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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第八章 崩落虚栄日輪帝国 旧帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 117 転移と捕獲

無事に解決して帰ろうと思ったらさぁ大変!そう上手く事が運ばないのがこの物語の主な特徴!なんかまたすっごいことになるぞ!(語彙力)

「うんうん。無事に書類も手に入れられたし……!」


「黒眚も倒したことですし……!」


一件落着ねー、と楽しそうに話す緑珠と花ノ宮。


手を繋いでわちゃわちゃしていた二人はその手を離すと、緑珠は改めて礼を言う。


「有難うね。協力してくれて。」


その言葉に一瞬面食らうと、はしゃいでいた表情を仕舞って、きりっとした顔をする。


「いいえ。このくらい当然のことです。」


しかし、顔は緩んでしまうらしく。


「……ふふっ。久しぶりにお会い出来て、私も嬉しかったです。」


年相応よりちょっとばかし背伸びした行動をする。何だか可愛らしい。


「ちょ、何で頭撫でるんですか、止めて下さいっ……!」


散々頭を撫でた挙句、もにゅっ、とほっぺを触る。堪能したあと緑珠は手を離した。


「ふふふ。何だか可愛らしくてね。」


「か、かわいい……?」


しどろもどろしてしまっている花ノ宮を他所に、イブキは冷泉帝に言い放った。


「一応礼を言っておきます。有難う御座いました。」


「凄く不本意そうなお礼ですが、受け取っておきましょう。そこで三跪九叩頭のさんききゅうこうとうのれいをしてくれても良いんですよ?」


「それはお前がすべきでは?」


相変わらずの一触即発な会話を繰り広げるのを見ながら、イザナミちゃんは言った。


【上手いこといったようね。】


「そーみたいだねぇ。」


それじゃあ、と緑珠は花ノ宮と冷泉帝に手を振る。


「私達は地上に帰るから。私が国を造る時の資金、ちゃんと考えておいてよね!」


返答を聞く前に、緑珠はまだ水がある湖の辺境へと足を向ける。ボロい船に足を乗せて、一番最初に言った言葉は。


「で。教えてくれでも良いでしょ?イブキ!何故花ノ宮公女が敬称を付けていたのかって!」


「……えぇ?教えなくてはなりませんか……。」


「教えなさい!分かってるんでしょ!」


イブキは不貞腐れながら、全く納得していない目線を、緑珠へと送る。


「……貴女に忠誠を誓っているから、です。」


「…………へ?」


やっぱり気付いてなかったのか、とイブキは前を見詰める。


「もし敬称を外すとなれば、花ノ宮公女はその人を『従者』と認めた事になる。……でもあの二人はまだ貴女に忠誠を誓ってるんですよ。だから敬称を外さないんです。全くもって疎ましい……。」


