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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第七章 究極灼熱光明神殿 ギムレー
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 99 神殿戦争

とうとうミルゼンクリアの居城に乗り込んだ緑珠一行!決戦が始まるが、しかし……!?目が離せない千年怪奇譚を刮目せよ!

即座にミルゼンクリアの背後から波動弾が炸裂する。


「『境界結界』!」


真理の言葉が意思を持って、ミルゼンクリアの波動弾を打ち負かす。銀髪が靡いた。


「何で真理、貴方……。」


「僕にも何で『ラプラスの魔物』の姿で僕の意思が残っているか分からない!」


「緑珠様!前見て!」


イブキの一言に緑珠の視線は前に戻る。また波動弾が来る。目の前に居る、そのふんぞり返って座っているのが気に食わない!


間を縫って緑珠は走る。あぁ、足が燃えそうだ。焦げそうだ。熱い、熱いが!


「はぁぁぁぁぁっ!」


地の底から出でる様な声で、思いっ切り緑珠はミルゼンクリアへと振り被った。


大丈夫。そういう余裕腐った顔を壊すのは得意なのだ。


そのままついでにミルゼンクリアの顔を蹴ると、緑珠は後ろに着地する。


ほら、やっぱり波動弾を両脇から出した。そんな事を読めない程バカじゃない。


着地した勢いで刀を横に引く。首を切り刻む様に。だが、うなじに赤い筋が入っただけだ。


「っ……!」


「あはは!人間舐めるもんじゃないわよ!」


片割れの神は、追い詰められた緑珠に波動弾を浴びせようとするが、イブキもほんの少しの間を縫ってミルゼンクリアの足元を切り込む。


「……成程。少し吾は貴方々を舐めていた様です。」


浮いていた緑珠の足を掴むと、イブキ目掛けて投げる。当たった壁にヒビが入る。


「神相手に、あまり調子にのってはいけませんよ。」


「ったぁ……イブキ、ごめん。大丈夫?」


「肋骨が……。まぁ良いです。」


緑珠は瓦礫から退く。やっと玉座から立ったのか。遅いぞ。という視線を彼女は向けた。


「はっ……ははっ、やっとこんなので立つって、神様も大したことないわね。」


「大丈夫?ミルゼンクリア?腰でも痛かったの?」


真理のその言葉に、また波動弾が増える。今度は避けれ無さそうだ。


「任せて。『境界結界』。」


言葉の声色に、明らかに彼女が嗤ったのが分かる。


「お前の力で吾が止められると本気で思っているのですか?」


緑珠が逃げるよりも早く、波動弾が浴びせられる。早い。早すぎる。ぎゅっ、と目を瞑った時だった。


「っ……緑珠、様……。」


ぽたぽた、と緑珠の手に何か暖かい物が落ちる。暖かい、人の血肉だ。


「……い、伊吹……。」


「気にしないで下さい。僕は貴女の守り人であり従者です。お怪我の方は。」


イブキはきっ、とミルゼンクリアを見詰めたまま、口早に緑珠へと問うた。


「……無い、わ。……有難う。」


硬直してしまっている緑珠に、イブキは微笑む。


「……なら、良かった。貴女に怪我が無ければ、それで良い。」


で、とイブキは真理へとじっとりと視線を移す。


「上手く壁にめり込んでますね。痛くなかったですか?」


「君の押した時の衝撃に比べりゃまだまだ。」


緑珠は炸裂する瞬間にイブキが真理を投げ飛ばしたのだと、そう理解した。


ミルゼンクリアは元に戻った無感情な言葉で、三人に告げる。


「美しい仲間愛ですね。そんな事が分かるようになるとは、吾はとても嬉しいですよ。」


真理へと視線を移して。


「『ラプラスの魔物』よ。」


「えへへ、そりゃどーも。女の子に怒り顔は似合わないぜ?」


「茶化しているのですか?」


「ううん。話しかけてるだけ。」


真理の返答に首をかしげながら、ミルゼンクリアはまた何かを繰り出す。


「成程。貴方々はそれ程までに弱かったのですね。ならば、こんなに本気を出さなくて良かった。」


また波動弾が見える。


「緑珠様。僕の腕を掴んで下さい。」


「え?……でも、真理が?」


口早に耳打ちしたイブキの言葉の後に真理を見ると、壁にめり込んだままニッ、と嗤う真理の顔が見える。


「良いですか。絶対に離してはなりませんよ。」


「わ、わかったわ……!」


少しだけ重い身体を引き摺りながら、緑珠はイブキの手を掴む。


世界を切り裂く閃光が煌めいた瞬間、彼女はイブキと共にギムレーの天井付近に居た。


そして、真理の声が響く。


「『境界弾幕』。」


先程まで緑珠達が居た場所は結界で区切られ、その中は全て弾幕で彩られる。だが、


やわやわい。」


イブキの跳躍が終わった頃には、その視線の先には、傷一つも無いミルゼンクリアが居た。少しだけ力を使って対抗したことは分かる。


「蓬莱緑珠。答えなさい。吾は貴女に聞きたいことがある。」


「……何かしら。答えられる範囲で、どうぞ。」


ミルゼンクリアは杖を閉まって緑の大剣を引き抜いて、問うた。


「貴女は何故、この世に生を受けたのですか。」


それは、存在を否定する言葉。だがそんな言葉で引く様な彼女では無い。苛つくのだ。そういう言葉は。


「黙れッ!誰がこのんでこの地獄に産まれてくると思うの!人の勝手な都合で、その時に産まれた温かみを永遠に追い求めるために人は生きているのよ!こちとらきさまのお陰で生きているとか毛頭思っていないわよ!私は私を生きる!神々(きさまら)に生かされてるなんて口が裂けても言うか!感謝なんてしてやると思って!?」


