捕縛
「メルデスっちゅう男に会うためにはなぁ」
「なんだ……と? 何故、奴に会う必要があるッ」
床に転げたままの岸野が彩善を睨みつける。しかし、玉のような汗を額などからボタボタと垂れるその姿は威勢を張れる状況ではないことが明らかだ。息遣いも相当荒くなってきた。赤い絨毯の毛を引っ掻くように掴む。
「個人的な興味や。儂も老い先短いジジィやからなぁ。早うおうてみたいんやわ、お前はんがそない惚れ込む男とはどないなもんか気になるもんでな。あぁ、ひとつ言うとくと、お前はんらの敵の話は嘘やあらへん。ほんまや。そのメルデスゆう奴におおたらそいつに言うつもりやさかいなぁ」
クックックッと口元に手を当てて不気味に笑う彩善。岸野は苦し紛れに舌打ちをするが、それさえも今は弱々しい。相当強い毒のようだ。ヒュウヒュウと言う音……勿論これは岸野から発せられたものだ。息がうまく吸えていない。
「しっかしまぁ、えらい丸なったんとちゃう? 充。出された茶に何の疑いももたんと飲むようなったなんて……拾うてやった頃の方が尖っとったんちゃうか」
独りで話し続ける彼の足元で、岸野は必死にその場を脱そうともがいていた。だが、グッと伸ばした指の先ギリギリに彩善は刀を、『國護乃時雨』を突き立てる。
「今のお前はんは正真正銘の無力や。そないな身体でなんも出来へん。頼みの『読心能力』も『空間移動』も善治の『能力相殺』には敵わん。せやろ? 昔からせやった。諦めぇや」
「ッざ、けんなァッ!」
刹那、狭い室内に爆音が響き渡る。普通の銃声に比べて遥かに大きいそれは部屋の窓ガラスを激しく震わせた。だがそれは誰の血肉を抉ることも無く、棚に飾られた壺のひとつを粉々に粉砕して壁を穿つに終わる。神経系の麻痺毒に犯された身体で扱えるほどD・Eは甘くはない。
苦爪がすかさず岸野の手を蹴り飛ばして取り上げた。万事休した。
「ほな、せいぜいお仲間が助けに来てくれるんをお天道様に祈るこっちゃな。お前ら、奥の部屋に此奴突っ込んどけ。『制御剤』打ったるん忘れたあきまへんえ」
大柄の男達がここぞとばかりに岸野を取り囲み、乱暴に立ち上がらせた。彼の僅かばかりの抵抗も虚しくズルズルと引きずられていく。そしてついに、視界がぼやけ、意識が朦朧としてきた。彼自身の息遣いが遠のいていく。
「えらい強引なことしはるんですねぇ、組長。ま、あれに引っかかる充はんも充はんですが」
その無様な姿を見送った彩善の背中に苦爪が声をかけた。拾い上げて握っていたD・Eを彩善に手渡す。彼はそれを暫く眺め回していた。いつの間に人間の姿に戻ったのか、彩が心配そうな顔でそれを見つめている。
「しゃああらへんやろ、善治。組守るためや。国連の裏の奴らがこれ以上デカい顔してきよったら儂等ではもう太刀打ちできん……それに、充……あいつは……」
「組長ッ、『電撃屋』の連中が下に来とります。どないしはりますか!」
なにか言おうとした彩善を遮ったのは扉から飛び込んで来た別の男。眉毛が無く、いかにも無法者らしい見た目だがかなり焦った様子。彼の服の裾は所々焼け焦げている。
外が何やら騒がしい。ちょっとした戦闘に発展しているらしい。
「あー。ここに来る前に充はんがあのボンクラをぶっ飛ばしてしもたんですわ。まぁでも、こりゃええ機会ですわな、組長」
「あ、ああ。せやな」
話の腰を折られた彩善は一瞬遅れてその会話に加わった。少し眉を顰めた彼は一つ咳払いをする。彩が和服の袖の裾をキュッとつかんだ。「行くなら私も連れていってください」と言わんばかりに。
