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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 88 博徒な従者

珍しく真理の心情が垣間見えたり人魚姫にアポ取りに行ったりまさかのイブキが○○されたり相変わらず緑珠が照れたりするそんな話!

「んっと……?今日はアポ取りかしらね。リヴァイアサン公は帰って来ていらっしゃるのかしら。」


何時もと変わらず紅茶を飲んでいたエルフィアは、緑珠の方へと向いて言った。


「恐らくお帰りになられていると思いますよ。地震が来ていませんし。」


「成程……そういう考え方もあるわね。有難う御座います、エルフィア様。」


ぺこり、と緑珠は礼をすると、エルフィアは椅子に座りながら微笑んだ。


「どうかお気を付けて。」


「それじゃあ行ってくるね。」


真理の言葉にこくりとエルフィアは頷くと、緑珠はエルフィア邸から出た。


「いやぁ、今日も良い天気ね!」


「春だし台風が来る心配も無いからね。」


ふう、と緑珠はため息をついた。


「全く……イブキは何処へ消えたのやら……。」


緑珠の少し寂しそうな言葉に、真理は目を通して彼の居る世界を覗く。


「……うげっ、そんな所に居るのか……。」


「えっ!?何処に居るの!?」


緑珠はぴょんぴょんと真理に飛び付くが、彼自身としては口が裂けても博打をしているなんて言えない。あと酒呑んでる。朝からかよ。


「いやもうこれは言えない……言っちゃダメだと思うんだよ、僕は……。」


「何か真理、疲れてない?」


疲れた表情を見せる真理は、簡単に能力の説明をする。


「今ね、僕は目を通して伊吹君の見ている世界を見たんだけど……その人の今の状態も引き継がれるからね……。一瞬だけでも結構重かったから……あぁ、そうか。あの子、鬼だもんなぁ……。」