「……なるほど。そうですか。」


なら、と、ミルゼンクリアはクロノスを刺し殺しかけた大剣を緑珠に向ける。


「尚のこと排除対象です。貴女には潜在的にある神々へと『畏怖』が無い。」


「あったら喧嘩なんて売ってないわよ。」


微笑みながら彼女は付け加える。


「ま、あっても貴女には敬意なんて払わないでしょうけど!」


緑珠の言葉に歯向かいも反抗もせずに、ミルゼンクリアは剣を払った。


その先から弾幕がまた産まれて、吹っ飛ばされる。


「蓬莱緑珠。言葉には注意した方が良い。貴女のせいで彼等は怪我をしたのだから。」


「御忠告、痛み入るわ。傷にね。」


随分と挑発的な笑みを緑珠は繰り出しながら、刀を構える。


「心には入らないのですね。」


「貴女の言葉なんざ、私の心に入る訳ないでしょう。」


緑珠は崩れ果てた神殿を走り進む。振り下ろされた大剣を見据えながら、横へ転がる。


足を止めてその場で跳躍すると、今度は緑珠が刀を振り下ろす。しかし、大剣が薙がれるのだ。攻撃出来ない。


「っ……。」


「刀の腕は良いのですね。」


「貴女は感覚を養った方が良いわ。」


『脳酔い』で感覚が鈍くなっているらしい。緑珠の視線の先には、最果ての玉座を足蹴にする若草の君が見える。


刹那、匕首が確かにミルゼンクリアの背中を斬り裂いた。


「……神器では無いのですか。」


「この神器は主を癒す為にあるのです。」


それは癒す為では無いだろう、と緑珠は一瞬だけ嗤って、一瞬の隙を付いてミルゼンクリアを刺す。


そして、回転させる。びちゃびちゃ、と血が出た。どうやら冷徹でも通っている血は同じらしい。


「……これは……。」


突然の事にミルゼンクリアは呆気に取られている。そして、真理の魔法が傷口刺さって、爆散した。


「……ぐっ……ふ……。」


「ごめんね緑珠。ミルゼンクリアの前だから、威力が弱まってるみたいで。」


イブキが片割れの神の首元に、匕首を向けた瞬間だった。また光が炸裂する。そして、吹き飛ばされた。


「寝首をかかれるとは、吾も弱くなってしまったものです。」


緑珠は薄らと目を開けた。身体中が痛い。顔に血が伝っているのが分かる。


「……あら。もう終わりですか。随分と早いですね。もう少し、生きてくれると思ったのに。」


「待ちなよ。僕が居るんだぜ?」


それでも真理はぼろぼろだ。見透かした様にミルゼンクリアは言った。


「貴方に何が出来るのです。」


吐き捨てる様に。


「吾に対抗する術も持たない、貴方が。」


「君とお話して、時間稼ぎくらいなら出来ると思うんだけどなぁ。」


「……くだらない。」


「まぁまぁ、そう言わずに付き合ってよ。」


真理は青い杖を突き出して、ミルゼンクリアへと言った。


「僕はね。彼等を死なそうとする者には容赦しないんだ。」


「何時の間にそんな人間になったのです。貴方は。」


