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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 131 任侠者

その手の怖い人に喧嘩吹っかけられて戦闘一歩寸前までいったり表の国の様子を見たりと新たな情報がわかるお話〜!

「だ、だから知らないって……!」


「あぁん!?知っとるんちゃうんかい!こっちに来たんは分かっとるんや!」


「そ、そんな人幾らだって居るし……!」


あれは明らかに『そっち方面』の人だ。刺青とか入れてるし。何かもうひたすらにヤバそうである。


「……真理、私予言するわ。あの人今からこっち来るわよ。」


「分かる〜!多分今話してる人の隣にいる人が口滑らせるよ。」


その指摘よげんの通り、完全に脅されている人の隣が声を上げた。


「あぁ、そいつか?それならあの喫茶店で見たぞ?」


「そうか。礼を言う。ほならな。」


「ほら来た。」


「眼光鋭すぎぃ。ちゃんりくんこわぁい。」


酷く他人事を装った言葉を放つ真理。連れ立った数人の男が、緑珠へと声をかけた。


「おう姉ちゃん。ちょいと聞きたいことがあるんやが。」


「何かしら?」


「若草の衣を着た、それはそれは腹立つ笑みが出来る茶髪のお兄ちゃん見てないか?」


はぁ、と軽くため息をつくと、緑珠は背後の窓仕切りを開けた。


「多分此処に居ると思うわよ。……何でまた任侠者に目を付けられてんのか……。」


「姉ちゃんとアイツの関係は何なんや?」


一番強面な男の下っ端だろうか、その一人が緑珠へと声をかける。


「主従ってとこよ。」


「ははぁ。あの兄ちゃんそういうの好きそうやなぁ。従えるの……。」


「……何だか良く勘違いされるのだけれど、私が主よ。」


「えっ……?」


困惑している下っ端を他所に、強面の男が声を上げた。


「兄ちゃん!いること分かってるんや。さっさと出てきた方がええで!」


しぃん、と誰も居ない店内に響く。


「……探せ。」


探そうとした手前、緑珠が慌てて任侠者を制する。


「あーもう私が呼ぶ呼ぶ!出てらっしゃい!後で沢山構ってあげるから……何処に居るのー?」


まるで犬を呼ぶように言うと、店に入った手前のカウンターの下からゆらり、と現れる。


「おう兄ちゃん。こんな店主も居らへん店に隠れとったなんてなぁ。」


「此処らは潰れても放置する店が多いみたいですからねぇ。何も出せませんが、鉛玉くらいならくれてやりますよ。」


「はいはい一回落ち着いて……。」


「緑珠様は黙ってて下さい。」


素っ気なく言ったイブキをチラリ見て、一つ。


「『伊吹』。落ち着いて、と言ったのが聞こえなかったのかしら。」


「……仰せのままに。」


引いたイブキに、緑珠は任侠者に向かって問うた。


「どうせアレでしょ。博打の事でしょ?私の命令でやらせちゃったものねぇ。」


「よう分かってるやないか。……そうか、姉ちゃんやったんか。」


いやぁなぁ、と男は髭を触りながらそのまま続ける。


「賭博場の資金が無くなってしもうてなぁ。姉ちゃんが身体張って稼いでも」


男の眼前に、血が飛ぶ。


「大人しくしなさいって、言ったじゃない……。」


イブキの手が真っ直ぐに男を捉えて、手首から伸びた匕首に緑珠の右手が刺さっている。


「で。えぇっと。そう、その世界の言葉で……『シマ』が荒らされたー、ってやつね!」


イブキの上げた手を下ろすと、何処か瞳を輝かせながら言った。


「お、おお……そ、そうや……。」


「ならその『落とし前』は、やった本人がつけるべきじゃない?」


「……は?」


イブキは苛立ちと怪奇を交えた声音でそう言うと、緑珠はそちらへ向き直った。