中々口を割らない真理に、緑珠は不貞腐れた様に言った。


「あの子が帰って来たら分かること?」


「……うん。まぁ、そうだよ。」


絶対これは怒られるやつだぞと真理は思いながら、海辺へ歩いて行く緑珠を見詰める。


「あの子、えげつないこと仕出かすからね……。」


「主は従者に似るし、従者は主に似るからね。」


しかし、酒豪と博徒は似て欲しく無いものだ。緑珠は足先で海を蹴っていた。


「海と空って、綺麗よね。どっちがどっちか分からないわ。」


「うん。お揃いの青にしたから。」


緑珠は真理の方へと振り向いて、優しく咎めた。


「真理。そういう時は、共感する物よ。」


「……ふむ。『共感』。……ねぇ緑珠。最近僕は、悩んでいる事があるんだ。」


また海の方向を向いた緑珠の背中に、真理は語りかける。


「なぁに?何でも聞くわよ?」


「……『感情』って、何なんだろう。……僕には分からないんだ。ずっと、昔から。」


真理もつられて砂を蹴る。うん。こんな無意味な事も、中々悪くない。


「でも真理、笑ったりするじゃない。怒ったりも、焦ったりもするでしょう?」


「あっ、ごめん……ちょっと言い方が悪かったかな。『喜怒哀楽』は、随分と分かって来たんだ。」


緑珠はまた振り向いて、へらり、と抜けた笑顔を見せた真理に、前のめりになって問うた。


「……真理。『喜怒哀楽』が分かった時って、どんな感じだった?」


「どんな感じって……そうだな……。世界に、色が付いた感じだった、かな……。色んなものに、心が踊って……。」


首を傾げながら、真理は一人で頷きながら、緑珠の質問に答えた。


「……貴方が、この世界を作った理由が分かったら、教えてね。」


「それが君の答え?」


こくん、と緑珠は頷く。


「えぇ。そうよ。真理。それが分かったら。」


「……僕も同意見なんだよ。」


「ふふ、でしょう?……願わくば私が、貴方に理由を与えられます様に。」


そうだ、と緑珠は真理に小指を差し出した。


「指切りげんまん、しましょ?」


「好きだねぇ、それ。」


真理の何気無い一言に、緑珠は楽しそうに微笑む。


「だって、約束って形の無いものでしょう?何だか証が無いと寂しいわ。」


「……そっか。ま、僕達には針千本呑ます事が出来る人が一人いるもんね。」


そうね、と緑珠は笑いながら、真理の差し出された指に小指を絡めた。


「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本如きで済むと本気で思ってるの?指切った!」


「何でそんな怖いアレンジが来るのかな?」


真理の突っ込みに、緑珠はまた笑う。そして海を指さして言った。


「さぁ、謁見のお願いをしに行くわよ!真理!」


「御所望とあらば。」


柔和な声は、確かに海へと響いた。






「うーん……。エスカエラ姫は何処に行ったのやら……。」


深い、深い、海。水面の直ぐ傍では魚が少ない。その中で人間?と言い難い二人が泳いでいた。


「見つけない事には人魚の国にも入れないからね。……面倒臭いな。」


真理は緑珠の腕を掴むと、魔法を使って転移魔法を繰り出す。


「……着いたんじゃ無いかな。」


緑珠は訝しげに辺りを見回す。これはアルメハとの待ち合わせ場所の岩礁では無いのか。


「きゃあっ!?」


「おっと、危ない危ない……。」


海水で濡れた石で足を滑らしかけた緑珠を、真理は上手く抱き寄せる。


「神様的力で何とかしたんだけどなぁ……。此処に居なかったら、僕の能力ぽんこつになっちゃうんだけど……。」


「に、にんぎょ、って、こんな危ない所に居るの……?」


「よっと……みたいだね。」


真理が先に足場を確認して、浅瀬に下りた。緑珠へと手を差し伸べる。


「痛いでしょうに……今でも岩が肌に刺さりそうだわ。」


ぱしゃん、という波が岩に当たる音がした。途端、大きな岩礁の向こう側から歌声が聞こえる。もうちょっと詳しく言うと音痴だ。


「……あれって、エスカエラ姫の声じゃないの?」


「……ぽいね。」


まだ浅瀬を緑珠と真理は進みながら、真理に手伝って貰いつつ岩を登る。登った先には、一人の人魚が座っていた。


「えぇっと……。」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


と叫ぶのは良いが、逃げも隠れも出来ない。わたわたとしている内に、声をかけたのが誰だか分かった様だ。ほっ、と胸を撫で下ろす。


「ぁぁぁぁぁ……あ?あぁ、貴女様でしたか……。」


「ごめんなさいね、驚かせてしまって。」


「今日は。」


ルーザはぺこぺこと二人へ礼をした。


「先日は本当に有難う御座いました。」


緑珠は慌てて手をぶんぶんと振る。


「いえいえ、私は全然力になれなくて……それに、あんな事があって……。」


「気にしないで下さい。偶々日が被っただけの事でしょうし、人生に事故アクシデントは付き物です。」


あの事故を全く見出さないような笑顔でエスカエラは微笑む。


「……えっと。今日は一名居らっしゃらない様ですが……。」


「諸用だね。」


イブキの事を思い出して、真理は良いザマだと心の中で嗤う。


「あぁ、そうですか……。一応御礼を申し上げたかったのですが。」


「私から言っておくわ。有難う。」


緑珠はルーザの暖かい言葉を受け取ると、にこりと微笑する。


「それなら安心です。今日、私にお会いになったのは……謁見の事ですね。」


「そうよ。お願い出来るかしら?」


先刻さっきの微笑とは打って変わって、真剣になった緑珠の表情に、ルーザは一瞬だけ驚く。


「えぇ。構いませんとも。お父様に言っておきますね。だけど、調印ともなると少し困ってしまうわね……。」


「何か拙い事でもあるのかな?」


首を傾げた真理に、ルーザは首を横に振った。