ミルゼンクリアが少しずつ感情的になっていくのが声色で分かる。今まで、変わることのなかった声色が。


「何故、何故なのです。何故貴方は人間に興味が湧いたのですか。貴方は、普通の創造神では無いのですか。」


『普通の創造神』とは何を持ってしてそうと言うのかは真理にはもう、分からなくなってしまっていた、が。


「うーん……最初はね。僕も君と一緒に、無感情で過ごしていたんだけど……。」


壊れ果てた世界で、優しい声が響いた。


「……何だかね、世界は感情が無いと彩らないなって。思うようになったんだよ。」


緑珠はその様を、ずっ、と見詰めていた。神様の独白とも取れる、その話を。しかしその瞬間、ミルゼンクリアの魔法が炸裂する。


「何故……何故ですか……其処に横たわっている虫けらは、世界を汚していくだけでしょう……!?」


「……そう思っている君には、一生僕の気持ちなんて分からないよ。」


「……そう、ですか。」


なら、と大剣がまた構えられる。


「もう、良いです。吾は虫けらの気持ちなんて分かりたくない。排除します。」


まっ、直ぐに。大剣が向けられる。その先に居るのは、息も絶え絶えな伊吹だ。


恐らく何がどうなっているか分かっていない。


「そ、んな、だめよ、いや……。」


分かっているのだ。ミルゼンクリアが緑珠を引きずり出そうとしているのは。


だけど、それでも、どうしても!その事だけは、絶対に許せない!


「っ……叡智飛び交う天穹てんきゅうよ、全てを以、て光と為せ。智慧ちえは人が望、む至上の宝、なり。故に、剣はちえ、をもって凋落を、示せ……。『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ 全テハ知二アリ』……。」


悲しく虚しく、大きな竜巻が起こる。そんなもので止められるとは夢にも思っていないけど。


「……ふむ。まだ生きているのですか。」


魔法を受けても、それでも大剣は伊吹を見据えている。お願いだ。間に合ってくれ。


緑珠はひたすらに、足を進めて。走って、大剣と、出会って。


する事は簡単だ。間に合っても、間に合わなくても良い。


今この瞬間、全ての世界を恨まずに、全ての選択を嘆かずにしたこの瞬間が。


彼女の全て。私の全て。


……だからお願い、ねぇ。そんな悲しそうな目で私を見ないで。


今度は身体を投げ出しちゃいないわ。理由を言ったらきっと怒らないで居てくれるわよね……?


だから、そう、泣かないで。


そして緑珠は、彼の前で、大きく、大きく、手を広げた。








次回予告!

イブキを庇った緑珠に訪れる『変化』。そしてそれを見た片割れの神は?庇った緑珠の気持ちとは?新キャラが登場するお話。

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