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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 121 地味な優しさ

緑珠が早起きしたりイブキがすりすりしたり緑珠が生まれて初めて自分の手でご飯作ったりするお話!

「……むー……。」


むくり、と緑珠は身体を起こす。思ったほど節々は痛くない。じーっ、と周りに居る子供のように寝る二人を見て、立ち上がろうとする、のだが。


「……早起き、ですね?」


「早起きじゃない。もう朝の十時よ。足拘束するの止めてもらって、あの、良いかしら……?」


すりすりと子犬のようにイブキは足に擦寄る。起きたら言ってやろう。悶絶させてやる。


「……そっか。二人共疲れてるものね。よしよし。有難うね。私は起きるから……。」


無理矢理起きて廃屋の一階に向かう。お腹空いてるし。イブキや真理を起こしたら可哀想だし。……わ、私だって、料理作れるし……。


意を決してイブキの鞄からキャンプ用カセットコンロを拝借すると、見様見真似で組み立てる。……ちょっと魔法使ったけど。


コンロの上に一人分のスープ皿を乗せる。一瞬皆の分も作ろうかと思ったけど止めた。……失敗したら洒落にならないし。


「あら。ホワイトソースとベーコンと……キャベツがあるのね。あとは野菜とか……。」


ぽん、と手を叩いて。


「クリームシチューを作りましょう!」


でも、と首を傾げて。


「……クリームシチューってホワイトソースどばってするのかしら……。ホワイトソースだけー……ってことは、ないわよねぇ……、」


頬を膨らませながら、緑珠はじいっ、と目の前の食べ物を眺める。


「……えぇいままよ!混ぜたらそれっぽくなるでしょうよ!いっけぇー!」


まずはベーコンを突っ込んで、それなりに焼き色が着くまで焼く。キャベツも突っ込む。そしてホワイトソースをどばあってする。


もちろん焦げる。めっちゃ慌てる。でも自分だけ食べるから良いなってなる。胡椒をかけたりする。そんなこんなで、緑珠の史上初めての料理は──


「……食べれるんじゃない?これ。」


ダークマターは生成しなかった。後は味だが、まぁそんなに悪くない。食べれる。


「……何だか美味しそうな匂いがします。」


眠そうに目を擦りながら、上からイブキが降りて来た。ベーコンを飲み込んで、緑珠は言った。


「あら、寝てても良かったのに。」


「いや火事になるといけないと思ったので。」


「何か本当にごめんなさいね?」


部屋のど真ん中で正座している緑珠を隅にあるソファまで誘うと、緑珠はイブキの隣にちょこんと座る。


「……良いな。それ緑珠様が作ったんですか?」


「そうよ。でもこれはダメ。あんまり上手く出来なかったし。……美味しいけど。」


「食べたいです。あーんして下さい。」


ほら早く、と言わんばかりに、イブキは己の口を触る。


「えぇ!?……仕方ないわね、はいどうぞ。……美味しい?」


もぐもぐと食べると、何処か満足気な笑みを見せる。……何だかまだ眠そうだ。


「……美味しいですよ。僕料理には厳しい方なので。」


「そうなの?」


「嘘です。本当は馬鈴薯じゃがいもに厳しいんです……。」


「寝ぼけてない?」


「後は寝具にも……。」


「絶対寝ぼけてるわよね?」


今度は階段の方から盛大な音がする。スープをかき込むと緑珠は慌てて走る。


「大丈夫!?真理!」


「あいててて……。寝惚けて足滑らせた……。」


びったーん!と垂直に転けている真理を、緑珠はヨシヨシと撫でた。


「何処も怪我してない?大丈夫?」


「うん、今は大丈夫……。」


真理はどうやら上手く起きたようだが、昨日の疲れが取れ切っていないらしく、イブキはすやすやと眠っている。


「イブキ、大丈夫かしら……。魔法で起こしても良いのだけれど、流石にキツイでしょうし……。」


しょんぼりと項垂れて。


「本当は起こしたくないのだけれど、期限もあるし、起こさないって選択肢は無さそうだし……。……そうだ!」


イブキの傍まで駆け寄ると、とんとんと背を叩く。


「ん……?りょくしゅさま……?」


緑珠が軽く耳打ちすると、開かれかけていた目が完全に開く。そして照れる。


「な、何でそんな恥ずかしいこと言うんですかぁーーーー!緑珠様嫌い!」


「あ、起きてくれた?」


ご満悦な緑珠に、真理はご尤もな問いを浴びせる。


「何言ったの?」


「朝イブキがしてきたこと言ったら照れるかなーと思って。足にすり寄ってきたの。可愛いでしょ。」


「なるほど……。そして僕にバレたら尚のこと照れる訳だね?」


「きらい……緑珠様なんてきらいです……ひどい……僕だって沢山甘えたいんですよ……?分かるでしょ……?」


顔を伏せて照れているイブキに、緑珠は少し悲しそうに言った。


「あら、嫌いだなんて言わないで。私、貴方の事大好きよ?」


「しゅきです……。」


「それなら良かった。」


にこっ、と綺麗な笑顔で返すと、イブキはバッグを漁る。


「じゃあ僕らもさっさと食事を終わらしちゃいましょうか。もう朝ご飯と言うよりは昼ご飯ですけど。」


「何にするの?」


「お前は馬鈴薯でも食っとけ。」


「辛辣過ぎない?」


「僕はパンです。あと芽付きの馬鈴薯です。」


「殺す気満々じゃん。」


イブキはうっとりとしながら言った。


「いやぁもう死んでくれたら本当に嬉しいなって思ってて……。」


「本心漏れすぎじゃない?」


