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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第一章 完全脱国 旧帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 5 前編の後編

「この、『蓬泉院ほうぜんいん 緑珠李雅りょくしりあ』の御前ごぜんにて、その様な無礼が許されるとでも思っているの?」


もう一度、深呼吸をして。


倶利伽羅冷泉帝くりから れいぜいてい。もしかすると、来仙花ノらいせん はなのみや公女もご一緒なのかしら?」


攻撃は止んで、フードと着た男と女が現れる。イブキが腕から血をだらりと流しながら言った。


「倶利伽羅 冷泉帝って……また聞きたくない名前を聞きました……。」


「その生意気な口調は、間違いなく光遷院の子息ですねぇ。伊吹殿。」


イブキがその一言に苛ついて言い放つ。


「相変わらずの死体愛好家ネクロフィリアっぷりですか?あぁ、もしかして死性愛タナトフィリアの方が宜しいですか。」


黒髪の男も負けず劣らず言った。


「相変わらずの加虐性愛サディズムですよねぇ。それとも、泣哭性愛ダクライフィリアと言った方が宜しいでしょうかねぇ。」


緑珠が二人のいざこざを仲裁する。


「はいはい、二人共仲良く……って、無理よね。私も貴方達と仲良くするつもりなんて毛頭ないわ。さて、何用かしら。貴方が来る禄な事が無いわ。」


フードを取って、長身の黒髪の男が顔を出す。


「そう怒らないで下さいよ。緑珠李雅様。別に貴女の事を攫いに来た訳じゃありません。」


「そうでしょうね。まぁ攫いに来た所で私は自害するでしょうけど。貴女の悪趣味っぷりったら本当に常軌を逸しているもの。」


どうせ、とイブキが腕を組んで緑珠に言った。


「此奴は緑珠様を連れ帰って標本にでもするつもりですよ。」


黒髪の男ーーー冷泉帝が否定する。


「標本じゃありませんねぇ。ホルマリン漬けですねぇ。」


「……変わらないじゃない。」


「結構変わるんですよねぇ、これが。値段がねぇ、変わるんですよねぇ。」


緑珠が冷泉帝の隣に居た、十歳程の身長の方を見た。


「花ノ宮公女は、私に何用かしら。」


頭に豪華絢爛な髪留めを施した、勝気な女子が顔を出す。


わたくしは……言わなくて良いと言われておりますので。」


花ノ宮の素っ気ない態度に対して、緑珠は問うた。


「そうなのね。まぁ、良いわ。それにしても、天ノあめのみや姉公女はお元気でいらっしゃるの?」


花ノ宮は即答した。

「いえ、病状は悪化しております。」


恐る恐る、真理が姿を現した。

「これは……一体?」


真理の疑問に緑珠は言い放つ。


「私の苗字、覚えてるでしょ。あの長ったらしい苗字よ。」


真理が記憶を引きずり出す。


「ええっと……『蓬泉院来仙倶利伽羅藤城鳳駕(ほうぜんいんらいせんくりからとうじょうほうが)』だったっけ?……あ。」


緑珠は伏せ目がちだった目を開けて前の二人を見る。


「そうなのよ。この、『蓬泉院』家、『来仙』家、『倶利伽羅』家、『藤城』家、『鳳駕』家が集まって『日栄帝国』を建国したから、こんな長ったらしい苗字になったのよ。『藤城』と『鳳駕』は途中で断絶してしまったから、それに変わる家が必要となった。」


イブキが緑珠の説明を引き継ぐ。


「それが、僕の家『光遷院』家です。元々力があって、『藤城』と『鳳駕』以上の成り代わる力なんてあったんですよね。なのに、『倶利伽羅』家は一々言ってきたり、口を出してきたりして……。」


