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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 150 翠の発明

真理が攫われちゃったりするけれどそんな事とは露ほど知らずすすり泣いちゃうかわいいかわいい緑珠様が見える話だったりするのです。

「陛下。朝ですよ。」


ハニンシャが緑珠の部屋のカーテンを開けた。すると、布団の中からすすり泣きが聞こえる。


「……ぐすん。」


「な、何泣いてるんですか、何処か痛いんですか?」


「……寂しかった……。」


「……えっ?」


「寂しかったの。一人だったもの。」


さらさらの髪を靡かせながら、緑珠はするりと起き上がる。くまちゃんのぬいぐるみを抱いて。


「……一人で寝てらっしゃらないのですか?」


「伊吹がいるもん。怖い夢見た時とか、寂しい時とか、ぎゅってして寝てくれるもん……。」


「……起きれます?」


「……やだ。」


宰相様がぞっこんになるのも否めなくは無い。容姿もさることながら、行動がいちいち可愛らしい。本人に自覚が無いから、余計それが輝くのだろう。


……とまぁ、感心はそれぐらいにして、ハニンシャは思いっ切り緑珠の入っている布団を剥ぐ。


「きゃーっ!はれんち!」


「人聞きの悪い事言わないで下さい!宰相様帰ってきたらどうするんですか!」


「……否めないわね。」


「僕死んじゃうじゃないですか!」


水をとって、ハニンシャは緑珠にそれを渡す。


「……あら。イブキと同じ事をするのね。」


「あの人が留守の時は僕がお世話するように仰せつかってますからね……。」


ごくごく、と緑珠は水を飲む。それでもまだ何処か眠そうだ。


「お顔を洗いましょうか。」


「一人で出来るもん。」


「そう言って辺りをびちゃびちゃにするって宰相様が言ってました。」


「そ、そんな事まで……!」


「という訳で、濡れたタオルです。」


洗面器に入ったそれを渡すと、ごしごしと顔を拭く。そしてまたくたりと倒れた。


「ね、はにんしゃ、私と一緒にねましょ、今日は仕事はおやすみしましょ……。」


「そういう訳にはいかないんですよ。ほら起きて下さい。」


ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、緑珠はハニンシャに言う。


「貴方はイブキみたいにならないでね。」


「……あはは、善処しておきましょう。」


歳に似合わない含み笑いに、緑珠はぬいぐるみに顔を埋めた。


「もう似てるし……やだ……。」


「ほらほら起きて下さい。お化粧はどうされます?」


「自分でやるわ……。」


「先にお召し物をお着替えなさるんですよね。」


「そうよ。人を呼んで欲しいわ。」


「了解しました。」


入れ替わり立ち替わり、ハニンシャが出ると、召使いの一人が緑珠の部屋に入る。


『ねぇ、ハニンシャ。居るんでしょー?』


「えぇ、勿論居ますよ。」


扉の前で袖の内にしまった短剣を触りながら、緑珠の声に応えた。


『貴方に苗字を上げなくちゃよね。何が良いかしら……。』


「別にそんな凝ったのじゃなくても……。」


『駄目よ。私が考えたいの。うーん……どうしよかしら……。』


ほんの少し、声が聞こえなくなったと思うと、


「ね!」


「うわびっくりした!」


ぴょこん、と着替えて支度を終わらせた緑珠が扉から出る。


「今日一日考えておくわ。」


「そんな、お手を煩わせる事は……。」


「煩わせてなんかないわ。名前を考えるのは好きなの。」


「いや、そういう事では無く……。」


「今日のスケジュールは?」


緑珠は全くハニンシャの言うことを聞かずにそのまま歩く。


「えっ、あ、普通に御政務だけです……。特に要請やら来客の連絡は入ってません。」


「お姉様が来るんじゃないの?」


「な、何でそれを……。」


くるり、緑珠は振り向くと、ハニンシャの頭を撫でた。


「髪が跳ねてるからよ。」


「えっ……!?って、うわ、ほんとだ……!すみません、お見苦しいところを……!」


「あはは!良いじゃないの!可愛らしくて。それで、お姉様は何時頃いらっしゃるの?」


「午後には伺えるとの話です。」


「そう。有難う。また用があれば呼ぶわね。」


短くそう言い切ると、緑珠は政務室に入る。一人ハニンシャは外に取り残された。


「あ、嵐のような人だな……。」


跳ねた髪の毛を撫でながら、一人で呟く。


「そういや、どうしてお姉ちゃんが来るのが分かったんだろ……。……ま、良いか。」


政務室に背を向けると、ハニンシャは自分の行くべき道へと目を遣った。


「さてと、宰相様も居ないしやる事さっさとやっておきますか。鍛錬しなくちゃな……。」


その頃。


「……これは……。」


呟きながら緑珠は政務室に引き篭っていた。


手紙は一日のノルマをこなした。これならあと二日程で全て返せるだろう。


大きな事件も起こっていない。問題は特に無い。宮廷内の争いも無い。そりゃそうだろう、私は女王だから、まだ後宮のごたごたは男王に比べてマシと言える。


それは問題があれば兎に角誤魔化すとして、後は政官ポストの配置。圧倒的に人数が足りない。


軍部の方は❛鬼門の多聞天❜等に任せて、警察は公安庁を転身させればいい。治安を維持させるには充分な力がある。


「中務……宮内……此処もどうにかなりそうね……。」


後は戸籍を新しく取らなければならない。


「戸籍作業は面倒臭いから給料を上げるとして、まぁ我が国の最大の問題点は……。」


頭を抱えながら、緑珠は呟いた。


「……資金源よねぇ。」


今目を付けているのは郵送事業だ。幾ら魔法が発達したと言え、郵送事業は未だ人力で行っている事が多い。


「量産型の飛行船、ねぇ。コスパが悪いのよね……。最安値を貼りたいのだけれど、それも暫くは持たないでしょうし……。」


もう飛行船の時代はそんなに長く持たなさそうだ。……と言ってもあと百年は持ちそうだが。劇的な魔法の研究が進んで居ない今、人力に甘んじる事も否めない。


「副産物として郵送事業は進めてモアに協力して貰うとして、せめて私の国だけ、の特色が居るのよね……。」


ぽりぽり、と紙に案を書いていく。これは後で皆に聞かなくてはならないな……。


「んー……。観光事業……郵送は勿論でしょ……。あとなんだろう、特産品みたいなのを作る、とか……?」


これも大事だが、他にも国内を整備して行かなければならない。それも早急に。


「早急って事は分かるのだけれど、お金が無いのよね……。借金すると無限ループだし。はー……日栄は月の石から精錬して宝石を売ってたんだっけ……。色んな色に輝く水晶……。」


