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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 90 海国の王

イブキのとんでもない能力が明らかになったり海溝で緑珠が叫びまくったりリヴァイアサンに会ったりとインテリオール編最終話!

黒岩が目立つ海中で、緑珠は小石を蹴りつつ、ぽつりと呟くようにして言った。


「何かエンジョイしてたわねー。アルメハ王子。」


羨ましい、羨ましい。恋をして、国を守って、国民から愛されて。羨ましい、妬ま


「緑珠様。」


「ひぃっ!?」


イブキに耳の中に指を突っ込まれる。何か目も覚めたし普通に滅茶苦茶吃驚した。


「……目、覚めましたか?」


「さめ、覚めました……。どっきどっきした……。」


「今の焦るよね。分かるよ。」


示されている海溝までは、あともう少しだ。だが、事はそう上手く行く訳もなく。


「わぁ……また鮫ね……。」


しかも、とイブキは辺りを見回す。


「一匹じゃ無いですよ。めっちゃ居ます。」


緑珠は己の刀を見詰める。この数を斬るのはあまりに無理だ。それに量も多すぎる。こう、何か、自動旋回機ミキサー的な物が要るのだが……。


「え?あ、うーん……海って炎付きませんよね?」


イブキの一言を聞いて、真理は指を鳴らした。


「よぉっし。もう面倒臭いから神様の謎理論でいこう!」


「ちょっとそのやばそうな理論は何なのかしら……。」


緑珠は真理に恐る恐るそんな事を呟くと、彼はそんな事を気にせずに話を続ける。


「良いかい?どうして水中で魚が生きれるか?大体の生き物は、酸素が必要だ。」


じりじりと、鮫はどんどん距離を詰めてくる。


「水の中にも酸素があるから魚は生きられるんだ。なら火も風も起こせないと変じゃない?」


「……成程ね!」


「いやいや、何が成程なんですか!」


「でも、いけない訳じゃないだろう?」


きっとそうなのだ。そう、どの世界、どの経典にも書かれている通り。『神様の仰ることは、皆正しい』のだ。


それを悟ってしまえば。


「……風の魔法が使えるってこと?」


「そういう事だね。」


「炎も出せるって事ですよね。」


「そういう事だね。」


さて、選択は一つに二つ。じりじりと攻め寄る物達を、黙らせるには何が必要?


「本当は戦意喪失させたいのだけれどね。彼等の戦意の奥には捕食があるでしょう。本能は戦意喪失させる事が出来ない。なら、傷つけるしか残された道は無し、か。」


緑珠は一瞬だけ俯くと、刀を抜いて叫んだ。


「叡智飛び交う天穹てんきゅうよ、全てを以て光と為せ。智慧ちえは人が望む至上の宝なり。故に、剣は知恵をもって凋落を示せ!『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ 全テハ知二アリ』!」


