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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 147 翠玉の指輪

とうとう建国した時に現れるのは、宰相ではなく副宰相の問題。というわけで満を持してあのキャラが登場!こんなキャラいたっけ?みたいな人は最初の20部くらいを読み直してみようね!(露骨な宣伝)

「な、何で、僕が、お留守番、を……?」


「だってイブキ居ないもの。」


「居ないもの、じゃなくてですね……。」


「あと華幻ちゃんから賢いって聞いたから。大卒まで取れたんですって?」


「偶々ですってば……。」


「そんな偶々あってたまるもんですか。」


思いっ切り緑珠がヒールの装飾を上げるのを、ぼんやりとハニンシャは見ている。


「お姉様は元気?」


「その節はどうもお世話になりました……。」


「皮肉で言ってるわけじゃないわよ。純粋に元気かしらと思っただけよ。」


「……まぁ、元気にやっております。今は図書館司書を目指しているらしくて……。」


肩身が狭そうに、ハニンシャは呟くようにして言った。丸椅子がぎし、心に反響して鳴る。


「子供の可能性は無限大って本当ねぇ。」


「……それは、どうも。」


「それで、提案なのだけれど、」


「折角の提案ですがお断り致します。」


「……まだ私何も言って無いのだけれど。」


くるり、緑珠はハニンシャへと視線を向ける。


「貴女様の提案は無茶振りばかりだと伊吹さんから聞きました。」


「……あらそう。」


諦めてくれたか、とハニンシャは胸を撫で下ろした、が。目線を上げたその先には、切っ先が自分の首筋に当たっていた。


「もう一度言うわよ。提案があるのだけれど。」


「だから貴女様の所に来るのが嫌だったんですよーっ!」


「聞いてくれる?提案。」


「……聞かなかったら?」


「……ちょっと怪我するかも。」


「聞きますよぉ……。」


がっくしとハニンシャは項垂れる。


「大学では何を勉強してたの?」


「国策です。……あ。」


思い当たる節がある。もしかしてこの目の前の人、元より僕を……。


「イブキの英才教育の賜物ね。」


揺らぐことない切っ先を、ぼんやりと見ながらハニンシャはその言葉を聞く。


「貴方に副宰相になって欲しいの。大学の成績もかなり良かったみたいだし。論文は雑誌に載ったんでしょ?」


「……何時から考えてたんですか。真理さんじゃダメなんですか。」


返事をする前に、ハニンシャは緑珠へと問うた。


「何時からって……そりゃ貴方達を拾った時から。真理は副宰相じゃなくて世界情勢を見て貰う事になったから。」


「……そりゃ良い話ですね……。」


それに、と緑珠は淡々と付け加えた。


「副宰相になれば、この剣を跳ね除ける力が手に入るかもよ?」


「……あの人に教えを請わなきゃダメなんですか。」


「イブキのことは嫌い?」


きょとん、と首を傾げた緑珠に、ハニンシャは何処かはっきりと言った。


「好きか嫌いかで言われれば好きでは無いです。」


「素直でイイじゃない。私そういう子好きよ。」


「貴女様に好かれるとあの人面倒臭いのでやめて下さい……。」


「で。引き受けるの。引き受けないの?元より選択肢は一つしか無いのだけれど。」


切っ先を手の平で退けて、その歳には似合わない嫌味と聡明さが混じった目で、一言ハニンシャは呟いた。


「……陛下、知ってます?こういうのって光源氏計画って言うんですよ。」


「失礼ね。『英才教育』って言って頂戴。」


にこやかに、女帝は微笑んだ。








「お、受け入れたんですか。」


「受け入れない訳無いでしょうしかも貴方ずっと外に居たんですか……!」


「そりゃあ聞いてましたよ。……受け入れなかったら僕の隠蔽工作が増えるだけで……緑珠様のお召し物が紅い着物になるだけで……。」


「ほんとまんまと嵌められた……。」


緑珠の居る部屋の外で、ハニンシャはイブキの前でへばっていた。


「……服、新しいのにしたんですね。」


「あぁ、これですか。緑珠様が宰相になるんだから新しいのにしろしろって煩くてね……。格好良いって言われちゃ、嫌って言えないじゃないですか。」


ハニンシャの目の前には、紅い中華風の上着に手首までの黒手袋、茶色のベルトを締め、黒いズボンを履いたイブキが居た。肩には竜胆の紋章がある。


「……貴方にもまだそんなまともな感覚があった事に僕は驚きです。」


「クソガキが口達者なこと……。」


「足をサラッと踏むの止めた方が良いですよ〜?」


「すみません其処に足があったもので。」


「何をそんなすぐに喧嘩する事があるの?」


カツン、とハイヒールの音が響く。声の主は緑珠だ。白の左右非対称アシンメトリーのドレスに、金銀瑠璃玻璃の装飾が踊る。どれも蝶を基調としたもので、煌めいている。指に緑の宝石が光った。