イブキと緑珠の説明を聞いて、真理は言った。


「な、る、ほ、ど……。ともすれば、君達の『蓬泉院』家、『光遷院』家と『倶利伽羅』家、『来仙』家は仲が悪いと?」


全員が各々の体勢で言った。


「否定はしないわ。」


「否定はしません。」


「否定はしませんねぇ。」


「否定は致しません。」


少しの間の後、真理は言った。


「……こう見えてくると、全員仲が良いのか悪いのか、良く分からなくなるな……。」


「真理、間違って貰っちゃ困るわよ。『一応』、仲は良いのだから。」


「い、『一応』……って。」


唖然としながらも真理は緑珠の話を聞く。


「それで、用は何かしら。……もしかして、私の首だったりするの?」


「そんな訳無いでしょう、緑珠李雅様。私は、貴女を女帝にしたいのですよねぇ。」


緑珠はじっと胡散臭い冷泉帝を見て言った。


「……ふうん。続けて頂戴。」


「緑珠様?」


「イブキ。こうなっては気になるでしょう?ねぇ冷泉帝。私を何処の国の女帝にしたいの?」


二人のやり取りを聞いてから、冷泉帝は言った。


「それは勿論、新生『日栄帝国』の、女帝ですねぇ。」


「新生、ですって?滅びた国がまた一から再興したと?そんな事が……可能なの?」


緑珠の戸惑いを見て、ニヤリと冷泉帝は笑う。


「そうですねぇ。」


緑珠はイブキに言った。


「全くもって、予想外だったわ。私達が行った時には、そんな様子は片鱗も……イブキ?」


腕を組んでイブキは緑珠に話した。


「……よく良く考えれば、特に不思議な事はありません。僕達は滅びた『日栄帝国』だけを見ていた。中枢たる国家が潰れれば、周りの街々も滅ぶと、そんな考えを……全く安直な考えです。」


花ノ宮が片眉あげながらイブキに言う。


「それにしても、伊吹殿は良いのですか?」


「……何がでしょう。花ノ宮公女。」


口角を上げて、自慢げに笑う。それは十歳程の子供には出来そうにもない、一端の『大人の笑み』だった。


「いや、良いのでしょうか、という質問は愚問ですね。『倶利伽羅』と『来仙』……いや、民も知っている事でしょう。それはもしかしたら一種の都市伝説のようなものかも知れませんが。」


「あはは、益々嫌な臭いがしますね。貴女が次に見るのが、閻魔大王の御前で無いことを祈りますよ。」


イブキの異様な雰囲気に緑珠は眉を潜める。そのままの、凄い笑みを浮かべながら花ノ宮が軽く歌う。


「『悪鬼羅刹はすぐ側に 御前自身の中にある。 呑まれぬ様に 己が考えを持て 呑まれぬ様に 己が考えを持て 己の激情は目の奥に仕舞え』。」


イブキは目を細めながら黙っている。緑珠が花ノ宮に言った。


「それって……亡国の『私の国』で歌われていた、戒めの童歌よね?悪鬼羅刹に呑まれぬ様に、自身が強さを保つ為の、注意の歌。だけど、童歌にしては随分と難しい歌詞よね。」


『私の国』、と語気を強くした緑珠を、倶利伽羅は二タニタと笑っている。イブキは相も変わらず花ノ宮を見ている。まるで子供をあやす様に、花ノ宮は言った。


「『それは昔々、人々が鬼に呑まれていなかった時のこと。ある所に、鬼が居ました』。」


其処には、とまたもや花ノ宮が続ける。


「『それはそれは恐ろしい、❛鬼門の❜』」


と、続けた瞬間だった。イブキの『神鳳冷艶鋸』の切っ先が花ノ宮の額に刺さりそうになる。


「其処までです。それ以上は、知る必要も無い。」


にっこりとイブキは花ノ宮に笑う。


「良かったですね。地獄に逝かなくて。」

「ば、莫迦にして……!」


大人の様な怒りを顔に込めながら、花ノ宮はイブキを睨みつける。


「莫迦になんかしてませんよ。貴女みたいな肝の座った人間、生きてもらわなくちゃ困ります。……見応えもない。将来、大物になるかもしれませんね。」


緑珠がイブキに声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、イブキ。私に隠し事をしてるって言うの?」


