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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第ニ章 霊力大国 御稜威
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 6 第一の関門

御稜威帝国編、どきどきのスタートですね!え?公開は中旬頃じゃなかったのか?……早く書き終わったんですよ。面白い内容になっています。さぁ、是非是非読んでください!簡潔にこの物語を説明すると、国から追われた皇女様が守り人と吟遊詩人と一緒に建国を目指す物語です。

「此処が高天原たかまがはら……。」


「神々が御座すと謳われた、天上の楽園ですね。」


「ま、今此処にあるのは本当に原っぱだけどね。」


緑珠の前に開けたのは、岩だらけ毒草だらけの山岳地帯の名残を見せない、草原だった。


「馬がいるわね。乗りこなせるかしら!」


「顎の骨や累々割れても良いならどうぞ。」


「……遠慮しておくわ。」


「懸命だと思うよ、緑珠。」


辺りを見渡して緑珠は言った。


「此処、龍や肉食獣は居ないの?」


「言われてみれば……そうですね。」


「此処はね、もう帝国の領土だから……結界が張ってあってね。本当に少数の動物しか入れないんだよ。」


青い草の匂いが辺に歌う。じんわりと熱を感じながら、緑珠は歩みを進める。難しそうに顔を歪めている真理を見ながら。


「貴方、随分と苦しそうに話すのね?」


唸りながら真理は言った。


「うぅーん……此処は……この国は……出来れば来たくなかったんだけど、バレなかったら良いよね。うん、そうだよね。」


イブキが含みを持たせた言い方をする。


「もしかして……何かしちゃったとか、ですか?」


「そんな事ないよ。だけど……世界で一番嫌いな奴……いや、過保護なのかな。ウザイというか、なんと言うか。」


真理は、はぁ、と深いため息をついて言った。


「どーせ、もう僕が来てるのなんて知ってるんだろうね、あの人は。」












一行が国に着く、その少し前。


薄暗い、巨大な祭壇の前で黒髪の麗人は深緑の目を開く。


「葉月。」


「何でしょう、麗羅れいら様。」


葉月と呼ばれた銀髪の男性が、さっと麗羅と呼んだ女性の側に現れる。


「壺装束と市女笠を。あと、駕籠かごも用意して下さい。」


葉月は少しため息を付くと、 麗羅に問うた。


「はぁ……分かりました。が、何故なにゆえその様なものが必要なのです。来客の予定は」


「来客の予定があるのですよ。」


ゆらゆらと揺れる炎を麗羅は見つめる。葉月は麗羅を叱るように言った。


「……わたくしはそんな事は聞いておりませんが。」


「今言いました。ですから無理もないかと。」


やり場のない怒りを何とか沈めながら葉月は振り返らない麗羅に続ける。


「そういう事はさっさと仰って下さい!……にしても、何方がいらっしゃるのですか。」


豪奢な巫女装束を着ながら麗羅は立ち上がると、葉月の目を見据えて言った。


「……若草の衣を着た、神祇伯じんぎはくの若君と、私の手を煩わせる、莫迦な神様と…………余りに憐れで可哀想な、月の姫君ですよ。」


葉月が恐れおののく。


「月の姫君……とは、もしや、あのリョクシリア第一皇女の事ですか!」


「そうですよ。」


「し、しかし亡国の逃亡中の姫君を国に入れるなど……。」


葉月の横を黒髪を靡かせながら通り過ぎて、高い高い城から、遠くを見る。


「殺せと言わぬのですね。奪い癖のある貴方が。」


「……私も麗羅様と同じ意見です。可哀想な姫君だ。そんな人から何を奪えと?」


いつも通りの糸目に戻して、麗羅は葉月に振り返る。


「そうですね。貴方の言う通りだわ。……ですから、私は見たいのですよ。可哀想な姫君がどんな理由で、何故この国に来たのか。そして、今の姫君がどんな態度で人と接しているのか。……もしそれが、命を粗末に扱うものならば、私とて容赦は致しません。」


