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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 144 精神宝冠

改めてサフィールに会いに行ったりハムスターみたいなのを発見したりメイドを収集したり着々と国作りが進んで行く話。

「お風呂入った。」


「いい匂いしますもんね。」


「……シャンプーの詰め替え、出来た。」


「偉いじゃん。」


「あとリンスも。……ちょっと零したけど。」


「やろうとしたことが偉いんですよ。」


「……ありがとう。」


リビングで髪を乾かされながら、緑珠は伸びる。


「お昼からサフィールんとこ行かなきゃ……。」


「何しに行くんですか?」


じっとりと冷えた声に、緑珠は軽く答えた。


「おはなし。」


「着いて行っても?」


「良いわよ。」


緑珠は髪の毛を乾かされながら、くるりと後ろを向く。


「真理は?」


「僕もその変態ストーカーが変なことしないように着いていくよ。」


「有難う。」


「誰が変態ストーカーですって?」


「間違えもしないお前の事だよ。」


「否定はしませんけど!」


「しないんだ。」


相変わらず綺麗に髪を結わえられると、着替えに緑珠は踊るように立ち去る。その前に、


「服って洗濯した?」


「しました。」


「……何処に置いてあるの?」


「洗濯機の傍です。」


ありがとう、と短い言葉を切って、洗濯機へ走っていく音が聞こえる。


「……あの子、だいぶと落ち着いたね。」


「そうですね。変に錯乱する事も無くて……。」


「え、もう癇癪起こしたりもないの?」


不思議そうに問うた真理に、イブキは朗らかに答える。


「癇癪起こしそうになったら何かご飯を作るようにすればいい、って言ったんです。まだあの人の癇癪とか錯乱は自分で抑えが聞く範疇ですから。」


「……あぁ、だから夜中作ってたのか……。ぶつぶつ言いながら……。」


「推奨したのは確かに僕ですが、夜中にやっていらっしゃると本当にびっくりします。」


でも、と首を傾げる。


「あの落ち着きよう、怖くもあるんです。」


「薬のことかい?」


こくん、とイブキの首だけ動く。もし薬のせいで落ち着いていたら?もし、その他の良くない理由で落ち着いていたら、それが癖になるのも時間の問題だ。


「君は緑珠が『そういう事』をしていると思うのかな?」


「……いいえ。でも僕の目を盗んで薬を飲むような人ですよ。……無いとは言い切れません。」


とたとた、と足音が聞こえて、間延びした緑珠の声が響く。


「着替えられたわよー……ふわ……。」


「はいはい、此処を伸ばして……眠いんですか?」


近寄ってしわを伸ばすイブキに、緑珠はこくこくと頷いた。


「昨日の夜遅かったからですよ。夜に本は読むべきじゃありません。止まらなくなるから……。」


「分かってるけど、読みたくなるでしょ?」


「分からないことないですが……。」


「駄目なことはしたくなるものね。」


「そうですね。車を呼んでも?」


「お願いするわ。」


そう言ってイブキは電話を取ると、言われていたダイヤルに連絡する。


「お早う御座います。車を一台……」


『おはよ、ございます……車ですね、了解です……。』


「……今起きました?」


『そうです……呼びました……。』


話を聞いていないシャルラインの声を聞きながら、遠くの方で小さな目覚ましのアラームが鳴る。


『……起きますね。』


「そうして頂けると有難いです。」


『それじゃあ切りますね。また向こうで……。』


返答を聞く前にのんびりとした声が耳元で呟かれると、受話器を置いた。そうして部屋に戻ると、


「何してんですか。」


「真理のお膝に座って本を読んでるの。」


「いやそれは見りゃ分かりますけど。」


「緑珠痩せた?」


「ほんとー?嬉しいわー!」


「えっ、凄い複雑なんですけど……。その前に……。」


緑珠の目の前にある本から、薄い金の筋のようなものが伸びて木のようになっている。


「……それは、何ですか?」


「借りてきた本よ!」


「……あぁ、あの……。」


煌びやかな本の隣には、古びた鍵が置いてある。


「……ん?」


「どうしたの?」


金の大木に似合わない、黒いふわふわとした物が付いている。


「何ですか、これ……。」


「それも本の中の物じゃないの?」


「いやこれ、そんな物じゃ……。」


恐る恐るつるつるふわふわの銀灰色のハムスターもどきみたいなのをイブキは捕まえる。


「なんなのかしら?」


「はむすたー、っぽいですけどね……。」


「……ん?それちょっと貸して。」


「えぇ?どうぞ。」


イブキの手からハムスターもどきを受け取ると、腹の部分を触る。


「これミミックみたいだね……。」


「ミミックってあの、宝箱の?」


「そうそう。そのミミック。」


「とてもそんなふうには見えないけど……。目とかも無いわよ?」


見ておきな、と言わんばかりに微笑むと、ぐっ、とハムスターの腹を押す。


「凄い、わね……。」


腹が裂けて、中から眼球が迫り出してきた。……気持ち悪い。


「こういう、物なんですか……?」


「ミミックはこういうものだよ。」


「でも、何でこんな所に居たのかしら。」


ちゅうちゅう、とネズミの鳴き声の様なものが聞こえると、真理は言った。


「新しい住処が欲しいらしいよ。ずっとこの本の守護を趣味でやっていたらしい。」


「でも住処って言ったって……。ある程度大きいものとか古い物が良いですよね。」


車が到着した証であるエンジン音が聞こえる。思い付いた様に、緑珠は言った。


「ね、ダメ元だけど頼んでみない?案外可愛がってくれるかもしれないわ。」











「という事なの。」


「成程却下だな。」


考えもせずにサフィールは緑珠の要求を棄却する。公安長室に無機的な声が響いた。


「可愛いじゃない!」


「そこが問題なんだ。第一可愛かったら防犯の意味が無いじゃないか。」


「そんなぁ……。ね、お前、怖くなれる?」


手のひらに乗せていたミミックに、緑珠は声をかける。ほんの少し考える仕草をすると、ぴょいっと手のひらから下りた。ぐるぐる回って影が大きくなると、そこには一匹の犬がいる。


