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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 126 手を

緑珠が思いっきり甘えたりイブキが思いっ切り甘えたり真理があっさり起きたり緑珠がご飯を作るお話。

「寝れる場所があるって、有難いわね。」


「そうですね。……あの。」


イブキはがっしり掴まれている手を見詰めながら、緑珠へと問うた。


「何で僕達の手を握ってるんですか?」


「……離れちゃヤダから。」


「……ふふ。そうですか。」


「手を繋いで寝るとか何時ぶりかな……。」


『奴隷区』の廃屋の二階で、彼等は横になっていた。お風呂に入ってふんわりと優しい匂いが立ち込めている。


「寝ましょうか。……明日は向こうの国の偵察ね。」


「そうですね。寝ましょうか。」


「おやすみ。」


しっとりと染みる言葉に、三人は目を瞑った。









「……おはよう。」


「おはようございます……。」


「まだ寝るねぼく……。」


一度は一応むくりと起き上がったものの、眠たくて仕方ない。しかし起きなければ、と緑珠は立ち上がる。だが棒立ちになってしまう。


「……ねむねむの極み……。」


「寝ません……?」


「私は起きるけど……。」


「……じゃあ起きます。」


でもまだすごぉく眠そうだ。


「寝てて良いのよ?」


「あなたがおきているのに、ぼくがねる、わけ、には……。」


仕方が無い従者だ。緑珠はまた真ん中に座ると、イブキは嬉しそうに目を瞑る。そして静かな寝息が聞こえる。真理は死んだように眠っている。


「お休みなさいね、二人とも。」


よしよしと二人の頭を撫でると、また起き上がる。地下一階の洗面所まで眠くて重い足を引っ張りながら、突っ込む。


「……おきなきゃあ……。」


水でちょっと髪のはねを直して、一階へと向かう。


「うわっ。」


思わずそれなりに大きい声を出すと、イブキが眠そうに目を擦りながら部屋のど真ん中に突っ立っている。


「……なんで、ぼくをひとりにするんです……。」


「いや、そういうつもりじゃ……。」


「……ぐすっ。」


マジか。ぽろぽろ涙を流しながら泣いている。成人男性よね?子供じゃないよね?というか子供でもこんなに甘えない気が……。


「りょくしゅさま、ぼくのこときらいなんですか……。」


感情の振れ幅が両極端すぎる気がする。とにかく駆け寄る他ない。


「そんなことないわ、泣かないで、というかなんで泣いてるの。」


それを聞いてイブキははっ、と顔を上げる。やばい。地雷踏んだ。


「……いいですもう。」


そっぽを向かれてしまう。根が素直で子供っぽいから、拗ねると長いのだ。


「ごめんなさいね、イブキ。怒らないで、ね?」


そっぽを向かれたまま、一言。


「……りょくしゅさまなんてきらいです。」


……はっ、頭が真っ白になっていた。どうしよう、意外と心に来る。


「かまってくれないし。ひどいです。」


あれこれイブキの理不尽なキレなのでは?でも素直に甘えるのは下手くそなこの子だし、以前甘えようとして突進してきたことは記憶に新しい。ちゃんと受け止めたけど、肋骨が死ぬかと思った。