豊穣の緑の風が駆け抜けて、柔らかい光が起こる。


「さぁ、用意して下さい。あの月の姫君がどれ程の力量の持ち主か、我等が測ろうではありませんか。」








「この国の名産は上質な鉄、らしいですよ。」


イブキは広げた地図を見ながら言った。石造りの城門が目の前に見える。


「鉄ねぇ。鉱毒とかは起こらないの?」


真理が人差し指を立てて言った。


「ちゃんと管理してるからねぇ。そんな事は無いよ。こんな長閑な国じゃあちゃんと取れる資源が無いと、何も出来ないからね。鉱山が山ほどあるんだよね。この国は。」


「詳しいのね、真理。」


「まぁ、腐っても吟遊詩人だからね……あ、入国審査官に声かけてくるね!」


ぴゃーっと走り去っていく真理を、緑珠とイブキは追いかける。


「何気に、真理、って、足速いんですよね!」


「多分これ逃げ足よ!」


緑珠とイブキが話しているその先で、真理は入国審査官に声をかけた。


「済まないね。この国に入国したいのだけれど、出来るかな。」


それは三人の望まぬ答えを指し示す様に、城兵は表情を曇らせる。


「申し訳御座いません……今日は特別な用向きがあるらしく、政府から入国を禁じられているのです。」


追いついた緑珠が真理に声をかける。


「もしかして……入国出来ないの?」

「うん。残念だけど、そうみたい。」


軽く話を聞いていたイブキが、城兵に声をかける。


「明日なら入国出来るんですか?」


「そう、言うことになりますね。何せこんな事は初めてで……私共もよく分からないのです。」


緑珠はしょんぼりしながら言おうとした、その刹那。


「諦めるしか」

「お待ちなさい。」


壺装束を身に纏い、市女笠を目深に被った若い女性が、いつの間にか現れる。くるりと城兵が女性に振り向いた。


「どうなされましたか?旅のお方。」


何処となく雰囲気が和らぐ。女性が笑ったのが感じられた。


「その御三方は私の客なのです。どうか通して頂けませんでしょうか。」


その女性の一言を聞いて、緑珠は真理に言った。


「……真理はこの国に友達でも居るの?」


真理は眉間に皺を寄せた。


「いや、居ないよ。……でも、これに乗じて国に入れるかもしれない。此処は乗ってみよう。……でも、とんでもなく嫌な予感がする。」


緑珠が不思議そうに真理の顔を覗いているのを他所に、しかし、と城兵はまたも不景気な顔をして女性に言う。


「今日は本当に入国出来ないのです。此処はどうか、お引き取りを……。」


女性はそっと懐剣に描かれた紋を城兵に見せると、いきなり城兵は恐縮する。


「も、申し訳御座いませんっ!御三方、お通り下さいませっ!!ええもうそれは!堂々と!」


「態度が……変わった?」


イブキは不思議そうに城兵の態度に目を見張ると、先導して国へと入る。緑珠は前の女性に声をかけた。


「あの……有難う御座いました!この国は良い国ですね。とっても長閑で、人々も幸せそうで……戦も無いですし。」


くすくす、と女性が笑う声が聞こえる。


「それ程にまで気に入ってもらうなど、恐悦至極です。……やはり頑張って私の国を守って良かったものですね。」


緑珠はぽかんとして前の女性の言葉を聞く。


「国を……守った……私の……国を……って、まさか!」


市女笠を取って、黒髪が風に靡くのも厭わずに、女性は笑った。


「ええ、そのまさか、ですよ。月の姫君。月の神祇伯の若君。それと……。」


柔らかな雰囲気のまま、首を動かして真理を見る。


「莫迦な神様。私の手をどれだけ煩わせれば気が済むのです。」


「ひゅーひゅー。」


「吹けない笛などただのごみです。肥溜めに捨てますよ。」


「其処まで言わなくても……酷いなぁ、君は。」


緑珠は真理に恐る恐る問うた。

「ね、この方は、もしかして……。」


真理は肩を竦めて言う。


「そう、君のもしかして、だよ。この人は御稜威帝国が十一代皇帝 御手洗みたらい 麗羅れいら神巫女しんみこ女皇陛下だ。」


麗羅はにっこりと笑った。


「ご紹介に預かりました通り、我が名は麗羅。御稜威帝国にて女皇をやらせて頂いています。貴方達の到着は、随分と前から知っていたのですよ。」


「そ、それは何故でしょう?」


イブキは恐怖と疑問を織り交ぜて麗羅に問う。代わりに真理が答えた。


「この人は千里眼の持ち主だからねぇ。過去、未来、人の素性、何でも分かるのさ。」


態とらしく肩を竦めて麗羅は言った。


「本当に一神教の国は可哀想です。こんな莫迦な神様を信仰するなんて。私なら死んだ方がましかと……そう思います。」


「煩いよ。減らず口は相変わらずかい?」


「女皇ですから。口は達者な方が宜しいと。」


イブキは怪訝に二人に問う。

「御二方はお知り合いなのですか?」


にっこりと麗羅は笑う。


「えぇ。私は神がこの世に現れる時、その許可を下ろす役を担って居るのです。」


「待って。それ以上は」


真理の叫びを一瞥して麗羅は続ける。


「元々神々からの評判も良くなかった、この世を作った神様がこの世に転生を望んだのですよ。一応は許可を下ろしましたが……一つの条件を下ろしたのです。私が作った式神を、一ヶ月に一回、私の元に送ると。」


