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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 143 浮遊国

緑珠様が思いっきり魔道式を書いたり直ぐに諦めたりイブキが思いっ切り分別ついてなかったり真理のコヒペの力で大体解決する話。

「……疲れた。」


「まだ少ししか書けてませんが……。」


「疲れものは疲れたのよぉ。十米メートルは書いたでしょ。」


「それはまぁ、描かれていますけれど……。」


「ちゃんりすすむのはやい……。」


「慣れてるからねー。」


国のぐるりから少し離れた場所で、緑珠は魔道式を描くのを止めた。集中力が続かない。


「でも描かなくちゃなのよね……。」


そうだ、と緑珠はぽん、と手を叩いた。


「何か面白い話しましょ。」


「また曖昧な……。」


「そんな難しく考えなくて良いのよ。真理が猫に埋もれて窒息死しかけた話でもいいわ。」


「それ皆知ってるじゃん。」


一つ唸って、イブキは。


「緑珠様が倒立しながら魔道式の試作品を描かれた話、とか……?」


「待って貴方何でそれ知ってるの。」


「えっ、それ聞きたい詳しく。」


あわあわと手をばたつかせる緑珠をよそに、イブキは話を続ける。


「詳しくって言っても……。それだけですよ。『腕が……上がらないわっ……!』って言ってらっしゃいましたけど。」


「あの時の私はほんとにどうかしてた……。」


「何時もどうにかしてらっしゃいますよ。」


「何か言った?」


「イイエナンデモ。」


じろりと睨まれたイブキは、ゆるりと目をそらす。


「んー……ほんとにやる気起きない……。」


黙る緑珠に、イブキは一つ提案を渡す。


「……コピペすればいいのでは?」


「……こぴぺ。」


「ほら、書類作る時に使ったりするでしょう。魔道式には適用できないんですか?」


緑珠は真理と目を合わせると、


「天才よ!イブキ!」


「お褒めに預かり光栄です。」


真理に走る背中を見ながら、ぼおっとしているイブキに声がかかる。


「おい。お前。」


「お前ではなく光遷院伊吹です。……以後お見知りおきを。機械人形。」


「機械人形ではなくサフィールだ。」


「それは失礼。」


それだけのやり取りをして振り向きもしないイブキに、サフィールは問うた。


「お前は手伝わないのか?」


「えぇ。……僕にはまだ、魔道式を描く程の力はありませんから。」


その言葉に察すると、また機械人形は続ける。


「傍に行ってやらないのか?」


「もし変な所でも踏んでしまったらどうするんです。僕にはそれが、分からないんですか。」


ぽつり、と呟く。


「……僕は分別がありますから、大丈夫ですよ。」


ぽたり、ぽたり。ぎゅう、と音がしそうな握り拳から血が数滴、こぼれ落ちている。


「……そうか。」


それ以上かける言葉が見つからなくて、それ以上の言葉を探すのを止めて、サフィールは緑珠へと歩みを進める。


そんなサフィールを見ながら、イブキは恐る恐る自分の握り拳を解いた。その惨状をみて、一言。


「ははは……痛いですねぇ。」


その呟きは、一羽の鳥が飛ぶ空に溶けた。










「凄い火力だったわね……。」


「気晴らしになりました?」


「なった。なった、というか……。」


一つおいて、緑珠はカフェテラスで呟く。


「……あれを作った博士が、凄いわねぇって。」


フォークの先で苺をつつきながら続けた。


「仕組みが分からないのだもの。解体して壊しちゃったら嫌だし。」


つついていた苺を、ひょい、と口に乗せる。


「……ま、謎は謎のままの方が面白くて良いわね……。」


ふんわりとしたクリームに、さくっとフォークをさしながら、緑珠は呟くように言った。


「ね、イブキ。私気になることがあるのよ。」


「おや、何でしょう?」


「この世から『分からないこと』が無くなったら、皆どうするのかなぁって。」


「……成程。」


考え込んで座っているイブキの横で、緑珠はケーキをぱくぱくと頬張った。


「今だってまさにそうよね。『曰く付きの刀』がウランだったり、『海に浮かぶ妖怪』が蜃気楼って物だったり。色々明かされていくでしょう?」