「凄い。変身も出来るんですね……。」


「……嘘だろ?」


「飼ってくれない?防犯に最強よ?お腹から目が出てきてちょっとほら、アレ、だけど……。」


「う、うん、まぁ、これ、なら……。」


犬の頭を撫でながら、サフィールは尋ねた。


「というかこれ、何食べるんだ?」


「鉱物。石ころでも食べるよ。一ヶ月に一度やればいい。」


「て、低燃費な生き物なんだな……。」


こちら側の会話を聞いて、ミミックは嬉しそうに尻尾を振る。


「良かったわね。ミミック。……じゃなくて、名前が要るわね……。」


嬉しそうに寄ってきたミミックの頭を、緑珠も釣られて嬉しそうに撫でる。


「タローとかで良いんじゃないですか?」


「もっと可愛い名前をつけたいのよね……。」


「ココアとか?」


「こうもっと、古臭い感じ……。」


ぽん、と手を叩いて。


「……タカライチゴウ。がいい。」


「……何をどうしたらそのネーミングが出てきたんですか?」


不思議そうに見詰めてきたイブキに、緑珠はあっさりと答えた。


「いや、すっごく丁度良かったから……。タカライチゴウは長いから、愛称はタカラで良いかしら。」


「良いんじゃないですかね。」


半ば色々ぶん投げ始めたイブキを横目に、緑珠は目線をあわせてミミックに言った。


「貴方はこれからタカライチゴウって名前よ。タカラ。良いでしょ?」


満足気な笑みを浮かべた彼女に、タカラは思いっ切り元気良く、嬉しそうに微笑む。


「うん。良いって言ってるわ。さて……。」


「話の転換点凄いですね。」


ぽそり、イブキは呟くが、緑珠をそれをスルーしてサフィールに問うた。


「お城の方はどうだった?」


「変わらずだ。誰も手をつけていないから、荒らされてはいない。……ま、老朽化が進んでいる所はあるがな。」


「住めそう?」


「あぁ。」


ニヤリ、一つ笑みを浮かべて。


「離宮が三つあるぞ。」








「……此処が、しろ、ですか。」


「そうだ。」


「えっーと、その……。」


珍しくどもった緑珠が、続けて、


「……大きすぎない?」


「中々工事が欠陥なんだよなぁ。」


サフィールの若干怖いボヤキを聞きながら、内部へと足を進める。


「魔法で補強するしか無いかもな。何時崩れるか分かったもんじゃないし。」


「よくそんな場所に住んでたわね……前の王様は……。」


「それは国民も思っていた。」


内部を見ていても、大きな壁の剥落もない。ただ埃が多い。家具もそこまで荒らされては居なかった。


「泥棒が入った形跡とかもないけれど……。」


「厳重に管理していたからな。公安が。」


ずんずんとサフィールは奥へ進む。


「電気も着くぞ。ガスも通ってる。水もある。召使いはまだこの国に山ほど居るから、招集をかけたら喜ぶだろうな。」


「勤め先を探すのって大変だもんね。」


呑気な声を上げている真理に返すことなく、突っ切った中庭が見えるその先に、『それ』はあった。


「……此処だけは相変わらずだな。誰も居なくても、荘厳さしかない。」


「……此処、が……。」


大きな白塗りに金の模様が描かれた大きな扉に、無骨な錠がかかっている。がちゃん、と大きな音が立った。


「お前の居るべき場所だ。……此処だけは、荒らされていない。」


「公安が管理していた、から?」


イブキが茶化す様に言うと、人間らしく肩を竦めて、


「何人足りとも、この先に入りたいと、不可侵を侵したいと思わなかったからだ。」


ぐぐっ、とサフィールは音がするように扉を押すと、その奥には『玉座』が見える。


「玉座の間なのね。」


「そうだ。だから言っただろう?『お前が居るべき場所だ』と。」


夕陽が天窓代わりのステンドグラスから落ちている。赤い光が緋毛氈に溶け込む。奥には全てを物語る白磁の傷一つない玉座があった。


「……簡素、だったのね。」


「派手が良いのか?」


「いえ。もっと派手だと思っていただけよ。」


玉座の方へ、緑珠はゆっくりと足を進める。


「……これ、王冠とかはどうしたの?」


「無いぞ。そんなもの。」


「盗られたの?」


「盗られた訳ない。誰も入れないと言ったぞ?」


「えぇまぁ、それは分かっているのだけれど……。」


じゃあ、とイブキがサフィールに問うた。


「それでは、王冠は?」


「その玉座が作る。」


粛然とした雰囲気の中発せられた意味の分からない言葉に、三人は硬直する。


「えーっと……公安長くん、どういうことかな……?」


「白々しいぞ。知ってる癖に。」


「ほら、僕はただの人間だから。」


正に白々しい笑みを作って真理がそう言うと、サフィールは答えた。

玉座の秘密が明かされたりサフィールが珍しく先を急かしたり緑珠がそれっぽいと思ったりする、帝国建国前最後のお話。

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