「きっと送らなかったのでしょうね。」


緑珠が麗羅の続きを言う。こくりと麗羅は頷いた。


「えぇ。その通りです。暫く千里眼を使って見ていたのですが、術が通り抜けて、今の今まで所在が分からなかったのです。」


話を切るのと同時に、向こうから男の声が聞こえる。


「れーいーらーさーまー!」


その声に麗羅は振り向く。銀髪の男を見ると、麗羅は笑った。


「おや、葉月ではありませんか。」


「何が『おや、葉月ではありませんか』、ですよ!探したんですからね……!」


「うふふ、ご苦労様です。」


「全く、貴女は……!」


二人のやり取りを見てイブキは呟いた。


「……僕、あの人と仲良く出来ると思います。」


「あー……そんな感じするね。」


葉月は真理の声を聞いて吐き捨てた。


「……何でお前が此処に居るんです?」


「…………益々仲良くなれる気がしてきました。」


「……あー……本当、そんな感じするね。」


葉月が真理に向き直る。


「大体、お前のせいで私がどれだけ苦労したと思っているんです。麗羅様は『真理を探す旅に出ます。探さないで下さい』なんて書き置き置いて鉱山に行ってたし!」


「あら、そんな事、ありましたっけ?」


葉月はのんびりとしている麗羅を睨む。


「……あのですねぇ。」


「はい、何でしょう、葉月。」


ふわふわとした雰囲気を醸し出しながら麗羅は葉月に聞き返す。


「……何でもないです。」


イブキは少し考えて言った。


「……まるで僕らの主従関係を鏡に写した様な感じですね。」


イブキの一言に緑珠が反応する。

「私、あんなに偉くないわよ?」


ちらりと一瞥して、イブキは軽く笑った。


「……ふふっ、そんな所が似てるなぁ、だなんて思ったりしました。」


麗羅がそんな二人を見て言った。


「それじゃあ、行きましょう。御用向きがあるのでしょう?」


「分かってるくせに。タチ悪いなぁ。」


「貴方の放浪癖に比べればなんのその、です。」


麗羅が思いついたように言う。


「そうだ。真理の瞬間移動の魔法で城に行きましょう。」


葉月が麗羅の思い付きを注意した。

「……駕籠で来たのをお忘れで?」


麗羅が口に手を当てて小さく声を上げた。

「……ぁっ……。」


「今完璧に忘れてましたよね?聞こえましたよ?『ぁっ』って。」


麗羅はにっこりと笑う。


「今のは葉月の記憶力を試したのよ。決して私が忘れていた訳じゃないのよ。」


はぁ、と葉月は眉間に手を抑えて気分を落ち着けると、三人に言った。


「申し訳御座いません……麗羅様は何時もこんな調子で……。」


「ちょっと葉月。それどう言う意味ですか。」


「どうもこうも無いですよ。事実を述べただけです。」


むう、と麗羅は葉月に膨れる。


「まぁ、葉月の事は後にして……さぁ、早く乗ってください。多分早く着きます。」


「何かおかしい枕詞が聞こえたね。」


麗羅は無視して、大きな駕籠に乗る。駕籠と言っても、宴を行う様な大きな部屋が、ふわふわと空中を浮いている物だ。


「わぁ……綺麗……。」


下を覗いている緑珠を見ながら麗羅は笑った。


「うふふ。貴女のお母様もそうやって下を覗いて同じ事を言っていました。懐かしいですね、葉月。」