申し訳なさそうにイブキは緑珠に振り返る。


「……申し訳ありません、緑珠様。これだけは貴女様の御耳に入れたくないのです。」


「そ、そんな……。」


緑珠はすっかり肩を落として、足元を見ている。


「酷いわよ、イブキ……どうして、私に言えない事なの?」


「ええ、言えません。」


イブキはにっこりと答えた。そして、仄暗い笑みで緑珠に言う。口角だけ、上げて。瞳はどす黒く。


「……言ってしまえば、貴女は僕を嫌いになるのでしょうから。僕は、貴女にだけは、嫌われたくないんですよ。」


その瞳にたじろいた緑珠を見て、でも、とそのイブキの一言に冷泉帝が付け加えた。


「もしかしたら、知る事が出来るかも知れませんねぇ。」


緑珠が先程の雰囲気とは打って変わって冷泉帝を睨みつける。


「一体全体、どういう事かしら。」


冷泉帝はいやらしく笑う。

「分かってる癖に。」


はぁ、と深く緑珠はため息を付く。


「冗談は休み休み言いなさいな。私は絶対、貴方達の『日栄帝国』には行かないわ。それなら死んだ方がましよ。お分かりになられて?」


最後は若干茶化しながら緑珠は冷泉帝に言った。


「そう、ですか。それは残念ですねぇ。」


「でも、私達は諦めませんから。今日の所は之で。」


すっ、と二人の姿が消えてなくなる。緑珠は少し考えながら言った。


「何故二人が来たのか……それは新生『日栄帝国』の女帝を、私に押し付けること……だけど、それなら花ノ宮公女でも、天ノ宮公女でも何でも良い気がするのよ。勿論、冷泉帝だってね?どさくさに紛れて王位に着くなんて、あの狡賢さなら余裕だと思うのよね……。」


緑珠は考えを切ると、イブキにきつく言った。


「もう!私に隠し事なんて、イブキは本当に酷いわね!」


「あはは……すいませんね。これはどうしても言えない事なので。」


じゃあ、と緑珠は考えながら言った。


「私が死ぬ間際に教えて頂戴。」


「……縁起でも無い事言わないで下さいよ。」


「あはは、イブキの顔ったら面白ーい!」


「緑珠様って……時折抜けてますよね……。」


「ちょっと何よー!私が莫迦だって言いたいのー?」


はいはい、と真理が二人を仲裁する。


「二人共仲良くね。……あ。」

「大丈夫かー!お前らー!」


モアが仲間と一緒に走って来る。


「ええ、ごめんなさいね。お手間を取らせてしまったわ。」


いや、とモアは笑った。


「お前らが無事なら良いんだ。心配したんだぞ。さぁ、早くキャンプに戻ろう。夜は冷えるからな。」


緑珠と真理が先に歩いて行くのを見て、イブキはモアに耳打ちした。


「すいません、解毒薬って、ありますか。」


モアの視線が険しくなる。


「……成程。あるぞ。同じ症状を持った奴が数人出たんだ。やっぱり、あの襲撃してきた奴らは矢先に毒を塗っていたようだな。」


イブキは優しく笑った。


「本当に、迷惑な奴らですよね。根絶やしにしたいぐらい。」


モアはイブキが手で抑えている傷口を見ようとする。


「傷の状態は?見せてみろ。」


イブキはそれをやんわりと否定した。


「それは……やめておかれたほうが良いかと……。」


モアはむすっとした。


「何でだよ。別に良いだろ。」


イブキは『好青年』の笑みで言った。


「広範囲が毒のせいで壊死して、肉がどす黒いので。あと、かなり回ったので血が紫色なんですよね……応急処置した心算つもりだったのに……。」


モアはイブキをとてつもなくきつく、叩いた。


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