腰に差してある苗刀も、人一倍の輝きを放っていた。


「割と軽いから良かったわ。敵が来ても直ぐに応戦出来そうね。」


「そんな事が無いよう善処致します。……お似合いですよ、緑珠様。」


「ふふふ。あったり前でしょ。お姫様だったんだから、似合わない訳ないじゃない。」


「……お姫様。」


ぽつり、不思議そうに呟いたハニンシャに、緑珠は軽く促した。


「ほら、着替えておいでなさい。」


「え、あ、はい……。」


そのままハニンシャを走らせると、緑珠は何時もと同じ雰囲気で、イブキの近くに寄る。


「あんなちびっ子で良かったんですか?」


「ちびっ子だからいいのよ。頭が柔らかいし、別に貴方の事を嫌ってはいないでしょうし。」


「どうでしょうね。」


何事も無く歩き始めた緑珠に、イブキはもう一度声をかけた。


「……本当にするんですか?『二代目』計画。」


「するの。私は一度言ったことは変えないわ。」


そのまま何事も無かったように、緑珠はその隣を横切る。


「この国には、貴方みたいな人が居る。だから貴方の二代目を作らなきゃいけないの。」


「僕じゃダメなんですか?下手したら永遠に生きれる身体を持ってるのに。」


「どれだけ追い付こうとも、時代っていうのは待ってくれないのよ。私達の世代が終わったら、次の世代を育てなきゃ。」


それに、とぴたりと立ち止まって、くるりと振り向いた。笑顔一つ作らないで。


「貴方、私の事を一人にするつもりなの?」


そのまままたすたすたとその方向に歩き始めて、淡々と続ける。


「貴方の全てをあの子に注ぎ込んで頂戴。貴方の頭の回転の速さが、この国の基盤を作るのだから。」


「要するに緑珠様……。」


イブキの声に、緑珠はくるりと振り向いた。


「寂しいって事ですよね。」


「……んな事言ってない。」


「要するにそういう事ですよね。」


「ちがうもん。」


「寂しいなら寂しいって言えばいいのに……。」


「もうイブキに好きって言わないわよ。」


「そ、それは困ります……。」


何処か浮かない顔をして、緑珠は付け加える。


「……それと。戴冠式が終わったら、話したい事が、あるの。」


「……おやおや、それは。」


何時にも増して真剣な面持ちに、イブキは何時もの笑みで答えた。


「……あんまり貴方にとっては嬉しくない事だと思うけれど。」


「聞きますよ。なんでも聞きます。」


屈託の無い彼の笑みを見て、彼女はほんの少し目を伏せながら、


「……そう。」


「ほら行きましょう。そろそろ時間ですよ。」


「そうね。」


彼の手を取って、戴冠の場へと向かった。










「あー……どきどきする……。」


「あんまり緊張しなくて良いよ?」


「そうは言っても、やっぱり緊張するんよ……。」


戴冠式のほんの数分前、緑珠は扉の前でへばっていた。


「僕は今すぐ胃薬を飲みたいです……。」


「イブキもメンタル緊張に弱めよね……。ハニンシャは強いけど……。」


「強くないですよ。」


ちらり、イブキの後ろにいるハニンシャを緑珠は見遣る。


「でもこの場の誰よりも落ち着いてるわ。」


「緊張し過ぎて何が起こってるか分かってないだけです。」


「あぁ、そういう事ね……。」


『新国家の──』


あぁ、声が聞こえるわね、と緑珠は遠くそんな事を思っていた。その内に扉が開く。


ぶわり、風が舞う。そりゃそうだろう。昨夜の内に国は空へと飛んだのだ。風量、温度、湿度共に問題は無さそうだ。


そのまま真っ直ぐに足を進めて、強さと美しさを兼ね備えたあの王冠が目に入る。えっと、皆が各々の席に座ったし、私が此処で手を合わせて膝を付くのか。


頭上に重みがある。そしてそのまま、あの玉座に座った。雇ったあの官人達が皆伏せる壮観な景色を眺めながら、それらしい言葉を述べて、国民にも聞こえるように声を張り上げる。


