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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 133 すてぇき

番兵さんに表の国のことを色々と聞いたり公安のことを色々と話したり飯テロ回だったり色々てんこ盛りなお話。

「お腹空いたわねぇ。」


「頼んだばっかですもんねぇ。」


「思いっきりお腹空くとガツンとしたもん食べたくなるよねぇ。」


「そうやって二日酔いの俺の隣で話すってのは嫌がらせなのか?」


「そんな事ないわよ?」


酒場の木製カウンターにイブキ、緑珠、真理、番兵の四人は座りながら、各々の格好でのんびりしている。


「いきなり呑んだりするからですよ。久しぶりに呑むならゆっくり呑まないと……。」


「お前みたいな酒豪に言われてもな……。バカみてぇに昨日呑んでたじゃねぇか……。」


「酔わないですよ。僕は。」


澄ました顔をしながらイブキは水を飲む。話している内容が空っぽ極まりない。


「あっ、やったー!フライドポテトだー!」


運ばれて来たフライドポテトに、緑珠は手を伸ばす。遅れて三つの飲み物が来た。


「はいどうぞ。」


「わぁい有難う!むふふ、おいし……。」


「飲み物ってジンジャーエールだよね?」


「うんうん!そうよ!」


思いっ切りぐびぐびとジンジャーエールを飲み干す。この組み合わせが最高すぎるのだ。


「んー!最高よねぇー!」


「緑珠様しゅわしゅわしたもの好きですよね。甘露水もそうでしたし。」


「そんな事言って、イブキだって炭酸水よね?真理?」


「人の事言えないやつだねぇ。」


「真理は甘いものが好きですものね。」


そう言って、イブキはじっと真理の頼んだオレンジジュースを見詰めている。番兵がやっと口を開いた。


「別に何頼んでも良いじゃんかよ……。」


「番兵さんは?何頼む?」


「檸檬炭酸水……。」


「しゅわしゅわの奴ね!すみませーん、檸檬炭酸水一つ下さい!」


あいよ、とカウンターの奥から店主の声が聞こえる。さて、メインディッシュが来るまで雑談だ。


「ほら、小学校の実験で水の中に二酸化炭素入れる実験あるじゃない。」


「あー、あれだっけ?ペットボトル反対にして水突っ込むやつ……。」


「何でしたっけ、水上置換法でしたっけ。」


メインディッシュが来る前にジンジャーエールを飲み干してしまいそうな緑珠は、最初からある水に戦場を変えた。


「そうそれ。あれさ、家に二酸化炭素買ってきて入れたら炭酸水にしたら良いんじゃないかって常々思うのよねー。」


「それ同じ事小学校で言ってる人居ましたよ。」


イブキの一言に、彼女は興味津々の眼を向ける。


「えっ、ほんと!?何て返されてた!?」


「……『二酸化炭素買う分で炭酸水作る機械を買うか、炭酸水買った方が安い』って言われてましたよ。」


「トーシロが作るから炭酸抜けそうだもんねぇ。」


「…………そっかぁ。」


「そんな露骨にしょげないで下さいよ僕が泣かしたみたいじゃないですか。」


「お前ら何の会話してんの……?」


びゃっ、と緑珠は顔を上げる。じゅうじゅうという音と、いい匂いがするからだ。


「こ、この音と匂いはっ……メインディーーーーーッシュッ!」


「ですね。」


そう、待っていたのは分厚いステーキ。肉汁が溢れんばかりに出ている。しかも分厚いステーキが二枚、まぁまぁの量の大きさである。そして、同じ物を三つ頼んだ。


「緑珠様、食べ切れるんですか……?」


「お腹空いてるんだもの。食べ切れるわよ。」


「無理になったら直ぐに言ったら良いからね?」


「ぼく、僕がたべっ、緑珠様の残したの食べっ、」


「歪んだ笑みが隠せてないわよイブキ。」


ナイフとフォークを手に取り、ステーキを縦に斬る。


「さっきから妙に澄ましてたのはあれね?私の食べ残しを狙ってたのね?」


「べっ、別に狙ってたとかじゃないんですからねっ!」


「ヤンデレとツンデレ混ぜなくて良いよ。それじゃあ頂こうか。」


暫く食器の音と咀嚼音が店内に響く。四人以外は誰も居ない。人数に含めるとしても店主だけだ。


「……おい……。」


番兵が小さく声を上げる。


「んー?」


「はいはい緑珠様、食べてから話しましょうねー。」


