ラプラスの魔物 千年怪奇譚 7 女帝からの難題
ドキドキの御稜威帝国編、続きです。調印を貰うため、出された課題をクリアするべく奔走する一行。女皇からの課題を一行は上手くやれるのでしょうか……?
「えーっと、言われていたのはこの辺だけど……あ、居たわね。確か名前は……ケーシン。」
「慧深、ですよ。緑珠様。」
人だかりが溢れる国の中央広場で、青紫の衣を着た還暦程の女性が居る。その女性に周りの人は手を擦り合わせていた。
「うーん……見た所、毒気も無い人だけど……。」
時は二時間前に遡る。
城の巨大な神殿で、緑珠達と麗羅は話していた。調印を求めるも、『中立国だから出来ない』、と言うのが麗羅の返答だった。しかし、麗羅はチャンスを残す。
「……解決して欲しい事案があるのです。」
「解決して欲しい……事案?それはまたスケールが随分と大きな話ですね。」
麗羅の一言に、緑珠は返答した。
「えぇ。この国では、滅多な事では大きな事件は起こりません。そのきっかけさえ千里眼の力で摘み取ってしまえば。」
「滅多な事って事は、一回でもそんな事があったんだね?」
「特に真理、貴方は想定外の存在でした。……大きな事件と言っても、例が一つしかありませんでしたね。」
「あはは……。」
真理が苦笑いしているのを横目に、麗羅が緑珠に話を戻す。
「今回のきっかけは隙が無いのです。例えば、とてつもなく下らない理由で反乱を起こそうとするのならば、その為には武器が必要です。その確保の方法を千里眼で抑えて、警察に任せる方法です。それならまだ何とかなりますが……。」
麗羅の膝元にある茶に、麗羅の顔が映る。
「今回は全く隙がありません。しかし、あの人間がこの国に来たことによって暗雲が立ち込めるのは確かなのですよ。……法的処置を取って国外追放でも良いのですが、何せ信心深い信者が多くて……その上、」
「この国は多神教国家だから、そんな怪しい人でも追い出す事が難しい……よしんば追い出した所で名を変えて帰ってくることもありうる……君が想定している事態は、こんな感じかな?」
にっこりと真理が笑って麗羅に言った。彼女は少し刺々しく返す。
「ご丁寧な説明をどうも有難う御座いました。……ですから貴方方旅人に、その教祖を国外に追い出して欲しいのです。二度とこの国には来たくないと思わせる位に。そうすれば調印でも何でも致しますよ。」
真理が肩を竦めて言った。
「全く、冷徹だねぇ。旅人が何か起こしても国家は干渉していないと言い訳出来るからだろう?」
「真理!」
緑珠が真理の発言を叫んだ。しかし麗羅は緑珠に笑う。
「良いのですよ。その神様の言う通り。……良いですか、緑珠。国を治めると言うのは、これぐらいの冷徹さは必要なのですよ。」
「もう。真理があんな事言っちゃうものだから、びくびくしちゃった。」
「あはは、ごめんねぇ。」
それにしても、と緑珠は麗羅の発言を思い出す。
「勿論、国を治めるには冷徹さも必要だと思うわ。……だけれどあの女皇様は何処か……。」
「何処か?どうなされました?」
イブキの問いに緑珠は顔を顰める。
「説明するのは難しいけど……そうだ、人間臭さが少ないのよね。と言うか、無いのだわ。神巫女様だから当たり前っちゃ当たり前なのだけれどね……。」
「あの人は現人神だからね。そういう感情も、薄れちゃうんじゃないのかなぁ……。」
麗羅の心の考えを切り、緑珠は言った。
「さ、て、と。今はあの女の人から先よね。どうすればいいと思う?」
イブキは即答した。
「拷問。」
「極論過ぎるわよ。」
「市中引き回しの刑とかは。」
「かなり広いよ、この国。」
「……じゃあもう鉄の牡牛で良いです。」
「何が『じゃあもう』なのか分からないわ。」
「個人的に一番やりたいのは水拷問なんですが。狂うらしいですよ。可愛いですね。後、水だけって言うのが1番良いです。」
