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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 153 合流

緑珠様の声を聞けて嬉しい(捕食済み)の伊吹君と、真理ものんびりやっているのが分かるのでのんび〜〜り集まったりする話。

「あー……久しぶりに緑珠様の声が聞けた……。」


緑珠の特許申請の電話を聞いたあと、イブキは寝転がっていた木の下から立ち上がった、


「……早く帰ろ。真理に合流しなきゃですね。」


もう国は遠くない。白い城壁が見える。


「さてと。あの無臭野郎を探すには……。」


懐から、国土の土塊が入ってる袋と、足元にある土を混ぜる。


「前は急いでたから食べなきゃダメだったけど、今は良いですかね……。」


袋に顔を突っ込んで、土の匂いを嗅ぐ。ばっ、と顔を上げると、その先は国の中だ。


「なんか湿気た木材の匂いが同時にするんですが、捕まったりでもしてるんですかね。」


城壁の前を、顔パスで通ると、国の中に入る。何かに誘われる様に近づいて行く。


「何処だ……?」


大きい馬車が横を通る。嗅ぎなれた土の匂いと、水分を多分に含んだ土の匂い。『其処』か。車輪に足をひっかけて、屋根の上に乗った。


「な、なに馬車に乗ってんだ!」


乗っかった音に反応したのか、男がくるりとイブキの方へと向く。


そのままそれを無視して、薄い木の板に足を突っ込んだ。木の合間から見慣れた顔が見える。


「何してるんです?」


「いや、捕まっちゃってさ……。国まで行けるなら丁度いいかなー、と思って。」


「なるほど……。」


にやり、伊吹は笑う。そして近付いてくる賊を横目に、悪戯っぽく言った。


「えーっと、真理。……こういう時、なんて言えば良いんでしたっけ?」


縄でぐるぐる巻きになっている真理と中に入っている悪党共を見下ろしながら、伊吹は呟いた。


「そうだねぇ。『何してるんですか?』って聞けば良いと思うよ。」


「そうですね。『何してるんですか?』」


「……こういう時、どう返せば良いんだっけ?」


ニッ、と歯を見せて伊吹は一言。


「『遊んでる』って言えば良いんですよ!僕も混ざります!」


「それは助かる!」


がこん、と鈍い音が響いて、伊吹が天井を突き破る。そのまま匕首を抜き出すと、真理に突き出した。


その弾みでそのまま中に居た男を蹴り飛ばす。


「国まで行くのに丁度良いからって普通賊に捕まります!?」


「君が来るならいいかなっと思って!」


「理由が適当過ぎる!」


そのまま御者の場所まで突き進むと、手綱を掴んでいる手を無理矢理ひっぺがした。


「伊吹君、この馬車に乗ってるのはこれだけじゃないと思うよ!」


「埒があきませんね……!」


中に居た奴隷を縛っていた縄を引きちぎって自由にすると、馬車に火を放つ。


「こうすりゃ嫌でも警察が来るでしょう!」


「いや僕達どうやって逃げるの!」


伊吹は真理の服をわし掴むと、天井の空いている馬車から思いっ切り投げる。


「絶対そうなると思ってたー!」


声がどんどん遠くなる。賊が悔しそうに伸ばして来た足首を掴む手を踏んづけると、自分もそのままその方向へ跳躍する。


国外まで飛べそうだ。民家を足蹴にして、そのまま城壁外まで飛んだ。上手く着地すると、跡を作って倒れている真理が居る。


「お、生きてたんですか。」


「……て、てめぇ……!」


「アホですね。」


「小馬鹿にしやがって……!」


「ほら行きますよ。起きて起きて。」


「ちょっと待って。生き返るから。」


真理は一度、彼から受け取った匕首で胸元を突くと、また再生魔法をかける。適当に血をふき取ってイブキに返した。


「ほいよ。」


「……うわぁ……。」


「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。」


「血なんて綺麗なもんじゃないですよ……。」


「緑珠の血なら?」


「話は別です。」


「うわぁ……。」


真理が今度は悲鳴をあげて、それに興味が無さそうにイブキは進む。


「今日はもう遅いし何処か泊まりません?」


「なら国があるじゃん。態々出ること無かったのに。」


「馬車に放火しちゃったので駄目です。野宿です。」


「うそぉ……。」


あっ、なら、と真理がぽん、と手を叩いた。


「この近くに修道女会があるよ。泊まれるって聞いた事がある。」


「……男二人なんですけど大丈夫なんですかね。」


「宿舎が別らしいよ。そんなに心配しなくても良いと思う。」


「なら大丈夫ですね。」


