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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第十章 天壌無窮蒼空国 月影帝国
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 148 勅令の出張

とうとう建国した時に現れるのは、宰相ではなく副宰相の問題。というわけで満を持してあのキャラが登場!こんなキャラいたっけ?みたいな人は最初の20部くらいを読み直してみようね!(露骨な宣伝)

「これは僕のほんの小さなプレゼントです。」


「……ほんとに、やらなきゃ駄目なんですか。」


中庭に佇む二人の影。片方は大きくて、片方は小さい。小さい影が、木箱を見詰めている。


「自分すら禄に守れないのに副宰相なんて務まると思います?」


「思いま、せん、けど、だからと言って、人を殺す術を身に付けるのは……。」


「何も殺せとは言ってませんよ。あんなの面倒臭いだけですからね。」


イブキが言っても納得しなさそうなハニンシャは、まだ木箱を見詰めている。


「貴方の力は、貴方だけではなく貴方の周りの人間を救う術となる。……そうだな、例えば……もう貴方は──」


一拍おいて、


「貴方のお姉さんに人殺しをさせなくて済むかもしれませ」


「……お前それ、何処で知った。」


木箱は地面に落ちて、蓋が開いたその中から、一本の短剣の切っ先が伊吹の首に剥く。


「ただの可能性を論じたまでです。別に本当の事を言った訳じゃない。そうとったのは、貴方です。」


「嘘だッ!だってあの話は……!」


首根っこを掴まれながら、イブキは呟くようにして言った。


「『目撃者を全員殺した』、からですか?……ま、一人や二人の話だったみたいですが……。」


「おま、え……!やっぱり全部……!」


殺意に塗れた瞳を冷たく見下ろす。


「弱いんですよ。直ぐに殺意を剥き出しにして。それで結局手が震えるだけで、何にもなりゃしない。人を殺す時の感情は、何時もと変わらない感情じゃないと駄目なんです。冷静な思考回路を以って、最適解を選ばなくてはならない。」