「……恐れながら申し上げるに、私はまだ生まれておりません。」


少ししょんぼりしながら麗羅は言った。


「……そうね。もう二十二年前の話だものね。貴方の先代の時代でした……。」


「……二十二年?」

イブキが一生懸命、まるで子供のように小さく歓声を上げている緑珠を他所に、不思議そうに呟いた。真理がイブキに耳打ちする。


「あぁ……まぁびっくりするだろうね。この人、こう見えても軽く八百年生きてるから……。」


「……え。」


緑珠が戻って来て、麗羅に問う。


「おかあさ……我が母、ミナモをご存知なのですか?」


朗らかだった麗羅の表情がぴしりと氷の様に固まって、また融解する。


「……?……え、えぇ。存じ上げていますよ。」


どんな接点が、と緑珠が聞こうとした瞬間だった。強く駕籠が揺れる。ギャアギャアと鴉の様な生き物が鳴いている声がする。ただ、それにしてはもっと数が多い上、とてつもなく気色悪い。


「何事ですか。」


麗羅の厳しい冷たい一言に、葉月が答える。


「様子を見てきます。」


葉月が短く切って外を覗くと、直ぐに麗羅に伝えた。


「どうやら妖怪が結界を破って侵入して来た様です。雑魚どもでは無さそうです。如何なさいますか。」


真理は心配する様な声色で麗羅に言った。


「君、もしかして……。」


「言わぬが花の事も有るのですよ、真理。」


何処と無く悲しそうな顔をしながら、麗羅は言った。緑珠がイブキに指示する。


「イブキ、あの妖怪共、倒せるかしら。」


かなり申し訳無さそうにイブキは緑珠に言う。


「誠に申し訳御座いませんが……僕は矛しか使えないんです。弓は……ちょっと……怪我をした思い出しか無いので……。」


「意外ね。何でも出来る武人だと思ってたわ。」


「矛は何でも出来るんですけどね……本当に、弓は無理で……。」


緑珠は少し考えながら言った。


「……真理、イブキ。援護して頂戴。私がこの乗り物の屋根の一番上に行く間。その間だけ、援護して欲しいの。」


「お姫様の仰せのままに。その後も援護して上げてもいいけど、君の言う通りにしてみよう。」


「緑珠様の命なら、逆らう事は出来ませんよ。」


麗羅が優しく笑いながら、緑珠に言った。

「何とか出来そうですか?」


その笑みの真意を緑珠は汲み取ると、力強く言った。


「……!……はい。私達が絶対にこの妖怪共を追い払って見せます!」


「……うふふ、頼もしいですね。」


緑珠は浮いている大きな奥座敷の外へと出ると、屋根に登り始める。真理の結界が完了する。その頃、イブキはばっさりと敵を斬り去った。


「……ふう、案外飛び道具が無くても、勝てる物は勝てるのですねぇ……っと!」


「相変わらずだね、伊吹君。」


「相変わらずって何ですか、相変わらずって。」


イブキと真理は他愛のない会話をしている中で、緑珠は飾り刀を抜いて、己の前に構えた。


「……昔見た、あの言葉は、子供のようにながらに感動して……いや、そんな事は今言うべきでは無いわね。……叡智飛び交う天穹てんきゅうよ、全てを以て光と為せ。智慧ちえは人が望む至上の宝なり。故に、剣は知恵をもって凋落を示せ!『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ 全テハ知二アリ』!」