真理が歩みを進めた方にイブキも進める。足元がぬかるんでいて気持ち悪い。


「ぬかるんでて気持ち悪いです。靴汚れるの嫌だなぁ……。」


「昨日降ったばっかりなんだって。かなり大雨だったらしい。」


「だからこんな湿気てるんですね……。」


べちゃべちゃと泥を掻き分けながら道を急ぐ。辺りはもう肌寒くなっていた。


暫く道を行ったところに、煉瓦造りの建物が見える。


「あれだよ。」


「結構大きいんですね。」


「そこそこ大きい修道女会らしい。ほら、旅人が行き来してるのが見えるだろ。」


「本当ですね。」


馬車置きを抜けて、宿舎を目指す。入る前にイブキはフードを被った。


「……何で被ったの?」


「いや、色々あるんです。『僕』ってバレちゃ面倒臭い人が居たりするんですよ。」


「まー、間違ってないかもね。」


入ると暖かい空気が身体を包み込んだ。若い修道女が二人に声をかける。


「おやおや、旅人さんですか?」


「そうだよ。二人。泊まれるかな。」


「泊まれますよ!あの、お連れ様は……。」


「……。」


じっ、とそのフードの合間から、修道女を見る。そのまま修道女はへたり込んだ。


「ひっ……。」


腰を抜かしたらしく、一人で立てないらしい。真理の横を通り過ぎて、フードを取って、修道女に手を差し伸べた。


「大丈夫ですか、お嬢さん?」


「……えっ、あ、は、い……。」


恐る恐る伸びた手を掴む。そして立ち上がると、笑顔を引き攣らせたまま、修道女は言った。


「に、二名様ですね。直ぐにご案内致します。お風呂と食堂は一階にあります。何か御用があればお申し付けくださいませ。」


ルームキーを渡されて、二人は階段を上る。


「……何であんな事をしたの。『知り合い』だったの?」


薄暗い階段を登りながら真理は苦言を呈する。


「『知り合い』じゃありませんよ。ただ娘一人怖がらせたら、もっと厄介な人が出てくるかと思いまして。そんな人が必要なんです。」


「何かの作戦の算段ですか?」


階段の上から若い女の整然とした声が聞こえた。それにイブキは平然と返す。


「そんな所です、修道女さん。」


「そんな名前で呼ばれるなんて心外ですわ。」


「おや。それではお名前を聞いておきましょうか?」


登り切った先には、如何にも責任感が強そうな修道女が居た。不機嫌そうに返す。


「言いません。……知らない人には名前を教えるなって言われてますから。」


「でも僕等に声をかけたのは偶然じゃないんでしょう?」


イブキの言葉に修道女は詰まる。そのまま部屋の案内を始めた。


「貴方々の部屋の担当をさせて頂きます。何かあればお申し付けください。」


「随分と召使いの様な事をするんですね。」


「この修道女会は花嫁修業も兼ねる、というシステムなんだそうです。他人に奉仕する喜びを覚えるだとか。……建前も甚だしい……。」


ぼそりと呟いた一言を取り上げる。


「『建前』?」


ちらりと見遣ると、二人の部屋の真ん前に修道女は立った。


「お部屋です。風呂と食堂は一階にあります。……旅人には関係の無い話です。」


会話と前後しながらそう呟くと、そのまま修道女は去っていく。


「……な、何か、トゲのある子だったね……。」


「良いじゃないですか。緑珠様が欲しいと言っていた人材はああいう人です。」


「そもそも何探してんの?」


部屋の中に入って電気を付けながら、イブキは淡々と返した。


「『メイド長』です。」


「……あー、成程……。」


荷物を適当に置いて、イブキはまた外に出る。


「お腹空きました。」


「あっ、僕も。」


「なら行きますか。今なら面白い話が聞けるかもしれませんし。」


「……何それ。」


具体的に返すことも無くイブキは微笑んだ。


「『面白い』話ですよ。」









「『面白い話』って言ったって……。」


ぱくり、パンを噛んで。


「何も聞こえないんだけど。」


「そりゃ普通の人間には聞こえないでしょうね。」


「……何か聞こえるの?」


「聞いてみて下さい。」


真理はそっと目を瞑ると、何処か向こうから話し声が聞こえる。


「な──あんな人──ん─で──すか!」


先程の修道女の声だ。間違い無い。


「其処の修道女さん。ちょっとお尋ねしたい事が。」


給仕をしていた修道女に、イブキは声をかけた。


「なんでしょう?」


「聞きたいことがあるんです。この辺りの治安のことなんですが……。」


「あぁ、あの話ですね……。」


「そうなんです。詳しく教えてくれませんか?」


周りに誰も居ないことを確認すると、修道女が二人の向かいの椅子に座った。


