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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 134 秘密結社

秘密結社の事をだべったり青年の秘密が明かされたり、表の国の政治体制がちょっと分かったりするお話!

「『秘密結社』、ねぇ。」


壁が取り壊された道を、緑珠はぼおっとしながら超える。


あれ以降表の国の訪問は無いし、こちら側も悠々自適に生活出来る様になった。


もしかしたら突然の事過ぎて、表の国が処理し切れていない所もあるかもしれない。


なんて言ったって指導者が居ないのだから、纏めあげる人間が居ないという事だ。


そういうのは不便だろうなぁ、という思考が、彼女の頭の中をぐるぐる旋回していた。


「今日は天気が良いわね。」


「ピクニック日和って奴ですね。」


青い大空に取り残された白い雲が、表の国とこちら側を挟む田園風景に影を落としている。林道からざっ、と風が巻き起こり、空へと飛んで行く。


「こういう風景って不思議と懐かしいわよね。」


「田園風景に懐かしさを感じてしまうのは何でなのかなー、っていっつも思うよ。」


足元を見ながら土を蹴っていると、懐かしい軍靴が見えた。


「黒い軍靴……あ、」


「行く手間が省けた。」


冷たい銃口が、緑珠の額に当てられる。


「あれどうにかしなくて良いの?」


「……多分今から凄いことを為さるので僕は何もしなくて良いです。」


「語彙力死んでない?」


「無茶振り連続されると深刻な語彙力の低下が……。」


話している真理とイブキを他所に、緑珠は突き立てられたリボルバー式拳銃の持ち主を眺める。あの『将軍様』、と呼ばれた青年だ。


「あら、こんにちは。」


「そんなに近付いて殺されたいのか?」


「いいえ。私をころしてくれる人は決まっているの。ごめんなさいね。貴方はその枠じゃないわ。」


ぐっ、と拳銃に込められる力が強くなる。その冷たい拳銃に、頬を擦り寄せて。


「私、拳銃って好きよ。冷たくて、冷徹で。人を殺すには最良の武器じゃない?」


「……武具は皆冷たいだろう?」


「意思を持ってる武器だってあるわ。……あれも好きよ。とっても熱くて。」


「お前の武器は、そうなのか?」


「そうね。何時だって貴方を殺せるだけには熱いわよ?」


拳銃の引き金に思いっ切り力を入れた青年は、銃弾が発射されない事に眉をひそめた。


「……弾詰まりじゃない?」


「つくづく運の良い女だな。」


「運も実力の内ってね。……弾詰まりしちゃ、撃っちゃ駄目よ?」


「いや、良い。」


弄っていた目を、緑珠を狙う目に変える。


「暴発すれば、任務完了だ。」


無理矢理引き金を引くそのほんの少し前に、緑珠は少し下がって結界を貼る。


そして、拳銃は暴発した。鈍い音が暫く続いて、緑珠は薄く目を開けた。


「……え?どう、いう、こと……?」


「はーん……なるほどねぇ……。結界で全部跳ね返したらどうなるかと思ってみたら……。」


「そりゃ強い訳ですよ。」


なんて言ったって、とイブキは青年の様子を睨みつける。


「『不老不死』、でしたらね。……でも……。」


跳ね返った銃弾は、全弾青年に当たる。だが、致死量に至る程の出血が足元に落ちているのに、しゅうしゅうと音を立てて彼の傷は治っている。


「こちらの国に来るのだろう?」


「えぇ、そうね。」


緑珠は表情一つ変えることなく、青年の質問に答えた。


「ならばそれがお前の墓だ。」


「そういう台詞、今までに山程言われて来たのだけれど。」


「無能だったのだな。その殺し屋は。」


「神様も居たのよ?その殺し屋の枠に。」


「……神は人間が創ったモノだ。言わば其処らの農具に過ぎん。」


「……まー間違ってない理論だけどさ……。」


聞いていた真理が、苦々しそうに軽く頭を掻く。


「この世に神も仏もありはしない。……あるのは自然と、溢れる人だけだ。」


「……貴方は自然が好き?」


「そうだな。好きだ。」


「ずっと見ていても?」


青年は軍帽を深く被る。


「……その質問は卑怯だぞ。」


「そうかしら。……ね、聞きたい事があるの。」


「却下すると背後の二人が煩そうだし、もう俺に力は無いからな。構わない。」


そっと緑珠は手を差し伸べて、


「貴方の名前を教えて。もうお互いの事知らない訳じゃないでしょ?私の名前を知ってて言わないなんて、狡いわ。」


「……言わない。」


きっぱり、青年は言い切る。真っ直ぐ緑珠の目を見詰めて。


「じゃあ約束。私が貴方の主になったら教えて。ずっと『将軍』って呼ぶの、他人行儀で嫌でしょ。」


「考えておこう。」


短くそれだけ言うと、足元に魔法陣が現れる。そして将軍はすうっと消えた。


「……お怪我の程は。」


イブキが駆け寄ると、緑珠はにっこりと微笑んだ。


「してない。大丈夫。……二人とも、心配かけてごめんなさい。」


「ほんとですよ全く……。」


「人が神を創った、か……。」


「気になってるの?」


硝煙の臭いを超えて、三人は再び歩き始める。


「間違ってないよ。彼の言ってることは正しい。僕は人の『無意識』から産まれた存在だからね。人が『神』という存在を認識して、『神はこれこれこういう力がある』と認識したら、もうそれで神だ。」