掲げた剣の切っ先から、風刃が溢れる。とんでもない風が舞い踊り、周りに居た妖怪共は、跡形も無くなった。緑珠はふらふらの足取りで部屋に戻る。


「妖怪は居なくなりましたか?」


「居なく、なりまし……た。」


その言葉を言い終わると同時に、ばたりと緑珠は倒れる。


「緑珠様!大丈夫ですか!」


イブキが倒れた緑珠に駆け寄る。緑珠は涙目になって言った。


「イブキ、ちゃんり……。」


「どうしました!?」


「……おなかすいたぁ……。」


その場に居た全員が、爆笑した事は言わずもがな分かるだろう。









「……当事者が居ない場ではありますが、ご要件を提言しに参りました。」


イブキと真理は大きな幹に作られた、巨大な神殿の玉座の間にて麗羅の前で座っていた。麗羅はぽん、と手を叩いた。


「それでは、あの姫君が来るまで皆でお話をしましょう!」


「あの、麗羅?」


麗羅は真理の言葉をガン無視してイブキに向き直った。


「それにしても、吃驚しました。まさか次男が家督を継ぐことになるなんて……光遷院家のそんな事態は、地上でも結構話題になったのですよ。」


イブキが完璧に提言する事を諦めて言った。


「兄も当然自分が継ぐものだと思っていたらしく、神器が持てないと知った時はかなりショックだったと聞きました。」


真理がイブキに尋ねる。


「ね、神器を持てないって、どんな感じなの?重すぎて持てないとか?」


イブキは何の感情を込めずに言葉を放つ。


「そのまんまですよ。『持てない』んです。重いとかでは無く、純粋に『持てない』。」


今いち理解が出来ない真理に、イブキは面倒くさそうに真理の前に『神鳳冷艶鋸』を置く。


「何の力も込めずに、ただの人間と化してこれを掴んで下さい。」


真理は言われるがままに掴もうとする、が。


「す、すり抜けるんだけど……!?」


いつも通りに直しながら、イブキは言った。


「現状でこれを持てるのは、どんな世界を探しても僕だけです。ぶっちゃけると僕の子供くらいしか持てないです。」


「そんなもんなの?神器なんて。」


真理のつまらなさそうな顔を見て、イブキは笑った。


「そんなもんですよ。」


麗羅は少し考え、笑いながら言った。


「それにしても、その神器は変わっていますよね。」


イブキが間の後答えた。


「……あぁ、名前の事ですか。それは僕も思っていました。」


真理も続く。


「言われてみれば……そうだね。朱雀の加護があるのに、名前は青龍を冠したものとなってる……奇妙だね。」


イブキが思い出しながら言った。


「確か……冷艶鋸はこの形の名前らしいです。その形の武器に、朱雀の力を宿したのだと。」


「ただ今帰ったわ!英雄の凱旋よ!」


王の間の扉を騒々しく開けて現れたのは、元気な緑珠だった。イブキが肩を竦めて言った。


「どれ程食べられたんですか?」


「ちょっとだけよ!」


真理が外で控えている侍女に尋ねた。


「それじゃあ君達に聞こう。彼女、どれだけ食べたの?」


とてつもなく申し訳そうな顔をして侍女は控えながら言った。


「……そ、それが、です。城の一年の食料備蓄の半分をもつ煮込みに費やしてしまいまして……。」


麗羅は酷く吃驚して、そして大笑いした。


「……ふふ、あはは、良く食べるのですね、緑珠は。」


初めて名前を呼ばれた緑珠は、何処か優しく答えた。一応恥ずかしながら。


「はは……私、少し体質が特異で、魔力半分霊力半分の身体なんです。だから能力もあるし、魔力も使える。いい身体なんですけど……代謝が悪くてですね……。」


「構わないのですよ。沢山食べるのは良い事です。」


さて、と麗羅は緑珠に向き直った。


「御用向きをお伺いしましょうか。」


緑珠は今までの態度を切って、麗羅をきつく見る。


「……私は国を創りたいのです。その為には、四大帝国の調印が必要だと聞きました。」


麗羅は糸目だった目を見開く。深緑の瞳が緑珠の内面を抉る。辺りの空気がきん、と冷えた。


「……緑珠。自分の言っている事が、良くわかって言っているのですか?」


負けず劣らず緑珠は答えた。


「はい。私は本気です。私は、どれだけの物が測れるのか、この目で、この手で確かめたいのです。」


いつも通りの糸目に戻して、麗羅は言った。


「その目は本気ですね。良いでしょう。私から言える事は何もありません。ですが、我が国は中立国。故に調印は不可能です。」


「ね、麗羅。其処をどうにか御願い出来ないかな?」


真理の提言を麗羅は笑って答えた。


「えぇ。勿論ですよ。私は緑珠が気に入りました。だって可愛いんですもの。 」


照れている緑珠を見ながら麗羅は言った。


「私に娘が居たら、こんな感じなのかなぁ……と。」


まぁでも、と麗羅は笑う。


「可愛い子には旅をさせよと言いますしね。……解決して欲しい事案があるのです。」


そう言って、女皇は冷徹な瞳を覗かせた。

御稜威帝国編、とうとう始まりましたね!さて、次回予告のお時間です。麗羅から出された調印の条件、『一つの難題』をクリアするべく、三人は奔走する!そして影はまたも忍び寄り……ラプラスの魔物 千年怪奇譚 7 10月中旬頃公開予定!

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