「ね、新しい国にも全てを賭ける場所は必要だと思うの。国営の賭博場なんて中々無いわよ?」


「え、嫌ですよ。聞く限りで非常に面倒くさそうなんですけど。」


「あっそ。じゃあ煙草奢ってあげない。」


「済みませんやります。」


突然態度を豹変させたイブキを白黒した目で見ている男は、崩れた調子を持ち直して、


「新しい賭博場を作ってくれるんか?」


「我が主の言うことです。……それに煙草買って下さるし。」


そうだ、とイブキが何時もの調子で提案した。


「親睦深める為に博打しません?」


「ええぞ?泣くのお前やからな?」


「仲良くなるのは早いのよねぇ……。」


血に濡れた手を見ながら、肉の裂け目に手をやって手前に指を引くと、傷跡は見事に消えた。


「……さてと、博打の話はイブキに任せておいて……。」


またテラスに出るが、もう本当にやる事が無い。……強いて言うのなら、壁が無くなったあとどう畳み掛けるかぐらいしかない。


「武力行使?それは論外よねぇ。かと言って穏便に済むものなのかしら……。」


でぇーもぉー、と彼女は首を傾げる。


「壁壊したら、案外来そうなもんだけどねぇ……。」


そーいう訳にはいかないのかなぁー、と頭を抱える緑珠は、そのまま暖かいテラスで目を閉じた。









「はいはい緑珠様。夜ですから冷えますよ。起きて下さい。」


「んっ……!?寝てた……?ってうわ!イブキ何でそんな傷だらけなの!?」


ぼろっ、と効果音が付くくらいには傷だらけのイブキに、緑珠は慌てて飛び起きた。


「にんきょーの人と喧嘩しました。……お互い何だか絆が生まれた気がします。」


「仲良くなれたのは良かった、けど、怪我しろとは言ってないわよ?」


「良いんですう。男は喧嘩するもんなんですう。」


「はいはい拗ねないの……。」


妙にむくれているイブキの頭をよしよしと撫でると、撫でられながら彼は返した。


「……壁、綺麗に消えちゃってますよ?」


「あ、あらあら、案外早かったのねぇ……。」


星空の下、ただ壁があったという事がギリギリ分かるくらいに、草が太い線を作っている。


「……でも何か反応無いわね?」


「寝てる間に財宝分配したからねぇ。」


緑珠の傍に真理が寄る。


「そうなの?それは凄く有難いわ。有難うね。……あ、いや、そうじゃなくて、表の国の反応が……。」


「無いねぇ。……案外興味が無いのかもしれない。視てみようか。」


すうっと目を細めると、全てを見透かす。が、直ぐに首を傾げた。


「……吃驚するほどノーリアクション、だね。壁が無くなった事に気付いては居るみたいだけど……。」


「無反応、ってねぇ。どうなのかしら。」


「あーっ!こんな所に居た!」


沈黙を突き破る様に、シャルラインの声が響く。肩で息をしつつ何とか息を整える。


「ぜー、はー……ふう。壁を壊し終えたので宴会しないかって話になってるんですけど……来ません?」


しぃん、と静まり返ったあと、緑珠は座っていた椅子から立ち上がる。


「……ま、明日の事は明日考えればいっか。宴会に行くわー!」


「そうですね。僕もお腹空きました。」


「甘い物とかあったら良いなぁ。」


三人が去った廃カフェには、静寂だけが残った。








「んはっ……!」


何だかこういう事が多いなぁ、と緑珠は目を覚ますと、周りには眠っている人間しかいない。


「お酒飲みすぎたかしら……。」


頭ががんがん鳴る。座りながら寝ていたから首も重い。身体は冷えている。


「宴会やると皆倒れるのよねぇ……。」


お風呂に入りたい所だが、そうも行かなさそうだ。身体の節々が痛いながらも立ち上がって、宴会場を離れる。


「あ、今起きたんですか?」


「ぐっどもーにんぐ、しゃるらいん……。」


ボキボキと鳴る身体を伸ばしながら、水を持って来た彼女に言った。