「人の『無意識』、ねぇ……。」


「『無意識』って強固なんだけど、揺らぐと結構脆いんだよねぇ。一人だけ神はいるー、って思ってて意味ないしね。」


「概念体はややこしいんですね。」


「そういうものだよ。」


そんな雑談を続けている内に、表の国が見える。活気が溢れる市場から声が零れている。


「着いた、わね。」


「何だか色々巻き込まれた気がしますが。」


「怪我しなかったし良しとしましょ。」


「貴女ほんとそういう処ですよ……。」


イブキの愚痴を置いて、表の国に入る。表の国は相変わらずだ。ただ少し警備の目が厳しくなった、くらいである。


「もう慣れちゃったのよねぇ。」


「何が慣れたの?」


「命が狙われること。」


「いやそれ慣れちゃ駄目ですからね?」


「でも考えてみなさいよ。私昔から、生まれた瞬間から命狙われてたのよ?」


「まぁ、それは、そうですが……。」


ざわつく大通りで、緑珠はくるりとイブキに振り向く。


「イブキだって命狙われてたでしょ?」


「貴女と同じでSP居ましたよ。ちゃんと。」


「伊吹君ってちっちゃい頃引きこもりしてそうだよね。」


「其の言い方は癪にしか触りませんが事実なので何とも言えないのとても腹が立ちます。」


「何気に足踏むの止めてもらって良いかな?」


「すみませぇん聞こえないですぅ。」


直ぐに煽り合いをするイブキと真理に、彼等の主が割って入る。


「何でそんな直ぐに言い合いするの?それ以上言い合いしたら貴方達がお腹空いてる前で美味しいご飯食べるわよ?」


「お仕置きの提案それなんだね……。」


「こう、微妙に嫌な提案しますよね……。」


「お仕置きって別に嫌じゃないけど、鬱陶しいくらいが丁度良いわよね。」


「否定はしません。」


振り返った緑珠はまた前を向いて、街を眺める。


「さ、て、と、件の集団は何処に居るのか……。」


「聞くのも怖いですよねぇ。」


「ふっふっふっ……こうなったら真理さんの力を使うしか無さそうだねぇ……!」


任せて、と言わんばかりに目を瞑ると、瞼の裏に『その風景』が浮かぶ。


「そっか。真理の力を借りれば良かったのね。」


「緑珠様ってあんまり真理の力を借りたがりませんよね。」


「うん。あんまり使わせたくないし。」


ゆっくりと目を開けた真理は、そう言った緑珠に疑問を投げる。


「どうして?」


「だって、今の貴方は人間なんだもの。神様の力なんて使わなくて良いのよ。」


緑珠の言葉を聞いた彼は、目頭を抑える。


「……何か今、うるっときた。」


「うわガチ泣きですよ。」


「そんな事言うけど、君緑珠が結婚するとかなったらどうすんのさ。」


「緑珠様は僕と結婚するんですよ?」


「なぁだからそんな自信何処から来るのかってほんと。」


会話している二人の合間で、緑珠は何かをもぐもぐしている。


「んーむ。んまんま……。」


「何食べてるんです?」


「おまんじゅう。」


「美味しいですか?」


「おいしい。」


「良かったですねぇ。」


よしよし、と子供の頭を撫でるようにして笑顔で緑珠の頭を撫でるが、イブキは慌てて我に返る。


「いやいや!駄目ですよ!探しに行くんでしょ!」


「まだじかんあるじゃない。むしゃ。」


「そうだよ伊吹君。ごく。」


タピオカを飲んでいる真理を一瞥する。


「……ぼ、ぼく、僕も、なにか、飲みます……。」


「イブキは何飲むの?」


「久しぶりに甘い物も、悪くない、です、よね……。」


イブキはミルクティーを受けるとると、それを見た緑珠は二人の手を引いて、広場のテーブル席に座る。


「食後の甘い物、良いわよねぇ。」


「……甘い物なんて久しぶりに食べました。」


パステルカラーのお饅頭を頬張りながら、緑珠はぼおっと街角を眺める。


「本当に今日、天気良いわね。」


「そうだね。」


一息ついて彼女は立ち上がると、


「よし。行きましょうか。何か今日は久しぶりにゆっくり出来た感じするわ。」


「案内するよ。こっちだ。」


広場のゴミ箱にゴミを捨てると、真理の後について行く。


「表の国にもこんな綺麗な場所があったのねぇ。」


「此処は国があった頃に出来た地区らしいです。」


「……何だか形の変わった社会主義みたいだね。」


「言えてるわぁ、それ。」