青く眩しい空に一筋、雲が流れる。


「そうしていつか、世界に『分からないこと』が無くなった時に、人はどう行動するのかしら……と思って。」


「貴女の考えは?」


「聞いて影響受けちゃ素直な答えじゃなくなるでしょ。先に言ってよ。」


そうですねぇと呟いたあと、イブキは、


「……僕は、新しく楽しいものを作ると思いますよ。全てを忘れて、享楽に耽るために。」


「案外明るいのね。貴方の未来の思考って。」


「そうでしょうか?享楽だらけの世界ってきっと苦痛ですよ?……さぁ、貴女は?」


また同じ様に、そうねぇ、と呟くと。


「……私もあんまり、貴方と変わらないかも。真逆かしらね。進んで謎を作り出すと思うわ。」


少し悲しそうに首を傾げながら、緑珠は言った。


「人工的に作られた謎って、答えが一つしか無いから直ぐに飽きちゃいそうだけど……。」


「もし世界が滅んで、謎だけ残されて、また異界の旅人が世界を訪問したら、きっとあまりのくだらなさに笑えて来るでしょうね。」


イブキの返答を受ける頃には、緑珠の白磁の更にはほんの僅かなクリームしか残っていなかった。


「それ言えてるわね。真理は?」


「おやおや、居なかったのに……。」


「もう戻って来るかなと思ったのよ。」


それで、と緑珠の隣の席に座った真理に、もう一度質問を浴びせる。


「この世の中から『分からないこと』が無くなった時、人間はどうすると思う?」


「……聞かなくても、僕分かったんだけど……。」


「貴方は人間でしょ?」


最後のクリームを掬うと、ひょいっ、と口の中に入れた。その様子を横目で見ながら、真理は答える。


「……そうだね。それじゃあ答えようかな。そうだな……謎が無くなったら……。」


少し希望の眼差しを見せたが、直ぐにそれを曇らせると、


「……その時点で世界って終わっちゃいそうだよね……。」


ぽん、と手を叩いて、


「あ、でも他人に対する興味は尽きなさそうだから、謎が無くなることは無さそう!」


「ですね。それ超絶分かります。」


じっとり、緑珠に視線が当たる。


「……貴方私のことで知らない事とかあるの?」


「無いですけど。でもほら、突然変な行動するじゃないですか。」


「別に変な行動だなんて……。」


「流石にホットチョコレートを字面のまま取ってチョコを全部溶かして飲む人は始めてみました。」


目を逸らしながらイブキは答える。余りの恥ずかしさに緑珠は立ち上がって机を叩いた。


「し、仕方ないじゃない!そう思うでしょ!?」


「確かに最初そうは思いますけど、作り方聞いた時に違うなって分かるじゃないですか。」


「ただ普通にチョコを飲みたかったの!」


「理由それですか。」


「……飲みたくならない?」


「ならないです。」


「……あらそう。」


少ししょげながら、またすとん、と座る。


「やりましょうか。魔道式描きましょ。」


「やったよ。」


真理の何事もなかったような声音に、吃驚しているイブキをよそに緑珠はあっけらかんとして答える。


「あらまぁ。どう?浮きそう?」


「浮くんじゃない?」


「まぁ昨日浮かせられたし……いけるかしらね……?」


話についていけないイブキは、慌てて緑珠に声をかける。


「ちょ、待って下さい!昨日浮かせたって、何を……!?」


「山。」


「山ァ!?」


「ほら。上見てご覧なさいよ。」


ちょいちょいっ、と空をつつくようにして示す。


「……え?あれ鳥じゃ……。」


「山よ。」


「…………いやいや、そんな事言われても信じませんよ!」


「じゃあ連れて来ましょうか?此処に。……街中破壊されるけど。」


「信じなかった僕が悪かったですすみません。」


空に浮かぶ山を見上げながら、イブキは苦々しく続ける。


「というか、何時そんなもの上げたんですか……?」


「昨日の夜。」


「え……?緑珠様が居なくなったら、即座に気付くこの僕が……?」


「そう。だからね……。」


イブキの珈琲を我が物顔で飲みながら、彼女は言った。


「前々から山のある場所までワープホール作って、縄みたいにした魔道式を山全体にかけて、この国に流されるように設定して、朝起きて窓を開けてあれがあったら成功って訳よ。」