幾つかの渦巻きが鮫を遠ざける、が。そんなので休まる程彼等とて柔くない。


「さて、次は僕の番ですね。」


片手から炎が零れる。水の中ですら映えるその炎は、美しく、そして、黒く。


「黒炎、猛火の陣!」


緑珠は、それを、ただ、見詰めていた。だってそんなの、有り得ないのだ。


「……なん、で……あなた……。」


嗚呼、でも。その炎は綺麗なのだ。黒くて、その中に赤色があって。花火の様に散った、儚い花の様で。でも、気付いてしまって。


「……そう、なの、かしらね……。」


「気付いたんだ、緑珠。理由に。」


声をかけた真理に、緑珠は黒い火焔を見続けながら言った。


「……彼は死後、死の王になる。だから、死に近づく度に、歳を重ねる度に、霊力が増えていく……。ねぇ神様、少し残酷過ぎないかしら?」


緑珠のちょっぴり困った表情に、真理はただただ、無感情に答える。それが『真理』だと言わんばかりに。笑顔を作って。


「だってそっちの方が面白いだろ?」


「……かも、しれないわね。」


緑珠はそういうと、螺旋を描いた炎が消えたど真ん中に居るイブキを見詰める。そして、彼は。


「緑珠様!やった!僕、炎出せる様になったんですよ!ねぇねぇ!褒めて下さい!」


イブキはまるで子供に戻った様に緑珠に抱き着く。……ちょっと子犬っぽい。一瞬呆気に取られた緑珠だが、よしよしと頭を撫でた。


「偉いわね。私、吃驚してしまったわ。よしよし、これからも怪我しない程度に鍛錬するのよ。」


「えへへ……ずっと秘密にしてたんです。驚かせようと思って!」


ああ、そんな笑顔が出来るのなら。言う必要なんて無いんだ。


「……緑珠様?何で泣いてるんですか?」


「……えへへ。嬉し泣き。」


それを聞いて、イブキの顔はもっと明るくなる。


「そ、そんなに喜んで、貰えましたか……。」


「えぇ。貴方の怪我が減りそうだしね。有効に使いなさいよ?」


理由なんて、言わなくて良い。言っては駄目なのだ。それに乗じてイブキは緑珠に擦り寄る。


「もっと褒めて下さい!」


「家に帰ったらね。」


「やったぁ!」


緑珠の微笑みに、イブキは益々顔をほころばせる。


「ま、精々自分の炎で火傷しないようにするんだね。」


「真理は煩いです。」


むうっ、と膨れる。これだけ表情がころころ変わるのだ。見ていて面白い。さぁ、目指すべき海溝は目の前だ。


「皆様方、お揃いで!」


がやがやとしている三人の中に、ルーザの声が響いた。


「エスカエラ姫。態々有難う。」


「いえいえ。海溝を案内するのは私のお役目ですから。気にしないで下さい。」


えっと、と真理は恐る恐る海溝の奥を覗いた。


「……この先、行くんだよね?」


「深いですね……。」


海溝自体が生き物言っても差し支えないほど、ぽっかりと海面に向けて口を開けている。


「インテリオール自体は一粁いちきろめーとる程で着くのだけれど、お父様が居る場所はもっと深くて……。」


「どれくらい深いのかしら?」


難しそうに顔を歪めたあと、ルーザは。


「大体二時間で着くわ。だから……十粁じゅっきろめーとる弱ですね。」


「ふぅん……そうなの。じゃあ、早速行きましょ。善は急げって言うでしょ?」


「……うん、まぁそうなんだけどさぁ……。」


真理は続きの言葉を言うのを止めた。説明するより見る方が早い。


「……行こっか。」









「やぁぁぁぁぁ!怖い無理気持ち悪いやだやだやだやだ!」


「えー?面白いじゃないですか。えっと……『深海生物』、でしたっけ。」


まるでお化け屋敷に来たような反応を緑珠は見せる。半泣きになりながらイブキにしがみつきつつ、彼女は叫んだ。


「やだ!何でこんな気持ち悪いのが居るの!」


「……僕が世界創世初期に失敗した生物を深海に押し付けたらこうなった。」


「ちゃんりのばかぁっ!」


ルーザは動じることなくどんどん進む。


「何でえすかえらひめはそんなにだいじょうぶなの……?」


「呂律半分くらい回ってませんけど大丈夫ですか。」


緑珠の言葉にルーザは苦く微笑んだ。


「まぁ……慣れ、かしらね。慣れたら可愛い物です。そう言えば、地上には『昆虫』という物が居るそうですね。それが海に沈んだ様なものですよ。」