母から譲り受けたあの牡丹の花の髪飾りを、緑珠はそっと触った。確かこの水晶も最高級品の月の宝石だったか。


「……なーに郷愁に耽ってるんでしょ。はぁ……。考えないと……考えないとね……。」


ペンを触りながら、緑珠は呟く。


「……ほんと、君行く道の上に霧立たば、我が嘆く息と知りませ、って思うわ……。」


取り敢えず終わらせられる事務作業をさっさとこなしてしまおう。


そうして投げ出したふでを、緑珠が掴んだ瞬間だった。こんこん、とノックの音がして許可を与えると、ハニンシャが心配そうに此方を見ている。


「へ、陛下……。お昼ですよ……?」


凄く控え目な催促だ。可愛らしい。


「あらやだハニンシャ、何時からそんな冗談が上手くなったの?」


「僕は嘘をつくのが苦手です。時計を見て下さいよ。」


緑珠がちらりと時計を見遣ると、成程時計は正午を指している。


「ご飯は何にします?」


「おにぎりとお味噌汁が食べたいわ。」


「……豪華じゃないですけど良いんですか?」


「ゆっくりご飯を食べたいのだけれど、ちょっと今は立て込んでいてね……。食事の前に聞きたい事があるんだけど……。」


緑珠はハニンシャに問おうとした瞬間、また扉が思いっ切り開く。


「あら緑珠!随分と出世したのね!」


「……あら。午後から訪問するんじゃなかったの?」


大きく開かれた扉のど真ん中には、ハニンシャの姉、アリーシャが居た。あまりの不躾さに、ハニンシャはカチコチに固まっている。


「お、おね、おねえ、ちゃん……!」


「早くなったのよ。手紙に書いて無かったかしら?」


「確かに書いてあったけれど、こんなに早いとは思ってなかったのよ。お茶もお菓子も準備してないわ。」


「そんなの事をしに来た訳じゃないのよ。」


不躾な会話がそのまま飛ぶ。もはや副宰相フリーズ状態だ。


「お茶もお菓子も要らないの?あらそう……楽しみにしてたのに……。」


あからさまに悲しそうな顔を作ると、此処で初めてアリーシャは吃る。


「そ、そんな顔されたら、堪らない、じゃない……。」


「あらそう?ならもっと悲しそうな顔でも作ろうかしら。」


「出世してもその生意気さは相変わらずなのね。」


その言葉に緑珠は曖昧な笑顔を作ると、軽く手を伸ばして質問を催促した。


「で。要件は何なの?ちょっと立て込んで居てね。早くして貰えると助かるわ。」


「なら単刀直入に言う。勉強にお金が居るの。工面して欲しい。必ず返すから。」


不躾な会話の向こう側に、もはや処刑寸前の文言が追う。緑珠は肘をつきながら言った。


「……ふぅん。何で私が金を出すと思ったの?理由を聞かせて欲しいわね。」


明らかにさっきの雰囲気とは違う緑珠に、アリーシャはたじろいだ。


「あんたなら絶対出すと思うから。そんな確信よ。私からたった一人の弟を奪ったあんたなら、私の事だって奪ってくれる。」


被せ気味に、女帝は続ける。まるで目の前の人生を弄ぶかの様に。


「どうでしょう。優秀な弟だけかもしれないわよ。無能な姉は要らないと言う可能性を見越せないほど、貴女は馬鹿で愚かでは無いでしょう?」


「っ……あんた……!」


「そんな不遜な態度で来たから、自信あるのかと思っちゃった。こんなので引くなんて所詮はその程度よね。」


息を吸うほんの一間、少女はしっかりと言う。


「違う。私は、この程度じゃない。」


「……ほう。ならば聞かせて貰うか。お前の覚悟が如何程か。この私に。心を震わせる気持ちを。」


ぐっ、と歯を食いしばる音が聞こえる。それくらい、辺りは静かで。