イブキはもぐもぐしている緑珠の口元を拭く。


「んぐんぐ……。」


「どうしたらこんなに付けられるんですか……全くもう……。」


口元を拭き終わって、咀嚼すると、緑珠は番兵へと目線を遣る。


「どうしたの?」


「いや、何用で来たんだよって話だ。何か用があるから来たんだろ?」


「それはそうだけれど、お腹空いてると頭回らないじゃない?だからちょっと待ってね。食べるから。」


「ちゃんと噛むんだよ?」


「はぁい。」


緑珠はまた食べる作業に戻る。もう一枚半食べた彼女を、イブキはじいっ、と見つめた。


「……いや、食べるの早すぎません……?」


「ほーふ?」


フライドポテトと山は半分になり、ステーキの野菜だけが残る。


じとり、嫌悪感の視線がそれに向かった。そして期待の眼差しをイブキに向ける。


「駄目ですよ。食べなさい。」


「何でよー。食べ残し食べたそうにしてたじゃない。」


「貴女のは『食べ残し』ではなく『好き嫌い』です。つべこべ言わずに食べなさい。」


「えー……。」


左様斯様そうこうしているうちに、イブキは綺麗に手を合わせて完食を宣言する。


真理はとっくの昔に食べ終わっているし。……彼の場合は『食べる』という概念が正しいかどうか怪しい所があるが。


「ぱくっと行っちゃえば良いのに。案外勢いで食べれちゃうもんだよ?」


「ぱ、ぱせ、ぱせりは……。」


「それは食べて上げますから人参と玉蜀黍とうもろこしは食べなさい。」


「……はぁい。」


仕方なさげに玉蜀黍を食べる。いや、玉蜀黍は嫌いでは無いのだ。……何で肉の塊に人参をつけるんだ。意味分かんないだろう。


「……ねぇ真理。どうしてステーキには人参が付いてくるの……?」


「世界の理だよ。僕が決めた。」


「貴方って会話において意外と面倒くさがり屋よね。」


「バレた?」


ふう、と一息ついて、緑珠はフォークにとろけた人参を刺す。そして大人しく口に運んだ。


「……何でなの……何で人参が付いてくるの……おかしいじゃない……。」


「緑珠様、別に人参嫌いじゃないでしょう。青豌豆グリーンピースが嫌いでしたよね?」


「あの食べ物は開発者の子々孫々諸共灰にしたいくらいには嫌いだわ。」


「嫌い過ぎない?」


最後に残ったジンジャーエールを緑珠はぐびりと飲み干す。


「時に緑珠様。鶯豆はお好きですか? 」


「嫌いよ。」


「では豌豆えんどう豆は?」


「嫌いね。」


「貴女って生物学専攻でしたっけ?」


「今のその質問は全部同一種と分かって聞いたのね?」


「青豌豆か……。俺も小さい時は嫌いだったな。」


青豌豆談義を聞いていた番兵が、おもむろに口を開いた。


「んで?飯食ったんだろ?早く用を話してくんねぇか?」


「あぁそうそう、話をしに来たのよね……。」


すっかり忘れていたわ、と思ってもいないようなことを零すと、番兵に向き直る。


「今朝ね。公安警察が来たの。」


「……あんのやろ……。」


「心当たりでもあるの?」


緑珠の訝しげな顔に、番兵は鬱陶しいを具現した顔をしながら言った。


「ねぇよ。ある訳無いだろ。ただ壁を取り壊したら来ると思っただけだ。アイツらはそういう奴らだからな。」


「そうなのね。」


「表の国で取り締まってんのはアイツらだ。……ま、清廉潔白つーわけにはいかねぇんだが、なぁ……あの組織は……。」


「何か噂でもあるの?」


肘をつきながら、何処を見る訳でもなく番兵は答える。


「為すこと為すこと頭が硬ぇんだよ。保守的でな。革新的な事を誰かが言うと、それを潰そうと躍起になる様なとこだ。碌なもんじゃねぇ。」


「……警察内のそういう厄介な話って割と何処でもあるんですねぇ……。」


しみじみとイブキは呟く。心当たりしかない。思いついたように緑珠は言った。


「そうだ!ね、教えてくれない?あの綺麗な金髪の子のこと!」


「うげぇっ、緑珠様正気なんですか……。」


「正気よ。あの子のこと知りたいわ。名前も知らないのだもの。」


「あー?彼奴の名前なんて誰も知らねぇよ。」


ぽかん、と緑珠は不思議そうに口を開ける。


「……名前を、知らない?」


ポケットから取り出した硬貨を、番兵は玩具のようにして指先で弄る。


「そうだ。彼奴は自分の名前を名乗らないんだよ。必要以上に喋らないしな。ただ周りから『将軍様』って呼ばれてるだけだ。」