「……なる、ほど……。」


ぴょいっ、と何かが飛んだ。それに緑珠は涙を零しまくる。


「やだぁ……もうやだ、イブキ、怖い、助けて、やだやだ……。」


ぎゅうっ、と緑珠はイブキを掴む。


「はいはい。掴んでて良いですからね。」


「伊吹君、口角何とかした方が良いよ。」


「無理です。」


にっこり、と清々しく微笑んだ仄暗い笑みが、真理を直撃する。


「清々しいな。」


「大丈夫?もうちょっとで着きますからね、安心して頂戴ね。」


ルーザの姿を緑珠はチラリと見遣ると、ある一つの疑問が生まれる。


「……何で、エスカエラ姫は泳げるの?此処、深海よね?水がいっぱい詰まってるから水圧は凄いと思うけれど。見が爆発したりしないのね?」


「緑珠。深海に住む生物はね、気体が入らない様に身が詰まってるんだ。あと油分も多い。美味しい魚も多いけど、市場に出回る事は少ないかな。」


それを聞いて、緑珠はきらきらとした目をルーザに向ける。


「じゃ、じゃあ姫って……。」


その先に続く言葉を察したのか、苦笑しながらルーザは言った。


「さぁ……美味しいかどうかは知らないけれど、牛のような脂身とは聞いた事があります。」


そんなルーザの一言に、イブキは肩を竦めた。


「美味しくないですよ、多分。僕達が食べても。」


「あら、どうして?」


「生き物は何時だって、『別種』が美味しく感じるんです。」


きょとんとした緑珠の表情に、イブキは続ける。


「だから人間は人間を食べても、美味しく感じないのでしょう?」


「……何だか、妙に説得力があるわね。牛さんとか豚さんとかってこと?」


「そういう事ですね。」


緑珠は妙に納得したらしく、うんうんと頷いている。


「なるほど、ねぇ。」


「着いたわ。此処ですよ。でも……。」


ルーザは残念そうにぺちぺちと目の前の岩肌を叩く。


「岩の扉が開かないわね……。」


「何か仕組みが組んであるとかじゃないの?」


真理の疑問の声に、ルーザは顔を顰めながら答えた。


「これ、全自動扉ぜんじどうどあなんです。だから自動的に開かないと……。」


「随分と先進科学ハイテクなのね……。」


ルーザは首を傾げながら色々な場所を探る、が。開かない。それに対して緑珠は一つ、提案をする。


「ねぇエスカエラ姫。この扉が開かないと、リヴァイアサン公も此処から出れないのよね?」


「えぇ。ですからこれを壊さないと……。」


「壊して良いのね?」


「え?まぁ、そうですけど……。」


岩の壁を壊せる様な者。居るじゃないか。緑珠はイブキへと視線を移した。


「お願いしても良いかしら、イブキ。これ壊せそう?」


緑珠の質問に答える訳でもなく、彼は海面を仰いだ。まぁ、これなら……。


「……多分出来ると思いますけど、海溝を瓦礫で埋まらない様に気を付けなくちゃですよね……。真理、結界を宜しく頼みます。」


「おっけー!りょうかいまるー。」


真理の呑気な返事と共に、イブキを除く三人に結界が貼られる。


「上手くいきますかねー……何せやるの久々なので……。」


「任せちゃったの、可哀想だったかしら……。」


緑珠の案ずる声に、真理は若干の諦観の念に溢れた声を出す。


「いや、彼が案じてるのは、多分そういう事じゃなくて……。」


イブキの拳が、ぽん、と岩壁に当たって。


「やり過ぎないかどうかって話だよ。」


拳が当たったそばから亀裂が広がると、一気に岩壁が砂になる。海面付近は大きな岩になった。そして、落ちてくる。


「うそ、ですよね……?」


「これは任せた私が悪かったわね……。」


「ま、まぁ……結界貼ってるし……。」


結界を貼っては居るので大丈夫と言や大丈夫なのだが、心は落ち着かない。それを見つけたイブキが、手元の石を掴んで投げた。


水圧もあるのに真っ直ぐ飛ぶしその当たった岩も粉砕するのだから、どれだけの力があるか計り知れない。


「あー……大丈夫でしたか、御三方?」


「……吃驚したけど、怪我一つしてないわ、有難う。」


にしても、と緑珠は大穴が空いた岩壁の向こう側を見詰める。


奥から青い光が燦々と照りつけており、それがリヴァイアサン自身の物だと、彼女は暫くしてから気付いた。


『びっっっっくりした……。』


