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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 132 声と戦闘

やっばり事件が勃発したりシャルラインを逃がしたり、新キャラが登場したりする波乱万丈のお話!

「ほーらいさま!も、う、探しました、よ……」


シャルラインの声に、あらまぁ、と緑珠の心の中で漏らした。今のは完全に聞かれているはずだ。


「……蓬莱……?」


「お、表の国の人達……!」


「後ろに隠れてなさい。」


緑珠は振り返って、二人の男を見つめる。シャルラインの手は握ったままで。


「……御用は?」


振り向きざまに呟く彼女の言葉に、右側の男は答えた。


「お前を表の国へ連行する為に此処に来た。この壁の破壊を命じたのはお前だな?」


「そうよ。……貴方々には不都合と思ったけれど、私には好都合だったからね。」


「適当にでっち上げて処刑にしてやろうって話になってんだ。俺の昇進の為について来てくれるか?」


「却下よ。」


他にも数名、自分達を取り巻いているのが分かる。このまま逃げるというのは危険行為でしかない。


「……!」


周りに馴染み深い二人の気配を感じる。恐らく伊吹と真理だろう。


「ほ、蓬莱様、わた、私が……私の……。」


シャルラインの震えた言葉に、緑珠は威圧で答える。足元で冷たい鉄の音がする。ちらりと目を遣ると、マンホールだ。


「伊吹!真理!」


ひたすらにそう叫ぶと、直ぐに声が聞こえた。


「呼ぶのが遅いんですよ、全く……。」


「今回の相手はややこしそうだね。役人っぽそうだよ?」


「国家権力が背後にありますからね。……あぁ、良く分からない理論で国家ないんでしたっけ、表の国は?」


思いっ切り相手を煽り倒す笑みを伊吹は浮かべると、緑珠はシャルラインに言った。


「マンホールから逃げれる?」


「逃げれます、あの、あの……。」


慌ててマンホールを開けて、シャルラインらその中に入ると、耳打ちするように一言。


「ほ、蓬莱様、あれもしかしたら……もしかしなくても、きっと公安警察です。」


「こう、あん……。」


何か言いたくなる気持ちを必死に抑えて、とにかく笑顔を作る。


「……うん。分かったわ。教えてくれて有難う。」


「ご武運を。」


シャルラインはそう言って完全にマンホールの中に入ると、緑珠は相手に向き直った。人数が増えて五人になっている。


「色々と聞きたい事がある。蓬莱緑珠。同行してくれるか?」


「拒否でお願いするわ。貴方々と同行するなんて死んでも嫌だもの。」


「ならば力尽くで連れて行くまで!」


思いっ切り伊吹に足が振り下ろされる。それを防ぎながら彼は言った。


「逃げられる事をお勧めします!」


「無理よ。公安警察の執拗しつこさは貴方が一番知っているんじゃ無くて?」


「……それも、そうですね……!」


防御を解いて足を引っ掴むと、そのまま向かって来ようとする相手にぶん投げる。


「……やはり公安。一筋縄では行かないみたいだ。」


「ざっくり見た感じ魔法は通じなさそうだね?……死人は出さない様にしたかったんだけどなぁ。」


緑珠は剣を抜いて、それを構えて足をしっかりと固定する。


「壁跡を超えたこの場所より、此処は私の国なのよ。絶対守ると決めた場所。……引き下がれ、王に逆らう賊共が……!」


その顔を修羅に歪めると、一足一足を重く引き摺り、その反動で思いっ切り刀を振り下ろした。


「ぐっ……!」


鈍い声が聞こえて、相手方の腕に刀が刺さる。防がれた手を超えて、緑珠は腹に一発。


「かはっ……!」


重い音が聞こえて、ぐらりと男は倒れた。その様子を見ていた周りがざわつく。


「……次は誰?」


そのざわつきの合間に、真理の仕込み刀が残り二人の内の一人の顔を薙ぐ。


「ぐぎゃあっ!」


「魔法が良いよねやっぱり〜。物理的だと、こう、精神面にクると言うか……。」


「相手方の方が絶対キてますよ。」


「それもそうだねぇ。」


そう言って、優勢を取った瞬間だった。


「旅人にどれだけ時間を割いている?」


すう、っと、空気が変わる。重くなる。冷たくなる。割れるくらい、強く。


「何だかややこしそうなのが出てきたねぇ。」


「……お前らが報告を受けた旅人か。」


「しょ、将軍様……!」


黒い軍服を着ている、将軍と呼ばれた一人の青年が居る。恐らく緑珠とそれ程年齢が変わらない。所々走る金色の装飾が美しい。


「報告ねぇ。そうね。相違無いわ。」


影で見えなかった顔が、ざく、ざく、という靴の音と共に相見える。


短いおかっぱの金髪の裾には、少し銀髪が見えていた。水晶のように碧の瞳が真っ直ぐに照り生えている。


「あら、貴方、綺麗ね。」


「は!?緑珠様、いきなり何を言い出すと思ったら……!」


イブキの言葉が言い終わらない内に、緑珠は真っ直ぐ手を差し出す。


「ねぇ、貴方に提案なのだけれど……。」


「あぁもう、何言っても知りませんからね僕……。」


「緑珠の無茶振り最近多くない?」


頭を抱えてしゃがむイブキの頭を撫でながら、真理はそんな事を言う。そして、緑珠の無茶振りが飛んだ。


「私に仕えない?」


「言っちゃったよ……もう……りょくしゅさまのばか……ぼくだけじゃふまんなんですか……。」


イブキの恨み節。真理は更に宥める。


「仕方ないじゃん。女の子は綺麗な物が好きなんだよ。」


「緑珠様が浮気する……。」


「そういう思考が事件を産むんだって。」


