ラプラスの魔物 千年怪奇譚 108 演技の皇女
何だか最近テンションが変だって?そんな事ないよ☆それじゃあ次回予告☆花ノ宮公女の指摘にグッサリきたり相変わらず喧嘩したりする話☆
「子供からの指摘って、刺さるって、聞い、た、けど……。」
「こう……神経に来るものがありますね……。」
「分かりますそれ……。」
何とか三人はふらふらと立ち上がる。だが、かなり疲労困憊と言った様子だ。
「何処かの世界の演説じゃ、時間過ぎたら『面白くない』って幼女が指摘にしてくるからね……。」
「うわぁ……何その終わらせ方……死んでしまうわ……。」
「そうだ!倶利伽羅殿!」
緑珠の話の腰を折って、花ノ宮は側近へと問うた。
「件の妖怪は見つかったのですか?」
「いえ……。見つけようとしたら、脳筋に会っ」
「黙れキメラ。」
お互い首根っこを掴んで一触即発の状態になっている男共を置いて、緑珠は花ノ宮へと尋ねた。
「倶利伽羅『殿』?もう別に呼び捨てしても良いのではなくて?」
「あー、まぁ、そうなのですが……。」
イブキが冷泉帝の首根っこを適当に話すと、彼と花ノ宮は一瞬だけ目を合わせて微笑む。
「まぁ、何となくです。」
「其処の野郎なら分かる気もしますがねぇ。」
「黙れ倶利伽羅。……全く、反吐が出る。」
はぁ、とイブキは深いため息をついた。緑珠はきょとんと首を傾げたままだ。
「なぁに、イブキ?貴方は分かるの?」
「分かりますよ。虫酸が走りますけど。」
「どういう事なの?」
「言いたくないので言いません。」
「なーんーでーいっーてくーれーなーいのー!」
「間がおかしいです。」
くすくすと眺めていた真理が耐え切れなさそうに笑った。
「ふふふ。君達兄弟みたいだね。」
四人は顔を見合わせた。そして、一言。
「「「「…………まぁ。」」」」
真理はすっかり面食らってしまった。絶対に武器が飛んで来ると思っていたのに。
「……おやまぁ、これはこれは……。」
それだけしか言えなくなった真理を他所に話は進んでいく。
「見つかっていないのですね。参りましたね、早く本国に戻りたいのに……。」
「というか、王と宰相がこんな所に居ていいんですか……。」
イブキの疑問に、冷泉帝は平然として答えた。
「幻術ですよ。主な仕事は夜帰ってやってます。」
「わぁ予想外にまともな答えですね。」
「棒読みが甚だしいですねぇ。」
「だって貴様に込める感情なんて無いですもの。」
また殺し合う二人を放って、緑珠は屈んだ。
「花ノ宮公女はそれを探しに来たのね。」
「はい。何か危険な妖怪ですと、我が国にも影響を及ぼすかもしれませんので……。」
「ならその妖怪探し、私も協力するわ。良いわね?イブキ。真理。」
「僕は構わないけど……。あの二人は……。」
ほんの数分目を離しただけなのに、もう二人は血塗れだ。何をどうしたらそうなる。
「てめぇ……!いい加減死ね……!∞回死ね……!めっちゃ死ね……!」
「黙れキメラ……!お前こそ死ねよ……!四肢を爆散させてしまえ……!もぐぞてめぇ……!」
「あらー……あらー……。」
「それしか言えませんよね。分かります、緑珠様。」
緑珠は半ば放心状態になりつつも、二人に近付いて血を拭う。
「もうよしなさいな、二人とも。こんな血だらけになって……。」
「違います!これはケチャップです!」
「何処から出てきたのよ。」
「私はトマトジュースですね!」
「あんたら阿呆なの?」
拭いながら意味の分からない事を言う二人に、呆れっぱなしの緑珠。
「因みにケチャップ持って……も、漏れてる、だと……!?」
「トマトジュースの瓶割れてたんですけど……。」
「でしょうね。もう一回言うわよ。あんたら阿呆なの?」
ぴしゃりと言い放つ彼女を、真理は苦々しく見ていた。
「うわぁ……大変そう……。」
「大変だと思いますよ。狂犬二匹の手綱を握りつつ言う事をあんまり聞かない二匹くらいの天然犬飼ってるようなものだと思います。」
