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選ばれた存在



「そう、あれはちょうど五年前――……偶然か必然か、封印の一つが破られたんだ」


「始祖の鬼の……?」



 先程までのこの男の言うことが正しいと仮定すれば、あくまでも仮定すればだが、それは随分と大変な話だ。

 彼は静かに頷いた。



「あぁ。三つの封印のうち、二つはここ日本にあって、一つは1500年前から続く大きな神社に祀られていたんだ。そこには、始祖の鬼の“魂”が封じられていた」


「それは、誰かが故意に?」


「いや、彼女は、リリーの魂と共鳴する何かを持っていたんだ」



(彼女?)



「とにかく、彼女の意思ではなかった筈だ」



 あぁもう。こういう所がややこしいと言うか、回りくどい。怪しい上にめんどくさい男だ。と、初対面の人間を疑いまくっている自分のことは棚に上げた。



「あの、さっきから『彼女』って言っているけど、始祖の鬼も、その封印を破った奴も女なんですか?」


「うん。その通りだよ。後者には君も会った筈さ。もっとも、正確には二人共に会ったと言ってもいいかもしれないが」



 このメルデスという男は、面倒臭いくらいにこういう回りくどいい方をするようだ。すこしイラつくな。姉貴はなんでこんな男に従う気になったんだ。訳わかんねぇ。



「あれ? 察しがつかないかな? ほら、昨晩君を殺しかけたあの娘だよ」


「なっ……ッ!」



 驚きのあまり言葉をなくす。すこし言い方が癪に障るが……それ以上の衝撃が俺を襲う。

 俺らと歳がそう変わらないように見えた、あの少女が……? そんな筈ない。やはりこの男は嘘をついている。いや、不老不死と言っていたのが嘘でなければ有り得るのか。



「二人共に会ったと言うのはね、彼女の身体に始祖の鬼の魂が宿っているからなんだよ。現在、始祖の鬼 リリーは天雨(あまう)美姫(みき)の身体を借りている。そして、元々、始祖の鬼は彼女が持っていたあの刀に封じられていたんだよ」


「俺を刺した、あの刀に……?」


「うん。実はね、鬼が人々を殺すのはただ殺したいだけじゃないみたいなんだ」



 メルデスが一呼吸置いて……俺の目をグリーンの瞳で見つめる

 殺す以外の目的……喰べるとか……?

 やはり気がつくと俺は彼の口車に乗せられてしまっているのだ。悔しい。




「自分の下僕(しもべ)にするためさ。死んだ骸に鬼の力を通じさせるんだ。僕らはそれを“鬼化”と呼んでいるんだけど、かなりこれが厄介でね。なんせ、その人が生きていた時より倍以上の能力が使えるようになるんだから。異能じゃなくたって、その身体能力は格段に上がる。1500年前の災厄の死者は、殆どこの“鬼化”した人々によって生み出されたものだった。さらに言うと、“鬼化”した人に殺されると、またその人も“鬼化”して暴徒と化す」



 ね、厄介でしょ?

 と笑いかけるメルデス。


 いや、笑いどころじゃないでしょ。それこそ、(ちまた)でよくあるゾンビゲームとか、そんなノリじゃないか。しかも、そんな事が現在進行形で起こっていれば、世界は大混乱を極めるだろう。



「僕が君を、ここにいてもらうしかない存在と言ったのはそこに理由があるんだ。実のところ、鬼の武器、特に、君が昨晩相対したような、本体がもつ武器は相手が死ななくても傷を与えるだけで“鬼化”させることが出来るようなんだ。それに、それで鬼化した人間は通常の鬼化よりも強い力を得る。なのに、君はこうやって生きている。“鬼化”もしていない」



 そう……。


 彼は間を開けてこう言った。


「君は、選ばれた存在なのさ」




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