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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第九章 所在不明 ???
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 118 牢獄

イブキと頭をぶつけたり逮捕されたり相変わらず身バレしたり今いる国の実情が分かったりと何か色々怪しいお話!

「むにゃむにゃ……はっ!」


ゴンっ、という鈍い音。


「イブキと頭がぶつかった気がする……。」


「当たってますよもう痛い……。」


ばっ、と起き上がった緑珠は、頭をさすっているイブキに言った。


「あらあら。ごめんなさいね。大丈夫?冷たいもの貰ってきましょうか。」


「痛い……緑珠様石頭ですね……。」


「貴方は柔らかいから発想が柔軟なのね。」


緑珠の言葉に、イブキはぱっと顔を上げる。


「……その考え方は初めて聞きました。」


「嫌だった?」


「嬉しいです。」


痛みもかけられた言葉ですっかり引いて、彼はさすっていた手を離す。再び緑珠が口を開いた。


「……えっと。それで、此処は……?」


「あぁ、御早う緑珠。」


「えぇ、御早う真理。あの……。」


布団から出ると、イブキが緑珠の布団を畳む。その間に真理は説明を始めた。


「僕達がこの国に来て、まぁ不審者扱いされてるってこと。いわゆる……逮捕って奴だよ。」


「……逮捕。」


ちょこん、と緑珠は座る。真理から言われたことを反芻しながら、


「……え、逮捕!?」


「反応が時間差ですね。」


「元お姫様が逮捕だなんて……。」


難しそうな顔をしていたが、直ぐにぱっ、と顔を明るくして。


「ま!何事も経験ね!」


「ポジティブが過ぎますよ。」


でも、と緑珠は首を傾げた。


「これ逮捕って言ってもあれでしょ?事情聴取ってことでしょ?」


「そうなるね。」


扉が開く音がして、昨日の番兵が三人の前に現れる。


「お?起きてたのか。」


「初めまして。貴方が此処の番兵さん?」


緑珠は綺麗に正座をして、にっこりと微笑む。


「あぁそうだ。話は聞いてるか?」


「えぇ。どうぞ事情聴取をなさって下さいな。」


それを聞いて番兵は紙とペンを二つずつ、緑珠とイブキに差し出す。


「その紫髪の奴は知ってる。マグノーリエに居る吟遊詩人だかの奴だろう?」


「おや、知ってたのかい?」


心底面食らった顔の後に、真理は少し俯いて言った。


「……ま、吟遊詩人なんて言うのは、人間(君ら)の意識に刷り込んだ嘘なんだけどね……。」


「はい、どうぞ。名前とかを書けば良いのね?」


さらさらと書き上げた緑珠から紙を受け取ると、番兵の顔が訝しげなものに変わる。


「……お前……。」


イブキの紙も受け取って、その『疑心』は『確信』へと変わった。


「……はー、面妖な面子で旅してんだな。お前ら。月の姫さんまで居るじゃねぇか。」


「あはは、即バレー……。」


緑珠の諦めた声色に、番兵は続ける。


「そりゃお前、各地で色んな事してたらこんな小国にでも噂は届くぞ?」


「ほんと、ご尤もな言葉ですね……。」


書かれた紙を見ながら、番兵はあっさりと言った。


「ま、大丈夫だろ。素性が分かったしな。好きなことして良いぞ。」


「い、いきなり投げやりだね……。」


立ち上がった番兵に、緑珠は慌てて声をかけた。


「ま、待って!あの、お礼を言いたくて……この国の元首様に……。」


あー、と気だるげな間延びした声の後に、番兵は緑珠に向いて言った。


「この国に、元首は居ねぇ。」


「……は?」


「説明してなかったな。」


再度番兵は座ると、簡単な説明を始める。


「この国は細く長くやって来たんだ。歴史は長い。五百年は軽く超えてる。」


「小国で、ですか。凄いですね……。」


イブキの感心を、番兵は当たり前を装って頷く。


「ただ、元首が皆良い奴じゃなかった。汚職事件、金絡みの汚い事件……そんなんばっかりだった。」


綺麗な青空が見える窓を見詰めながら、感慨に耽りつつ番兵は続けた。


「現に歴史の教科書だってそうさ。この国を作った初代の王の名前を覚えたら、後は誰が何年にどんな悪い事をしたか……それを覚えるばっかだ。」


三人に視線を戻すと、今まで気だるそうだった顔が、幾許が元気を取り戻す。


「だがほんの一年前だ。クーデターが起こった。この国はクーデターばっかさ。だけど、今回のクーデターは違った。『元首を立てない』クーデターだったんだ。」


「『元首を立てない』クーデター?」


疑問に満ちた緑珠の言葉に、番兵は深く頷く。


「そうだ。今までは元首に小さな希望を賭けて、『新しい元首を立てるクーデター』だったんだ。でももう俺達はそれを止めたんだ。だから考えを改めた。元首を立てず、自分達で全部決める。」


