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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 122 破壊

いとも容易く行われるえげつない行為が起こったり壁を破壊したり真理が自分の魔法で不安になったりするお話。

「えと……それじゃ、この穴ね。……って、これは入れなくない?」


三人は地下の穴の前で立っていた。ちょろちょろと水が流れている、あの穴だ。


「じゃあ広げましょうか。ちょっと退いて下さいね……。」


「いともたやすく行われるえげつない行為……。」


真理が呟くのを他所にイブキは煉瓦を触ると、直ぐにもろもろと崩れる。これは少し気を付けなければ、廃屋諸共崩れてしまう。


拳にある程度の力を込めて、ごん、と煉瓦の壁にぶつけると、すぐさまに亀裂が入って穴がどんどん大きくなっていく。もっと言うと壁の半分が大破した。


「……済みません……。加減出来ませんでした……。」


「壁の半分もろいっちゃうとは私もちょっと想定してなかったわね……。」


「せめて四分の一くらいだと思ってた。」


緑珠は瓦礫の山に足を踏み出して言う。


「ま、とにかく行きましょ。期限は今日を含めてあと二日。うかうかしてらんないわね。」


瓦礫を超えると、真理は幻視魔法を使う。その足元には恐らく元の穴の『蓋』だったであろう物が落ちていた。


「大丈夫そうだね。行こうか。」


臭いはあまりきつくなく、上から水が落ちて来ている。迷路の様に地下水道は入り組んでいた。


「……んー……。これ、座標に向かって歩いた方が良かったんじゃないかしら……。」


「そうですね。控えてます?」


「そりゃあると思うけど。ちょっと待ってね……。」


昨日のようにあの噴水の情報を出すと、直ぐに座標の情報が出てきた。


「これだね。」


「えーっと……?これをこのまま真っ直ぐ行って、で、曲がると……。」


イブキが『奴隷区』の地図を思い出しながら言っていると、しゃがんでいた緑珠が立ち上がる。


「この水道管の地図が欲しいわねぇ。」


「……奪いますか。」


「もう発想が物騒の極みなんだけど。」


「もしかして韻踏んでるの?」


「ごめんそういうつもりは無かった……。」


あらそう……と何故か残念そうにしている緑珠を不思議に真理は見る。が、そんな事とは露知らず、緑珠はイブキへと問うた。


「地下水道だし、きっと警備の人も居るわよね?……あんまり手段は選んでられないわね。」


「腹括りますか。」


「もう一回捕まってるのよ?今更じゃない?」


「開き直ってない?ダメな開き直り方してない?」


すう、とイブキは深く息を吸う。直ぐに探して当てたらしく。


「居ますね。……でもこの道を結構行った先みたいです。」


「随分と先なのねぇ。……ま、とにかく行きましょうか。」


緑珠が先導を歩く、が。所々道が無い場所がある。


「……何で道が無いのかしら。」


ひょい、と緑珠は其処を飛ぶと、向かいの石に辿り着く。


「道が無いって事は、此処は使ってないみたいですね……。」


「それだけ広いのかなぁ。」


また歩き始めたその時だった。イブキが緑珠の手を引っ掴んで影に隠す。そして真理には足を踏む。


「どうし」


「静かに。」


緑珠の口元を抑えて背後に隠すと、別の角から人が歩いて来るのが見える。どうやらこの辺りを見回っているらしい。


足音が遠ざかって、辺りには静寂が残った。


「……行ったみたいですね。」


「はー……まさか地下水道まで見回ってるなんてねー。」


「恐らく此処から益々警備が厳しくなっていくんでしょう。厄介だな……。」


少しだけ考える素振りをした後、イブキは深く溜息をついて言った。


「……言ってても始まりませんね。行きましょうか。」


「そうね。」


と言ったそばから見張りが三人の前に現れる。イブキは表情を変えることなく見張りの背後に回ると、思いっ切り腕で首を絞める。


「……え、えっーと……。」


「行きましょうか。」


「……早いわね。倒すのが。随分と。」


「流れ作業ですからね。こういうのは。しかも僕は一応プロですし。……まぁ、素人は、」


背後から剣を振り下ろそうとする見張りに振り返り、上げた膝裏で思いっ切り首を挟む。また落ちたらしい。


「……無謀にも襲いかかってくるので。」


改めて❛鬼門の多聞天❜の所以を実感した緑珠は、あんぐりと口を開けている。


「行かないんですか?」


「……いえ、行きます……。」


「幻視魔法かけとくね。戦うとなるとややこしいから。」


「そうして貰えると有難いです。」


謎の気まずさの中、緑珠は先導を切る。足を一歩踏み出した時に、足元が崩れる。


「……僕が前を歩きましょうか?」


「そうして貰えると助かるわ……。」


特に何事もなく三人で進んで行くと、角にくっつく形で、見張りの小屋がある。その前には二人の見張りが立っていた。随分と厳重だ。


「……彼処に行くしかないみたいですね。」


「行こうか。多分あの部屋に地図はある。」


「ちょーっと待って。少しくらい作戦は立てましょ。貴方達の力は信用してるけど、行き当たりばったりじゃダメよ。」


良い?と緑珠は軽く作戦を立てる。


「まずは私だけ幻視魔法を解いてくれない?私が気を引くわ。」


「大丈夫なんですか……?」


「絶対大丈夫。信用して。あの二人くらいなら私だって気を引けるわ。」


で、と作戦の説明を続けていく。


「その内にイブキと真理はあの二人をぶっ飛ばして欲しいの。これで見張りは倒せるでしょ?それで潜入!」


「なんちゅう雑な……。」


「でも多分あの見張り小屋の中に入ってる人多くても三人くらいだよ。きっと狭いし。」


「……じゃあそれでいきますか。」


「有難うね。」


真理が緑珠の見えないようにしていた幻視魔法を解くと、ひらひらと蝶のように舞っていく。イブキと真理はそれに従って見張りの近くに迫る。


「あ、あの……。」


「……何だ?何故こんな場所に人が居る?」


見張りの疑心暗鬼を一心に受けて、パニクった緑珠が放った言葉とは?