「嘘ですよ。流石に芽付きの馬鈴薯は悪いので……。」


イブキはパンを取り出す。


「パンです。賞味期限が今日の。」


「めっちゃギリギリじゃん!」


ばふっ、とイブキはパンを投げる。そんな隣で、緑珠は他人事のように毛先を触っていた。


「有難いと思って下さいね。僕が今食べてるのは消費期限が今日のやつです。」


「おう……地味に優しい……。」


真理はぱくっ、とパンを食べると。


「……賞味期限という言葉の有難味が分かるお昼ご飯だね。」


「何も言うな。僕は今結構きついんですよ、これもう食べ物じゃないでしょ。」


「お腹壊さない?」


「青酸カリ飲んで死なないのにこれでお腹壊したら笑うんですけど。」


「それもそうか。」


食事を簡単に済ますと、軽く支度を済ませて。


「よし。それじゃ、行こうか。」


「そうね。」


ボロ布を纏って、路地に出ると美しい青い空が見える。雲一つ無い。


「綺麗な空ねー。」


「天気良いですね。」


一歩街の真ん中に出ると、華美な服を着ている人が目立つ。


「これは……変な変装しない方が目立ちにくそうですね。」


「そうね。」


フードを取ってマントだけになると、街を見回す。


「……外部からの侵入が無理だから、変に道聞いても怪しまれるわよね……。『ヒストラル』が何か分からないから……。」


「まぁ、少し動き回ってみようよ。何か見つかるかもよ?」


街は大きく、中心部よりも活気がある。『奴隷区』なんてのは名ばかりだ。


「綺麗な街ね。」


「ん?あれは……。」


木の扉の周りに、沢山の人が集っている。三人も駆け寄ると、城兵が叫んでいる。


「昨日!城壁を超え侵入者が現れた!見慣れぬ者がいれば必ず報告せよ!繰り返す──!」


その叫びを聞くと、人混みから一旦離れる。人が少ない路地裏で、緑珠は呟くように言った。


「むう……これじゃ、至る所に警備が敷かれてるわね。」


「せめて『ヒストラル』が貴重な物かそうでない物かが分かれば良いんですが……。」


「……分かれば、良いんだよね。」


「何か考えがあるの?」


緑珠が尋ねると、真理がいたずらっ子のように笑った。


「僕に考えがある。……ノッてくれるかい?」







すうっ、と深く息を吸って、路地裏でイブキは叫んだ。


「『ヒストラル』に侵入者が居るぞ!」


一度しぃん、と辺りが静まるが、直ぐに人の足音が聞こえる。


「よし伊吹君よくやった。後は一度帰ろう。」


「はい。」


路地裏の先にワープゾーンを作ると、二人は其処に飛び込む。その先はあの廃屋だ。緑珠はソファに座っている。


「これで見てたら良いのね?」


「そうだよ。これをっと……。」


現場をナビする電子情報を空中に浮かせると『ヒストラル』と呼ばれる物の周りに人が溢れかえっている。


「んー……?これは、何でしょうか……。」


「何かの歪みみたいだけど……。ねぇ真理。これズーム出来ないの?」


「出来るけど……出来た所で見にくいかな。これ多分……。」


虹色の光の帯が辺りに散らばり、その真ん中には何かの歪みがある。


「……時空の歪みだね。」


ナビの向こうでは『侵入者は何処だ!』だの声が散らかっていた。


「どうやら『ヒストラル』は神聖な物らしいですね。きっとこれで警備もきつくなるはず……。」


「そうね……。……ね、『ヒストラル』って何処にあるの?神聖な物だから……。」


「神殿、とかかな?」


ズームアウトすると、森が溢れる場所にある。もっと戻すと周りに堀がある。そして噴水も幾つも見つかる。


「……これ、公園じゃありません?」


「そうみたいね。もしかしたら地下のあの穴から、入れる事が出来るかも……。」


「公園だったら尚の事出来そうです。まぁでもそれも……。」


暮れかかっている夕日を見ながら、イブキは。


「明日にしましょうか。」


「そうしましょう。よぉーしっ!明日からは探索探索!楽しみねぇ!」


「水道の通路なら任せて下さい。僕結構ああいう所に潜入した事あるんですよ。」


「北の城兵は大変ねぇ。」


「汚れ仕事ばっかりです。」


過去を回想しながら、イブキは深い溜息をつくと、緑珠が辺りを見回す。


「……あれ?真理は?」


「其処ら辺に居るんじゃないですか?」


「全くもう……投げやりね。少し探してくるわ。」


イブキが火を付けているのを横切って階段を上ると、伽藍とした部屋が広がる。どうやら二階では無いらしい。


またまたイブキを横切って下に向かうと、居た。暗がりで壁にブツブツと呟いている。一言で言って、怖い。


「あ、あの、ちゃ、ちゃんり……?なに、して……?」


「お風呂入りたいなって。」


真理の一言に、緑珠はハイタッチをする。地味に痛かったらしい。さすっている。


「よね!お風呂入りたいわよね!」


「だよね!だから今創ったんだ!……ま、これで良いかな。」


木の扉が出来て、その扉を真理は引く。その先には、暖かい蒸気があった。


「よしよし……上手く出来たな。」


子供の様に目を輝かせながら、緑珠は影からじいっと仲の様子を見ている。それを見ながら、真理は言った。


「お風呂、入るかい?」


顔全面に笑顔を醸し出すと。


「うん!入る!」


子供っぽく、緑珠は言った。








次回予告ふぉるてっしも。

いとも容易く行われるえげつない行為が起こったり壁を破壊したり真理が自分の魔法で不安になったりするお話。

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