「分かり易い喩えを有難う……。」
花ノ宮の一通りの解説が終わると、同タイミングで緑珠が座り込む。
「っ……ぐすっ、な、何でそんな喧嘩ばっかりするのよぉ……。」
「あ。緑珠様が泣いた。」
「止めなくて良いの?」
真理の問いかけに、花ノ宮は冷静に答える。
「大丈夫ですよ。私達は主バカな所があるので……。」
どうせ喧嘩が止まるぐらいだろう、と思っていた真理に、花ノ宮は呟いた。
「あの若干大人約二名がとても狼狽え始めます。」
「狼狽え始めんの!?」
その言葉の通りに、イブキと冷泉帝は狼狽え始めた。何かしょんぼりしている主に集る、犬の構図が目に浮かぶ。
「あ、あぁ、緑珠様、ごめんなさい、泣かないで、泣かないで下さい。」
「そうですよ、泣かないで下さい。ほ、ほら、真珠麿とかありますよ、食べます?」
「餌付け方式なのか……。」
妙に説得力がある様な無い様な、そんな方法で緑珠は泣き止む。ゆるりと泣き腫らした目を上げて、二人へと言った。
「ほんと……?ふたりとも、喧嘩しない?」
「しないです。しません……。」
イブキの答えを聞いて、緑珠はゆるゆると立ち上がる。
「ん……そっか、喧嘩しちゃ、ダメよ?」
「しません……申し訳ありませんでした……。」
冷泉帝の頭をぽんぽん、と笑顔で撫でると、真理と花ノ宮の肩に手を置いて、真顔になって一言。
「ずびっ……ほら行くわよ、二人とも。」
「緑珠ってオンオフ激しいよね。」
「何言ってんの。皇女時代に演技と始末書と胃痛でやり切ってきたのよ。」
「後半二つはどうなんでしょう……。」
そうだ、と緑珠はイブキに振り返って言った。
「あのね。妖怪探しに協力する事にしたのだけれど。異議はある?」
「無いです。貴女の仰せのままに。」
それを聞いて安堵の笑顔を零すと、花ノ宮に妖怪の詳細を尋ねる。
「ねぇ公女。その妖怪っていうのは、どんな妖怪なの?」
「狼の様な体躯で、黒っぽい大きな獣だそうです。爪も牙も長く、何せ足が早いですから、捕まえるのに苦労して……。」
「それは大変そうねぇ……。」
三人が前を歩いているのを横目に、冷泉帝は身体に刺さった匕首を抜いて、イブキに差し出した。
「……ほら。返しておきます。」
「随分と丈夫になったものですね。それだけ血を出しておいて、貧血にもならぬとは。」
「不老不死に、なったんです。」
冷泉帝の言葉にイブキは眉間に皺を寄せる。
「……それ、どういう意味ですか?」
「言葉のままですよ。花ノ宮公女も。」
「利益なんぞ無いでしょうに。永遠にあの国を治め続けるなんて言い出しませんよね?」
「言い出しますよ。」
あからさまに嫌悪感を剥き出しにして、イブキは吐き捨てる様に言った。
「……物好きな。」
「永遠に死に続ける貴方々と、何ら変わらないではありませんか。ねぇ?」
「否定はしません。しませんが……。」
考えが及ばない。理由が回らないのだ。
「死んで私達の願いは叶えられないというのであれば、それならば、私達は永遠に生き続けます。」
「……ふふ。あの御方の傍に居るのは『僕だけ』で充分ですからね。」
「はっ……相変わらず独占欲の強い脳筋ですねぇ。」
売り言葉に買い言葉。イブキは吐き捨てる様に言った。
「黙って下さい成り損ないの生命体が。……まぁ、何とでも言うが良いです。僕はそれを嗤って差し上げます。」
「性格が悪いゴミですねぇ。」
「羨ましいのならそう言えば良いのに。」
冷泉帝の蔑みを、彼は鼻で笑う。
「じゃあ言いますよ緑珠様のお傍に入れて羨ましいですね!」
「でしょうでしょう?」
にこにこ、と子供の様にイブキは微笑む。冷泉帝は呆れた風に呟いた。
「なぁんでこんな奴が選ばれたのか……。」
「甘いんですよ。其処が。」
「……はぁ。またアレですか。」
どうせ人につけ入る謎理論が始まるのだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。確固たる自信がある様だ。