「安心せぇ、彩。置いてくわけあらへんやろ。ま、取り敢えずアイツとそのお仲間の為にシラミの一匹や二匹……潰しといてやりまひょか。若い衆も行きまっせ」
羽織を翻して呼びに来た男に続く彩善。その手にはしっかりと彩……改め『國護乃時雨』が握られている。苦爪、そしてその後には岸野をどこかへやった男達もそれに続く。
敵味方合わせて総勢六十名ほどのガラの悪い男達が雑居ビルの前で相見える。近隣に犇めく民家や商店はすぐさまシャッターや雨戸、それが無ければカーテンを閉めた。
敵はトップである男を失っていた。だからこそ、その時は誰もが“銀狼会”の勝利を確実視していた筈だ。否、もっとも、よっぽどの事がない限り彼らが勝算のない闘いはしない。
然し。
その日、彼らが事務所に戻ってくることは無かった。誰一人として。彼等がどうなったのかを知る者は誰も居ない。
□◆□
「くっそ……あのジジィ。こんな部屋何時ぶりだ……クソッ」
彼が意識を取り戻したのは此処に入れられてから一日後、更に完全に身体の自由を取り戻したのはそれから二日経ってからだった。幸い、その部屋には明かりを入れるスイッチがあるのを彼は知っていた。手探りで壁をつたい、カチ、と照明をつける。そこに広がったのは食料庫のような空間。確かに、長期保存可能な食料が所狭しと並べられていてる。だが、此処がただの食料庫では無いことを岸野は知っていた。シェルターだ。
「誰かいねぇのか! こっから出しやがれッ」
出入口の扉を殴りつけるが、返ってくるのは金属の甲高い音だけ。蹴り飛ばしてもビクともしなかった。下の方にある隠し窓から外の様子を覗くものの、人の気配は全く無い。彼は観念したかのようにその扉に背を預けてズルズルと脱力した。深い溜息が漏れる。
彼、岸野充はこの“銀狼会”で育った。その前は何処に居たのか、あまり記憶に無い。気がついた頃には彩善や他の組員と同じ釜の飯を食い、ひとつ屋根の下で暮らしていた。
そしてこの部屋は、彼が幼かった頃──とは言っても十歳前後だろうか、同じように閉じ込められた場所だった。彩善の言いつけを守らないといつも此処に投げ込まれた。当時はまだ彼の異能も未発達で、何も無い座標へ自身の身体を移動させることは出来なかった。会得済みの『対価交換』をしようにも、分厚い壁の向こうに誰か居るのかを知る由もなかったため彩善の怒りが収まるのを此処でじっと耐えていた。
ある意味、此処での経験が彼の能力向上に一役買ったと言っても良いかもしれない。それを彩善が意図していたかどうかは知り得ないが。
首筋にそっと手を触れると小さな硬い膨らみを感じた。爪で引っ掻くと、いとも簡単に剥がれて指先に付く。赤黒いそれはかさぶただった。
「『制御剤』なんざ手に入れやがって……クソ」
そう、彼はもうこの程度の壁は異能力で越えられるはずだった。なのに、何故そうしないのか。
彼が呟いた単語──『制御剤』。これが原因だった。これは、近年開発された対異能力剤。経口タイプと静脈に直接注射するタイプがあり、岸野には後者が投与された。
これを投与された能力者は文字の通り能力が制限される。市販されている物もあるにはあるが、大抵が模造品で抑えられる能力は限られる上に効果時間も数分と言われている。
然し現在、岸野の能力を蝕むのは正真正銘の代物。暗部に浸かりきっている彩善には正規の品を手に入れる事など容易い。そんな彼が偽物に手を出す筈がないのだ。よってこの効果は約一週間も続くとみられる。岸野は文字通り頭を抱えた。