……そうだ。国名を言わなければいけないんだった。緊張のあまり忘れそうだった。


きっとこの国名は、私が治めていると知っていて、私の出自を知っている人なら、甘えていると思うだろう。ほんの少しの郷愁と、故郷への憧れを以って、私が述べるのは、


「我等は、我が社稷しゃしょくを豊かにし、平和な土地である事を確約すると共に、悠久の国であることを宣言する。その名を、『月影帝国』と言う。」


あぁ、上手いこと言えた。最初に起こったのはそんな気持ちだった。

結局話が終わって、それらしい顔を作り終わって、また歩いて来た道を戻って、背後の大きな扉が閉まった。


割れんばかりの拍手を聞きながら、


「……緊張した。」


「様になっていましたよ、緑珠様。」


「それは有難い話ね。」


「今日は宴会かな?」


「僕お酒飲めないんでジュースで……。」


「用意させましょう。二人とも先に帰ってて。私はちょっとやらなきゃいけないことがあるから……。」


疲労困憊の精神に鞭打ち、緑珠はイブキの手を引っ張って誰にも来ない、国が新しく出来たその歓声だけ溢れる場所に、二人は居た。


すぅ、と息を深くすって、緑珠は美しい笑顔を作って、


「じゃぁね!私がずぅぅっと、隠してたお話をするわね!」


へらり、と彼女は笑った。またとんでもないことを言い出すつもりなんだろう。


「えぇ、どうぞ。」


「……私はね、ずっと貴方の気持ちを『偽善』だと思っていたの。」


これはこれは。また大きく出たようだ。イブキは呆気に取られて何も言えない。


「……。」


「えへへ、最低でしょ!こんな最低なやつ、他には、いな、くて、」


最初は強がっていた緑珠だが、自然に溢れる涙を拭いきれない。


「……緑珠様。」


「だから、ご、めん、ね。ごめ、んなさい。別にもう、貴方は、」


何言ってるんだろう、と自分でも思いながら、伸びてくる手をやんわりと制する。


「それでも僕は、貴女が大好きですよ。」


「……はへ……?」


「僕は、貴女を愛しています。」


真っ直ぐな瞳に、思いっ切り反発する。そんなの有り得ないのだ。そんな大きくて純粋な気持ち、とても抱えられる程の人間ではないのだ。


「はっ、はぁ!?馬鹿なんじゃないの、ほんとに、わたしは、あな、たを、うらぎっ、て、しまって、地獄のあなたでさえも、許せないことを……!」


「良いです。僕が許しました。それで終わりです。良いんですよ、それで。」


「……知んないわよ。また凄いことを仕出かすかもしれないわよ。」


「今に始まったことではありませんよ。」


「……何よぉ、もう、あんたやだ……。」


これで失望して貰うつもりだったのに。こんなの想定外だ。


「そんな意地悪言わないで下さい。」


「いじわるなんて言ってないもん。あんたがっ、いぶきが、わたしのやな事ばっか言うから、わたしが、わたしが!」


これで一人になるつもりだった。なのに。


「わたしが、また貴方達と一緒に居たいと思ってしまうから!」


でもね、と緑珠は涙を拭った。


「私、弱いから。何時までも貴方を疑ってしまうの。だから……。」


装飾に溢れた手を差し出して、緑珠ははっきりとした声を出した。


「私と、『契約』しましょう。」


「……『契約』……。」


イブキは何処か嬉しそうに呟く。それをおいて、緑珠は話を続けた。


「契約内容は、『私を裏切らないこと』。死後も同様にね。」


「……そんな事、しませんのにね……。」