「いえ……特には。ですが、インテリオールには文字が無いのです。人魚は超音波テレパシーで会話するので。」


人魚と地に生きている者は違うのだと、緑珠は改めて痛感する。そして、難しそうに顔を顰めた。


「そうねぇ……インテリオールに来た事が分かる物があれば良いのだけれど……。」


「ならお父様の鱗だとかだと良いでしょうか?」


ぽんっ、と音が鳴るかの様に、ルーザは手を叩いた。


「嬉しいけど……構わないの?」


「構いません。」


ルーザはそうやって笑うと、真昼の太陽を見上げて慌ててこう言った。


「……あぁ、もうお昼時ですね。人が来てしまうわ。帰ります。」


「えぇ。有難う。それじゃあね、エスカエラ姫。」


緑珠はぶんぶんと元気よくルーザに手を振ると、水面が大きく音を立てる前に、


「はい。また明日!」


と言って、水の中へ消えた。


「さて、真理。予想以上に早く用事が終わってしまったわね……。」


「お昼に行こうか。」


「そうね!」


緑珠と真理はばしゃばしゃと、水面を蹴りながら昼食を目指した。









「緑珠様。」


夕焼けの海を覗いていると、ふと聞きなれた声が聞こえる。


「僕、貴女の事。今日は全く考えなかったんですよ。」


緑珠はくすくすと笑ってイブキの方へと向いた。


「そう。良くやったわね。」


「それで、ね。気付いたんですよ。世界はとっても灰色で、やっぱり貴女が居なくちゃ駄目です。」


少しだけ儚げな笑みをイブキは浮かべて。それにちょっとだけ、面食らってしまう。


「……そう。」


少しだけ詰まった緑珠の声に、イブキは続けた。


「もうお薬一気飲みとか止めて下さいね。」


「また貴方が吐かしてくれるでしょ?」


態とらしく肩を竦めると、イブキは少し厳しい口調で咎める。


「……緑珠様。」


「あははー!ごめんね!」


また笑顔でそれを流すと、緑珠はにこっ、と微笑みながらイブキへと向いた。


「で。貴方今日、何処に居たの?」


「え?普通に鍛錬を……。」


絶対に嘘だ。その身体中からする煙草と酒の匂いはどう説明するつもりなんだろうか。


「真理の目を通して何をしていたかは知っているのよ。」


微笑みながらそんな事を言うと、イブキは慌てて頭を下げる。


「……済みません博打してました許して下さい散財はしてません!」


「散財はしていないのね。褒めて遣わすわ。でも、貴方のその博打癖はどうにかする必要がある。」


「……りょ、緑珠様……?」


にこっ、と微笑まれ続けている緑珠の額に青筋が立っているのを、イブキは見逃さなかった。するり、と後退あとずさる。


「お仕置きよ。伊吹。従者の躾も主の役目。丁重に受け取りなさいね。」


これは怒らせたと、後悔したのが遅すぎたと気付くのは、もう少し後の話。









「うっうっ……りょくしりあさま、もうやめてください、おねが、いします……!」


「なら約束して頂戴。私に黙って博打に行かないと。」


薄暗い部屋で半泣きになって座っているイブキに、緑珠は淡々と言い放った。


「……それは……。」


「約束できないのなら……。」


にこっ、とまた緑珠は笑う。それに対してイブキは叫ぶ。というか叫ぶしか出来ない。


「あっ、やだっ、だめですりょくしゅさま、たのみますから、だからもうこれ以上は、どうか……!」


懇願しているイブキに、緑珠ははっきり言い放った。


「なら約束なさいと言っているでしょう……。」


「……うぅ。約束します……。」


まるで笑みが零れるかという笑顔で、緑珠はイブキへと言った。


「掛け金を渡してあげる。それを二倍か三倍にして来てくれたら嬉しいわね。」


「りょくしゅ、さま……!」


きらきらとした子供のような瞳をイブキは緑珠へと向ける。


「だけど。」


「……。」


あまりにドスが聞いた声に、イブキはしょげる。緑珠は続けた。


「黙って行ったら、『コレ』の酷い事をするから。」


「……何してるの?」


二人の様子を見に来た真理は、緑珠へと問いかける。


「拷問。イブキにとっての。」


「ひどいです……僕、もうお婿に行けない……。」


ぐすんぐすんと泣いているイブキに、緑珠は面倒くさそうに言った。


「あー?何言ってんのイブキ。」


「へ……?」


ふふん、と緑珠は自慢げに微笑んだ。


「貴方達の物全ては私のモノ。魂と身体の髪先に至る全てが私のモノなのよ。一生貰ってるんだから、今更結婚なんて言ってるの、笑っちゃうわ。」


先程の自慢げな表情とは裏腹に、緑珠は優しい瞳を二人に向ける。


「だからその分、素晴らしい夢を見させてあげるだけよ。私は。」


「……かっこいい……。」


思わず零したイブキの一言に、真理もつられて言った。


「緑珠ってイケメンだよね。性格が。」


「ま、私は何時だって格好良いし可愛いからね。ふふ、今に始まったことじゃあ無いわ。」


胸を張って言えば良いことなのに、何故か俯いている。イブキは恐る恐る、緑珠へと言った。


「……そんな事言って、照れてません?」


「……てれて、ない。眠いだけだもん。寝るから!寝るからね!お休み!」


びゅーっ!と走り去った緑珠を、イブキと真理はぼんやりと見ていた。


「あの人、本当に慣れてませんよね……。」


「あれだけ自信満々に言っといて、だね。」


さてと、と座り込んでいたイブキは立ち上がる。


「僕達も寝ますか。二日酔いが……。」


「あんだけ呑みながらやってたらねぇ……。」


呆れと笑いが混ざり合い、部屋には闇だけが取り残された。








次回予告!

イブキがするりと緑珠の傍に忍び寄ったり王子と人魚姫の関係が進展したり緑珠が昔のことを回想したりと変わらないお話!

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