「『民主主義』、って事ね。でも意見を纏める人が居ないと無理なんじゃない?」


待ってましたと言わんばかりの緑珠の質問に、ニヤリと笑いながら番兵は続ける。


「だから『議会』が立った。其処で意見を纏めるのさ。」


「はー……随分と良い仕組みね。」


それに、と番兵は言った。


「この国には『通貨』が無い。」


「……変わった仕組みですね。」


イブキの何とも取れぬ声色に、番兵は自慢げに話す。


「だってそうだろ?『金』があるから人は変わる。汚いもんなんだ。この国はそういうこと思ってる奴ばっかだぜ。」


「……へぇ、そうなのね。」


元気だった顔が、また気だるげな顔に戻る。そして立ち上がった。


「ま、この国はそんな所さ。好きに出歩きな。」


「ねぇ番兵さん。取引しない?」


悪戯っ子の様な笑みを、緑珠は浮かべる。そんな顔をしている時は大概とんでもない事を言い出す前兆だ。


「あぁ?んだよ取引って。言っとくが変な事は言わないでくれよ?」


「御期待に添えて良かったわ。今からとびきり変なことを言うもの。」


悪戯っ子の様な笑みを仕舞って、にこっ、と緑珠は微笑む。


「貴方を保護観察に当てたいの。」


「聞こう。」


乗った、と緑珠は受け取ると、取引の内容を持ちかける。


「生憎と私達、今手持ちや食料が無くてね。帰れるような霊力も無いの。だから、タダで泊まれる場所って言ったら牢獄でしょ?」


またとんでもない事言い出したな、とイブキは半ば聞くことを放棄している。真理は興味津々だ。


「だから私達は此処に居たい。もし貴方が上司に報告に当てたなら、『不審者は不審な所は無かったが、一ヶ月間保護監督になりたい。この国を守りたいから』とでも言えば良いわ。納得しそうな理由を述べなさい。」