喉の渇きを覚えた彼は、近くの棚にあった水を開封けて飲み干す。万一誰も来なくても彼独りが当分やっていくには問題ないが、悠長にしていられない事は重々承知だった。彩善の口から飛び出た名前が脳内で反芻される。
「あのジジィがただの興味でこんな事する筈ねェ……」
彼の真意はいつだって分からないことだらけだった。棚の上の方にあった保存用のパンを頬張りながら彼は考える。何故、このタイミングなのか。何故、彼はそれ程までにメルデスに会いたがるのか。彼らが直面する敵、つまり“鬼”の事についても、何故知っているのか。
しかし幾ら思考を巡らせても答えはおろか、何も思い当たらなかった。彼が彩善の元を離れていた五年という月日は想像以上に大きな溝だった。
取り敢えず手当り次第に食事を済ませた彼は一服を始める。誰にも邪魔されないその一時は普段なら至極だが、今はこれ程侘しいものは無かった。
更に悪いことには、今吸ったものが最後の一本だった。ミュートロギアの自室には買い置きがある筈だが、今はそれを取ることすら叶わない。壁に身を預け、ひたすら扉が開くのを待つしか無かった。周囲がしんと静まり返る。
少し冷えるその部屋。着ていたコートを引っペがされていなかったのは不幸中の幸いである。きつく身体に巻き付けた。
「……ぁ? 今のは……」
だがその時、その静寂を何かが乱した。言うならば、盆に張った水鏡の上に力尽きた蜉蝣が吸い寄せられたような、ほんの小さな乱れ。それでも元来、神経質な岸野の耳にはハッキリとその違和感が感じられる。ただ事じゃない何かが起きている、そう彼は直感した。血気盛んな男が多い彼らの社会だが、岸野が知っている“銀狼会”の内部は比較的穏やかな方であっただけに敏感に反応したのだ。
そう、それは……殺気。命のやり取りをする者なら誰もがそれを感じ、そして、時にそれを他者へと向ける。
彼は神経を研ぎ澄ます。隠し窓から耳をそばだてると、確かに、話し声のようなものがどんどん彼のいる方へ近づいてきていた。加えて、複数人の足音……その音の響きから察するに相当な装備か何かを施している。
彼の脳裏に浮かんだある予感は背筋を凍らせた。
「唯の警察如きなら被弾覚悟で正面突破してもいいが……ヤツらだとすりゃ……自殺行為もいいとこだぜ、全くよぉ」
頬を引き攣らせた彼は扉から少し離れて正対する。ここにD.E.程の殺傷力のある武器などはない。あるとすれば、常に靴の中に隠し持っている折りたたみナイフくらいだ。手に取ってみると、心無しか湿っている。
彼自信、それがなんの汗か考えたくも無かったが。
右手に握ったナイフを腰の辺りでもう一度強く掴んだ。そして、彼の準備を待っていたかのように鋼鉄の扉を誰かが叩く。それはノックなどという生易しいものでは無い。
その後、目覚まし時計のような小さな電子音が聞こえた。それに気づいた岸野は地を蹴って飛び退き硬いコンクリートの地面へと伏せる。刹那、部屋全体に高圧の熱風が吹き荒れ、その後に瓦礫や残飯と化した備蓄食が降り注いだ。
「殺す気かッ……二課の刑事共も強引なことしやがってッ」
咥えていた煙草を吸い込んだ砂埃とともに吐き捨ててフラり立ち上がる。塵煙が酷く何も見えない。目に入らぬよう左腕で顔を保護し、右手のナイフを前方へと構え直した。
確かに、大規模とは言えないがこんな爆発物を古びた廃ビルで、しかもこんなに狭い空間の為に使用したとすれば死者が出てもおかしくはない。法の執行機関である日本警察が人権を顧みないような事をする事など普通ではありえないのだ。