どどどどうしよう、多分この子は私の反応を伺っているのは分かる。眠そうだし寝かしたい。よし、こうなったら……。


「よーしよーし。いい子いい子。」


つま先立ちをして、頭を撫でる。その手を引っつかむと、一言。


「……及第点ってとこですかね。」


相変わらず上辺の性格がひん曲がっているなぁ、と思いながらなすがままに抱っこされる。そしてソファに抱っこされながら眠る。


「結局寝るのね……。」


離れようとすると力が強くなるし、それでも起きなくちゃならない。横に座って、薄目を開けているイブキに緑珠は言った。


「いい?イブキ。私は主で貴方は従者よ。私に重きを置くのは嬉しいことだけれど、私は貴方の身体も大切にして欲しいの。」


「……それはめいれい、ですか。」


「そうよ。これは命令。今はゆっくり、お眠りなさいね。」


それを聞くと、イブキは重そうな瞼を閉じる。すぴすぴと眠っている姿は幼子そのものだ。


……きっと、性格だけでも大人にならなくてはいけなかったのだろう。


そういう点で、真理は真逆だ。身体は大人の割に、中身は生まれたての赤子よりも幼い。


最近やっと赤子の線に立てたぐらいなのかもしれない。


「さて、と。」


丸まるイブキに薄い毛布をかけて、緑珠は立ち上がった。


【御早う緑珠。何をするの?】


「御早うね、イザナミちゃん。ふふ……聞いて驚け見て……。何だっけ?」


【……笑え、かしら?】


「……そんなんだっけ?……まぁ良いや。ある事をやりたいの。」


緑珠はがさごそと食料が入った袋を探りながら話す。


「前はちょっとハイレベルだったじゃない?だから簡単なものからしようと思って。」


【……ええっと。何の話?】


「この間はシチューを作ったから、今回は三明治サンドウィッチを作ろうと思って。」


少しだけ考えた後に、イザナミちゃんは思いついたように言った。


【……えっと、ぴくにっくとかで食べるもの、よね?】


「そうよ。」


【……しちゅー、は、白くて野菜とかお肉がいっぱい入ったもの。よね?】


「……もしかして、あんまり料理に詳しくないの?」


こくん、とイザナミちゃんは頷く。だが勢いよく顔を上げて言った。


「倭国の料理なら知ってるわ!そりゃ倭国のお姫様だもの。当然よね!」


ふふん、と自慢げに笑ったイザナミちゃんに、緑珠はいたずらっぽく言う。


「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ。」


【……なん、て?】


イザナミちゃんは不思議そうに言うと、先程の言葉を反復する。


【えーっと。べんてぃあ、あどしょって……?】


「ベンティアドショット。もう一回言った方が良いかしら?」


むくれながら、イザナミちゃんは言った。


【要らないもん!】


「あはは、そんな怒らないでよ。」


むくれを直して、イザナミちゃんは緑珠へと向き直る。


【今から何を作るの?】


「BLT。またの名をベーコンレタストマト。」


【またそんな事言うの!?えーっと……。】


べーコマ、ビードロ?と最初から色々間違っているイザナミちゃんを横目に、緑珠は食材を出す。


「……二十個くらい作れば、良いか。」


ゆぅぅっくり包丁を取り出すと、彼女はそれを見詰める。


「よ、よよよし、ねこのて、ねこのて……。」


ふるふるとトマトを潰さないように掴むと、とん、とん、とん、とリズムよく切る。


そう言えばこの音が好きになったのは、何時の頃からだろうか。最初は料理をする時にどんな音がするか知らなくて、物陰から台所をじっと眺めていたのだ。


この音を聞くと自然にお腹が空くのをイブキは知っているから、最近は朝方にこの音をさせるようになった。中々憎いやつである。


「……お腹、空いたぁ。」


イブキの作ったお味噌汁が飲みたい。身体に染みる感じの。美味しい、美味しいやつ……。


「我儘言ってられないしね。取り敢えずBTL、作りましょ……。」


【ふ、ふー、い、言えたわよ、緑珠!】


「何を?」


振り返った緑珠に、イザナミちゃんは自慢げに言った。


【ベーコンレタススパーク!BLS!】


「……ベーコンレタストマト、ね。」


イザナミちゃんはまた頭を抱える。昔の倭国はそれほどまでに横文字が浸透していなかったのだろうか。


レタスを用意して、その隣でベーコンを切る。それをほいほいっと油を敷いてフライパンを熱して焼くと、直ぐにじゅうじゅうと油が跳ねる音がする。


「ベーコンってどれくらいで焼けるの……?」


そう言えばイブキが「慣れだ」と言っていたことを思い出して、狐色になるベーコンを見詰める。そして反対にする。……多分火は通っているはず。


何枚かめくってパンに挟む。そんな手際で作っていくと、二十個ちょっとは作れた。


「よし、出来たわね……!イザナミちゃんは食べる?」


【死人に口なし。……とは言うけれど、美味しく頂きましょう。】


はいどうぞ、とお皿に乗せて、イザナミちゃんはそれを受け取る。


【……これ、手で食べるの?】


「そうよ。」


ふうーん、と言いながら、彼女はがぶっとBLTを頬張る。


【んーっ!美味しいわ!んふふ、神が散らばる国には、こんな美味しいものが……。】


嬉しそうに空中で食べる彼女を見つつ、緑珠はイブキが寝ているソファにそっと座る。……うん。味も悪くない。あながち自分も料理の才能があるのではないか?