「君は狂うからの可愛いしか言う事が出来ないのかい?」
「異端者の匙が一番傷つけ無くて良いですよね。」
すう、と緑珠は深呼吸してイブキに問う。
「さぁイブキ、もう一回聞くわよ。あの女の人、どうすればいいと思う?」
「まずは周りの観察からですね。聞き込みとか。」
至極まともな答えをイブキは発した。
「……ほら、今までのあの、行は?」
イブキが少し疲れた表情で頭を掻く。
「……すいません、二日酔いが酷くて……。」
イブキから少し離れた所で、緑珠は真理に問う。
「神様、一つお伺いしたい事があるんです。ご教示して頂いても良いでしょうか。」
緑珠が恐る恐る真理に言った。 真理は態とらしく仰々しく答える。
「あぁ、小さな兄弟よ。良いだろう、私もお前に聞きたい事があった。」
二人は同時に声を出す。
「「お酒って理性が弱まるよね?」」
パァン、と緑珠と真理はハイタッチする。しかし、緑珠は難しそうに眉間に皺を寄せながら言った。
「二日酔いでもあれなのよ。本当に酔ったらどうなるのよ。と言うかイブキって酔うの?」
ひょっこりイブキが現れる。
「僕だって酔いますよ。酔わない人なんて鬼くらいでしょう。と言うか人じゃないですね。鬼って。」
それでも、と緑珠は絵巻物あるあるの鬼を思い出して言った。
「良く酔ってない?酔われて刺された……みたいな。」
「……言われてみれば。まぁでも、基本的に鬼と言うのは山賊等を指す場合が多いですからね。酔うんじゃないですか。」
イブキはすっと目を細めた。
「……本当の鬼は、案外寂しいものらしいですけど。半永久的に生きるので。」
彼の発言に、緑珠は思いついた。
「……あぁ!そうね、光遷院は鬼が祖だったものね。」
イブキは少しだけ微笑んだ。
「僕達の祖先はまだ、この世を徘徊しているらしいですけどね。会ったこと、一度だけあります。」
それよりも、とイブキは腕を組む。
「女の人をどうにかしなくてはなりませんね。」
緑珠はたったった、と駆けて行って、女性に声をかける。
「ねぇ、貴女が慧深様?」
薄い紫色のベールを被った還暦程の女性が振り返る。周りの集っていた人間達の視線が、一気に緑珠に向かう。
「お、おい!慧深様に失礼だぞ!」
「そうだそうだ!下がれ!」
イブキが手を出そうとするのを緑珠が止めて、慧深も信者を窘める。
「お止めなさい。……旅のお方?」
にっこりと緑珠は笑った。
「えぇ。そうなの。私達、様々な諸国を回っている中で、貴女の噂を聞いたの。どんな人かと思って見に来たのよ。ね、それなら構わないでしょう?」
ざわついていた信者が一瞬で止まって、また異常に煩くなる。
「おお!お前達も同志だったのか!」
「ええ!ええ!お話を聞きに来たのよね!分かりますとも!」
「え、えーっと……?」
異常な騒ぎ様に、緑珠は目をぱちくりとする。何時もの笑顔でイブキは言った。
「話を聞きに来たんです。徳の高い説教だと様々な諸国で聞きました。」
どうやら気を良くした様で、慧深は話す。
「分かりました。私が何時も説いているのは、文明の大切さです。」
緑珠はきょとんとする。
「文明の……大切さ?」
笑顔で頷いて慧深は続ける。
「文明は人間です。人間を続ける為には科学力が必要です。しかし、この国にはまだ科学力が足らないと私は思うのです。」
「全くもってそうだぞ!麗羅様はその事を全く分かっていないっ!我々も文明を取り入れるべきなのだ!」
隣から信者からの野次が飛ぶ。
「それに、慧深様は痣がある!『神の痣』だ!神から選ばれた者のみに与えられる、特別な痣だ!」
緑珠は何も言わずに怪訝そうな顔をする。イブキが鼻で嗤い、小声で真理に問う。
「……そんな物、与えました?」
肩を竦めて真理は言った。
