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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 152 徹夜

緑珠様の頭脳の化け物さをハニンシャがびっくりしたり伊吹君も頭よかったよなーって思ったりする発明しまくる話。

「来てみたは良いものの……。」


「来た時点で良くないですよ……。」


ハニンシャの言葉をすっ飛ばして、緑珠は。


「ほんっと、何も無いわね。石しか無いわ。」


「……言ってた通り、田舎ですね。」


色々諦めた声音でハニンシャは呟く。近くにあるのは石ころだけだ。


「ま、この石ころを探しに来たのだけれど。」


「本当に役に立つんでしょうか、これ……。」


「『役に立たせる』のよ。無理矢理でもね。」


「そもそも国債を発行すれば良いのでは……?」


「借金なんて作るもんじゃないって教えられたわ!さぁさぁ回収しましょう!」


緑珠は足元ににある石ころを袋に突っ込み始める。


アリーシャに提案されたのだ。『安くすれば儲かる仕事』を。


「えーと……確かこの石は、融点が高いのよね。手間がかかるしちょっとしかとれないから、高級なのよね。」


「そうらしい、ですね。」


「だから手間がかからずかなり取れたらボロ儲けって事よね。」


「……間違ってないですね。」


「億万長者だわ〜っ!」


「……そういうのを、取らぬ狸の皮算用って言うんですよ。」


ハニンシャのじっとりした目を、緑珠は軽く受け流す。


「あら!私がそうだと言ったらそうなるの!早速帰って研究開始よ!今日のお仕事は終わってるし!帰っちゃいましょう!」









「で、帰って来た訳ですが。」


ハニンシャはぼんやりと帰って来た緑珠の猛攻を思い出す。


『これ公安の科学課に回して。』


『あと今日の夕飯いらないから。』


『今現在分かっている金属の溶錬方法を全て調べておいて。』


ぐるぐると、ハニンシャの頭の中にそんな事が過ぎる。上記二つは成した。後は残り一つだ。というかその本を大図書館から引っ張り出して来た。


そしてその本を、今から差し出すのだ。


「陛下、失礼しま」


『有難う。入口に置いといて。』


くぐもった声の後、失礼しますと一言言って部屋に入った。眼鏡をかけながら大量の資料を同時に読んでいる。


……そういえばこの大地を浮かしたのもこの人の頭脳のなせる技だったし、何やら博士号も持っているという噂だ。


宰相様も一晩で法律と憲法を書き換えてしまう方だし、えげつないことこの上ない。


というか大体、義務教育と並行して法律と憲法を勉強するのがおかしいと思うのだが、あの御二方の国では普通だったのだろうか。


「ふぅ。夕飯夕飯……。コックさんにはもう言ってあるし、僕は一人で夕飯か……。」


家に帰るのもアリなのだが、姉が煩い。結果的に一週間の半分家に帰って、半分王宮で住み込みをしている。


「何食べようかな……。」


食堂に向かうと、『親子丼』の文字がある。半券を買って、列に並んだ。暫くすると流れて来て、それを受け取る。


何事も無く座る。そしてそれを口に運んだ。


「……そう言えば。」


お腹が空いていたな。お昼も軽い物しか食べてなかったから。


ほわほわとした卵の食感と、はっきりとした葱の食感。蕩ける卵の中にある、出汁の染みた鶏肉が柔らかく、舌の上で溶ける。


一人でご飯を食べるのは別に嫌では無いが、寂しいものではある。話好きな性であるから、一人は辛い。


「ん、ぐ……。」


ごくん、と最後の一言を飲んだ。ちょっと喉に引っかかった気もするけど、問題は無い。


「さてと、もう一仕事……。」


食器を元に戻して、陛下の部屋へと向かう。軽いものでも取ってもらわなきゃ倒れてしまう。


「陛下。陛下。」


こんこん、と鳴らしても返事が無い。


「陛下……?失礼しますね……。」


ぎしぃ、と鳴る扉を通ると、ばったりと机に倒れ込んでいる緑珠が居る。余り慌てずに、近くに寄った。すやすやと眠っている。


「陛下。陛下。起きて下さい。こんな所で寝てると風邪引きまっいだっ!」


「んっ!?」


がんっ、と緑珠が頭を上げると、屈んでいたハニンシャに思いっ切りぶつかる。


「おき、おきられ、まし、ましたか……。」


「え、あ、ごめんなさい……。寝てたの、私……。いつから?というかいま何時?」


「夜です。八時です。いつからは分かりません。」


じっとりとした視線が緑珠を襲う。


「……何か言うことは?」


「いっ、いきなり起きてぶつけてごめんなさい……。」


「そっちじゃ無いです。ほら。もっと言うことあるでしょう。」


冷たい視線を横目に、緑珠はおずおずと言った。


「……わかんない。」


「嘘おっしゃい。」


ぴしゃり、一喝が飛ぶ。


「……ご飯食べなくて、ベッドで寝なくてごめんなさい。心配、かけました。」


「宜しい。良いですか。僕がこんなに怒ってるのは、貴女が陛下だからですよ。体調崩したらどうするんです。ただでさえ弱いって聞いてるのに……。」


まるで子供のようにしょぼくれて座り込んでいる女帝を見ながら、ハニンシャはしゃがみ込んだ。


「ほら、今日はもう軽くご飯を済ませて、お風呂入って寝ちゃいましょう?」


「でもまだ進んでなくて、」


「早く寝れば寝る程沢山研究出来ますよ。」


「……でも。」


遮るように、その手を取る。


「陛下は良い子ですから、言うこと聞けますよね?」


「……はぁい。」


椅子から立ち上がった緑珠は、扉に手をかける前にハニンシャに目をやると、