「『将軍様』……。確かに呼ばれていたわね。」


「事実それだけの実力はあるぞ。戦績は申し分無し、戦力も秀でてる。」


「ね、その『将軍様』の情報って他に何かないの?」


うーん、と番兵は唸りながら呟いた。


「『将軍様』って言ったらノルテの話が出てくるわな……。」


「ノルテ?武帝が治めるあの北国ですよね?」


「何でまたそんな懐かしい名前が出てきたんだい?」


ぴん、ぴん、と硬貨が指で弾かれる音が店内に響く。


「『将軍様』に関わることは、本人が話さねぇから分からねぇ事が多いんだが……。出身はノルテ帝国らしい。此処五年の内に彼奴は来たからな。」


「出身はノルテ帝国らしい、って言うのも不明瞭ねぇ。」


「仕方ねぇだろ。色んな噂が交錯してんだよ。」


ふう、と息をつきつつ番兵は話を続ける。


「何やら曲芸集団に紛れてこの国に来たらしい。で、自分の意思でこの国に残る事に決めたんだとさ。ほんと良く分からない奴だよ。ずっと長袖長ズボンだしよぉ。」


「何それ。夏とか凄く暑そうね。」


「だよねぇ。」


「貴方達の着眼点そこなんですか……。」


「まぁ汗もかかない奴だからな。暑いとか無いんじゃないのか。」


「居るわよねぇ。汗掻かない体質の人。」


そだ、と緑珠はぽん、と手を叩く。


「『秘密結社』のこと知ってる?」


「知ってるぞ。壁を壊せー、とか言ってる集会のことだろ。……集会、というか政党に近いんだけどな……。」


「政党?国を治めたる王は滅びたのに?民主主義も無いのに?」


畳み掛ける緑珠に、空を見詰めながら番兵は返した。


「それはそうなんだけどよぉ。やっぱりそれを良しとしない集団だっている訳でさ。ま、『秘密結社』ってのは政党の事さね。」


「なるほどねぇ……。そんな集団が……。ね、『秘密結社』ってカルトめいてたりする?」


ニヤリ、番兵は笑みを作って答える。


「知らねぇなぁ。俺は残業しねぇタチだったしな。」


「……公務員根性甚だしいですね。」


「あー?あんちゃんも一応公務員だったろ?」


「あれは公務員という枠に嵌った残業と臨時出勤の嵐ですよ。……払いが凄く良いから志望者数多かったんですが、あんなのに誰が志望するかっての……。」


「坊ちゃん嬢ちゃんには分からない世界なんだよ。あの場所の根底にある物はな。」


「根底にあるもの?」


きょとん、と緑珠は首を傾げる。イブキはぐりぐりと彼女の頭を押した。


「あーなーたーは知らなくて良いんですよー。」


「いっ、いたっ、いぶきっ、いたいからっ……。」


ぐりぐりされている緑珠を横目に、真理は微笑む。


「番兵さん。この二人も色んなこと経験してるからねぇ。」


「そうなのか?そこのあんちゃんは良しとしてよぉ、姫さんとかは国が滅びた時くらいしか苦労してねぇんじゃねぇの?」


番兵のその言葉を聞いた緑珠は振り返ると、すうっ、と目を細めて、にこやかに。


「……さぁ、どうかしらね?」


そして何時もの調子を取り戻して。


「ねっ、そういう訳で『秘密結社』はカルトめいてるの?めいてないの?」


きらきらした雰囲気を一瞥して、番兵は一つ。


「多分めいてなかったと思うぞ。ま、一年前の資料だから今はどうだか知らねぇがな。」


「一年って人変わるものねぇ。」


すくり、と緑珠は席を立った。


「思い立ったが吉日。行きましょうか。美味しかったわ。有難う。あと番兵さんも有難うね。」


ひらひらと手を振りながら緑珠は店内を後にする。


「御意に。お代は此処に置いときますね。」


イブキも同じように立つと、店内を後にする。


「……さてと。僕も行かなきゃねぇ。」


「……おい、魔術師。撤回する。」


「撤回?何を?」


番兵は真理から目線を逸らしながら呟く様にして言った。


「……姫さんの事だよ。あんな目は何回も『死』に瀕して無きゃ出来ない目だ。触れていなければ、出来ない目。」


なぁんだ、そんな事か、と真理は内心面白く無さげに呟くと、表情は笑みを作った。


「あはは、僕の言った通りだろう?」


そう呟いて、魔術師そうぞうしんも店を後にした。







次回予告!

秘密結社の事をだべったり青年の秘密が明かされたり、表の国の政治体制がちょっと分かったりするお話!

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