺は何もしていない』って。そうしたら緑珠様はこう答えたそうなんですよ。『別に貴方が死んでも私には関係ないわ。税収が減るのが残念ね。』って。それだけ。吐き捨てる様に言ったそうです。」


でも、確かに……と、華幻は続ける。


「……そう言われても、仕方のない人だったと思います。私自身は、あの人が笑った所なんて見た事も無かったですし、挨拶をしても、『……そう。光遷院の末娘ね。』と言っただけでしたし。果てには何か感動の言葉を言っても、能面を着けているみたいに何も表情の変化がありませんでした。」


真理がギャップのある緑珠の話を聞いて華幻に問う。


「それじゃあ、きっと吃驚したんだろうね。緑珠に久し振りに会った時は。」


「そうですね!人が困っていると走って来るような人ではありませんでしたからね。最初は死んで生まれ変わったのかと思いましたよ。」


一階部分を捜索しながら華幻は言った。


「駄目です。本当に見つからない……私、庭の方も探して来ます!真理さんは、二階をお願い出来ますか?」


「うん。探して来るね。庭は夜暗くて見えない所もあるから、気を付けて。」


真理は華幻から離れて二階へ上がる階段へと向かうと、案の定誰かの凛とした声がする。


「其は理を以て尊しと成し、法を以て人を為す物。これを以て人の上に立つ者とし、是を以て人を治める者と為せ。」


「りょーくしゅ!皆心配してるんだよ!」


「きゃあっ!」


電気も付けずに月明かりだけで何かを読んでいる緑珠が、真理の方を向いて腰を抜かしている。


「何、読んでたの?」


「……知ってる癖に、ねぇ?」


緑珠は悪戯っぽく笑った。


「気になるんでしょう?私がどうして貴方を余り頼らないか。そして、面と向かって話を余りしないのか。……本当に、知ってる癖に。」


真理は苦笑いをしながら緑珠を話を聞く。


「貴方が、私を創ったから。無作為に生まれ出でる人間では無く、波瀾万丈の運命を押し付けた人間、それが私だから。」


神様は開けっ放しの扉にもたれて問う。


「……何時から、気付いてたの?」


緑珠は真理の一言に、とんでもなく悲しそうな顔をする。


「何時からだって……そんなの、どうして、どうして否定してくれないの……?私の推測が、全部嘘で、それで、私が……皆が、幸せで……!」


真理は緑珠の頭を撫でる。よしよしと、まるで赤子をあやす様に。


「君は優しいんだね。『否定しないのね』、とは言わない。だけど、君は賢いから。」


「その、その賢さだって。その、賢さだって……。」


「ううん、違うよ。」


長い巻物を見ながら、真理は言った。


「その賢さは、君自身の物だよ。君の賢さは、君自身の物。それだけでも良いから信じてくれないかな?」


緑珠は答えずに前を向いた。


「……そういう事にしておくわ。」


泡沫色の淡い水の緑珠の着物が、夜風にさらさらと靡く。射干玉の黒髪が闇に融け行く。緑珠を構成する何もかもが、融けて無くなっていく様だった。


「これより話すのは、もう誰も話したがらないお話。私も話すのが嫌だけど、これだけを話しておかなくちゃあ駄目だと思ったのよ。……これは、皆が狂ってしまったお話。……伊吹の狂愛も、花ノ宮公女の絶対的な権力欲も、冷泉帝の死体愛好も……そして私の両親に対する異常な執着も、全てはこの事件より。……誰も話したがらない、誰も知りたがらないお話よ。皆が、狂ってしまったお話だわ。」

お楽しみ頂けましたでしょうか?幕間の物語も終わり、緑珠が向かうは第二の砂漠帝国『アフマル・ザフラ国』、その道中の物語。巨大砂漠『アルゴダ』を抜けるため、砂漠船に乗ろうとする一行だったが……?ラプラスの魔物 千年怪奇譚 10 11月17日21時公開!

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