突きつけられた短剣の手首を掴んで、そのまま投げる。短剣と身体が、ふわりと吹っ飛んだ。


「良いですか。貴方のそれは、人を殺すとか自分を守るとかそんな次元の話じゃないんですよ。貴方の幼さを利用する奴だって沢山居る。会ってきたでしょう?今までも。」


何も答えずに、ハニンシャはゆるりと立ち上がった。


「その幼さを利用しなさい。自分に備わっている全てを利用して、自分の武器にしなさい。僕が教えるのはそういう物です。……貴方に限っては、ね。」


そんな二人の様子を見ながら、ぼんやりと見詰めている影が二つ。


「いやぁ、伊吹君ってほんと無理矢理引き出すよね……。」


「あの子はそういう子よ。行き過ぎちゃうところもあるから、ちゃんと気を付けないと……。」


その場から歩き出すと、緑珠は宮廷を目指す。


「国の管理はスムーズみたいね。」


「問題無さそうだよ。外部も内部も。……外部はほら、ちょっとややこしい所もあるけどさ……。」


「ややこしい?」


真理の一言に、緑珠は振り向いた。


「この国の周りには小国が集まってたからね。部族の国もあるし。縄張りとか気にする輩が多いんだよなぁ。要するに時代遅れってこと。」


「そういう小国が集まり続けると厄介って聞いたわ……。」


「集団ってのは何時だってややこしいものだよ。」


「人間の集団とか?」


したり顔で茶化した緑珠に、真理は肩を竦めて答えた。


「言えてる。」


書斎の机に置いてある書類を眺めながら、緑珠はすとん、と椅子に座った。


「さて。貴方に頼みたいのは、各地の報告なのよね。」


「任せて。得意分野だよ。日程は?」


「まだ特には決まってないけれど、行くとしたら霊脈が通っている山岳地帯になるかしらね。」


「報告って何をすれば良いのかな。」


ふわふわの椅子に座りながら、緑珠はくるくると回る。


「国名、国民の数、地形、周辺諸国、政治システム、特産、特筆すべき何かがあれば書いてもらって……。まぁ、そのくらいかしらね。」


「了解。身分は……。」


「行き先が危険な事もあるし隠して入った方が良いと思うわよ。」


「分かった。あと官人からこれを預かってるんだけど……。」


真理は色とりどりの封筒が入った紙を渡す。それにげんなりとしながら緑珠は答えた。


「……あぁ、それねぇ。これ見よがしに送ってくるわよねぇ……。」


視線が右に泳ぐ。その視線の先には、山程積んである書簡があった。


「手紙を書くのは嫌いじゃないけれど、こうもあると、ねぇ。便箋が無くて今書けないのよ。」


「あはは……そりゃ皆書簡送るだろうね。各地を騒がせたお姫様が国を作った訳だし、それに──」


「陛下!」


ばたん、と勢い良く書斎の扉が開く。見ると慌てふためいているのは官人だ。


「どうしたの。そんなに慌てて。」


「い、いや、そ、それが……。」


「もしかしてイブキのこと?」


「あぁいえ、宰相様の事ではなく、こんな事でお手を煩わせるというのは非常に心苦しいのですが……。」


「はっきり良いなさい。怒らないから。」


びしりと言い放った言葉に、官人は意を決した様に言う。


「此処までお騒がせしてなんですが、見て貰った方が早いかと……。」









「……伏線だったのかしら。私の『人間の集団はややこしい』発言は。」


「み、みたいだねぇ……。」


緑珠の真理の二人の目の前には、ぎゃーぎゃーと言い合いをしている召使い二集団があった。


「御多忙の中本当に申し訳無いのですが、どうかこの争いを止めて頂きたく……。」


「貴方も止めようとしたのでしょう?それで無理で駆け込んだ訳だから、何も気にしちゃ居ないわよ。貴方は仕事に戻りなさい。」


有難う御座います、と下がった官人を横目に、緑珠はもう一度ややこしい集団を見る。


「……さて。こういう争いに女子が割って入るとややこしくなるので、此処で真理を召喚するわ。」


「えぇ……僕ああいうの対処するの苦手なんだけど……。伊吹君の方が向いてるって……。」


「多分今鍛えて殺気立ってるから全員に危害加えちゃいそうだしダメよ。話を聞きに行くだけで構わないから。あとは宥めておいて。私は此処で見ておくわ。」


柱の後ろからじっ、と見ている緑珠を、真理は仕方なさそうに横目で見遣る。


「はいはい……女帝陛下の仰せのままに……。」


揉めている二つの集団の真ん中に、にこやかな笑顔と共に真理は立った。


「皆、どうしたのかな?さっきから言い合いをしているみたいだけど……。」


「だ、大臣様、そ、それが……。」


左に居たツリ目の召使いが、反対側に居る癖毛の召使いに食ってかかる。


「新しく来た召使い達が何も聞かないんです!根気よく教えて居たらバカにしてきて……!」


癖毛の召使いもそれを聞いて黙ってはいない。


「はぁ!?先輩が上から目線で言ってくるからでしょう!?言うこと聞いてるのに鼻で笑ってるのはそっちの方じゃない!」


「被害妄想も大概にして!勝手に話を作らないで頂戴!」


「あら!覚えがないのね!歳がいってるから物忘れが激しいのかしら!」


「何ですって……!」


これは派閥争いだなぁ、と真理はのんびりとしながら、何処か冷たい思いで見下ろす。


「そっかそっか。でも先ずは落ち着こうか。此処ほら、王宮だし。陛下が飛んで来たら困るでしょ?」


「っ……!」


見ていた緑珠が、ふらりと二つの派閥の前に現れる。


「随分と派手な争いなのね。」


「へ、へいか……!」


その場に居り、争っていた全員が美しいお辞儀をするのを、緑珠は特に貶すこともなく、冷たい目をすることも無く、ただ淡々と言った。


「話は大体わかったわ。要するに相手が気に入らないのよね。」


「そうです陛下、どうかこの新米召使いを……!」


解雇しろ、というツリ目の召使いに、緑珠はやんわりと制するように、


「解雇はしない。皆優秀だもの。……ただ一つ、新しい試みを今しようと決めたわ。」


「……えーっと、緑珠。それは……。」


真理が止めるよりも前に、緑珠はすらすらと呟く。


「模範的な召使いは、お給金を二倍にする。規定は追って知らせます。あとこれは今日知らせようと思ったのだけれど、今言えばいい話ね。」


そんな調子で、どんどんと告げていく。


「三ヶ月後に試験をするわ。五つの階級に分けたいと思うの。お給金は今以上下がらないし、頑張れば頑張るほどお給金は上がる。日常的な生活も見るから、今日の様な争いは大きな減点になるでしょうね。」


静かになった廊下に、緑珠は、


「それでは御機嫌よう。」


ほんの少し廊下はザワつくが、またヒールの音だけしか聞こえなくなる。中庭まで戻ると、深呼吸をして、


「……緊張した。」


「君って緊張しても顔に出さないところあるよね……。」


「出したら舐められるわよぉ。」


ごんごんごんと柱を叩きながらぶつくさ呟く緑珠を見て、真理は言った。


「……ねぇ緑珠様、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……。」


「なぁに。また突拍子も無いことを言うの?」


「それは君の仕事だろ?」


「言えてる。それで、聞いて欲しいことって?」


「僕ももしかしたら伊吹君っぽい所あるかもしれない。」


その真剣味が帯びた言葉を聞いて、緑珠はゆるゆると顔を上げた。


「……それはちょっと聞き捨てならないわね。」


「いや冗談だよ?」


「イブキは一人でいい。真理も一人でいい。これがバランス。」


「そんな世界の理みたいな……。」


分かってないわね、と緑珠は語り始める。


「良い?例えばイブキが怪我をしたとしましょう。私が心配するじゃない?絶対片方自傷してまで怪我作ってくるわよ。」


「……あぁ、想像出来るかも……。」


「でしょう?逆に真理が二人居たら、それこそ世界がとんでもない事になるわ。」


書斎に戻り、どさりと座った緑珠に真理は付け加えた。


「まぁ僕分身出来るけどね。」


「そういう問題じゃないのよ?」


紅茶でも飲もうと、その事を口を開こうとした瞬間、思いっ切り扉が開く。


「あらあら随分と酷くしてやられたの?」


「……言ってろ。」


「主人に対して酷い口をするのは誰かしら。」


ぼろぼろになっているイブキを見ながら、緑珠はくすくすと笑った。


「悪い子には紅茶を淹れてもらう罰と、どうしてそんなぼろぼろになったか聞かせてもらおうかしら。」


「煽ったりするからだよ。」


「違います。……ただ純粋に……。」


深いため息を一つついて、イブキは悪びれる事無く続けた。


「あのクソガキ、いい筋なんですよ。僕が嫉妬するくらい。なんですかあれ。飲み込み早いし。 」


「煽ったお陰なんじゃない?」


「真理は黙ってて下さい。」


そんな平和なやり取りをしている二人に、緑珠は微笑みながら言った。


「色々立て込んでいる二人に、私が命令をします。」


「絶対また無茶振りでしょう?」


「うん。緑珠は無茶振りをする時、したり顔になるからね。」


ふふふ、と軽く微笑んで、一つ。


「二人に出張を命じます!」

新キャラの登場の兆しがあったり出張した傍から伊吹君がお家に帰りたがったり真理もごねたりする話。

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