「与えてないし、其処までの暇もないよ。」
緑珠は更に質問を続ける。
「ね、その痣って何なのかしら?」
態とらしく慧深は否定する。
「お見せする様な物でも……。」
「良いではありませんか!慧深様のお力を旅人さん達にも見せましょう!」
おずおずと差し出した手の甲には、『悔い改めれば救われる』、と言う一文が書かれていた。周りの装飾も凄い。しかし、これは痣と言うよりかは、
「……シミ、みたいね。」
イブキがそれを覗き込みながら言った。
「これ、顔っぽくありませんか。」
「言われてみたらそうだね。男の人の顔っぽい。」
「……え、えぇ、そうね。此処が目でしょ。」
少しだけ、ほんの少しだけ緑珠がしどろもどろになる。
「そうだけど……どうしたの?」
真理の問いに、緑珠は直ぐに否定する。
「いいえ、何でもないのよ。慧深様、有難う。また来るわ。」
「また何時でも起こし下さいね。」
てくてくと三人は無言で歩いて行く。緑珠は振り返らず言った。長閑な田園風景を通り抜けた透けたる風が、緑珠の真横を通って行く。
「……ね、ずっと思っていたのだけど。」
「どうしたの?」
ざくざく、と土くれの音が消える。緑珠が止まったことが分かった。
「……私達、治安維持に協力してるわよね。……思想弾圧、と言えば分かりやすいかしら。」
「前半の部分で充分ですよ。」
イブキは肩を竦める。
「仕方がありません。そうしなければ」
「皆まで言わなくても良いわ、イブキ。そう、私達は己が目的を達成するが為。それが為、なのよ。」
緑珠は続けた。
「何かを達する為には、それだけ何かを足蹴にして進まなくてはならない。絶対悪も必要悪も無いように、絶対的な権威も、必要な犠牲も存在しない。……これじゃあ宗教家と同じね。」
でも、と緑珠は意地悪くっぽくくすくす笑う。
「王というのは、それだけ弁が立たなければ!それに、私はケーシン様の嘘を暴いたわ!」
「そりゃ頼もしいね。それで、一体なぁに?」
「それは……まだ分からないけど、あれがインチキだと言うのは分かるわ。だって、神様に選ばれた人間なんていないもの。」
恐らくね、と緑珠は続ける。
「信者から金を巻き上げて居るのだと思うわ。あんな豪華な服飾品、貴族が持てる代物。値段は分からないけど……そうね。日栄帝国の王宮が四分の一建つわよ。まぁでもあの王宮は五つあるから……でも宝石まみれの王宮が四分の一建つなんて、やはりそれ程の物なのだわ。」
緑珠はイブキと真理に向かって言った。
「この国は……余り科学が進んでないのよね?」
「えぇ。そうですね。こんな長閑な風景なんて久しぶりに見ました。」
自信満々に緑珠は笑う。
「それでは貴方達にお使いを頼もうかしら。この国に来る前に、1日程で回れる小国がいくつもでしょ?かなり近くに。……其処等で、ありったけの医療書を買って来なさい。なるべく種類の違うもので、信じられるものを。……もしかしたら要らないかもしれないけど、買ってくるだけの価値はあるわ。」
「さて、と。私もやるべき事をやらなければ。」
早朝に起きて第一声、緑珠は言った。早々と荷物を纏めて冷え冷えとした早朝の国へと繰り出す。
「誰も居ないのね。……まぁ、当たり前っちゃ当たり前よね。」
緑珠は一人で呟きながら、宛もなく国中を歩き回る。緑珠の目的はたった一つ、『もう一つの可能性』を探す事だった。勿論、何らかの方法シミが出来た可能性もあるだろう、が。
「可能性なんて幾つでもあるのだし、出来る限り抑えておかなくちゃ……。」
誰かが走ってくる足音が聞こえて、緑珠はおもむろに振り返った。
「あぁ!此処に居たのですね!最初は何処に居るか千里眼で視ていたのですが、途中で寝てしまって……。」
軽く息を上げている壺装束の麗羅が居た。緑珠は半ば慌てて麗羅に言う。