「まだ……あの二人は……私の事を……。」


ぴん、とイブキは緑珠の方を指さした。


「で、貴女はそれでまた暫く浮かれます。それが僕は気に食わないんですよ。あと倶利伽羅と同じ忠誠心を持っているのが虫酸が走るんです。お分かり?」


「お分かり、です……。」


「伊吹君、オブラート無しで言うと?」


「ブチコロシタイです。」


「こらこらイブキ。そんな事を言わないの。折角仲良くなれたのだからね?」


「……貴女がそう言うなら。」


「ねぇイブキー機嫌直してよー!」


ふふ、と緑珠は微笑んだ。


「私は貴方達を愛しては居ても、一番の従者は貴方なのだから。ね?」


「……さいですか。」


「もー……。」


俯いたイブキを見て、真理は緑珠の手を引いた。


「どうしたの?」


耳打ちして、その言葉を聞くと……。


「ふふ……可愛いものね。」


緑珠はぽん、とイブキの背中に乗っかった。


『大丈夫だよ。彼、恥ずかしがって俯いて照れてるだけだから。』


真理の言葉を反芻しながらぼおっとしていると、転送は起こった。









「あれ?」


「え?」


「ん?」


目の前は、一面の砂漠だった。少しベージュより薄い、汚れた肌色。


「……あれ?何でだろ。本邸に向けたんだけど……。」


首を傾げる三人の内の、一番頭が切れる者が、恐る恐る口を開いた。


「も、もしかして真理、力も人間に近しくなっているんじゃないでしょうか……。」


「……えぇ何それ。チョーウケるんですけど。」


「いや全くウケませんから!死活問題ですからー!」


「まぁまぁ落ち着きましょう、イブキ。羅針盤はある?地図は?」


緑珠に言われるがまま地図と羅針盤を取り出す。北に合わせて、


「……このまままーっっすぐ東に行ったら本邸ね。」


「聞きます。というか聞きたくないです。計算したくも無いですが、聞きます。」


右上に載っている縮尺の倍数を見ながら、イブキは恐る恐る問うた。


「……距離、どれくらいですか。」


「えーっとね……。」


手を定規にして測って掛け算をする。二万五千分の一の縮尺で、この長さだと……。


「…………世界って、広いわね。」


緑珠のその言葉で色々察する。そして色々諦めて、その場に座ると。


「よーっし!棒倒しゲームしましょ!」


「考えること放棄し過ぎじゃないですか?」


「良いよー!やろっか!」


「目の焦点合ってませんけど大丈夫ですか?」


近くにあった棒を差すと、手前に砂を引く。


「イブキ。とにかく此処はゲームをして、必死に現実から目を逸らすのよ。」


「其処に命賭けちゃ駄目です。」


「うわ僕負けた。」


「早くないかしら?」


負けたよー!うわぁぁぁー!と酷い断末魔を上げて転がっている真理を横目に、イブキは地図を見ていた。緑珠もその奇行に混じっている。


「……というか、緑珠様の言ったことが叶う力で本邸まで飛べないんですか?」


「あー?無茶苦茶言うわね……。」


じっ、と地図を見詰める。


「……飛べて此処から二百キロ前後かしらね。私の残りの霊力から考えて。とすると……。」


ぽつん、と小国が一つある。距離にして二百五十キロ。


「賭けるしか無いわ。全員、荷物持って。」


寝転がっていた真理が起き上がって、言われる前に緑珠の手を掴む。イブキも掴んだ。


「最悪四十キロは歩けば良いわね。行くわよ。掴まっててね。せーのっ!」


一瞬だけ目の前が真っ暗になって、緑珠は倒れた。


「……あれ?これ着いたんだよね?」


倒れた、というか。目の前の城壁に頭を打ち付けたというのか。


「あっ!緑珠様!大丈夫ですか!お気を確かに……!」


「い、いぶきっ……。」


ぎゅぅっ、と手を掴んで、一言。


「おなかしゅいたぁ……。」


「何者だ!」


間の抜けたへろへろの緑珠の後に、番兵の劈く声が響く。


「い、伊吹君……こうなったら、ありのままを伝えるしか……!」


こくん、と真理の提案に頷くと。


「あの、城壁にぶつかってお腹が空きました!」


真理は頭を抱えた。番兵はにっこりと笑うと、三人を連れて行った。









「いやぁ……ほんっとーに助かりました……。」


「え、あぁうん、それは良かった……。」


綺麗に正座しているイブキは、重ね重ね番兵に頭を下げる。ぱちぱち、と暖炉の炎が眩しい。こじんまりとしていて、人は泊まれそうだ。


「僕は正直伊吹君が突拍子もないこと言い出したから、とうとう頭がおかしくなったのかと……。」


