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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第八章 崩落虚栄日輪帝国 旧帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 112 千秋楽

珍しく緑珠様が自発的に起き上がってなんかしたり真理とお話したりイザナミちゃんを窘めたりするお話。(活動報告見てね!!!)

「……舞、しなきゃ。」


自発的に起き上がった緑珠は、そんな言葉を口にする。


何故か?特に理由は無い。そうしなければならないからだ。


扇は無いので刀を引きずり、適当に衣を見繕って、城下が見える庭に出る。


まだ早朝だ。地平線の向こう側で、太陽が少しだけ見えている。


「……裸足で来ちゃった。」


ぺたぺた、と崩れたタイルの上で踊る足。小砂が足を掴むが、それすらも心地好い。


さて、やらねば。そうだ、確か唄があって──。


渚乃砂なぎさのすな、さくさくとして、朝乃日あさのひの色をろうじ、瀧の水、玲々として 夜乃月よるのつきあざやかに浮かんだり。」


確か次がよく間違う足の動きだった。そう、こうやって、なるべく身体を動かさない様にして、回る。


「天下泰平、國土安穏、今日乃こんにちの御祈祷なり。」


あぁ、そうだ。踊る度に願ったのだ。遠い昔、この国を平和にすると誓って。


朝の空気を肺に溜めて、そして吐き出す。次の歌詞を言おうとして、背後から声がかかった。


「……千穐萬歳せんしゅうまんざいの、喜び乃舞なれば、一舞舞はう、萬歳樂まんざいらく。……でしたっけ?」


「あらイブキ。お早う。」


「御早う御座います。今日は随分と早起きですね。」


イブキの言葉に、緑珠はきょとんと首を傾げる。


「だって朝は……舞わなくちゃだめでしょ?」


それを聞いて、彼は神器を持ちながらくすくすと笑った。


「ふふふ、緑珠様。それは『昔』の習慣では?」


その『昔』が『皇女時代』である事を悟った緑珠は、今の今まで寝惚けていた事実に気付く。


「……うわぁ……やっちゃったわね。」


「まぁまぁ、良いではないですか。……萬歳楽は良い。」


頬に暑さが現れて、ふとその方向を見遣ると、大きな朝日が地平線を超えている。


「……天下泰平、国家安穏、ねぇ。」


刀を置いて朝日が照らす廃墟を見詰めると、バルコニーの手摺に手を置いて振り返った。


「ねぇ。ひとつ、ひとつね。思うの。」


「えぇ。何でしょう?」


廃墟の城下を見つめて、一言。


「……滅んだこの国が、こんなに天下泰平で、国家安穏だと思うのは、私だけ?」


沈黙が訪れて、風の音が耳を掠める。


「その問いに答えることは、僕には出来かねます。」


しかし、と言葉が続いて。


「少なくとも僕に言えるのは、貴女を苦しめる物は必要ないと言うことです。」


その答えを聞いてくるりと振り向くと、何時もの笑顔が目に入った。


「……貴方ならそう言うと思った。……そうだ。」


そわそわしながら緑珠は問う。


「これ、もしかしたらもうちょっと寝れる……?感じ……?なの……?」


「無理ですね。あと十分で何時もの時間です。」


「……うそん……。」


あからさまにしょげた緑珠に、イブキは宥めるように続ける。


「まぁまぁ。そんなに悲しまないで下さい。朝食はお好きな物を作りますから。」


「ほんと!?」


ばっ、と嬉しそうに顔を上げると、彼女は思案する。ふむ、スープを飲みたい所だが、フレンチトーストも食べたい……。迷う所だが、何でも作ると言うのなら……!


「パフェ!」


「駄目です。お昼抜きで良かったら作りますけど。」


夢いっぱいの提案をあっさり却下するイブキ。再考しなければならない。


「……うぅん……なら、パンケーキ!パンケーキなら作ってくれる?」


「作りましょう。出来たらお呼びしますよ。」


「うんうん!楽しみにしてるわね!」


イブキが去って行くのを足跡で感じながら、廃墟の街をぼおっと見詰める。


何一つとして動かない都市が、これほど生き物だったとは。都市は死んでこそ生き物なのか。それは少し、酷な事では無いのか?