「れ、麗羅様?まだ一人で出て来られたのですか?葉月殿は?」
くすくすっと笑って麗羅は言った。
「うふふ。吃驚しました?」
「……国の長が護衛も付けずに外に出られるのは普通に吃驚します……。」
麗羅は緑珠の答えににこにこする。
「葉月はね、まだ寝ているんです。その隙を突いて逃げ出して来ました。」
緑珠は愕然として麗羅の答えを聞く。
「本当に……忙しい事は分かっているのです。けれど、この老婆の願いを聞いて下さいませんか?」
ふう、と風が抜けて、緑珠は答えた。
「それは勿論、一国の王からの頼みとあれば聞かぬ訳には参りません……しかし、どんな願いなのですか?皇女としての地位すらも、最早無くしてしまった私には……。」
緑珠の一言に麗羅は微笑む。
「そんな大仰な物ではありません。敬語を外して、少し一緒に買い物をして欲しいのです。」
「え。」
緑珠は心の底から「え」と言った。
「勿論、忙しい事は承知です。けれど、きっと役に立ちますから……ね?」
緑珠は渋々承知する。
「構いませんが……流石に敬語を外すの」
緑珠が最後まで言い切らないうちに、麗羅は間髪入れずに言った。
「『お母さん』と呼ぶのと敬語を外すの、どちらが宜しいですか?」
「……敬語を外すわ。」
緑珠の選択は一択だった。麗羅は緑珠の手を引っ張る。
「さぁ、それでは参りましょう。良い地図を買ってあげましょう!」
「ち、ちずって!」
緑珠は手を引っ張られるままに、人が沢山いる市場へと向かう。市場と言うのも『朝市』と呼ばれる部類のものだったが、それでも盛況だった。
「凄いわ……!こんなに人が沢山!日栄ではもっと静かだったのに……。」
麗羅は正体がバレないように市女笠を深く被って言った。
「我が国の国民はお祭りが大好きなのです。そのせいなのでしょうか……朝市から気分が良いというのか……。」
敷き詰められている地図がある場所へと麗羅は駆ける。そして店主に声をかけた。
「このお店で一番良い物を下さいな。」
麗羅は店主にたんまりと金を握らせる。緑珠は麗羅の行動に驚愕しながらも、あまりの驚きに声もかけられない。直ぐに店主は羊皮紙で作られた縁取りが豪奢な地図を麗羅に渡した。
「はい!お土産ですよ。」
「その割には……あれ?」
「どうしました?」
緑珠は広げた地図の装飾を眺める。それは、まさしく。
「これ、ケーシン様の手にあった紋章と同じ……。」
少しだけ目を開いて麗羅は言った。
「ね?確かに『役に立つ』でしょう?」
一瞬だけ、空気が冷えるのを感じて、緑珠は口を動かす。
「まさか、それが分かって私に……。」
直ぐにふんわりとした雰囲気に戻して麗羅は道のベンチのある隅で地図を広げる。
「貴方達は月から来た。故に貴方達は地上の世界の地理に詳しくは無い……そうでしょう?」
緑珠は言われるがまま頷く。
「それでは私が説明しましょう。大雑把ですけど……知らぬよりは良いですね。」
麗羅は南の、緑に覆われた大国を指さす。
「此処が貴方達が今いる国、私こと『御手洗 麗羅神巫女女皇』が治める『御稜威帝国』。我が国では上質な鉄が取れます。それだけでなく、自然資源が豊富です。鉄を始め、木材、石炭、その他の鉱石。勿論宝石も採れますよ。」
麗羅は次に西の、砂に覆われた大国を指さす。
「此処は砂漠の国、『カウィー・ザフラ国王』が治める『アフマル・ザフラ国』。この国は『九尾の狐』が住む国です。石油が採れます。油田がこの国の周りに大量にあるのですよ。」
麗羅はさらに東の、海の方向を差した。
「国が……無いわ。『四大帝国』って言われるくらいなのだから、もう一つ……。」
麗羅は緑珠の目を見て言った。
「ありますよ。海の中に。」
「う、海の中?」
そのまま説明を続ける。
「ええ。人魚が収める、『ディーネ・インテリオール公国』。此処は余りにも国交を絶っている為、内情が把握出来ぬのですよ。」
