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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 130 事情聴取

再び物語が動き出したりシャルラインの誘いに乗ったりその先で待っていた人が懐かしい人だったりと飽きないお話!

「……なんかめっちゃ寝た気がする。」


「ほぼ一日ごろごろしてましたからね。」


「ねここわい……。」


「貴方は何があったんですか。」


緑珠は庭の草花を弄りながら、真理は芝生に寝転びながら、唯一立っているイブキが的確なツッコミを入れていく。


「まーだかなっ、まーだかなっ……。」


「あともう少しですから待ってて下さい。……あぁ、見えた。」


田園風景に不釣り合いな機械的な装甲が見える。シャルラインが手配した車だ。


「あら、本当だわ。」


「じゃあ起きなきゃだね……。」


本当に平和だな、と緑珠は空を見上げながら思うと、また車に目を遣る。


「えっと。最初は……。」


「御早う御座います、蓬莱様。」


「あら御早う、シャルライン。」


車から降りてきていたシャルラインが、緑珠へと言った。


「今日はですねぇ、まずは言っていた情報を知っている人にお話を伺いましょうか。」


「あぁ、確保してくれたのね?」


「最初はじたばたしてたんですけどね。ころっと、ね。」


シャルラインのニヤケ顔と不審な物言いに、イブキが呟いた。


「大丈夫ですか?死んでません?」


「大丈夫です。多分生きてます。……たぶん。」


「不安な回答ですね。」


シャルラインは車の扉を開けると、三人を車内へ誘う。


「それではどうぞ。」


その言葉のままに、三人は足を踏み入れた。









「着きましたよ。」


泊まっている場所からさほど遠くない田園の間に、廃屋がある。その前に車は止まった。


「よっと……。」


緑珠が下り立った場所は、廃屋が無ければ美しい風景だ。田に空が映り込んでおり、何処か酷く懐かしい。


「……いや、廃屋って。完全に非合法ですよね……?」


「あはは、国の為に一国潰した人が何を言うのやら。」


シャルラインの知った様な口ぶりに、イブキは大きく溜息をついた。


「……その口調は、誰かから僕のことを聞きましたね……?」


「おっ、イブキ有名人じゃない!」


偶像人アイドルでも出来るんじゃない?」


ひょこっと出てきた緑珠と真理に、イブキは頭を抱える。


「……今の僕に貴方々の突っ込みをする気力はありませんからね……。」


「でもよ、イブキ。大体中に居るのが誰か分かったんじゃない?」


「会うのは久し振りだねぇ。」


緑珠はそのまま廃屋の扉を引くと、予想した人物が其処に居た。


「やっほー!おっひさっしぶりー!番兵さーん!」


薄暗い廃屋の中で、良い匂いのする珈琲を啜りながら、番兵は頭を抱えて座っていた。


「……こりゃどういうことだ、シャルライン。」


「どーもこーも、この通りですよ。我らが番兵さん。」


シャルラインの返答になっていない返答に、番兵は緑珠に向き直った。


「じゃあこっちに聞こう。月の姫さんよ、これはどういう事だ?」


「どうもこうも、この通りよ。私達を逮捕した番兵さん。」


崩れ落ちそうな椅子を手前に引くと、緑珠は座った。


「今の表の国のことを聞きたいと思って、此処に呼び出したってワケ。ね、番兵さんなら知ってるでしょ?」


「……其処のあんちゃんが盛った睡眠薬のお陰で何日も寝てたからな。何も知らねぇよ。」


恨み節を込めた言葉を聞いたイブキは、にこやかに微笑む。


「やだなぁ。僕のせいにしないで下さいよぉ。」


そして打って変わって、一言。


「……大方、僕達の素性を調べるのに必死だったんでしょう?あれそんなに酷い薬ではありませんし。」


「……。」