「美味しいわね。やっぱり出来たての食べ物は良いわぁ……。」


「……何やら美味しそうな匂いがします。」


頭巾の様に薄い毛布を被ったイブキが、じいっと緑珠を見詰めている。可愛いことこの上ないのは秘密だ。


「もうそろそろ起こそうと思っていたの。BTL、食べる?」


「食べたいです。」


薄く口を開けて、イブキは口の中に入れてもらうのを楽しみにしている。


「駄目よ。これは私のなんだから。それに先に歯を磨く。顔を洗うのよ。」


「……はぁい……。」


イブキは重そうな身体をのっそりと動かす。先程起きた時よりかは幾許か元気そうだ。


「そーだ、真理も起こさないと……。」


残りのBTLを口に突っ込むで咀嚼し切ったあと、二階の部屋を目指す。


「真理。朝よ。起きてご飯食べましょう?」


そう声をかけるも、薄い息が聞こえるだけだ。


「起きなくちゃダメよ。朝よ?」


ゆさゆさと揺らすと、真理は長い睫毛の奥にある紫の瞳を覗かせた。


「……朝?」


「そうよ。起きましょう。朝ご飯を作ったの。一緒に食べましょう?」


「……そっか。もうそんな時間か。起きるね。有難う。」


掠れた声一つ見せず、真理はにこりと微笑む。そして何時も通り身体を起こした。


「御早う、緑珠。」


「え、えぇ、御早う、真理……。ね、貴方、眠くないの?」


「眠くなるってことが無いからなぁ。神様だし。」


歯を見せて悪戯っぽく笑うと、あ、でも、と付け加えられる。


「最近は少し眠いかもしれないね。君達が居るから。」


「……それは良かった。」


緑珠は心の底から安堵した笑みを浮かべて立ち上がり、手を差し伸べる。真理はその手を取って立ち上がった。


「よし、それじゃあ……。緑珠の作ったご飯を頂こうか。」


「一応味見はしたけれど、美味しいはずよ。……多分。」


自信なさげにそう言いつつ、一階を目指して階段を降りる。イブキが歯磨きと洗顔を済ませて、二人に向けて立っていた。


「あらイブキ。何してるの?」


「美味しい紅茶、飲みたくないですか?」


何時も通りの優しい笑みで緑珠へ言うと、彼女は満面の笑みを見せた。


「飲みたい!」










「よ、予想外に食べてしまったわね……。余るかと、思っていたのだけれど……。」


分厚かったし、とその分厚さを具現させている手を見せながら、緑珠は空になった白い大皿を見詰める。


「まー大の大人三人いるし、男が二人居るからね……。」


「美味しかったですよ。ご馳走様でした。」


「うふふ。お粗末様でした。」


カップに入っていた、甘い甘い紅茶を飲み干すと、緑珠はそれを流しに入れる。そして二人に向き直って言った。


「……さてと。皆。これからは何があってもおかしくない。誰が欠けたって不思議じゃない。……けど、私は三人揃って国を造りたい。」


まず、と緑珠は頭を抱える。


「『奴隷区』の熱狂している民衆達をどうにかしないとね……。」


「ですね。民衆は何時だって味方で、敵ですから……。」


「あの熱狂っぷり怖いよねぇ。びっくりしちゃった。」


荷物を纏めると、緑珠は言った。


「それじゃあ行くわよ。各々、相応の覚悟を持つように……!」







次回予告!

緑珠が思いっきりパニックになったりイブキに助けを求めたり、新たに物語が思いっきり進むお話!

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