「あの、その、記憶喪失してて……自分でも何でこんな場所に居るか分からなくて……。」


設定が突飛過ぎる、と二人は頭を抱える。が、見張りはそれを信じたらしい。信じた、というか、『不審者扱い』したというか。


「……そうですか。ならこっちに来て下さい。」


と、見張りが緑珠の肩に触れようとした時だった。


「待って!」


「待つ?何を?」


殺気が真っ直ぐ自分に飛んでくるのが分かる。目を瞑ると、見張りは地下水道に真っ逆さまに飛んで行く。


「な、何だ!?敵かっ、……!?」


悲鳴をあげる間もなく、もう一人の番兵も真っ逆さまに落ちていく。緑珠はへなへなとその場に座り込んだ。


「ひっ……!」


ひたすらに怒られそうである。緑珠は慌てて殺気のしない方に這うようにして歩くと、ふう、と息を着いた。


「緑珠様。」


「ひ、ひぃぃっ……!」


目の前に伊吹が居る。目を見なくても分かる。激昂しているじゃないか。もうこれどうしよう……。


「……あんまりやんちゃしないで下さいね。」


「は、い……。」


それと、と目の前でしゃがまれて、緑珠はぼおっ、とそれを見ている。そして、耳元で囁かれた。


「……それと。僕に愛されているという自覚。ちゃあんと持ってて下さいね?」


「ひゃい……。」


「良い子ですねぇ。さて、それじゃあ中に入りましょうか。」


「何か色々凄いことに……。」


緑珠は震える足で立ち上がると、小屋の中を覗く。中には談笑中の兵士が居る。食事をしている様だ。


「……あんまり倒すとややこしいわね。よっし……『眠れ』。」


言霊使役の力を使って、緑珠は中の二人を眠らせる。


「……ほんと便利ですよね。その力。」


「まーねー。でもあんまり使い過ぎると空虚になるわよ。」


「空虚?」


緑珠に続いて二人も部屋に入る。見張りが眠っている奥に、地図が張りつけてある。


「『何でも願いが叶う力』ってのは、何にも無いからね。ずっと願いが叶え続けられるから、概念だけになるんだよ。」


「……ちょっと何言ってるか分からないです。」


「よーするに、『願いを叶える力』ってのは、願ってる内が一番華があるって事よ。あら、これが地図ね。」


緑珠は二人の前に差し出す。茶渋のついたような黄ばんだ地図には、この穴は何処の場所なのかが記されている。


「これ、B区画って書いてありますね。」


「ほかにも区画があるのかしら……。」


「この国は広そうだから、Dくらいまでありそうだけど……。行く方向だけ分かれば良いね。」


眠っている見張りの胸ポケットをまさぐると、イブキは手帳を拝借する。


「お、当たりですね。」


「それは……手帳ね?」


ぺらぺらと捲って目当ての頁を探す。


「そうです。多分この見張りのグループの手帳だと思います。もしかしたら地図が載ってるかも……あ。あった。」


「あったの?」


「えっとですね……。僕らが進むのはA区画ですね。」


イブキは『奴隷区』の地図を取り出す。


「……あ、此処からならA区画に侵入出来そうですよ。」


「地上から侵入するの?貴方なら水門くらい破れそうだけど……。」


鋼鉄の分厚い扉を『破る』と表現している辺りで確実にイブキの力が人間離れしているのが分かる。


「別に破っても良いですけど、本当に加減しないと『奴隷区』が陥没しますよ。」


「それじゃあ地上から潜入するしかないわね。」


「結構力加減してるはずなんですが……。上手いこといきませんね。」