そして、麗羅は『御稜威帝国』に匹敵する程の大きさを持つ、灰色の北の大国を指さした。
「此処は武帝『バティスト・パトリック=カーリン帝王』が治める『ノルテ・カーリン帝国』です。元々環境に恵まれない土地の為、戦争で様々な物を勝ち取って来ました。此処も宝石が名産なのですよ。」
くすくすと笑って麗羅は続ける。
「良い人なのですけれどね……顔がコワモテだから……畏れられているのです。一緒にドッチボールもしたりしました。同い年なのですよ?」
「お、おないどし……。」
緑珠は昨日真理に言われた、『軽く八百年くらいは生きてるよ』発言を思い出す。不思議そうに麗羅はその様子を思い出しながら言った。
「でもねぇ、とても不思議だったのです。ドッチボールは顔にボールを当てるゲームだと聞いたのですが……どうやら違った様です。途中で違うぞと言われてしまいました……。」
「因みに……誰に言われたの?」
「葉月に。とても笑顔で言われたので、合ってると思ったのですが……葉月も間違うのですね。」
「あの補佐官殿も随分と悪い事をするのね……。」
緑珠は国の横にある文字を見る。
「『砂漠の狐』……?これは?」
深緑の目を少し開いて麗羅は言った。
「それぞれ二つ名があるのです。私は『正義王』。カーリン帝王は『獅子王』。ザフラ国王は『砂漠の狐』。」
「『ディーネ・インテリオール公国』は内情が分からないから二つ名が無いのね……。」
まるで思い出した様に麗羅は言った。
「そうだ!貴女にも異名があるのですよ?緑珠の存在は随分と有名ですから。国を追われた憐れな姫君。そしてその一行を追う者。大衆からしてみればとても素敵なお話です。」
「えぇ……そんな話を聞くと碌でもない気がするわ……。」
いいえ、と麗羅は言った。
「『慧眼の姫君。憐れな己を慈しむ事無く、道を開く具眼の者。善を以て悪を制す、神ともあれば、悪魔でもある者。』格好良いでしょう?羨ましいです。」
「確かに凄いで」
「あっ!葉月が来ます!」
緑珠が全てを言い終わらないうちに麗羅は言った。
「逃げましょうか!」
「……あの、御政務は?」
「……ぁっ……。」
少しの間の後に、緑珠は言った。
「……完全に忘れてましたよね?」
にっこりと笑って麗羅は返す。
「今のは緑珠の記憶力を試したのですよ。決して忘れていた訳ではありません。」
「それ、葉月殿にも言っていた気が……。」
目を開けて彼女は言った。
「緑珠。この国の名産は鉄ですよ。さぁ、お行きなさい。」
緑珠は言われるがままに足を進めた。少しだけ、麗羅に振り返ると、彼女は手を振った。雑踏に紛れて緑珠の姿が見えなくなると、麗羅の傍に葉月が控える。
「全く、侍女からの報告を受けて来てみれば……。」
元の糸目に戻して麗羅は笑う。
「……いつもみたく、怒らないのですね。」
「呆れている、と言えば宜しいでしょうか。」
「うふふ、ごめんなさいね。」
「申し訳なく思っているのなら止めて下さい……。」
緑珠が行った方向を眺めながら、麗羅は言った。
「あの娘は……恐ろしい人間です。」
「麗羅様に其処まで言わしめる人間とは、初耳です。」
だって、と麗羅は横目で葉月を見た。
「真理の正体を一発で見破ったのですよ?本当に凄い娘です。……それに……緑珠は……あの子の母親は……。」
「どうされました?」
麗羅の呆けている様子に、葉月が問う。
「……いえ、何でもありません。さぁ、城に戻りましょう。緑珠ならきっと、上手くやりますよ。」
麗羅は葉月に連れられて、そのまま城を目指した。
次回予告!とうとう慧深の正体を暴いた緑珠だが、慧深の衝撃の正体が明らかとなる……!ラプラスの魔物 千年怪奇譚 第8話!御稜威帝国編、完結!11月上旬に掲載予定!