「やぁ緑珠、御早う。良い朝だね。」


「あら真理。御早う。ふふ、良い朝ね。」


ぼんやりと街を見つめながら、緑珠はぽつりと呟いた。


「……貴方が『誰』かを、誰も聞かないのは、貴方が全知全能の神様だから?」


「そうだよ。僕の事は誰も知っていて、僕の名前は誰も知らないからね。」


緑珠に向けていた視線を、廃墟の街へと移す。


「昔はねぇ、良く名前を聞かれたんだ。『誰だ?』ってね。でも次第に……聞かれなくなって……。」


「寂しい?」


「かもね。でも数多の願いの中で埋もれる僕には、もうあんまり何も思わないかなぁ。」


「……そう。」


短く、そして寂しく告げた緑珠の一言に、彼はにこやかに笑った。


「君達が僕の名前を呼んでくれるから。名前を呼ばれるのって、こんなに愛おしい事なんだなって。久しぶりに思ったかもしれないなぁ。」


「……寂しいなら寂しいって。そう言えば良いのに。」


「何だかそうすると止まらなくてさぁ。『感情』についていけないんだよね。」


苦笑した緑珠に向けていた顔を、また廃墟の街に戻す。


「……でもま、悪くないかな。」


緑珠は覗き込んでいた顔を、同じように廃墟の街へと戻した。そして何処か嬉しげに、でも何処と無く寂しく。


「……そう。」


「朝ご飯出来ましたよーっ!」


イブキの呼びかける声が、二人の耳に届く。緑珠は真理に駆け寄って手を握ると、


「こうするとほら、暖かいでしょう?」


おやおや、これはこれは。昨日の『寒い』、がまだ、彼女の中では残っていたらしい。握り返してやると、嬉しそうに、子供っぽく微笑まれる。


「うん。凄く、凄く暖かいよ。」


慈愛、と自分で思えるような笑みを作ると、彼女は更に嬉しそうに笑う。そのまま手を引いて、彼女は朝の庭を駆け出した。










「うぅ……食べた食べた……。」


「お粗末様でした。」


軋む椅子に体重をかけると、さらに軋む音が部屋に響く。何時もの旅装束に着替えた緑珠は席を立った。


「さぁて、そろそろ行きますか。」


【妖獣探しをするのね?】


「あら、イザナミちゃん。」


てくてくと廊下を歩いて行く緑珠の周りを、ふわふわと浮いている。


「イブキとか真理は支度がまだだし、先に外に出てようって思って!」


【良いじゃない。少し此処を探索】


と、言い切らないうちに。黒い影が目の前の風を斬り刻む。


「きゃぁっ!」


【のわっ……あ、アレが妖獣ね……!】


「緑珠李雅様!」


冷泉帝と花ノ宮が、尻餅を着いた緑珠の傍に駆け寄る。しかし、即座に紫の着物を着ているもう一人の彼女へと視線が映った。


「ん……?え……?」


「こ、これは一体、どういう事なんでしょうかねぇ……。」


「緑珠様!」


バンッ!とイブキと真理が扉を大きく開ける音がする。緑珠はその音にびっくりしてまた転けた。


「大丈夫ですか!?」


「うん、うん、大丈夫だから……って、イザナミちゃん?」


【……今は捕まえる事は無理そうね。機嫌が悪いから。】


時空の裂け目からあの蛇の鍵を抜き出すと、背後に大扉が現れる。


ふわり、と花びら近くの大きさをもった水晶を飛ばすと、それは妖獣の周りで円を描いた。


【……固有神霊究極魔法 『常世国とこよのくにノ絶対王政』とす。我は常世の神。開門せよ。『罪業ざいごう大禍扉おおまがとびら』……!】


即座に扉が開いて、黒々とした何かが、妖獣目がけて飛んでいく。ある程度が飛び切った時、イザナミちゃんは扉を閉めた。


黒々とした何かが、妖獣を丸く取り囲んでいる。ぴたりと妖獣は動かない。


【閉門成功っと。これであの妖獣は逃げないわよ。ま、持って三日くらいかしらね……。】


「ええっと……話の流れが、よく分からないのですが……貴女は……。」