「大人っぽくてやだわ。貴方。」


「でもそういう所が好きなんでしょう?」


「……誰に似たのよ、全く……。」


何も言わずに笑みだけ浮かべる副宰相を見ながら、緑珠は扉を閉めた。








「お早う御座います。朝ご飯は食べれたみたいですね。」


「食べたわ。偉いでしょ。」


「偉い偉いですね。……そうだ。」


起きて身支度を整えた緑珠に、ハニンシャは赤い包みを渡した。


「料理長が寂しがってました。陛下は美味しそうに食べるものだから、その顔が見えないのは辛いって。代わりにこれを預かって来ました。」


「これは……?ちょこ……?」


不思議そうに受け取って、ほのかに香る匂いを嗅ぐ。


「リラックス効果もあるし、ある程度の満腹感も得られる。お昼は三明治サンドイッチを用意していると言ってらっしゃいましたよ。自信作だって。」


「じしん、さく……。」


「僕も見ましたが、とても可愛らしいチョコでした。……あっ、安心して下さいね、僕がちゃんと毒味をしましたから!」


笑顔のハニンシャに、緑珠はニタリと笑みを作る。


「……ふぅん。」


「ど、どうされましたか……?」


猪口チョコを受け取った緑珠が、そのままの調子で続ける。


「有難う、ハニンシャ。一つの考えが浮かんだのよ。料理長にも有難うって言っておいて。貴方の作る料理は最高だって。」


「はぁ……。」


そのまますたすたと緑珠は歩き去って、執務室に入った。土塊が叩かれて剥き出しになった鉱石を取り出す。


カッターを取り出して、鉱石を削り始める。一つの小さな石ころは、完全に破片になった。


「えーっと、この資料によると……。」


水溶液にその破片を突っ込み、そこから抽出、還元する。


「……これ、で、出来た、んじゃない……?」


この金属の融解したものだけじゃあ固まらない。見た目が不味そうな水菓子ゼリーになってしまいそうだ。


「型にはめちゃいましょう!どうにかなるわよね!」


でろでろ〜っとしたものを型に嵌めて、その場にぽんと置く。同じタイミングでハニンシャがやって来た。


「何だかとんでもない匂いがするのですが……。」


「そりゃそうでしょ!室内で鉄生成しちゃったし!」


「えぇ……ま、まぁとにかく換気しますね……。」


ハニンシャのその言葉に、緑珠は慌てて振り向く。


「ダメ!葉っぱとか入っちゃったらどうするのよ!」


「此処空の上だからそんな心配しなくても良いのでは……。」


「そういう訳にはいかないの!取り敢えず今日は此処はもう締め切りにするわ!あぁそうだハニンシャ、特許申請の準備をして。これで暫く賄えるわ。」


「は、はい。直ぐに準備を致します。」


「『直ぐに』じゃないわ、『今』よ。」


「ひ、人使いが荒い人ですね……。」


「給料増やしてあげる。」


「やります。」


緑珠は扉から出て、その部屋に錠をする。信じていない訳では無いが、用心をするに越した事は無い。


走り去って行ったハニンシャを見ながら、緑珠はさらりとその旨をメモに記すと、先回りして書類室へと走った。


「んーと、特許申請って確か……あー……。」


これは法律のスペシャリストに聞かなければ分からない。他の事業には被ってないとして、聞くとしたらイブキしか居ない。


「電話かけても良いかしら……。」


……いや、良いだろう。あれだけ声を聞きたがっていたのだ。回線に繋ぐ。ワンコールの内に出た。


『緑珠様っ!』


「声が大きい、うるさい。」


『ずーーーーーーーーーーーーーーーっ』


「と会いたかったのよね。分かるわよ。」


わーい一心同体ですね!とはしゃぎ倒すイブキを他所に、緑珠は手元の書類に目をやる。


「ねぇイブキ。特許申請について聞きたいのだけれど。」


『ねー、緑珠様、もうちょっとお話しま』


「仕事よ。」


『……はぁい。』


「で、特許申請の事なのだけれど。」


『……僕の得意分野ですよ。何でもどうぞ。』


何処か寂しそうな声音でイブキは続ける。


「此処をね。どうすれば良いのか分かんなくて……。」


『あー……其処はですね、そのまま回してもらって大丈夫ですよ。その下の欄に名前が必要ですけど。』


「私の名前で良いのよね。」


『そうです。……でも何でいきなり特許申請を……?』


緑珠は自慢げに言った。


「何と!巷で『タングステン』と呼ばれる金属を、インゴットを作る事に成功したの!」


『……僕の記憶に間違いが無ければ、『タングステン』ってもうインゴットの生成方法が確立しているのでは……?』


「でもそれって魔法ありきのやつでしょ?」


『そうです。釜に突っ込んで魔法で熱するんです。』


「それが無いのよ。科学の勝利よ〜!」


嬉しそうに答えた緑珠に、イブキの柔らかい声が続く。


『それは良う御座いましたね。』


「でしょー!褒めて褒めて!」


『また帰ったら偉い偉いしてあげますから。』


この会話の流れを何処かでしたな……とデジャブを感じながら、緑珠は軽く手を振った。


「帰って来たら楽しみにしておいて!」


『はい。早く帰ります。』


「それじゃあ!」


切った電話を優しく置きながら、緑珠は続ける。


「郵送事業にも手をつけなきゃだし、量産型の飛行船も作んなきゃね……!」


うきうきとおめかしをした女の子の様に、緑珠は走り出した。

緑珠様の声を聞けて嬉しい(捕食済み)の伊吹君と、真理ものんびりやっているのが分かるのでのんび〜〜り集まったりする話。

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