少しだけ気弱そうな、それでも強くて優しそうな、若い声が奥から聞こえる。とぐろを巻いていたらしく、それを解いたリヴァイアサンはしっかりと三人を見据える。


『お帰り、ルーザ。その御三方は、この間言っていた方か?』


「そうです、お父様。調印が必要な御様子で……。」


『緑珠姫が居ると聞いた。』


ルーザの言葉を遮った、凛とした言葉に、緑珠はさっ、と前に躍り出る。


「ご機嫌麗しゅう存じます、リヴァイアサン公。……ええっと、初めまして、ですわね。」


『そんなに畏まらなくても良い。何か紙の媒体で渡せれば良いのだが、生憎と水中では無理だからな……。』


苦笑しているのが声音で分かる。リヴァイアサンは自身の身体をまさぐると、くちばしの様な口で緑珠に差し出す。


『鱗なら、並の者では持てないだろう。持って行くと良い。』


「有難う御座います……。綺麗だわ……。」


よしよし、と前足で、緑珠を傷つけない様に優しく、しかし何処か手を震わせ、撫でながら、公は言った。


『大変だったね。良くぞ此処まで来てくれた。後は最後の』


「リヴァイアサン。」


ぴしゃりと斬り捨てるように真理は言った。何時になく顔が険しい。


『……言わないでおこうか。でも目立った怪我も無くて良かった。健康にも気を付けて。』


「ふふ。有難う御座います。」


『さぁ、もう帰りなさい。地上に生きる者が海の底に居ては危ないよ。』


こくん、と緑珠は頷く。そして去り際に、真理はリヴァイアサンへと問うた。


「ねぇ。一つ聞いても良い?リヴァイアサン。」


『どうした?神様。』


「何でさ。君は国を造ったの?」


暫くの間、沈黙が続いて。出た答えは。とてもとても暖かく。


『……理由なんて、無いよ。』










「あーもう!」


マグノーリエに向かう道で、真理は大空へと叫ぶ。


「昨今の生き物は理由が無い奴が多すぎる!ちょっと世界をいじくろうかな!どんな物にも理由がある世界に!」


それを聞いてイブキは呵呵大笑を真理に見せる。


「あはははは、それは困りますね。」


「何故?」


怪訝そうに眉をひそめた真理に、イブキはさらりと続ける。


「恋愛感情に理由なんて無いですから。」


「……ふうん。じゃあやめよっかな。君達が一喜一憂しているのを見るの、楽しいし。」


「理由が無いのも、悪くないでしょ?」


振り返った緑珠に、真理は微笑んだ。


「……そうだね。」


イブキはふと全ての国の調印を集めたことに気付いて、緑珠へと問う。


「そう言えば……緑珠様は己の国を復興させよう!なんて考えませんよね。」


「……。」


不思議そうに、じっ、と彼女は見詰めた。


「どうされました?」


「……いえ、貴方程の賢さを持つ人間がそんな愚者みたいな質問をするのね、と。」


「べ、勉強します……。」


容赦なく言い放った一言に刺されつつ、しれっと緑珠は答えようとする。


「で?理由?」


「えぇ、そうです。」


「そんなの簡単じゃない。私はもうあの国に、『必要』とされていないからよ。」


「『必要』、ですか。」


感慨深そうに呟いたイブキに、そのまま説明を続けた。


「『必要』とされていないから追い出された。『必要』とされていないから処刑されかけた。『必要』とされていないから倒しても襲って来ない。……どれもこれも、『必要』とされていないから。態々『必要』とされていないのに向かっていく姿勢はもっと別のモノに使えるし、『必要』とされていないなら私を『必要』としてくれる場所を作るだけよ。」


「……貴女らしい事ですね。」


「そう?」


きょとん、と首を傾げた緑珠に、真理も深く頷く。


「そうだね。君らしいよ。」


「……ふぅん。」


思案に耽った声を出して、そしてニカッ、と笑うと。


「ふふ。そうね。私らしいわね。それじゃ……帰りましょうか!」


その声は青空に響き渡った。








次回予告!

インテリオール公国の調印も終わり、一段落したと思った刹那、現れるのは緑珠の許嫁!?となれば、イブキが黙っているはずが無く……!大進展しかない千年怪奇譚!

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