「心外な。んな訳無いでしょう。」


きょろきょろと辺りを見回しながら真理は呟いた。


「あれ?緑珠は?」


「あの人は今食物庫です。」


ひらひら、と紙を懐から取り出してイブキは言った。


「もしもの事があれば、食物庫に投げてと……ん?」


「どしたの?」


よくよく見ると……というか、揺れる炎に当てると。『もしもの事があったら食物庫に投げてね』という言葉の後ろに、


「真理ー!捕まえて!あの人!捕まえて!」


「りょうっーかーい!」


慌てて番兵の部屋を飛び出すと、食物庫に二人は走る。『p.s. 変わりに食物庫の食べ物は全部食べます。安心して下さい』と書かれた手紙を持って。


「なんにも、あ、安心できないんですけど!」


走るのがまどろっこしくなったイブキは、思いっきり装飾を足蹴にして跳躍する。空いていた天窓に身を投げて。


「み、短い距離なら飛べた……!」


同時に真理も到着する。先に到着していたイブキは、空っぽになった樽を眺めていた。酒臭い。まさか……。


「ぜ、全部のんだんですか……?」


石で作られた食物庫を進むと、突き当たりにすやすやと眠っている緑珠が居る。二人を見詰めると、眠そうな目で。


「にゃーあ……。」


しん、と部屋に静寂が訪れた。


「い、伊吹君……?こ、こいつ……!」


鼻血を出しながら倒れているイブキに、真理は態とらしく言った。


「良い顔で死んでやがる……!」


「死んじゃう……緑珠様が『にゃあ』って言った……死んじゃう……むり……。」


「よし死んだなら僕が保護者」


ばっ、と起き上がって、緑珠に触れようとしている手を掴んで。


「退いて下さいお義父さん。」


「君に義父と呼ばれる筋合いは無いな。」


錠剤が近くに転がっているのを見て、イブキは緑珠の口を掴む。


良かった。まだ回っていないのを見ると飲んだのは口に含まれている数錠だけだ。


「はい、あーん……。」


ぬるぬるとした咥内を弄ると、紅い舌がイブキの手を這う。必死に関係ない事を思い浮かべながら、


「あー?何でまた錠剤なんか……ちょくちょく盗んでるのか……?この僕から?」


ころころと落とすと、足で踏みつぶす。それはただの粉になった。


「……買ってる。とか。」


「買ってるぅ?嘘でしょう?」


「考えられるのってそれくらいじゃない?」


イブキは近くにあった酒を掬って口に含むと、緑珠を見詰める。


「……うん。僕と真理以外の人間にあった形跡がありませんね。」


「えぇ、なにそれこわ……。」


「ん?あ、これはこの間の監禁の……。」


見事に口を滑らせたイブキは、真理ににっこりと微笑む。そして緑珠を抱えて、天窓から出ると。


「おい待てゴラお前何しれっと監禁してるんだよぉぉぉぉぉ!」


「してませぇぇぇぇぇぇん!僕は忠臣なので緑珠様に監禁したりとかその他諸々此処ではちょっと言えないこととかしてませぇぇぇぇぇぇん!」


「お巡りさんちょっとこっちに不審者居るんで捕まえて貰って良い!?」


「うるせぇ真理が不審者だよぉぉぉぉ!」


大人気ないことを叫びながら、イブキと真理は元の番兵の部屋に戻る。


「す、すみませ、あの、ほんと……。」


「いやあの、大丈夫……?」


肩で息をしているイブキに、番兵は声をかける。


「まて……まじでまて……おまえ……まてや……。」


「待てっていわれて……だれが、まつ、か……。」


「お前ら風呂は良いのか?」


色々断ち切った番兵に、イブキはきょとんと首を傾げる。


「……よ、良いのですか……?」


「あ?元より泊まっていっていいんだよ。つかそのつもりじゃなかったのか?」


「それを今から交渉する積りだったんだけどね……。」


部屋の隅っこの箱を指さして、番兵は言った。


「ん。それが綺麗な布団な。風呂は其処の突き当たり曲がったとこ。飯は適当に食え。」


「えーっと、そんなに良くして頂いて……。」


食物庫の食物ほぼ食い散らかしたのも同然なのに、という言葉を飲み込んで、イブキは吃る。


「良いってことよ。……つか、言ってなかったが。」


番兵は扉に手をかけながらに言うと。


「お前ら、『逮捕』って扱いだからな。」


「ですよねぇ……。」


鍵は投げられて床に落ちて、扉は閉まった。







次回予告クレッシェンド!

イブキと頭をぶつけたり逮捕されたり相変わらず身バレしたり今いる国の実情が分かったりと何か色々怪しいお話!

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