真顔でぽそっと真理は呟く。


「……お前がオレに仕えるんだろう?」


青年は首を傾げてそう言った。


「おっとそっちのタイプ!?イブキ!気が合いそうよ!」


「やだやだぁ……似た者同士は気が合わないって緑珠様一番知ってるでしょ……。」


「それはそれ、これはこれ。私は綺麗な者が好きなのだもの!ほらほら、そんな泣きじゃくらないの。」


よしよし、とイブキを撫でる緑珠の頭に照準が合わされる。それに気付いた伊吹は、思いっ切り匕首を投げる。


「……こういう事があるから、嫌だって僕は言ってるんですよ。……ぐすん。」


「何かごめんなさいね……。」


「ほんとですよぉ。……ぐすっ……。」


結構心に来たらしい。ぐすぐすと鼻を鳴らして目を赤く腫らしている。……そういう所は子供っぽい。


「あの場所っ……!居た!」


「シャルー!?」


「お三人方、伏せて!」


少女の言われるがままに伏せると、思いっ切り銃弾が青年に飛ぶ。


「……今日は下がるか。」


呑気に青年はそんな事を呟くと、壁の瓦礫を使って思いっ切り跳躍して行くのが見える。


硝煙の匂いが立ち込める中、伊吹はじいっ、と青年が行った先を見詰めている。緑珠は腕の中で見上げながら呟いた。


「どうしたの?……どうやって殺そうかとか考えちゃってる?」


その言葉にイブキは腕の中に居る緑珠をじいっと見詰める。そして、少しだけ首を傾げる。


「……えっ……本当にそうなの?ね、静かにならないで?貴方が静かになると、私すっごく怖いのだけれど……。」


「……あぁいえ、どうやって殺そうかと……。」


「えっ、本当に?いや止めてね?」


イブキは真顔で緑珠を立たせる。空間が異質すぎる。


「……うーん、今日の貴女は血の匂いが凄くします。」


そうか、とぱぁっと顔を上げられる。


「そうか、そうですもんね、そろそろ周期が」


「はあっ!」


緑珠は思いっ切りイブキに腹パンをする。蹲った彼を置いて、緑珠はシャルラインに言った。


「ごめんなさいねぇ。あのバカの事はほっといて頂戴。」


「え?何も聞こえてませんよ?」


「それなら良かったわ。……ほんと。」


さすさすと自分の身体を撫でながら緑珠は呟く。


「……いや知ってると思ったけど。……何であんなに知ってるの……。」


真理はその呟きを拾う。


「さぁ。君以上に君のこと知ってるんじゃない?」


「ははは、笑えない冗談よねぇ。」


「何の話ですか?蓬莱様。」


「何でもないのよ〜!ほんとほんと、気にしないで〜!」


一通りの会話を終えて、緑珠はシャルラインの肩に手を置いて言った。


「そうだ、お礼を言うのを忘れちゃってたわね。助けに来てくれて有難う。」


「いえいえ、言われるほどの事ではありません。何たってこの国に引き込んだのは私ですから!」


でも、とシャルラインは顰め面をする。


「やっぱり公安が出て来たって事はややこしくなってるみたいですね……。」


「表の国でも王が立つって事は厄介な事らしいみたいねぇ。」


「……多分、大きい顔が出来なくなるからだと思いますけど……。」


「どういうこと?」


緑珠の疑問に、シャルラインは簡単に説明する。


「表の国では公安警察が治安を取り締まってるんです。……でも聞くところによると、不穏な噂も多くて……。」


「……まぁ、煩くても薄暗くても、上が居るって事は大事な事なのかもしれないね。」


「……そだ。一つ思い出したわ。」


ぽんっ、と緑珠は手を叩く。


「秘密結社の話を公安警察は話していたけれど……。」


首を傾げながらシャルラインは呟くように言った。


「秘密結社……。知っているには知っていますが、詳しくは……。多分番兵さんに聞いた方が早いと思います。」


そういう取り締まりもやっていたらしいので、という言葉を聞いた緑珠は、


「そう。それなら聞きに行きましょうか。まだあの場所に居るの?」


「いえ、流石に環境が悪過ぎるので移動してもらいました。『久し振りにゆっくり出来る』って言って朝から麦酒ビールだのツマミだの呑んでるらしいですが。」


「……まぁ、忙しいものね。番兵さん。」


それじゃあ、と緑珠は続けると、


「行きましょうか。イブキ、真理、行くわよ。」


「……。」


じいっ、と青年が行った後を見詰めていたイブキは、呼ばれるがままに緑珠に擦り寄る。


「緑珠様〜何であんな腹パン得意なんですか〜?」


「お父様に教えて貰ったのよ。」


「まぁ結果として悪い虫がついてしまったけどね。」


さらっと毒突いた真理の言葉を遮って、イブキはそのままの調子で続ける。


「もう〜!それぐらい僕が守りますって!」


「それは有難いのだけれどね。……ね、貴方何を見ていたの?」


彼女の疑問にイブキは離れると、また遠くを見詰める。


「……ま、いっか。何でもないですよ、緑珠様!」


「ほんと?その笑顔が怪しいわね〜!」


「えぇ?じゃあ確信が持てたら言いますから!番兵さんのところ行くんでしょう?」


そうね、と軽く緑珠は言うと、シャルラインに向き直る。


「ね、番兵さんは何処に居るの?」


「御案内します。……でもまだ多分寝てると思うんですけど……。」


「それじゃあ起きて貰わなくちゃね〜!」


緑珠は四人を引連れて、スキップでその場を去った。







次回予告!

番兵さんに表の国のことを色々と聞いたり公安のことを色々と話したり飯テロ回だったり色々てんこ盛りなお話。

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