そしてここで岸野はもうひとつ気づく。どうして彼らがこんなにも内部まで侵入しているのか。このシェルターは言わば“銀狼会”の最後の砦。かと言って、外から戦闘などをする音は全くしなかった。
「唯のガサ入れじゃねェのか……? まさか誰も居ねぇなんて事……」
突然、その時飛び出してきた人影に岸野は上体を左へ逸らすことで対処した。背後がガラ空きになった相手の後頭部をナイフの柄で殴り飛ばす。想像以上に硬い感触があり、破片が飛び散った。
よく見る余裕もなく、岸野は部屋を飛び出した。多数対少数の戦いの中で狭い空間は命取りである。いくら手練であろうと退路が無ければいつかその体力も尽きる。
案の定、武装した影がすぐさま彼を取り囲んだ。その数はざっと見て二十名。能力を使えばこの程度を退けるのにお釣りがくる彼だが、今はこれが限界であろう。
その時、左の肩口に殴られたような衝撃と鋭い痛みが突き抜ける。撃たれたのだ。だが、この位の被弾は覚悟の上。
人間は、敵に傷を与えたという事実があるとそこに一瞬の隙が生まれる。彼は銃声の方向から射撃を行った相手を割り出しそこへ突っ込んでいった。屋内戦なだけあって敵も弾幕を張る事は無い。一度の射撃の後、各々数秒のタイムラグがある。
その間に岸野は比較的装甲の薄い、相手の腕や脚の腱を確実に傷つけていった。敵は呆気なく、情けない声を出しながらその場にうずくまったり倒れ込んだりした。
岸野の流れるような動きはやはり相当手慣れている。大柄な身体を活かして二歩以内で標的に近づき、手刀で銃口を弾いて懐に一気に潜り込む。“銀狼会”の一味としての人生経験に加え、ミュートロギアで活躍する彼の実力は伊達では無い。
「あと少しッ……」
自らを鼓舞する岸野。
だが、味方を次々行動不能にされた相手は後半になってくると半ばヤケになる。数が多いことよりもそちらの方が脅威であることは彼も知っている。ヤケでパニックを起こせば暴発や手元の狂いから予測不能の危険にさらされる可能性が高まるからだ。
さらに岸野は、今目の前にいる敵に先程感じ取った殺気がないのを薄々感じ取っていた。銃口の向きからしてもそれは明白。何かがおかしい。
狭い廊下で行方を阻む男達を同じ手順で退け、角を曲がる。その先にはこの建造物とその隣の建物の隙間に降り立てる有事の際の逃走ルートがあるのを知っていた。肩の痛みを我慢し壁を強く押すことで自らを加速する。
「ガッ……あッ、クソッ」
だがやはり、敵はそこにも待ち構えていた。今回は思っていたより当たりどころが悪かったらしい。一瞬身体の力が抜ける感覚を覚えた。左脇腹を持っていかれ、肩口に比べ出血量が多い。苦悶の声が漏れる。しかし立ち止まって等いられない。岸野はすぐさま駆け出した。
例に漏れず緊張の糸が緩んだ相手は岸野のタックルを無防備に受けてしまい、彼ごと後方へ吹き飛ばされる。
「悪ぃなッ!」
敵を斬り続け鈍らになったナイフはもう使い物にならないことを悟った岸野は相手の鳩尾を立ち上がりざまに踏みつけた。悪臭を放つ黄色の液体を吐瀉し、その男は動かなくなる。
岸野が振り返るとそこには窓があった。裏拳で殴るといとも簡単に割れ、強い風が吹き込んでくる。
「ちゃんとあのジジィが整備してくれてる事を願うしかねぇッ!」
彼はそこから身を乗り出す。冬の冷たい風がコートのフードをバサバサと揺らした。眼下にはひさしのようなもの。彼がいるところから約三メートル下にあるそこに向かって飛び降りようとしているのだろうか。
窓枠を蹴った岸野の巨体が宙に浮く。
