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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第一章 完全脱国 旧帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 5 後編の後編

モアは声高々に笑った。


「あははっ!はははっ!そうだろうな!緑珠も伊吹も『分かる奴』だ!そういうのが、分かる人間。本当は真理、お前緑珠の事を遊び道具か何かだと思って創ったんだろ?」


真理は不機嫌そうにモアを眺める。


「まぁ、それが誤算だったよ。大誤算だ。暇だからと言って、人間で遊ばないことだな。良いか。お前の予想以上に、人間ってのは莫迦じゃない。自分の気持ちで動いて、考えて、生み出すことをやめない。歩みを止めない。それが仇となる事もある。それを振り返ってまた歩む。絶対に、止まらない。」


真理はモアに言った。


「……君、何者なの?いや……君達、と言った方が良いか。緑珠も伊吹君もモアも、どうして僕の正体がすぐ分かる?」


モアは来るりと振り返った。目の奥には太陽が燃え盛っている。


「『自分』の中で飼っている獣を何であるか知っていて、それを使える人間ならば、物の本質を見極めるなど容易い事さ。少なくとも私はね。」


ぱちりとモアはウインクした。真理は口を尖らせる。


「うぅ……人間は怖いよ……。」

「そうかもしれないな。」


だけど、とモアは真理に言った。


「さぁ早く寝た方が良い。寝不足なのがあの過保護の守り人に知られたらどうする?」


「明日二人でお説教を受けて、僕は亡き者にされて、緑珠は監禁コースかな。」


「其処まで解っているなら早くしろ。寝た方が」


「寝た方が、何ですって?」


今、一番聞きたくない、イブキの声が響く。


「お、鬼が出た!」


真理は緑珠を抱えながら叫んだ。


「鬼では無いです。」


「だから鬼の居ぬ間に洗濯と言ったのに……。」


モアは軽く眉間を抑える。


「……皆さんお揃いでこんな所で何をしていたんですか。お陰で声が響いて寝れるものも寝れないです。」


真理がモアを見てため息を付く。


「人間の鋭敏さと、鈍感さについて話してたところだよ。……と言うか君、結構神経質な方なんだね。」


欠伸をしてイブキは言った。


「神経質……では無いですね。もしまた襲撃があったらと思い、それで気を張っていると言った方が正しいかと。」


それよりも、とイブキは真理を睨んだ。


「その腕の中に居る緑珠様をさっさと僕に渡して下さい。」


「え、あ。はい。どうぞ。」


真理は一瞬拍子抜けして、緑珠を渡そうとするも、


「ちゃんりぃ……んん……はなさないで……。」


緑珠はまるで赤子の様にぎゅっと真理の服の裾を掴む。


「あっ、ごっめーん☆渡すの無理そうだね☆」


真理はイブキをおちょくる。


「そうですか。成程、良くわかりました。とても理解しました。」


鬼の形相で真理を睨む。


「顔が全く理解出来てないぞ、伊吹。」


イブキはにっこりと笑いながら言った。


「真理の腕を切り落とせば良いんですね。」


「何でそうなるの?」


「大丈夫ですよ。足の切断、関節外し、何でもできます。人を動けなくする為の物は、ね。」


「その明らかにやばそうなラインナップは何?」


取り敢えず、と真理はぎゅうっと抱き着いている緑珠を抱えながら言った。


「僕が運ぶから。」

「解せないです。とてつもなく。」


とてつもなくどうでもいい口論をしている二人の間に、モアが割って入る。


「おいお前ら。私がこの場で全員手刀で無理やり寝かすって言うのはどうだ?当たりどころが悪かったら永遠に眠れるぞ?」


「そうですよ、真理。早く寝なくては駄目です。明日も早いんですから。」


「言われてるのは君だからね?理解してる?……って、あれ、もう居ない。」


真理が振り向くともう其処にはイブキは居なかった。


「彼奴、逃げるの早いなぁ……さぁ、早く寝ようか。」


「そう、だね。」


暖かい風が、真理の頬を撫でた。











「爆睡出来たのよ!助かったわ、モア!」


「本当か……?」


「本当よ?」


緑珠は腕を組んでモアに鼻高々に言った。くるりとイブキの方へ向く。


「貴方は良く寝れた?傷はどうなの?」


「ええ。随分とマシにはなりました。痛みはかなり引きましたから。」


「それは良かったわ!」


緑珠は真理に元気良く言った。


「あのね真理、聞いて頂戴な!」


「……どうしたの?」


軽く不眠気味な真理が元気を取り繕って緑珠に尋ねる。


「あのね、昨日ね、真理の夢を見たのよ!……何故か腕が切断されていたけれど。」


それを聞いたイブキがニヤリと笑って真理にピースサインをする。


「びっくりしたわよ。とっても綺麗に斬ってあったのだもの。」


「それって……昨日の……あの、話が。」


「へ?」


「あぁ、いや、何でも、無い。」


緑珠は不思議に真理を眺める。しかし、緑珠が続きを話すことによって事は大きく変わる。


「だけれどね、変だったのよ。完全犯罪だったの。犯人が誰かも分からないのよ。確か……あのマグノーリエの家で起こった事件だったのだけれど、全員にアリバイがあって、誰でもなかったの。」


その一言に腕を組んでいたイブキはひくっ、と体を揺らした。


「どうしたの?イブキ。」


「い、いえ。何でもありませんよ、緑珠様。」


「あら、そう?」


緑珠はイブキからモアへと視線を動かすと、丁寧に礼をした。


「助かったわ、モア。襲撃されたり、色々お世話になりました。また会いましょうね。」


モアも緑珠に笑って言った。


「あぁ。なぁ緑珠、旅をしてるって事は北の武帝が治める大国にも行くわけだよな。」


「えぇ。そう、なるわね。それがどうしたの?」


自信満々にモアは笑った。


「なら、私達も連れて行ってくれ。彼処に至るまでの道は戦争地帯だ。其処の守り人もかなり腕が立つが……。」


モアはイブキへと視線を動かして、イブキは微笑んで何も言わず礼をする。


「流石に一人だけじゃ危ない。私達だって参加するよ。何時でも呼んでくれ。」


「ええ、そうするわ。」


それじゃあ、と満面の笑みで緑珠はモアに言った。


「暫しの別れよ!絶対にまた会いましょう。」


三人はモアの所から離れると、緑珠は駆け出した。


「全く、凄いわねぇ……あんなに若いのに、もう人を纏める力があるのだわ。」


イブキは緑珠に言った。


「僕は緑珠様の方が凄いと思いますよ。」


「あ、伊吹君のスキル『過保護』発動したー!」


「煩いですよ、真理。」


くすくすと緑珠は笑って辺りを駆け巡る。それにしても、と真理はイブキに言った。


「全く、とんでもない夢を見たんだね。緑珠は。」


「完全犯罪と聞いた時には背筋が冷えました……。」


「似たような事、したの?」


イブキは清々しく笑った。

「似たような事、合法でしました。」


崖と平野が合わさる所で、緑珠は叫ぶ。


「イーブーキー!ちゃーんーりー!ほら、御稜威みいつ帝国のシンボルマークの巨木が見えて来たわよー!」


手をぶんぶん振っている緑珠を見ながら、真理は言った。


「そんな君の本質を見破るのだから、あの女帝陛下はとんだ慧眼の持ち主だね。」


イブキは緑珠へと近寄りながら言った。


「そうですね、とんだ、素晴らしい慧眼の女帝陛下です。」


くるりと緑珠は真理を見る。


「さ、早く行きましょう?」


「はいはい。勿論だよ。」


第一の神々の国が、彼等を待つ。

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