「……。」


「昇進するかもね。」


自信満々の緑珠の笑みに、番兵は不満げに言った。


「……はー。嫌だな。その取引。したくねぇ。」


「あら、どうして?」


動揺を全く顔に出さない緑珠。番兵は呆れ果てた様に呟く。


「だって、てめぇが王になったら、この国は何時か帝国って呼ばれるようになるんだぜ?俺はジメッとした所に居てぇのによォ……。」


「気に入って貰えて何よりよ。交渉成立ね?」


「勝手にしろ。」


番兵はそのまま部屋を出て行く。イブキが頭を抱えながら、緑珠へと言った。


「いや、あの、緑珠様、ほんき、ですか……?この国の、王になるって……。」


うっとりとした笑みを浮かべて、頬に手を添えながら緑珠は溜息をつく。


「伸び代あるわよぉ、この国。最高ねぇ。凄い事だと思わない?通貨が無くてやって来れたのよ?しかも一年以上!」


「い、一ヵ月でどーにかなるとは僕到底思えないんですが……?」


「あらそう?なら貴方は私の偉業を後ろで見てると良いわよ。絶対出来るんだから!」


あっさりと言い放つと、緑珠はまた幻想を夢見る。


「というか、あの男本当に取引受け取ったんですかね……?」


「受け取ったみたいだよ。感情指数を覗いたら受け取ってた。」


「そういう事言うの、面白くないですよ。」


薄暗がりの中で、伊吹が笑っているのが見える。はぁ、と真理は溜息をついて言った。


「……何だよ。君もジューブン乗り気じゃないか!」








「此処が市場ね。」


一応一通りの荷物を整頓した三人は、牢獄から出て国の中心地へと向かう。


「とても小国とは思えない賑わいようですね。」


置いてあるものは別に普通のものだ。野菜や果物や日用品、文具に至るまで。角の場所を取っているテントの下には家具が置かれていた。


「本当に小国なのかしら……。」


「あれ?もしかして旅の方ですか?」


じっ、と市場を眺めていた三人に、声がかかる。


「突然声をかけてごめんなさい。私、この国のガイドをしているんです。」


青の無地のワンピースを着た、緑珠よりも幾許か歳が下の少女は、にっこりと笑ってみせる。


「もし宜しければ案内しましょうか。中々道が入り組んでて迷われると思うんですが……。」


少女の提案に、三人は顔を見合わせる。そして緑珠は少女に向き直ると。


「それじゃあ案内、宜しくお願いしても良いかしら。初めてだからよく分からないの。」


緑珠の願いに少女はぱっ、と顔を綻ばせる。


「それなら案内させて頂きますね!私の名前はシリオンって言います!えっと……。」


少し考えた後に、シリオンは目の前の市場を指さして言った。


「今目の前に見えているのが、国の中心の中央市場です。この国自体は国土が広いんですよ。ただ、使われてる場所が酷く狭いだけで……それで『小国』って言ってるんです。」


「あのあの、質問があるのだけれど。」


緑珠は小さく手を上げると、シリオンはそれを取った。


「何でしょうか?」


「この国の名前を聞きそびれちゃったのだけれど……それに地図にも書いて無かったし……。」


「最新版の地図を買って下さったのですね!」


シリオンはぎゅっ、と緑珠の手を握る。そして慌てて離した。


「あ、あ、ごめんなさい、私みたいな卑しい身分の……あ、いやなんでもないんです。」


妙な単語が聞こえたが、それを流してシリオンは続ける。


「この国は一年前クーデターが起こったのはご存知ですか?」


「知ってるわ。番兵さんから聞いたもの。」


うんうん、とシリオンは頷く。


「それなら話は早いですね。クーデターが起こる前は、この国は『バタフィア王国』と名乗っていたんですが、クーデターが起こったあとは国名は記載しないようにしているんです。」


「凄い事をしているんですね……。」


イブキの『凄い』をまんまに受け取ると、益々シリオンの顔が綻んでいく。


「でしょう?もうこの国は貿易をして居ないですから、特に国名やらも必要ありませんし、それ以降は『みんなの国』と呼んでるんです。」


市場を抜けきると、大きい城門の向こうに、ボロくなった宮殿が目に入る。真っ白だ。


「これが宮殿です。バタフィア宮殿と呼ばれていました。一年前のクーデターから手付かずの状態で残っています。」


見入っている三人にシリオンは恐る恐る問うた。


「……中、入ってみます?」


「入れるのかい?」


真理の質問にシリオンは頷いた。


「入れますけど、全部見ようとしたら三日四日かかりますよ。それでも良いなら……。」


「……そんなにかかるんだったら、また今度にしようかな……。」


しかし、確かに数日かかりそうな大きな宮殿だ。数年前はきっともっと美しかったのだろう。


「宮殿はクーデターの象徴になってるんです。」


「象徴として相応しい大きい宮殿ですね……。」


「……私はこの宮殿、綺麗だと思うんですけどね……。」


シリオンの一言はまるで、『この宮殿を綺麗とは言ってはいけない』事を示唆しているようだった。その宮殿を横切って、シリオンは足を進める。


「……なんか変だと思いませんか。緑珠様。」


耳打ちされた言葉に、緑珠は深く頷く。


「今はとにかく様子を見ましょう。何か聞けるかもしれないわ。」


「同感。違和感有りまくりだけどね。」


三人の相談など露知らず、シリオンは先々歩いていく。そして、郊外に出て、賑やかさは無くなった。辺り一面に畑ばかり。


「もう此処まで来ると何もありません。住宅地も何も無くて……あとは何でしょう、畑が有るくらいですけど……。」


そう言ったシリオンの背後のもっと奥、一本道の奥に、城壁に張り付いた大きな木の扉が見える。


「ねぇシリオン。あれは何?」


「あれ……?」


「あの、木の扉。」


疑問に冷たい声色が飛んだ。


「……あの先には、何もありませんよ。」


「でも何かあるのでしょう?だってあの扉の向こうに、まだ城壁が見えるわ。」


「何も無いんです。」


シリオンの素足が、足元にある石を蹴る。


「……帰りましょうか。今度は国一番の買い物街をお見せしますね。」


三人を横切って、シリオンは元来た道を辿る。


「泊まっている場所、何処ですか?」


振り返った顔は確かに笑顔だが、疑心は消えない。イブキは微笑みながら答えた。


「僕達も道を覚えたいので、市場まで送って貰えればそれで構わないですよ。この国は広いですからね。」


そうですか、と短く言うと、三人はシリオンの後を追った。


直ぐに活気溢れる市場に着いて、入口まで舞い戻ると。翳りは無い笑顔が三人を見据えた。


「それじゃあ、また明日。私は此処で待ってますから。」


「有難うね。シリオン。また明日。」


三人はシリオンから離れて、泊まっている場所──牢獄へと向かった。







次回予告!

シリオンの不振な言動を目の当たりにしたり番兵さんを脅したり扉の話をしたりと何やかんやのお話!

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