曲がりくねった道が続く合間に、街角で子供達がはしゃぐ声が響く。何処かで聞いたような童歌と、幻想が渦巻く。


「ちっちゃい頃って、自分の知らないことは何でも『不思議な事』で片付けてたわ。」


「きっとそれ、誰でもそうなんじゃないでしょうか。『不思議な事』で片付けないのが、学者に成れる素養を持った子と言えるというか……。」


「幻想は心を巣食うからねぇ。」


曲がって曲がって、城壁の外が見える。近辺が砂漠でも、向こう側には若葉が萌ゆる山脈が見える。


「緑珠。……着いたよ。」


真理が示した場所には、蔦が生い茂っている壁があった。その奥に古い木の扉が見える。


「此処、が……。」


「『秘密結社』って言われてる場所だねぇ。」


蔦の山をかき分けて、そっ、とドアノブを握る。思い切って握り回すと、薄暗い通路に階段が見える。


右側の剥き出しの煉瓦の壁に、そっと手をつく。


その小さな階段を突き当たりまで降りると、手をついて左を向いた。


部屋の中にある何十人、いや何百人の視線が全て此方に向けられる。部屋に居た男が、緑珠に銃口を向けた。


「手を上げろ。何者だ。」


今回は人が少ないし、上手く話せそうだ、と彼女は一つ大きく息をつく。


「私は『奴隷区』で王として立った者。……壁が無くなった事は知ってる?」


「壁が無くなった。あの話は本当だったのか……。」


半ば感心するように言うが、それでも冷たい銃口はそのままだ。


「あの壁の破壊を命じたのは私よ。貴方達が壁を壊して国を併合して欲しいという意思を持っていると聞いて此処まで来たの。」


「……なるほど。名を何と?」


そのままの調子で男は続けると、緑珠は己の名を述べる。


「私の名前は蓬莱緑珠。貴方達の未来の王。……受け入れて貰えると幸いだわ。」


「少し待て。」


銃口は下げられて、室内に居た代表らしき人間が会話しているのが見える。聞こえないのは防音魔法が使われているからだ。


防音壁が解かれて、先程の男が緑珠に笑みを浮かべながら近づく。


「私達は貴女を受け入れましょう。ようこそ我等のアジトへ。」


「……あー、ほんと良かった。結構これでも緊張してたのよ?」


そうでしょうね、と男は微笑む。


「膝が笑うどころか爆笑していらしてましたし。……うん、届けられた情報と何ら変わりない。魔法でも検査済み、と……。貴女は蓬莱緑珠だ。我等が陛下。」


「ちょっ、ちょっと待って。それはまだちょっと気が早いんじゃない……?」


「こんな国なんて案外直ぐに手中に収められますよ?」


なんて言ったってねぇ!と脇から女の声が響く。


「私達は役人でしたから!」


「……役人、ですか。」


口を開いたイブキの素っ頓狂な表情に、明るい女は答える。


「この国のクーデターの事については御存知ですか?」


「えぇ、その話は聞いたわ。」


なら話は早い!と女は明るい調子で続ける。


「クーデターがあった間にも、国は動きます。ですから私達は働いていたのですが……。」


「まぁ、今はこんな感じなんです。」


少し熟考しながら、緑珠は口を開いた。


「と、なると……貴方達は前の政権の役人だったって事は、十分エリートだった訳ね?」


「いやぁ、エリートだなんてそんな。……言われて悪い気はしませんが。」


くすくす、と男は微笑む。だが、直ぐにその顔は険しくなった。


「私達が今此処に居るのは、勿論壁を壊して国を併合する事が目的ですが……。『指導者』が欲しいのです。」


「なら私は適任じゃない?」


胸を張って自慢げに言った緑珠に、そうなんです、と男は深く頷く。


「お力添えは致します。情報なら任せて下さい。表立っては戦えませんが、作戦くらいなら立てられます。」


「でもお高いんでしょう?」


茶化す様に言った緑珠に、男は微笑む。


「勿論、これは貴女様とする最初で最後の取引です。」


「聞きましょう。内容は?」


冷たくなった険しくなった空気に、男は叫ぶようにして、誓願するように言った。








次回予告!!!

秘密結社から提案を受けたりそれを飲んだり番兵さんの正体がわかってそれを問い詰めたり緑珠様の苦手分野が分かったりとほの暗さが多いお話!

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