そんなイブキの呟きに、真理は問いかける。


「でもさ、料理してる時とか物持ってる時は爆散しないよね?」


「あれは……。リミッターがあるとして、人間の力の範囲で力を使ってるんです。どーにもこーにも鬼の力は慣れなくて……。」


「成程、そうだったのね。」


色々物色していたイブキの動作が、ぴたりと止まる。


「……行きましょうか。どうやら異変に気付いて見張りが来ているらしい。」


「おっけー!短距離なら移動魔法が使えるから使うね!」


真理は適当に魔法陣を描くと、二人はその中に入った。







「……む、むう……。」


真理は手を苦々しい顔をしながら見詰めている。


「どーしたの?」


ひょいっ、と緑珠は顔を覗かせる。星空の下の空き地に、二人は居た。


「……えっ、うわぁぁぁっ!」


「きゃぁぁっ!何!?どうしたの!?何か居た!?」


振り向いた真理に釣られて、緑珠も後ろを振り向く。


「緑珠だよ!」


「あ、あぁ、私……。」


一通りのやり取りが終わったあと、真理はまた難しい顔をして己の手を見ている。


「……むう。」


「どうしたの?」


「……魔法の力が、弱くなってて……。飛べない、なんてこと無かったのに……。」


まるで子供のようにしょげて、小さく真理は顔を伏せて丸まる。


「…………こんなのじゃあ……ぼく……。」


「居るだけで、良いのよ。」


「……居るだけ?」


まるで子供のように目を腫らした真理の隣に、緑珠は座る。


「そうよ。人は居るだけで満点なの。生きているだけで凄いこと。」


そもそも、と緑珠は真理の問題点を指摘した。


「使えないってどれくらいなの?問題無さそうに見えるけど……。」


少し考え込んだ後、真理は言った。


「……国が一つしか消せない。」


「……え?」


緑珠の疑問のすっ飛ばして、真理は話を続ける。


「時が百年しか戻せないし……。」


「えっと?」


「大国の下水道を可愛い感じに装飾出来ない。」


「……えっと……。」


「時間も千年先しか進めないし……。」


「……えー……。」


「……こんな事、今まで無かったのに……。」


「……ちょっと待って。少し話を整理しましょうか。」


緑珠は不調になっても規格外の力を発揮する真理に言った。


「良い?真理。『創造神』の貴方からしてみれば、確かに『何でも出来る』って枠から外れてる。これを貴方は不調だと思ったのよね?」


「うん。思った。」


「でも貴方は今何?……えっと、種族的な意味ね。」


緑珠の言葉に、ぱあっ、と真理の顔が明るくなる。


「人間!」


「よね?ならそれだけ出来たら凄いこと、よね?」


「うん。そうだね。あー、でもびっくりした……。」


まだ少し不安を残しながら、真理は立ち上がって空を見上げる。


「完璧じゃなくなるって、怖いね。……よし。でも杖は出す練習しとこ……。」


「あらどうして?真理なら杖を出さなくても、力は充分に振るえるんじゃない?」


星空の下、緑珠の方へと振り向いた真理は、恐ろしく苦々しい顔で、心配を吐いた。


「……だって僕、あの杖無かったらただの不審者じゃん……。」








次回予告!

イブキが究極にめんどくさがったりそれを緑珠が宥めたり色んなところで宥めまくったりする死ぬバカをするお話!

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