しかし、彼が次に見た景色は空ではなく……天井だった。直後、彼は背中から大型の鈍器で殴られたような固い痛み、そして周囲に砂埃のような煙が舞う。
咄嗟に受け身を取れた岸野も称賛に値するが、大柄な彼をこうしたのは女だった。
先刻、『殴られたような』と言ったが、訂正しよう。正確には一度宙に舞った岸野は室内に引き戻され、さらに後方の壁へと投げ飛ばされたのだ。
「ゲホッ、ゴホッ……てめぇッ!」
突然現れた正体不明の敵。明らかに他の奴らとは攻撃の種類が異なる。それくらい岸野には分かる。それに、さっきまで感じ取れなかったあの感覚が再び目の前に現れた。それも……非常に近くに。
「何故、貴様が此処に?」
彼の全身の細胞が逃げろと叫んだ。だが、想定外の被弾に加えて壁に衝突したダメージは異能を封じられた岸野にとって、更なるハンディキャップ。シェルター内で脳裏によぎった最悪の事態が目前に広がった絶望は更に彼を追い詰めた。これ以上逃げ場はない。
「オイオイ、本物か? コレ」
新たな声が増える。無意識に肩を震わせてしまった自分を彼は少し恥じた。五年前の記憶が否応にもそうさせてしまう。
「チッ……年貢の納め時ッてか? どうかしてやがる」
自嘲気味に頬を歪めた岸野は目の前に立ち塞がる男の足元へ、口の中に溜まった血液を床へと吐き捨てた。だが、そこで軽く下を向いたのがいけなかったらしい。彼は更に大量の吐血する。衝撃で肺が傷ついたらしい。満身創痍の彼を数名の男女が取り囲んだ。
一人は、白いワイシャツに赤いネクタイ、無精髭を生やした小汚い男。狐に摘まれたような顔をして岸野を眺め回す。
その横にはスタイルの良い若い色白の女。彼女の左腕の肘から先には手では無い、ユラリユラリと動く触手のようなリボンのようなものが生えている。先程、岸野を屋内に引き戻して壁に叩きつけたのは紛れもなく彼女だった。気の強そうな瞳が彼を睨みつける。
そして、もう一人……岸野を見下ろす隻眼の男。漆黒のコートの彼から放たれる殺気こそ、彼が感じ取ったそれだった。唾の混じった血を吐かれ、更に険しい顔になったこの男は暫くジッと岸野を眺めていた。何かが腑に落ちないような、そんな表情。だが、突然微笑し、鼻から小さく息を漏らす。
「何はともあれ、とんだ土産物が手に入ったな……いや、日付的には少し早めのクリスマスプレゼントか?」
「良かったですね、菅谷先輩。あの資料にあった男ですよね。事務所に誰も居なかった時は焦りましたけど」
隻眼の男を先輩と呼ぶ女性──輪堂 茜は左腕の先をしゅるしゅると回収し、腕のような形に巻いて手となる部分に黒い手袋をはめる。失血からか心持ち蒼顔の彼を見て戦闘が収束したと判断したらしい。
「じゃ、一応ここはオレが手錠かけるより菅谷に任せた方がいいな?」
「いえ、旭さんどうぞ。貴殿が持ち込んだ案件のような物だからな」
ジャラ……とポケットから出したそれは普通の手錠とは少し違っていた。まず、その色は黒で一般の人間が見慣れたものより太さがある。
これも異能力者を抑制する発明品のひとつ。しかし、岸野に投与された『制御剤』とは根本的な構造に違いがあるのだが。
旭と呼ばれた無精髭の男は菅谷の前に進み出て岸野の前へしゃがみこむ。岸野は目を逸らし、悔しそうに血に塗れた口で舌打ちをした。
「前にもこんな事あったよなぁ? あのオッサンにまた捨てられたか」
「……とっとと手錠けやがれ」
「愛想ねぇなぁ。逃亡者コード30650031、岸野充。12月21日14時36分、確保」
ガチャリ、と冷たい音が岸野の脳内にやけに響いた。




