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Prolog



たくさんのユニークな仲間達とともに、主人公の本城アキトが成長する姿をどうか暖かく見守ってやってください。


ストーリー構成:天雨美姫(Twitter名:以下同様)

キャラクターデザイン:天雨美姫、こだま@のい

タイトルロゴ:蒼原悠先生


無断転載禁止

本文および、各挿絵等を無断で利用することは禁止されています。

挿絵(By みてみん)


 聞きなれた電子音がした。


「いらっしゃいませー」


 自動ドアが開き、長い黒髪の女が入って来た。ギターケースを背負っている。俯き気味で顔はよく見えない。真夏だというのに丈の長い漆黒のコートを着ていて、その襟を立てている。実に奇妙な格好だ。

 条件反射的にでた言葉は深夜だと特に響く。

 外は真っ暗闇。

 照明には羽虫が群がっている。

 鈴虫が、小気味よく鳴く声が聴こえた。


 店内は空調が効いて快適だ。

 BGMはかなり小さな音にしているが、客も彼女だとやけに耳につく。

 店の中には俺と、先ほどの客しかいない。

 丁度、眠気覚ましにとかけていたラジオが日付変更を告げた。


 最近は携帯のアプリで聞くことも出来る世の中だが、俺はこのアナログな所がすごく好きだ。父親から譲り受けたラジオはもう20年以上の年季がある。父もまた、ラジオが好きだった。


【こんばんは。八月三日。零時のニュースと、お天気情報をお伝えします。先日、何者かに殺害された、政治家の晴重慎太朗氏の葬儀が本日14時より執り行われます。事件の犯人について、警察は現場に残っていた異能力者の痕跡から、ミュートロギアの犯行であるとし、周辺住民に警戒を求めています】


 ミュートロギア。彼らの名前をニュースで聞かない日はない。

 少しだけ音量を上げた。


 このコンビニにも、彼らへの注意を促すポスターがカウンター下にひっそりと貼られている。

 彼らのことをマフィアと形容したり、殺し屋だと騒ぐメディアは多い。政府や警察でさえも公の場でその危険性について断言し、世界会議でも環境問題などと並行して議題にされることも多い。俺もそれを信じて疑わないし、逆に疑わないほうがどうかしている。

 彼らは人を殺め、攫う。それだけではない。彼らは不可思議な力を使う。何もないところから炎を生み出し、そこにあったはずのものを無に帰す。人はこれを異能と呼ぶ。

 ミュートロギアのニュースが報道される度に、異能は居場所を失っているような気がする。まるで、異能が悪であるかのように。それがさも、社会という大きな意思であるかのように。

 それは、俺も例外ではない。



「……あ」



 俺は焦ってラジオの音量を下げた。

 さっきの客がレジカウンターに紅茶を置いていた。


「140円になります。ポイントカードはお持ちではありませんか?」

「ない」



 少々ぶっきらぼうに答えたその女は、財布から二百円を取り出してカウンターに置いた。綺麗な指をしていた。墨染の絹糸の様な長い髪がその顔に影を落とす。ずっと俯いたまま。やはり、なんとも不思議な女性()だ。



「二百円お預かりします」



 マニュアル通りレジに金額を打ち込み、お釣りとレシートが発行されるのを待った。


 ふとこちらを見上げた女と目が合った。

 驚くことに、俺と同じくらいの歳、17、8歳くらいにみえた。すこしツリ目で気が強そうに見える。しかし、そこそこの美形。整った顔。

 だが、不思議なことに、彼女は白いハチマキのような、ヘアーバンドのようなもので額を覆っていた。何かのコスプレかもしれない。だが、もう一つの可能性も捨てきれない。

 異能には、外見的に普通とは違う特徴をもつことがある。稀ではあるが体の一部の変形や著しい老化の遅れなどもあって、これコンプレックスにする人はさぞ多いだろう。今の世の中じゃ、特に。


 レシートが発行とともに、釣銭が吐き出される。静かな店内に、小銭の音がチャリチャリと響いた。



「六十円のお返しと、レシートになります」



 釣銭とレシートを手渡した。この不思議な女性とはもうお別れだ。

 差し出される手。


 その時、女の手と俺の手が触れた。










《助けて》










 俺の頭の奥に響く声。か細く、今にも消えてしまいそうで。

 水を張った盆に落ちた一雫のように、静かに波紋を広げて脳内に響いた。


 その女は不思議そうに俺の顔を見つめていた。俺をまっすぐ見据える黒い瞳は冷えきっている。

 知らないうちに息を止めていたらしい。「失礼しました」と謝った瞬間に土のような異臭が鼻についた。

 釣り銭を無造作にポケットに入れた彼女はもう一度、その黒い瞳で俺を不思議そうに見つめた後、自動ドアの向こうの闇へと消えて行った。



 外から聞こえていた虫の鳴き声は、もう聴こえなかった。

 その代わり、雨が降る音が俺の鼓膜を叩いた。


【―――深夜から雨が降り始めるでしょう。明け方も降り続け、夕方には止むでしょう】



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