「此処って街道じゃないですか。売春宿があるらしくて。其処に修道女が流されてるって噂なんです。」


「……売春宿で修道女を働かすのは違反では?」


「違法売春宿なんです。だからほら……リリーが黙って居なくて。」


「リリー?」


きょとん、と修道女は首を傾げる。


「リリーは貴方々のお部屋の当番をしてくれてる人です。名前……御存知ありませんでした?」


「教えてくれなかったもので。」


「あら!なら私が言ったと言うことは秘密にしていて下さいな。あの人、責任感と正義感の塊みたいな人なので……。」


「だからあんな風に声を荒らげて?」


「そうです。……失礼な話なんですが、貴方々二人をその、売春宿の回し者だと思っているらしくて……。」


気まずそうに目を逸らした修道女に、イブキは優しく声をかける。


「いえいえ、お気になさらず。それくらいの危機感は持っていた方が良いですよ。彼女は腕が立つんですか?」


「えぇ。銃系統なら何でも扱えるそうです。……ま、まぁあの性格ですから、周りに若干疎まれている所もありますが……。」


秘密ですよ、と修道女は付け加える。有難う御座いましたと返すと、そのまま笑顔で修道女は去って行った。


「なぁ伊吹君。僕は質問をしたいのだけれど。」


「何でしょう。」


「君、最初に『あの話』って言われて何の話か分かってたの?」


「分かってる訳無いでしょう。」


短くそう言い切ると、イブキは食器を持って立ち上がった。


「……危機感があっても、ヤバいやつを引き当てるんですから……。世の中って怖いですねぇ。」


くつくつ、と喉が鳴った。








「有難う御座いました。助かりましたよ、本当に。」


じっとり、雨上がりの空気が辺りを覆っている。見える山には霧が上っていた。


「夜の内に雨が降ったそうですから、また雨が降るかもしれません。もう少し旅立ちを遅くしては?」


「あぁいえ、気になさらないで下さい。先を急ぐ旅のものですから。」


司教の言葉を抑えて、イブキは言った。


「それじゃあね。有難う。また何かあったら寄らせて貰うよ。」


二人は修道女会に手を振ると、教会から見えなくなる所まで歩く。


「決めました。僕、あのリリーって人を引っ張ります。」


「納得するかな。」


「納得する理由を作るんです。来なければならない理由を。」


小さな崖を登ると、森伝いにまた修道女会に戻る。しかし、ぴたりとイブキは止まった。


「……火薬の匂いがします。」


「何でまたそんな物騒な匂いが。」


「ほら、其処の木の根元にありますよ。小型の爆弾みたいですけど。」


「……ん?」


真理がそれに近付く、恐る恐る触れると、益々疑問に顔が歪む。


「おかしいな……。」


「何がです?」


「泥はねが無い。」


「……ほんとだ。」


他にもくっついている爆弾を見ると、泥はねが無い。昨日雨が降ったのに何も着いていないのだ。


「って事は、この爆弾は早朝に付けられた……?」


「何でまたそんな事を?」


「僕達の為じゃない?」


「わぁ、それすっごいサプライズですね。」


「そんな適当な……。」


爆弾や物騒な物やらを避けて、あの修道女会が見える木の上まで移動する。双眼鏡で、あの教会を眺めた。


「おー……良く見える良く見える……。」


「何するつもりなの。」


「……悪魔的な事をしなくてはなりませんかねぇ。」


「勿体ぶってないで教えてよ。」


双眼鏡を外して真理を見遣ると、


「あの教会を、売春宿に襲撃させませす。」


「……正気かい?」


「僕は何時だって正気で本気ですよ。」


「疑わしい事この上ないんだけどね。」


少しの間の沈黙を、雫の音が誤魔化す。


「……君には罪悪感って物がないのかい。」


また、水の音が続く。疑問にも確認にも聞こえる文章に、イブキは言った。


「悪いと思って行われる犯罪など、この世には無いのです。」


「言うねぇ。」


「僕は、」


一息つくと、


「僕は、あの御方の為なら何だってする。仕えると決めた時からあの御方の倍くらい手を汚すだろうって分かってたんです。」


「彼女が聞いたら泣くと思うけれど。誰も殺して欲しいって頼んでないでしょう。」


「僕だってあの御方を傷付けて欲しいだなんてこの世界に頼んでないんです。」


若干ふらつきながらもイブキは立ち上がった。


「……行きましょう。早く仕事を終わらせて帰らなきゃですね。」

地図を無理矢理作らせたりラプラスの魔物シリーズを読んでいる人なら分かるあの人が登場したりするお話。

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