「でも僕は……きっと緑珠様が悲しんでいる事に漬け込まなくても、選ばれていたと思いますよ。」
「はー。その自信は何処から来るのか。というか、そのやり方で貴方学生時代普通に周りの何人か居なくなってましたよね……!?」
「違います違います。あれは光遷院の回し者のせいです。あと僕、」
しらっじらしい笑顔をイブキはすると、耳を指で抑えている。
「都合の悪い事は聞こえない耳してるので。」
「死ね。……ま、そういう事にしておいてあげますねぇ。」
「そういう事も何も、事実ですから!」
にこっ、と微笑んだ後に、這いずる欲望が顔を出す。
「……まぁ、他の選択対象なんて僕が消します。是が非でも僕は、あの人のお傍に居る。えぇ、きっと。」
「えらくきついですねぇ。それ程まで、ですか。私も否定出来た口ではありませんが。」
「…………だって、狡いでしょう。何でまた僕だけが無いんですか。何で、何でまた、僕だけ、が……。」
がり、と爪を噛む音を断ち切るかのように、緑珠の声が響いた。
「イブキ!」
「はい、何でしょうか?」
「知ってるー?王宮には幽霊が出るのよー!」
幽霊のポーズをした緑珠に、真理は尋ねた。
「どんな幽霊なんだい?」
「……えぇっと。こ、怖い、怨念を持った幽霊よ?」
おっと。情報は少ないらしい。花ノ宮が若干揶揄う声音で問うた。
「男の幽霊なんですか?」
「……そうなんじゃないかしら。」
それにイブキも興じる。
「生前、どんな事をしたんでしょうかね?」
「きっ、きっと、言うもおぞましい悪い事を……ええっと……。」
「王様だったんでしょうかねぇ?」
「そうなんじゃないかしら……。」
段々収集がつかなくなってきた。答えられなくなった緑珠は、廃墟の中で叫んだ。
「と、とにかく!王宮には幽霊が出るの!決定事項なの!出るったら出るの!怖いの!」
あ。と緑珠は慌てて口を塞ぐ。自分の気持ちが漏れてしまった。
「……そうなの。怖いの。お化け屋敷とか無理な人なのよ……花ノ宮公女は怖くないの?」
一番年下の公女に問いかけると、彼女は少し笑って。
「幽霊よりも、自分の持っている社会的地位が揺らぐ方が怖いです。」
「やだ……何でそんなのが怖いの……幽霊怖いって言って……。」
へなへなとしゃがみ込んだ緑珠に、花ノ宮は慰めるように言った。
「でも、確かに暗い場所は怖いですね。夜中、御手洗に行けませんし。私。」
「よねよね!夜寝る前に怖い話なんてされると行けなくて……人が居ないと怖くて……。」
「緑珠は時折幼女だね……。」
花ノ宮の返答を聞いて顔を上げた緑珠に、不穏な声が降っかかる。
「……へぇ。それは良い事を聞きました。これからはずっと僕が怖い話をして差し上げますね。」
「あ、あなた、夜にまで会いたいからって、そんな事を……。」
「寝る前は紅茶を飲みましょうか。」
イブキの返答に緑珠はたじろぐ。
「夜起こされる気満々じゃない……。」
「中々に鬼畜な事をしますねぇ。後足を踏むな。」
「済みません踏まれたげだったので。あと僕の脛蹴るのやめてもらって良いか。」
「踏まれたげだったのでねぇ。」
その言葉でまた戦争に勃発した男共二人を差し置いて、彼女は適当な言葉を投げた。
「……あーあ、また戦争になっちゃったわね……ほらもうおよしなさい。とにかく城の中に入るわよ。」
「……ねぇ緑珠。城の中って、魔法が使えないみたいだね……?」
早速城に入った真理が、手を手で握りながら呟く。
「えぇ、そうなの。よっぽどのことがない限り使えないのよ。王に謀反を働かない為ね。治癒魔法とかは、使えるのだけれど……。」
緑珠の言葉の後に五人は、廃墟の城に足を踏み入れた。
次回予告♡
今度は♡にしてみたよ♡それじゃあ次回予告♡
何で♡にしたかって言うと♡次回が全然そんな話じゃない緩衝材です。次話は部屋を暗くして、夜寝る前にお読み下さい。