「こういう時に、何て言えば良いのか私には分かんない。ただ勉強して図書館司書になって、あんたを打ち負かす気持ちだけはある。何をされても、この心だけは揺らがない。……絶対に。」


緑珠が面食らうのも知らずに、アリーシャは続ける。


「私はあんたが嫌いなの。満たされた様な顔をして、考える事はどんな腹黒い連中よりも腹黒い。その癖為政者らしい顔をして、どんな事も顔と言葉の上手さで乗り切ってしまうあんたが。大っ嫌いなのよ。分かる?」


「お、お姉ちゃん、そ、それ、それくらい、に……。」


「だからその薄っぺらい顔の皮、知恵の深さで引き剥がしてやろうと思ったワケ。……あんたの言葉を返してあげる。『所詮はその程度』なのよ。貴女は。」


完全に、政務室がしん、と静まり返す。そして人とは異なる笑みを薄く浮かべていた女帝は、


「……ぷっ、あはははは!」


ぴたり、姉弟の動きが固まる。そりゃそうだろう。先程まで威圧感を放っていた相手が、ふわふわとした雰囲気を纏って大笑いしたのだから。


「あはは!良いわね!私の事が嫌いなの?」


「き、嫌いよ……何笑ってんの、気持ち悪い……。」


緑珠は座っていた椅子から立ち上がって、アリーシャの耳元でこう囁いた。


「殺したいほど?……わたしのこと、ころしたい程、きらい……?」


蕩けるくらい蠱惑的で、迂闊に近寄ると喰い殺されそうな。そんな声。甘くて、手を伸ばしてしまえば終わりな、そんな声。


「っ……あんたほんと、嫌い。大っ嫌い。殺したい程、嫌い。」


そう、と短く緑珠は言うと、腰に在る苗刀を抜いて、切っ先をアリーシャに向けた。


「なら殺して。待ってるわ。わたしのこと、心の底からころしてよ。」


「言われなくとも……!」


「イブキとどっちが早いのかしらね。」


「……ほんとあんた、悪趣味。」


「そうかしら。お金を工面してくれる人に向かって大嫌いという人よりかは良い趣味を持っていると思うけれど。」


「あっそう。ま、一応有難うって言っとくわ。」


肩を竦めてアリーシャは言うと、座り直した女帝はその様子を見て微笑んだ。


「お金はまた後で送っておくわ。」


じゃあね、とそれらしい挨拶をして去って行こうとするアリーシャに、緑珠は付け加えた。


「……月亮ユエリャン=メーヌリス。うん。良いわね。ねぇ姉弟達。お聞きなさい。」


女帝は小さな二人を見詰める。まだ小さい、直に大きくなってしまう人間を。


「貴方達に苗字を与えます。これは私からのささやかなプレゼント。月亮ユエリャン=メーヌリス姉弟。これからそう名乗りなさい。アリーシャ、ハニンシャ。」


「……この状態で考えたんですか……?」


「だって久し振りに面白い事を言う人間に出逢えたのだもの。考えるでしょう?」


一番目はイブキよ、あれは面白いじゃなくて純粋に嬉しかったけれど、と緑珠は付け加える。しかしアリーシャは鼻で笑うと、憎たらしく言った。


「そうさせて貰うわね。それじゃ。忙しいみたいだし、私はこれで。 」


「あ、ねぇちょっと待って、未来の帝国図書館司書さん。」


勝手に役職が振られているのを聞かずに、アリーシャは振り返った。


「この地域で使えそうな資材って無いかしら。困っているのだけれど。」


「……地図貸して。」


緑珠が出した地図を見ながら、アリーシャは淡々と言う。


「あるわよ。」


そう言ってアリーシャが指をさしたのは、

伊吹君がまたひゃっはーしそうな勢いだったりというか実質ひゃっはーしまくったり色んな意味で美味しく頂く話です 要するに皆大好きな話です。

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