「家に居なかったのは……?」


「測ったところ一秒にも満たない感じだったわね。」


「どっかのタコ先生みたいに早いねぇ。」


「マッハは出ないわ。」


「似たようなもんだと思うよ?」


暫く頭を抱えていたイブキは、ゆっくりと頭をあげると、


「……貴女やること凄いですよね……。」


「でしょ?」


にんまり笑顔が、イブキの目を捕らえた。











「お元気?」


「さっき会ったばかりなのにそれを聞くのか?それに俺には元気だとかそういう物は無いぞ。」


「そういうのは良いのよ。合わせときゃ。」


「……そうなのか。」


「あれは上手くいったかしら?」


それよりも……と人が全く居ない食事処を見渡して、サフィールは言った。


「あの二人は来てないのか?」


「貴方と一対一で話したいと思ったの。あの二人は先に帰ってもらってるわ。」


で、と緑珠は話題を元に戻す。


「『あれ』は?」


「上手くいったぞ。……ただまぁ、不信感はあるがな。」


髪の毛を弄りながら公安長は呟いた。


「全く驚いたよ。『恐怖を敷いていた貴方々が『私達』に頭を下げたとなれば、そう大きい事は怒らないでしょう』って言い出した時は。事実、お前達に対する畏怖は恐ろしい物になっている。」


「そんなに萎縮されるのも困りものだけれどね……。」


「小さいながらに暴動も起こったからな。」


「『王』が出るってことに関しては誰も何も言ってないの?」


からん、氷が割れる音が響く。


「それ以前の問題だって事だ。俺達が頭を下げた存在ってのが怖いんだろ。……死んだ姫が生きてりゃそりゃあな。」


じいっ、と緑珠は食い入る様にサフィールを見つめた。


「何だ?」


「……貴方、結構砕けた話し方するのね。」


「そっちかよ。」


まぁなんだ、と機械人形は続ける。


「首尾は順調ってとこだな。」


「いきなりまとめたわね……。」


「お前の従者が煩そうだと思ってな。」


「……それ言えてる。私も会いたいし帰るわね。」


お代だけ置いて店を出た緑珠の後ろ姿を見ながら、サフィールは店主に呟くようにして言った。


「とんでもない人だ。あの姫様は。」


「……私も同意見ですな。」


それを聞いて、何処か満足そうにサフィールは微笑む。


「……それは良かった。」










「ただいまぁ。」


「お帰りなさいませ。」


「うわっ。」


玄関を開けると、肘をつきながら座っているイブキが居る。


「あ、あなた、ずっとそこすわってたの……?」


「緑珠様、今何時ですか。」


「……あの、ずっとそこに……?」


「いま、なんじ、ですか?」


酷く地を這う声に、緑珠は玄関にかかっていた時計を見上げる。それは夜の十一時を示していた。


「……え?十一時……?な、なんで……?」


「……ウケる。」


「何か言った?」


「言ってませんよ。さて。どうして門限を破ったんですか?」


罠に嵌められた気がする。しかしそれを破らんことには反論も出来ないし、一体何処で嵌められたのかも検討もつかない。確かに馬車に乗ったのは夕方の七時だったのに……。


「な、何も知らないわ、ね、違うの、なんでこんな時間に……。」


「……まぁいいです。」


おや、あっけらかんとしている。すくり、綺麗に立ち上がると。


「早くお部屋に戻りましょう。お疲れでしょう?」


何処か不思議な気持ちを携えながら、緑珠はイブキに手に引かれるがままに部屋に入る。そして、後ろで鍵がしまった。……これは……。


「んっ!?」


口を塞がれたまま、目の前のベッドに押し倒される。伸ばした手も、優しく取られた。


「緑珠様って警戒心無さすぎですよね。」


「こ、んなこと、いきなりするから、っ、ひゃぁっ……。」


ふぅ、と耳に息を吹きかけられて、びくりと身体を震わせる。


「やめ、やめっ、て、やだ、やだ……。」


「あはァ♡緑珠様ったらほんっと可愛いですねぇ。僕がこのまま強姦でもすると思ったんですか?」


「や、やだっ……。」


「しませんって。……してもいいですけど。」


びく、と怯えた瞳が伊吹を捕らえる。……あぁもうほんと、それ煽ってるんですかね?


「今日の緑珠様の罰はァ、お風呂に入らずに僕に抱きすくめられて眠ることですよぉ。」


突然のことで何も言えない緑珠に足をからませながら、ゆっくりと横になる。


「寝ましょうね。精々じっとしている事です。」


身体を震わせながらも手を伸ばしてくる主が可愛らしい。……やはり縋る相手は自分なのだ。


「……緑珠様が可愛くて、襲っちゃうかもしれませんから♡」


一際震えた主を喰い尽くす様に抱き寄せながら、我儘に従者は全てを貪った。

改めてサフィールに会いに行ったりハムスターみたいなのを発見したりメイドを収集したり着々と国作りが進んで行く話。

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