「変わりは幾らでも居るんです。……別に話を聞くのは貴方じゃなくても良い。……この意味、分かりますよね?」


凍った空気を溶かす様に、緑珠はイブキに向いて言った。


「よしなさい伊吹。イイコに出来るでしょ?」


「……申し訳ありません。」


部屋の視線が番兵に向かう。緑珠は笑いながら呟いた。


「別に脅すつもりじゃないけれど、彼の言っている事は本当よ。別に貴方じゃなくても良い。……でも私は、『貴方』に頼んでいるの。」


ほんの少し、間があくと、番兵はその言葉を放つのを酷く名残惜しげに、呟いた。


「……何について聞きたい?」


「あらあら。話が早くて助かるわ。それは勿論表の国について。どうなったの?」


「さっき言った通り、俺は寝てて知らねぇ。」


だが、と目頭を抑えながら番兵は言った。


「悪い方向に向かっているのは確かだ。今は大きく動いていなくても、水面下では動いている可能性がある。」


緑珠の返答を待たずに番兵は続ける。


「大体、各地を騒がせている月の姫さんがこんな辺境の国に来たってだけでも大事件なのに、そいつらが『奴隷区』に行ったんだぞ?その『奴隷区』じゃもうあんたは英雄だ。」


「……あらあら……思っている以上に、事は進んでいるのね……?」


「いいか。」


緑珠に、そしてこの場にいる皆に語りかけるように、彼は言った。


「畳み掛けるなら今だ。『奴隷区』の熱狂が収まらない内に、そして表の国のやつらが流されてしまうように。俺も協力してやる。」


「やったーっ!協力してくれるのね、番兵さん!」


でも、と緑珠は首を傾けた。でもで言葉が切れてしまって、そのままぼおっとしている。そして、口を開いた。


「……どうすれば良いのかしら……。」


「荒療治なんてどうでしょう?」


「荒療治?」


シャルラインの明るい言葉に、緑珠は振り返る。


「いっそのこと、壁を全部潰しちゃうんです!」


「……あ、荒療治が過ぎない?」


真理があんぐりと口を開けて座りながら言った。


「しかし、表の国の国民は、流されやすい傾向にあります。案外それでもいけるのでは……?」


イブキの提案に彼女は頭を抱えた。


「い、いやでも、いや、でもねぇ……。」


幾ら無茶振り専門家の緑珠にしてみても、仕出かす事が大き過ぎる。


「んー……。どう思う?番兵さん。」


「何で俺に話を振った。……あ。」


眠そうに、しかし何処か思い付いた様に番兵は顔を上げた。


「そうだ。其処のあんちゃんが壁を潰して逃げたろ。」


「あはは、そうですねぇ……はは……。」


思いっきり目を逸らしながらイブキは呟くと、番兵は話を続ける。


「あれを見た奴らが滅茶苦茶怖がってたぞ。案外使えるんじゃないのか?」


「使うにしても、あの壁結構厚そうでしたよ?本気を出したとしても全壊は難しい……。」


「なら、薄くすれば良いじゃない。」


「……え?」


曇り顔だった緑珠はもう居ない。変わりにまたとんでもない事を思い付いた彼女が居るだけだ。


「良い考えがあるわ。」


にいっ、と笑いながら。









「……いっつも思うんですけど、貴女ってやる時の行動力凄いですよねぇ。」


「そうかしら。大体皆そんなものじゃない?」


「いや、資金稼ぎの為に隣国で従者に博打やらせる主人は聞いた事がありません。」


「楽しかったでしょ?」


「いやまあ、楽しかったですよ。いやでもですね……。」


不満では無い不満を呟くイブキの奥で、金銀財宝の山を見ながら真理は軽くため息をついた。


「うわぁ……凄いねこれ……。」


「途中から泣き付かれたんですって。『幾らでも金をやるから帰ってくれ』って。」


「出禁にされてそ……。」


「出禁にしてそうねぇ。」


緑珠は綺麗な入れ物に入ったジュースをカフェのテラスで飲みながら、目の前の風景をぼんやりと見ていた。