悲しそうな彼の呟きをよそに、緑珠は続ける。


「だから生前の貴方は全て私のモノ。魂も身体も、物に至るまで。私が『勅命』を下したならば、貴方はそれを完全に遂行せねばならない。」


その代償とは如何に。重いモノに違いないだろう。


「その代わり。私は死後、貴方のモノになるわ。魂も身体も全てね。何したって良いわよ。……余りに出過ぎた事をすれば、怒るかもしれないけど。けれどそれを聞いた貴方は、私を如何様にする事だって出来る。」


少しの間の後、緑珠は。


「……如何かしら。この契約内容。」


「明らかに緑珠様に不利な条件ですよ。」


沈黙が辺りを覆う。しかし、緑珠は口を開いた。


「……それでも構わない。もう裏切られるのはうんざりなのよ。私の身を出したのよ。受けるの?受けないの?」


膝をついて、伊吹は。


「その『契約』、お受け致しましょう。全ては貴女の為すままに。」


それを聞いて、緑珠は二つついている指輪の一つを抜いた。膝を付いている伊吹の指に、そっと差し込んで。


「契約成立、ね。これは二つで一つのものなの。有難く受け取りなさい。」


「……えぇ。」


片割れの指輪に口付けを落として、彼は緑珠の手を己の頬に当てた。


「何時でも御命令を。この光遷院 伊吹。如何様な御命令でも遂行致して御覧に入れましょう。」


「……いい子ね。」


「でしょう?」


薄い紫の瞳をしまって、イブキは立ち上がりながら、嬉しそうに指輪をさする。


「ねぇねぇ緑珠様、これってお揃いですよね?」


「そうね。ちょっと大きいかもしれないけれど……。一緒のデザインよ。」


「まるで結婚指輪みたいですねぇ。」


その言葉に、緑珠はかちんこちんに固まった。


「何だか凄く嬉しいです。ふふ、緑珠様とお揃いか……。好きな人とお揃いって、嬉しいもので……。……緑珠様?どうなされたんですか?」


「……けっこん、ゆびわ。」


「みたいじゃないですか?」


そ、それって、と緑珠は明らかに照れながら呟く。


「わたしが、およめさん、ってこと?」


「……そう、ですけど……?」


照れながら、とっても嬉しそうだ。くるりと緑珠は回る。


「今日のドレスは、しろよね。ウェディングドレスみたい。結婚式みたいだわ。ゆびわ。およめさん。おくさん。……ふふふ……。」


まるで少女の様に喜んで居るし、可愛いなぁと思いながら優しく手を掴んだ。ちょっと自分もそういうことをしてみたい。


「大事にしますよ、緑珠様。」


「……ほんと?大事にしてくれる?」


やった、と緑珠は小さく言った。嬉しそうにほっぺたを抑えて微笑んでいる。


「やった、お姫様って言われるよりも、誰かのお嫁さんになりたかったの。お嫁さん、お嫁さん……。」


くるくる、と楽しそうに回っている。これがさっきまで国名を宣言していた女帝とは思えない可愛らしさだ。


「ありがとう。何だかすっごく嬉しいわ。お嫁さん……。そうね、お嫁さんね……。」


きゅ、と緑珠はイブキの手を引っ張って、皆の場所へと戻ろうとする。


「ほらほら戻りましょ……旦那様。」


きゃーっ、言っちゃった!と幼女の様に喜んでいる緑珠を見て、イブキは一言、言った。


「……うちの主可愛すぎか……?」

イブキがハニンシャにプレゼントしたり掴み合いの喧嘩が起こりかけたり真理のややこしい小国どうしの話を聞く話。

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