「いやぁー。昨日の皆さんの飲みっぷり凄かったですよ。」


「そーなの……?」


「そうですよ。いやぁ凄かった。ジュース飲みながら凄いなぁって思ってしまったもの。」


何が凄いのか良く分からない所があるが、水を受け取り飲み干す。


「んー……身体がいたぁい……。ね、シャルライン、今は何時なの……?」


緑珠に尋ねられたシャルラインは、明けかけの空を見上げる。


「明け方、くらいですかね。もう日が昇るくらいです。」


「早起きどころじゃないわねぇ。ちょっとぐるっと歩こうかしら……。」


痛い頭を抱えながら、緑珠は明け方の街を歩く。気温は肌寒さを感じるもので、それでも風は何処か優しげだ。


「お風呂入りたいわぁ……。それとも着替えようかしらぁ……。」


ふわぁ、と長めの欠伸をしながら、壁の近くまで来ると。何だか声が聞こえる。


「──が──で──」


「なら──すれば──では?」


表の国の人間だろうか。物陰から壁の側の様子を伺う


「なら……。……おい、誰かいるのか?」


「どうした?」


「誰か居るんだ。影が見える。」


そこまで言われては仕方ない。緑珠はそっと外に出る。よし、此処は元々奴隷区に居た人間を装おう。


「あ、あの……。」


我ながら吃驚する程のか弱さだ。若い男は物陰から少し覗く緑珠に近付いた。


「お前、奴隷区に住んでる奴だよな。ちょっと聞きたい事があるんだが。」


「え、えと、私、この壁については何も……。」


言われる前に言ってみた。そして若干泣き顔で近付く。女優になれそうなくらいだ。


「あーいや、何かをしようって訳じゃ無いんだ。ただ、どうして壁が無くなったんだろうなーって……気になっただけなんだ。」


「おこ、怒ってない、ん、ですか……?」


少しだけ明るい顔を作ってみる。相手の男二人は幾らか元の様子に戻った。


「そりゃ勿論怒らないよ。何て言ったって俺達は此処に話をしに来たんだからね。」


「話……?新しい王様のこと、ですか?」


「知ってるんだな!?」


「そ、そりゃ勿論、新しい王様のこと、ですから、皆さん知ってますけど……。」


此処で自分の話を聞けるとは有難いこと極まりない。よし、この機会に怪しまれない行動と言えば……。


「も、もしかして!王様を連れて行くんですか!そうはさせないですよ……!」


少し身構えて人を呼ぶ構えを取ると、男二人は慌てて機嫌を取ろうとする。


「ちが、違うんだよ。実はこっちには『秘密結社』って言われている組織があってね……。また動きがあるんだよ……。」


「バカ!余計な事まで言うな!」


なぁるほど。バレては困るらしい。少し鎌をかけてみるか。


「えーっと。秘密結社、って言うと……えーっと何でしたっけ?言葉が出て来なくて、あの、アレ……えーっと……済みません……。」


引っかかるか?


「壁の中でも知ってる奴は居るには居る。広まっても困るものでも無いし、今更隠すことないだろう……。」


引っかかってくれ。と頼むと、思いが通じたのか、発言した男とは違う男が、頭をぽりぽり掻きながら答えた。


「……『秘密結社』つっても大したもんでも無いんだけどね。壁を壊せ、併合しろ等と煩い集団だよ。さてはてどうしたもんかね……。」


「あはは、大変そう、ですね……。」


これは有力な情報だ。成程、それなら力になってくれるかもしれない。さて、次は此処からどう逃げるか……。


「それじゃあ私は此処で……まだ朝も早いですしね、貴方達もお気をつけて……。」


上手く引けそうだ。そう思った瞬間だった。







次回予告!

やっばり事件が勃発したりシャルラインを逃がしたり、新キャラが登場したりする波乱万丈のお話!

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