「いやぁねぇ、随分と働いてくれちゃって。嬉しい限りだわ。」


それもそのはず、彼女の目の前には解体され行く壁がある。


「一攫千金とか無理だからねぇ。やっぱり博打で当てるのが一番良いのよ。」


「いやまぁ確かにそうですけれど……。」


「どうする?もしかしたら壁壊したのも案外気付かないかもしれなかったりしたら。」


「いや、それは無いでしょう。あぁでも反応は薄そうですね……。」


ゆっくりと立ち上がって、イブキは緑珠へと言った。


「珈琲、お代わりしてきます。」


「あら珍しい。行ってらっしゃい。私はぼおっと見ておこうかしらねぇ。」


見ておこう、とは言ったものの、恐ろしく暇である。立ち上がって近くまで寄ってみた。……声をかけようか。ちょうど良い場所に青年が居る。


「首尾はどう?」


「結構順調っすよ。にしてもこの煉瓦どうします?」


「あー煉瓦ねー……。これって良い煉瓦なの?」


「良い煉瓦……まぁそうっすね。この壁の大きさなら、小さな家を幾つか建てられるんじゃないかな……。」


「なら置いておきましょうか。どうせまた直ぐに使うわよ。」


主任からは私が言っておくから、と緑珠は青年の傍を去った。主任は何処に居るんだろうか。……あぁ、あんなに高い壁の上に……。


「主任さーん!」


緑珠の声に、壁の上に立った主任は彼女を見下ろす。


「あぁどうも。直ぐに降り、」


「その必要は無いわ。……人間って高い所に行かなくちゃいけない時に梯子とか使わなくちゃならないの、大変ねぇ。」


壁の手前に煉瓦が置いてある。よし、それを足場にして、


「すぐ行くわねー。」


それだけ言うと、助走をつけて煉瓦の階段を登って、十五mほどの壁を思いっ切り駆け上がる。


「やっぱり竜の脚力は使えるわ。下手したらイブキに勝てるかも……。」


「え、あ……。」


「あらどうも。此処は随分と高いのねぇ。」


主任に笑顔で近付いく。ただその主任の顔は固まっている。


「ごめんなさいね。吃驚させちゃったかしら?この通り私、人間じゃないのよ。」


でもでも、と緑珠は慌てて説明をする。


「人間に近いわよ?凄くね!いや本当に近いの!ただ一部が驚異的に違うだけなの。人を食べたりしないわ。ほ、ほんとのほんとよ?こわ、怖がったりしないで……。」


そうだ。人間は何時だってお互い同じの物で、一部が驚異的に違うものを拒む。拒まれてしまったら、どうしよう。拒まれ、て、


「……いやぁ、はっはっは!」


全く毒気の無い顔で、そして凄く無邪気たそれで。主任は笑った。


「そりゃ勿論吃驚しましたよ!でも世に散らばる人外様をこの目で見れて嬉しい限りです!」


「……ほんと?怖がったりしてない?」


そう言ったは良いものの、主任の目は全く恐怖に怯えていない。怖がっていないようだ。


「怖くないですよ。さて、ご用件は?」


「うふふ。それは良かった。あぁ、それでね、用件はね。煉瓦を残して欲しいの。どうせまた使うでしょうし。壊してしまった分は気にしなくて良いわ。残ってる分はだけで構わないの。」


「分かりました。おーい、お前達──」


主任が声をかけているのを横目に、緑珠は壁から下りる。そして元の喫茶店に戻ると、イブキの姿が見えない。


「……あれ。あの子、何処行ったのかしら。」


「珈琲お代わりしたんじゃ無かったっけ?」


イブキが座っていた椅子に、真理が見るだけで甘そうな紅茶を飲みながら座っている。


「そうよ。……ま、いっか。」


「そう言いたいところなんだけど、あの光景は全く良くないよねぇ。」


「あらまぁ。」


緑珠は席に座ると、真理と共に『その光景』を見ていた。








次回予告!

その手の怖い人に喧嘩吹っかけられて戦闘一歩寸前までいったり表の国の様子を見たりと新たな情報がわかるお話〜!

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