冷泉帝の疑問を遮って、びしっ、とイザナミちゃんは指を指す。


【というかアンタ霊術使えるんだったら、水晶使って捕まえるくらい考えなさいよね。能無しなの?】


「……言葉も、ありません……。」


歯痒そうに口を噤んだ冷泉帝に、イブキが発破をかける。


「やーい能無し能無し!」


「アンタはちょっと黙ってなさい。」


「あだっ……。」


ぽかんっ、と緑珠に頭を叩かれて、イブキは小さく悲鳴を上げた。


「イザナミちゃん、人が出来ることと神様が出来ることは違うのよ。そういう事言っちゃダメ。」


【はー?でも能無しなのは能無しでしょ?】


「能無しでも何でも、彼は最善を尽くしてくれたの。努力を馬鹿にするようなこと言っちゃダメよ。」


【……納得いかないわ。】


「納得して頂戴な、ね?」


緑珠の宥和に、イザナミちゃんは口を尖らせる。


「あぁ、で。冷泉帝。話から察してくれた様に、この子は伊邪那美命いざなみのみこと。何やかんやで私に憑いてるわ。」


「えぇ、あぁ、そう……ですか、話が大きすぎて、良く飲み込めないのですが……。」


と言うかそもそも、と冷泉帝は恐る恐るイザナミちゃんに問いかける。


「……貴女、癇癪持ちじゃなかったんですか……?」


「何ですか冷泉帝。それそんなに有名な話だったんですか。」


「えぇいや、知らない方が変だと思うんですけどねぇ……。」


「知らないとは言ってません。」


一触即発の二人の会話の後に、イザナミちゃんはおずおずと口を開く。


【……緑珠に憑いてたのが私の良心だったのよ。死んだ後、心が荒んでいく内に良心だけが乖離して、緑珠に憑いてたってワケ。大したことないでしょ。】


イザナミちゃんは適当に会話を切り上げると、空中に浮かんでいる黒い塊を指さす。


【それよりもアレ!三日くらいしか持たないわよ。あと、あの結界が外れてからどうなるかなんて、私には分からないんだからね!】


「そんな無責任な……。」


イブキの冷淡とも理解出来る一言を放つと、苛つきながらイザナミちゃんは返した。


【仕方ないじゃない!あぁするしか無かったんだもの!】


「でもでも!三日、三日有れば。良いんですよね?」


険悪なムードを、花ノ宮は無意識下の笑顔一つで消し去る。


「なら皆で頑張りましょう!ね?」


こういう所は自分が上手く治めなくてはならないのに。緑珠は言葉を飲み込んで、花ノ宮へと便乗した。


「……そうね。三日、三日あるのだもの。時間は沢山あるわ。皆で協力しましょうね。」


「そうですね。貴女がそう言うのなら。」


上手く笑みを作って、人を誘う。慣れたことだ。大丈夫、上手く息を吸って……。


「それじゃあ昨日の通りに続けましょうか。それで構わない?」


「私達には何も異論はありませんねぇ。」


「えぇ、僕にも。」


「真理は?」


冷泉帝とイブキの同意は得られたものの、真理は先程からずっと黒い塊を見つめている。


「……あぁ、ごめん。聞いてなかった。何の話だい?」


「昨日の通りに作業するって話よ。……それとも、あの黒い塊に、何か……。」


「気にしないで。」


それは、有無を言わさぬ声音だった。別にきつい訳でも、宥めるような言い方だった訳でもない。ただそれ以上、『言うな』と。


「僕は此処でアレを見てる。行ってきなよ。」


「……分かった。それじゃあ、行くわね。」


「うん。行っておいで。」


真理の気がかりな言葉を残しつつも、四人はその場を去った。







次回予告フォルテッシモ〜♪

真理が妙なものを見たり緑珠様がパニクったりするのを窘めたり色々シリアス展開が炸裂する甘酸っぱいお話。(活動報告見てね!!!!!)


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